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【第二章】セレイム王国へ

優しい人たち

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「少し狭いが今晩はここを使ってくれ。積もる話はあるが、今日はもう風呂に入って、お休み。夕飯は済ませたのだろう?」
 玄関を抜け、二階の客室に案内されたレイとフェン。
 客室の窓からは、星空が良く見える。
 二人は同じ部屋で一泊させてもらうようだ。許可は既にもらっている。
「ああ。今日は、食べてきた」
 レイたちの代わりにカインが答えた。
「服はメイドに用意させるから、気にしないでちょうだい」
「ありがとうございます」
「ふふ。気にしないで」
 ケイリーとレイが会話をしてるそばで、カインがルーカスに何やら話を持ち掛けていた。

「父さん」
「なんだ?」
「レイ殿の契約獣の食事がまだなんだ。使ってもいい場所ってどこかあったっけ?」
「契約獣がいるのかい。それなら厨房を使ってくれて構わないよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 話を聞いていたレイも、ルーカスに感謝を伝えた。
「ところで、その契約獣ってどんな生き物なんだい?」
「黒ヒョウ、です」
「ほう、黒ヒョウとは」
 少し、目つきが鋭くなるルーカス。
「父さん。レイ殿の契約獣は、利口な子だ」
「すまない。あまりにも予想外の答えに、少し戸惑ってしまった。もしよかったら、今その子を見せてもらえるかい?」
 カインのフォローでルーカスは優しい顔つきに戻り、穏やかな口調でレイに接する。

「はい。……おいで、コハク」
 その合図でコハクが客室に姿を見せた。
 レイの横に召喚されたコハクは、いつもとは違う景色に戸惑い、彼女の後ろへ隠れる。
「コハク、大丈夫よ。この人たちは、団長さんの家族だから」
 レイは、コハクに落ち着いた口調で話しかける。
 彼女の言葉に、コハクは顔を覗かせた。
「ハハッ!黒ヒョウと聞いて、少々恐ろしく感じていたが、とても可愛らしい子じゃないか」
 コハクの様子にルーカスは、顔を綻ばせた。
「そうね、あなた。とても可愛らしいわ。魔獣は恐ろしい生き物だと思っていたけれど、こんなに愛らしい子もいるのね」
 ケイリーもコハクを恐れている様子はない。
 レイは二人が彼を受け入れてくれたことに、安心した表情を見せた。

「レイさん、コハクを見せてくれてありがとう。…話をそらしてしまったね。風呂に入っておいで」
「ありがとうございます。それと、私のことは呼び捨てで構いません。皆さんより身分は低いですので」
「私は誰にでも、敬称をつけて呼ぶから気にしないでおくれ」
 ルーカスは、どこまでも寛容な男だ。
「分かりました」
 そんな彼にレイは、拍子抜けしたと言わんばかりの顔だ。

「奥様、レイ様のお洋服を用意いたしました」
 レイたちが話していると、客室に一人のメイドが着替えを持ってきた。
「エイミー、ありがとう。レイさんをお風呂場へ案内してあげて」
 ケイリーは、鈴のような可愛らしい声で、メイドに案内するよう伝える。
 たった今入ってきたメイドは、エイミーという名らしい。
 制服として、黒い丈の長いドレスに、白いエプロンに白のキャップを身に付けている。
 彼女は、凛としていて真面目な人だと伺える。
 さらに黒い髪に、淡いブラウンの瞳は、より落ち着いた印象を与える。
 
「畏まりました、奥様。レイ様、こちらへどうぞ」
「今行きます」
 レイは、エイミーの後を追って客室を出て行った。
「では、私たちも寝る準備をしようか」
「そうね」
「ああ。レオン殿、我々も風呂に行きませんか?露天の風呂があるので、一緒にどうです?」
「ほう。露天とは、私も行こう」
「替えの服は、私の服が入ると思うので、それを貸しますね」
「ああ。助かる」

 ―レイやカインたちは風呂へ、ルーカスたちは就寝の準備と、それぞれの時間を過ごし、夜は更けていった。
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