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【第二章】セレイム王国へ
初めてのメニュー
しおりを挟む「ハハッ!」
「お前それ本当か?」
「嘘じゃねーよ!」
店内のあちこちから賑わっている声が聞こえてる。
その声に耳を傾けていると、
「カインの旦那!帰ってきていたのか!」
この店の店主と思われる男がカインに話し掛けてきた。
「マールズさん!はい、何とか生きて帰ってこられました」
店主の名は、マールズ・ワルスン。彼はカインと顔見知りのようだ。
「無事で良かったよ!今日は何を注文すんだい?」
「ケルウのステーキを三つ、お願いできますか?」
「旦那、すまない。ケルウの肉は、二人分しかもうねえんだ。一人違う料理になっても構わないかい?」
「だったら私の分を、シチューか何かスープで」
すかさず、レイが助け舟を出す。
「ああ。それなら出せるよ!」
「レイ殿、いいのか?」
「ええ。お肉は団長さんとレオンが食べて」
「では、ケルウのステーキを二つと、ビーフシチューを一つ。あと、パンとサラダを三人分頂けますか?」
「あいよ!すぐ作る、ちょっと待っててくれ。……ケイリー!三人を席まで案内してやっておくれ」
「はい!」
マールズに名を呼ばれ返事をしたのは、ブラウンの髪を後ろで一つに束ね、店の制服であろう、くすみのある緑がベースで袖口が白のワンピースに、茶色の腰エプロンを着けた娘だ。
「三名様ですね!こちらへどうぞ!」
とても元気のある子だ。
「ああ。ありがとう。ケイリー」
カインは彼女を呼び捨てで呼んだ。
「団長さん。あの子と知り合いなの?」
「ああ。ここの店主の娘さんだ。十三になったばかりだそうだ」
マールズの娘、ケイリー・ワルスン。
彼女はとても活発で明るい少女だ。
「そうなの。家の手伝いをして、偉いわね」
「いえ!私が好きでしているので、あんまり家の手伝いと思ってしていません!」
屈託のない笑顔で言うケイリー。相当、この店で働くのが好きなことが分かる。
「そう」
彼女の笑顔に、レイも少し微笑み返した。
「お席はこちらになります!料理が届くまで少しお待ちください」
ケイリーは一礼するとすぐに、他の客の注文を取りに戻った。
「たまには、こうしてお店で食べるのもありかもね」
「そうだな。いい刺激になる」
レイとレオンは店内のにぎやかさを聴きながら、そんな会話をする。
「……レイ殿、申し訳ない。二人分、提供できず」
「気にしないで。レオンが食べられるだけでも良かったわ。レオンはお肉が食べれないと、少し不機嫌になるから」
「ハハッ。そうですか」
「ええ。あ、コハクの分のご飯がまだだわ」
「あとでやれば、問題なかろう」
「ブラッシングもできてないわ。今頃、すねてしまっているわね」
「……だったら、今日は私の実家に泊まるか?」
「え?」
「実家は近くにあるし、確か、客室が開いているはずだ。うちの客室であれば、コハク殿のブラッシングもできるぞ」
「それは嬉しい申し出だけど、家の人たちに断りなく、いきなり……」
「大丈夫だ。私の家族は、寛容だから問題ない」
「甘えていいんじゃないか?この時間だと、空いている宿も少ないだろう」
レオンが、カインの提案に乗るように促す。
「そう、ね。お言葉に甘えていいかしら?」
「ああ。構わない」
「ありがとう。一晩、お世話になります」
これで、コハクの世話と今晩の寝床は困ることはなくなった。
「そうだレイ殿、一つ聞いてもいいか?」
カインはレイに疑問を投げかけた。
「何?」
「陛下とのやり取りの時に感じた事なんだが。レイ殿のあの話し方はどこで学んだんだ?」
「あれは、レオンから教わったの」
「レオン殿が?」
カインは、レオンに視線を移す。
「ああ。最低限の言葉遣いは教えた。レイがいつか身分のある者と話す機会があった場合に覚えていて損はないと思ってな。役に立って良かった」
「なるほど。レオン殿は、レイ殿の先生なんですね」
カインは二人に優しく笑った。
話がひと段落したいいタイミングで、ケイリーが料理を運んできた。
「お待たせしました!ケウルのステーキが二つと、ビーフシチューが一つ、それとパンとサラダが三つずつ。以上で間違いないですか?」
「ああ。ありがとう」
「では、ごゆっくり!」
そう言い、ケイリーはまた持ち場に戻った。
「では、いただきましょうか」
「ええ」
「美味そうだ」
レイたちは、それぞれ届いた料理を食べ始めた。
「ケルウの肉は、脂が少ないんだな」
「ええ。結構、淡泊な肉なのでこの店の濃いめのソースがよく合うんですよ」
「ああ。脂が少ないのが惜しいが、ソースとの相性がいい。美味い」
レオンは満足げだ。
「口に合ったようで良かったです」
「ああ」
頬張るレオン。
かなりケルウのステーキを気に入ったようだ。
「レイ殿。ビーフシチューの方はどうですか?」
「とても美味しいわ。よく煮込まれているから、お肉も柔らかくて食べやすいし、パンとも合う」
ビーフシチューも好評だ。
「そうか、良かった」
そう言って微笑むカインは心底、安心した様子だ。
しばらくの間、三人は料理を楽しんだ。
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