空間魔術師は一瞬で地の底まで逃げ出した

三毛猫ジョーラ

文字の大きさ
58 / 61
東の大陸編

53話 砂海の獣王

しおりを挟む

 ボラタナが姿を現し驚いたのはヒジャウただ一人だった。尤もボラタナが見えているのはリリアイラとクプクプを除くと彼しか残っていないのだが。

 大きく背伸びをしボラタナは立ち上がった。

「ふぁ~あ。それにしても随分と賑やかだね。今から邪神討伐にでも行くの? リリィ」

「けっ! そんなわけあるかよ。おまえはずっと寝てたんだろう? その男は戦えるのか?」

 そう言ってリリアイラはヒジャウを指差した。ボラタナは未だに狼狽えている彼をしばらく見つめ破顔した。

「大丈夫。彼は強いよ。それこそリリィの宿主に負けないくらい」

「ほう、言うじゃねえか。それよりいい加減説明くらいしてやったらどうだ? ずっと固まったままだぞ」

 促されてようやくボラタナはヒジャウの元へと歩み寄った。そして彼の周りをくるりと一周すると何度か頷いていた。

「いやぁ立派に成長したね。すっかり背丈が追い越されちゃったなぁ」

 ボラタナが笑いかけるとヒジャウも釣られてくすっと笑った。

「君はあの頃とちっとも変ってないね。てっきり子供の精霊だと思ってたけど違ってたみたいだね」

「これは仮初の姿だからね。君が怖がるといけないと思ってこの姿を選んでたんだけどすっかり気に入っちゃったよ」

 笑顔で語り合う二人はまるで親子か兄妹のようにも見えた。同じ緑色の瞳を交わしながら彼らはその再会を喜んでいた。

 無事にボラタナの封印が解けたことで、改めて今後の方針が話し合われた。そしてまずは砂海を攻略し四人でダンジョン内に探索する事が決まった。


 一日の休息日を挟みドゥーカ達は砂海へと出発した。アピはもうラクダはこりごりだと言って今日は飛んで移動している。ディンディングの先導により禿山をしばらく登ると頂上付近で一行は歩みを止めた。

「あれが砂海でございます」

 ディンディングが指し示す方を見ると、そこにはまるで海のように波打つ砂漠が眼下に広がっていた。渦潮のような蟻地獄が所々に点在し、時折砂海ミミズがさながら鯨の如くその巨体を現し、潮を吹くように砂をブシューっと吐き出している。

 山の頂上より先はすでに切り立った崖で、そこに砂塵の荒波が幾度となく打ちつけている。おそらくその波によって浸食されたのだろう。砂海を取り囲むように連なる山々はどれも同じように削られていた。

「まさしく海だな。これは泳げたりするのだろうか?」

 ドゥーカがそう呟くとヒジャウがそれに答えた。

「一度試してみましたが泳ぐのは砂が重くて体が沈んでいきます。船も帆を立てれば進みますが漕ぐ事は叶いません。停まってしまうと沈みます」

「パンバルと一緒に下に降りてみていいですか?」

 不意にラウタンがそう申し出た。湿地帯を滑るように走るパンバルであれば砂海でも移動が出来そうだとドゥーカも思った。

「よし、じゃあおれも一度降りてみよう。アピも行くか?」

「靴の中が砂だらけになりそうだから私は行かなーい」

 手をひらひらさせながらアピはいつの間にかラクダの背中に乗っていた。どうやら走って揺れたりしなければ座り心地は良いようだ。


 まずはドゥーカが宙に浮きながらゆっくりと砂海へと降り立った。地に足がついた瞬間、ドゥーカの体は腰まで一気に砂の中へと沈む。

「うおっ! これは本当に海のようだな! まるで砂に引きずり込まれていくようだ」

 ドゥーカが魔法で砂から脱出すると同時に崖の上からパンバルに乗ったラウタンが飛び降りてきた。地面に着地する瞬間、ラウタンが水魔法を真下に放ち落下速度を緩める。砂地は一瞬水浸しになるがすぐに押し寄せる波によって乾いた砂へと変わった。

