空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した

三毛猫ジョーラ

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南の大陸編

31話 結界の力

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 「薔薇の車輪ロダバザ

 突如現れた魔物の群れを炎の輪が切り裂いていく。リリンが放った魔法が、地表を水平移動しながら横薙ぎに魔物達を次々に焼き尽くす。

「いいわよ~リリンちゃん。でも牧草をあまり燃やさないようにね」

 リリンと僅かに距離を取り、ドゥパもまた魔物達と相対していた。

十重の薔薇セプルロダバザ

 ドゥパが十の炎輪えんりんを同時放つ。それはまるで彼女の手足かの如く、狙った魔物を極めて精確に倒していた。

「母様すごいです! あんなにいっぺんに動かせるのですか!」

「うふふ。リリンちゃんもきっとできるわ~手始めに二つからやってみましょう」

「はい! 母様! 薔薇の双輪ドゥアロダバザ

 リリンは飲み込みも早く、二つであれば完璧に自分の意のままに操ることができていた。気が付けば親子二人の活躍により、ロンガ内の魔物はほぼ一掃されていた。

 倒し損ねた魔物がいないかの確認をしている際、ドゥパに現在の状況が伝えられた。すると彼女の表情が一変する。

「王城に邪神が……これより二個中隊を編成! 準備整い次第王城へ向かう! 各所準備に取り掛かれ!」

 魔物との戦闘が終わったのも束の間、西ロンガ内は再び慌ただしくなった。ドゥパとリリンも急いで屋敷へと戻り戦闘服に着替えていく。

 薔薇の家紋が入った戦闘服に身を包み、二人は屋敷の出口へと向かった。

「リリンちゃんは引き続きマタハリの防衛をお願いね。今日はいつもより多くスイーツを用意してもらいましょうね」

「はい母様! ごぶうんを!」

「あらあらリリンちゃんにそんな事言われたら負けるわけにはいかないわね」

 小さなリリンの体をドゥパが優しく抱きしめる。互いの武運を祈りながら二人は屋敷を後にした。




 シュラセーナ王城の直下では、魔物との激しい戦闘が繰り広げられていた。次から次へと影の中から現れる魔物達。一方、王国軍も第一、第二砦からの援軍が続々と到着していた。 

 これほど大規模の戦闘は王国の歴史始まって以来初めての事だった。まさに国の命運を掛けた戦いの様相を呈し始めた。



「女王陛下! 何卒地下壕への避難を!」

「ならんっ! この一大事に女王が逃げてどうする! 私も皆と一緒に最後まで戦う!」

 ここ女王の間ではグレッツァ領主と女王の押し問答が暫くの間続いていた。ジェリミス女王の血筋は代々、民を、そして臣下を想う気持ちが人一倍強い。ラハールは強情な女王に困った顔を向けながらも、その熱い人柄を嬉しく感じていた。

「グレッツァ殿。陛下のご遺志に従おう」

「しかしっ! 相手は邪神ですぞ! このまま押し込まれでもしたら――」

 グレッツァの言葉を遮るようにラハールが片手をすっと上げた。

「ただし陛下! もしもの時は城を捨ててでも逃げる事をお約束ください。陛下が王国の民を大切に想われるように、我々にとっては陛下こそが命を賭しても守るべきお方。どうかそれだけはお忘れなきよう」

 ラハールのその言葉に女王はゆっくりと頷いた。そして青い水晶の玉座に腰を下ろすと、女王は声高に指揮を執った。

「これより、ここ女王の間を最高司令本部とする。永きに渡る邪神との戦いを今日こそ終わらせよう! 我が王国の兵士達よ! 共に最後まで戦い抜け!」

 女王の声は魔道具チェリタを使って城の内外に届けられた。それは遠く離れた各ロンガにも送られ、戦いの最中にも関わらず兵士達は涙を流し、声を上げた。



 この女王の一声が戦況を大きく動かす。劣勢だった戦いをひっくり返し、各所で魔物の軍勢を王国軍が押し返し始めた。

「北、東ロンガの魔物は制圧! 直ちに援軍の派遣を要請しました!」

「すでに制圧完了していた西ロンガからはドゥパ殿がこちらへ援軍に向かわれているとの報告!」


 次々にもたらされる吉報に場内はにわかに活気づく。その時、耳をつんざくような唸り声が城の外から聞こえた。

「グゥウオオオオオーーー!!!」

 それは邪神クリシャンダラが放った叫び声だった。邪神が城を襲わんと滝を高々と飛び越え、城壁へと手を伸ばした瞬間、目に見えない壁のようなものがそれを弾き返した。邪神はもんどりうって滝の下まで落ち、苦悶の表情でその顔を歪めていた。

 これこそがリリアイラが言っていた陽光魔法による対邪神の結界であった。

 その結界に気付いたのか、邪神はその手を天に掲げると新たに丸い影を作り出した。その影からこれまでとは違う魔物が続々と飛び出してきた。窓から戦況を伺っていたラハールがそれを見て思わず叫んだ。

「あの魔物はガルルだ! まさか東の大陸から呼び寄せたのか!?」

 鷲の魔物であるガルルは本来、東の大陸にしか生息していない。しかしどういうわけかそれが大群でこちらに飛来してきている。

 ガルル達は次々に急降下し、城の内部へと迫ってきた。

「さっきの結界のようなものは、魔物には効かないのか!?」

 ラハールのその問い掛けに答えたのは、女王ジェリミスだった。

「もしかしたら先程の結界は邪神のみに特化したものかもしれぬ。邪神が結界によって阻まれた際、一瞬だが私の体が熱くなった。おそらく私が使う陽光魔法『地母神の祈りシャクティ』の力だろう」

 僅かではあったが、場に動揺が走った。だがそれを打ち消すようにラハールが叫んだ。

「私が出ます! グレッツァ殿は最優先で陛下の護衛をお願いする!」

「了解した! 対空攻撃に自信がある者はラハール殿に従事せよ! 残りの者でここの守りを固めるぞ!」

 
 すでに城内ではガルルとの戦闘が始まっていた。空中から風魔法に似た斬撃を飛ばすガルルに対し、兵士達は弓矢で応戦していた。

散る花びらクロウパジャドゥ

 炎を纏い、ラハールが空へと飛び出す。魔法で飛行できる魔術師達がそれに続いた。城の上空で飛び交うガルル達。その大群のど真ん中にラハールは突っ込んで行った。

紅炎の薔薇ドゥリマワルメラ!!」

 ラハールが広範囲攻撃の焔魔法を放つ。紅蓮の炎が絡みつくようにガルル達へと襲い掛かった。無残に羽を焼かれたガルルが次々に地上へと落ちて行った。

 戦況を立て直したかに見えたその時、ガルルの上位種、スパルナが突如として現れた。ガルルの倍はあろうかというその大きな翼で巨大な竜巻を起こす。

 空中で態勢を崩したラハールがその気流に飲み込まれた。錐揉きりもみ状態で落下しながら、そして更には斬撃で彼の体は切り刻まれた。

「ぐはっ!!」

 背中から打ち付けられるように落ち、全身から血を流すラハールに救護兵が慌てて駆け寄る。上空ではスパルナが追撃を仕掛けようと翼を大きく広げていた。


薔薇の牢獄マワルパンジャラ!!!!」


 魔法の詠唱がどこからともなく聞こえたその刹那、スパルナが炎に包まれ一瞬にして焼失した。煙が晴れたその先には、鬼の形相をしたドゥパの姿があった。







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