森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

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【第二章】セレイム王国へ

任務完了

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 レイたちが厨房で作業をしている間の竜の間は、というと。

「何か手伝えることはあるか?」
「カイン団長!……いえ、今のところは団長の手を借りるほどのことはございません。というよりも、レイ様が騎士たちを治してくれたおかげで、我々もお役御免と言う所です」
 あはは、と治癒師は苦笑いをこぼした。
「いや、治癒師殿たちも良く堪えてくれた。貴方たちが居なければ、騎士たちはもっと最悪の状況になっていたかもしれなかった」
「身に余るお言葉です」

「団長!団長がここに戻ってこられるまでに、何があったのですか?」
 カインが治癒師と話していると、一人の騎士がカインに話し掛けた。
「ああ。それについて何だが。話してやりたいのは山々なんだが、詳しくは話せないんだ。申し訳ない。ただ言えるのは、墜落した後、レイ殿に助けてもらい、俺はこうして生きている、ということだけだ」
「……何か事情があるのですね」
 騎士は状況を察し、深く追求しないことにした。
「ああ。……今回のことについて、竜の間にいる皆に告ぐ!」
 突然カインは、声を張り上げた。

「この度の治癒師殿のことは、決して口外無用だ!陛下との約束でもある!!」
「はい!」
 騎士、治癒師、竜の間にいる全ての者が彼の言葉に了承した。
「カイン。お前は名ばかりの団長ではなかったのだな」
「レオン殿、それはあまりにひどくありませんか?」
 レオンの一言に、カインは困ったというように眉を八の字にした。
「フッ。冗談だ、許せ。あまりにも退屈でな。お前を揶揄ってみた」
 悪戯に笑うレオン。彼は、相当な悪戯好きだ。
「晩飯は、もう少しお待ちください」
「ああ。そうだ、お前はセレイム学園に詳しいか?」
「セレイム国立学園ですか?」
「ああ。通うとは言ったが、学園についてあまり詳しくないのでな。知っていることがあれば、教えてくれ」
「それは、レヴィンが適役かと」
「レヴィンとやらは、あのメガネの副団長、だったか?」
「ええ。私は、元冒険者でして、その実力を前任の団長に買って頂いて騎士団に入団したので、この国のことにはあまり詳しくなくて。……力不足ですみません」
「いや、そうか。冒険者だったのだな」
「はい。パーティーは組まずに一人で生業にしていました」
「一人でとは」
「なかなか苦労した戦いもありましたが、そのおかげもあって、S級の称号を持っています」
 と嬉しそうに話すカイン。
 冒険者にはそれぞれランクがあり、下からC級、B級、A級、S級だ。
 冒険者として仕事にするには、冒険者ギルドに行って登録を行う必要がある。
「お前、なかなかやるな」
 レオンは関した様子を見せる。
「カインは、とても優秀な冒険者兼騎士だよ」
 まだ竜の間に残っていたセルビオスが、二人の会話に混ざった。
「陛下とレオン殿に褒めていただけるとは、光栄です」
 そんな話をしていると、竜の間の扉が開いた。

「レイ殿!スープが完成したのか」
 料理を作り終えたレイたちが戻ってきたようだ。カインはそのことに気づき声を掛けた。
「ええ」
「レヴィンもご苦労だった。それは俺が持って行こう」
「ああ。任せた」
 カインはレヴィンからスープの入った寸胴を乗せた台車を受け取った。
「美味そうな匂いだ」
 そう呟いたのは、レオンだ。
「貴方からしたら、このスープは味気ないと思うわ」
「そうか。あまりにも腹が減りすぎてな」
「お昼食べてから何も口にしていないものね。……治癒師さんたち、後は任せて大丈夫かしら」
「はい!レイ様、今日は本当にありがとうございました!」
「私からも今一度、礼を言わせて頂く。今回の件、大変感謝する。君が来てくれなければ、竜騎士団は再起できなかっただろう」
 そう治癒師とセルビオスはレイに感謝を述べた。
「いえ私は、出来ることをしただけです。力になれたようで」
 褒められていることになれない彼女は、不器用に言葉を返す。

「疲れただろう。後はゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます」
 セルビオスは、レイたちに労いの言葉をかけた。
「……カイン」
「はっ!」
 台車を運び終え、セルビオスの呼ぶ声に戻ってきたカイン。
「レイ殿に、街の案内をしてあげなさい。お前も今日はゆっくり休め」
 そう彼は、レイとカインに伝えた。
「お心遣い感謝します」
「明日からまた、竜騎士団団長として役務を果たしてくれ」
 セルビオスはそう言い残し、竜の間を後にした。
「はっ!……騎士たちは安静にし、レヴィンと治癒師殿たちも休んでくれ。ご苦労だった」
 カインはセルビオスに返事をし、彼が出て行った後、竜の間の者たちに声を掛けた。
「はい!」
 その声に騎士、治癒師たちは声を揃えて返事をした。
「お前に言われなくても、勝手に休ませてもらう」
 一方で、カインに軽口を叩くレヴィン。
「ハハッ。お前はそういう奴だな」
「よく分かっているじゃないか」
 気の置けない二人だ。周りにいる者たちも、いつものやり取りが始まったと二人の会話を微笑ましく見ている。

「では、レイ殿、レオン殿行きましょうか」
「ええ」
「ああ。やっと飯にありつける」
 レイ、カイン、レオンの三人は夕食を食べに行くために竜の間を出た。
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