 一方、ふわりと降り立ったパンバルは顎から尻尾の先までをべったりと地に着けながら、まるで砂の上を滑るように動き回っていた。重心をうまく分散させる事により、まるで水面に浮かび泳いでいるかのようだった。

「おお素晴らしい! トケッタは実に見事な生き物ですね!」

 嬉々とした表情で感嘆の声を上げたのはヒジャウだった。彼がパチパチと手を叩くとその横でディンディングも同じように拍手を送っていた。賞賛を受け満更でもないのか、パンバルは優雅に砂の波を乗りこなしていた。ラウタンも手を振りながら楽しそうに笑っている。

 だがその時だった、ほんの僅かな地鳴りをボラタナが察知した。横にいたヒジャウの肩をちょんちょんと突くとにこやかに微笑んだ。

「ミミズ達が騒ぎだしてるよ~食事の時間なのかも」

 ラウタンに危険を知らせようとヒジャウが口を開きかけたその刹那、迫り上がる砂の中から口を目一杯に広げた砂海ミミズがラウタン達に襲い掛かった。ヒジャウはすぐさま右手をかざし魔法を放つ。

巨象の大掴みバラライガジャ!」

 飛び掛かる砂海ミミズの真横から、巨大な鞭のように砂の塊が絡みついた。そしてそのままぎゅうっと締め上げるとミミズを真っ二つに引き千切った。人の悲鳴にも似た声を上げ砂海ミミズは息絶えた。大量の体液が辺り一面に降り注ぎ、二つに分かれたミミズの亡骸は砂の中へと飲み込まれていった。

「すご……こんな土魔法初めて見たわ」

 思わず息を呑んだアピがそう呟く。難を逃れたラウタンとパンバルが砂の上を移動しながらお礼とばかりにヒジャウに手を振っていた。それに手を振り返しながらヒジャウが言った。

「どうやらミミズ達の食事の時間らしい。そろそろ彼らには戻ってもらった方がいいかもしれない」

「ほんといつまで遊んでいるのかしら。私が伝えてくるわ」


 アピが二人の元へ飛び立とうとしたその時、突如として砂海に巨大な蟻地獄が出現した。轟々と音を立て回転する砂の渦は次第にその速度を上げ、やがてその直上に竜巻を引き起こした。逃げ遅れたラウタンとパンバルがその風と砂によって蟻地獄の方へと吸い寄せられていく。

 そして蟻地獄に捕まったのはラウタン達だけではなかった。砂の中から吸い上げられるようにして巨大な砂海ミミズが次々に渦に巻かれていた。数十体の砂海ミミズが蟻地獄の真ん中へと集まると地響きのような音が聞こえだした。

転移テレポルタ!」

 ドゥーカが瞬時に転移し引きずり込まれそうになっていたラウタンとパンバルを救い出す。その直後、蟻地獄の中央からはさみのような大顎を広げた魔物が突き上げるように飛び出してきた。そして大顎の奥の口をガパッと開くと砂海ミミズ達をいっぺんに飲み干した。

「私が食事の時間って言ってたのはあいつ方だよ~獣王ヴリトラナ。相変わらず豪快な食べっぷりだねえ」


 ボラタナののんびりとした物言いに、ヒジャウは思わず口があんぐりと開いてしまった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

夫より強い妻は邪魔だそうです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
「ソフィア、お前とは離縁する。書類はこちらで作っておいたから、サインだけしてくれ」 夫のアランはそう言って私に離婚届を突き付けた。名門剣術道場の師範代であるアランは女性蔑視的な傾向があり、女の私が自分より強いのが相当に気に入らなかったようだ。 この日を待ち望んでいた私は喜んで離婚届にサインし、美しき従者シエルと旅に出る。道中で遭遇する悪党どもを成敗しながら、シエルの故郷である魔法王国トアイトンに到達し、そこでのんびりとした日々を送る私。 そんな時、アランの父から手紙が届いた。手紙の内容は、アランからの一方的な離縁に対する謝罪と、もうひとつ。私がいなくなった後にアランと再婚した女性によって、道場が大変なことになっているから戻って来てくれないかという予想だにしないものだった……

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...