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【第二章】セレイム王国へ
長い治療の末
しおりを挟む―重傷者の手当てに入ってから約五時間後。
明るかった空は、夕日に照らされていた。
「ふぅ。これで大丈夫かしら」
あれから全ての負傷者の治癒を終えたレイ。
「ありがとうございますっ!我々では、到底力が及ばず、とても助かりました。聖女様!」
一人の治癒師がそう言った。先ほどまで怪しんでいた治癒師たちも、もはや誰も頭が上がらない。
この竜の間にいる者の中に、彼女の力を疑う者はもういない。
「さっきも言ったけど、私は聖女なんかじゃないわ」
「まぁ、良いんじゃないか?」
いつの間にかレイの隣にいたカインが、少し悪戯な笑みを浮かべて言った。
「良くないわよ。迷惑だわ」
そんな会話をしていると、竜の間に一人の男が慌ただしく入ってきた。
「団長が帰還とは、本当か!」
「おう。団長様のご帰還だ。レヴィン」
竜の間に来た男をレヴィン、と呼んだカイン。
そうこのメガネを掛け、銀髪の長髪を後ろで束ねた姿の男は、セレイム王国竜騎士団副団長、レヴィン・バレンティン。カインの右腕だ。
彼の帰還を耳にし、仕事を急いで終えたった今、竜の間へ来たというところだ。
「死んだと思ったぞ!」
「ハハ。俺も死んだと自分でも思ったよ」
レヴィンの必死な様子とは反対に、アハハと笑うカイン。
「笑い事じゃないぞ!どれだけ皆が心配したと思っているんだ!」
「すまない。そう怒るな」
お互い砕けた口調で話す二人、どこか親しげだ。
それもそのはず、この二人は騎士団を仕切る団長と副団長の前に、幼馴染なのだ。
「団長さん、どちら様?」
レヴィンのことを知らないレイが、カインに尋ねた。
「ああ、紹介が遅れた。こいつは、セレイム王国竜騎士団副団長のレヴィン・バレンティンだ。レヴィン、こちらは俺の命の恩人のレイ殿だ」
「コホン。ご挨拶が遅れました。この度は団長を助けていただき感謝します」
カインと話す時とは違い、礼儀正しい口調で話すレヴィン。
お辞儀をする姿は、騎士団副団長ともあってか、とても様になっている。
「どうも」
丁寧なレヴィンとは反対に、レイは手短に答えた。
「この方がここにいる理由は?」
レヴィンは、カインに彼女の存在を説明しろと言わんばかりの視線を送る。
「ああ、騎士たちの手当てを依頼したんだ」
竜の間を見ろと、親指を横に向け合図をしたカイン。
「……え?治癒師たちがあれほど、苦労していたのに、皆、回復しているのか?もしかして、これを一人で?」
彼の合図で竜の間を見渡したレヴィンが、先日までとは明らかに変わったこの状況に、唖然とした。
「え、ええ。軽症者には癒しの力を、重傷者には生体蘇生をかけたわ」
「はっ?」
理解出来ないという顔のレヴィン。
真面目な彼の表情が見事に崩れた。
「アハハッ!こんな顔のレヴィンは久しぶりに見るな!」
彼の表情が余程面白かったらしく、カインは一人失笑している。
「……コホン。おい、カイン。これは本当か?」
そんなカインを横目に、咳払いをし冷静さを取り戻すレヴィン。
「あ、ああ。……っふ。彼女が一人で全てこなしてくれたよ」
カインも笑いのツボが収まったようだ。
「貴女は一体……」
いきなり現れ、負傷者たちを数時間で治したレイに、レヴィンは疑いの目を向ける。
「まぁ。詳しい話はあとでゆっくりしよう。陛下に帰還したことを報告しに行かなくては。レイ殿、行こう」
「ええ。分かったわ」
そう言って、カインとレイは竜の間を後にした。
「最上級の治癒魔法を使えるとは、彼女は本当に何者なんだ……」
竜の間で一人呟くレヴィンだった。
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