空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した

三毛猫ジョーラ

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西の大陸編

1話 いきなり大魔法

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 ※性描写シーンを含みます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 

 おれは自分の目と耳を疑った。

 いやもう疑う余地などどこにもない。

 いっそ自分の目と耳を抉りとってやろうかと思った。


 目の前にはおれの恋人のセナンと、同じパーティの仲間でもあるバンガルドが激しく抱き合っていた。荒い息遣いと部屋に響く彼女の喘ぐ声。裸でお互いを求め合う二人の姿はおれの心を真っ黒に染めていく。


 おれとセナンは生まれ育った街を共に離れ冒険者になって十年。いつしか恋人となり結婚の約束を交わした。

 思えばここ最近、彼女の様子はいつもと違っていた。仲間と飲みに行き夜中まで帰ってこなかったり、休息日に一人で出掛けたり。どこで何をしてたかとは聞こうとしなかった。いや知りたくなかったのかもしれない。

 そんな時、決まって彼女はいつも以上に甘えてきた。まるでおれの愛を確かめるように。その時のおれはうまく笑えてただろうか。彼女に愛を伝えてただろうか。


 二人はおれには目もくれず……というのは当たり前か。今は不可視の魔法を掛けている。隣に立つおれに気付く事はない。

「だから言ったろ? ドゥーカ。この女は信用できねえって」

 守護精霊のリリアイラが吐き捨てるように言った。おれは二人から目を離すことなく答えた。

「ああ……」

「で、どうするんだ? まとめて消しとくか?」


 リリアイラは空間魔法を操る精霊だ。こいつのお陰でおれは空間魔術師としてSランク冒険者までのし上がった。


 今すぐにでもセナンを叱責したい気持ちはあった。おれを裏切った事への謝罪と懺悔を彼女の口から聞きたかった。しかし、二人が交わる姿を見ていると惨めさと虚無感だけがおれの心に残った。

 彼女への諦めか、それとも自分の不甲斐なさへの失望か。

「なんだかどっと疲れたよ……遠くへ行こうリリアイラ」

「まったくお人好しというか馬鹿というか。それでどこまで飛ぶ?」

「せっかくだから西のダンジョンは攻略しとこうか? 地の底まで飛ぼう」

「はっ! 簡単に言いやがる。死ぬかもしんねぇぞ?」

「まぁそん時はそん時だな」


 おれは自嘲気味に笑うと不可視の魔法を解いた。突然現れたおれを見て、それまで激しく動いていた二人がぴたりと止まった。いやバンガルドはニヤニヤしながらまた動きだした。

「ドゥーカっ! なんでここに!? やだっちょっと止めて! バンガルド!」

 一瞬で顔が青褪めてしまったセナン。一方バンガルドは煽るような目でおれを見ながら腰を振っていた。おれはセナンをじっと見つめた。今彼女の心にあるのは焦りかそれとも後悔か。

「じゃあな、セナン。大転移メタスターシス !」


 おれは魔法陣を展開した。青い光が足元に浮かび上がり、一瞬で部屋中を覆い尽くす。空間魔術の中で最大の魔法をおれは唱えた。

 目指すは『地の底』と呼ばれる西のダンジョン最下層。

 リリアイラの力をもってしてもぎりぎり届くかどうかの場所。


「ちょっと待って! ドゥーカ! 話をさせてっ!」


 セナンは悲痛な表情で目には涙を溜めていた。その顔を見て胸がチクリと痛んだ。
 
 きっとまだ彼女への愛が残っているのだろう。



 だがその思いからおれは逃げ出すだけで精一杯だった。




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