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5話 豪雨の中
しおりを挟む「なにっ!? ヴァレントが単独でダンジョンを攻略しているだとっ!?」
執務室の外の廊下でモーファが大声で怒鳴っていた。ヴァレントという名前を聞き一瞬体が強張る。心を落ち着かせようと私は窓の外に降る雨を見つめていた。扉が乱暴に開かれ、モーファが苛立ちを隠そうともせず執務室へと入ってきた。私はゆっくり振り返ると彼に微笑みかけた。
「すまないレベリオ……見苦しいところを見せたな」
彼は一瞬だけ目を落とすと部屋の鍵を掛けてから窓際の方へとやってきた。わずかに震える私の手を両手で握りしめ、ゆっくりと胸の前まで持ち上げた。
「聞こえていたと思うが、ヴァレントが一人でダンジョンを攻略中らしい。君は知っていたのか?」
私は彼から目を逸らすように下を向きながら首を横に振った。
「昨夜主人は外に出たっきり帰ってこなかった……何がどうなってるのか私にもわからないの。まさか私たちの関係が――」
突然雷鳴がとどろき窓に打ちつける雨が勢いを増した。モーファが私の体を引き寄せ、そしてきつく抱きしめた。彼が私の耳元で囁きかける。
「なぁに大丈夫さ。確たる証拠なんてありはしない。きっと訳も分からず勘ぐっているんだろう。ダンジョンから戻ってきたらおれが説き伏せてやるよ」
「ありがとうモーファ。やっぱりあなたは頼りになるわ。ねぇ……今ここで抱いて欲しいの」
彼の口元が嬉しそうに吊り上がった。結界を張る必要がないくらい外の雨音が激しくなる。そして私は彼に身を委ね、また闇へと落ちていった。
ダンジョンの最下層、主の部屋へと続く道をおれは進んでいた。もう何日も経ってるかのように時間の感覚はすでに失われていた。その時、遠くから足音が聞こえてきた。わざと気配を消していないのか、おれはこちらへ近づく人物を立ち止まって待つことにした。
「よくここまで来れたな」
暗闇から姿を現したのはアンクバートだった。彼の数歩後ろをプルジャがてくてくと歩いていた。
「おまえさんが全部倒しちまって魔物が一匹もいなかったからな。死霊までまったく見当たらなかったからプルジャが怒ってるぜ」
アンクバートが言う通りプルジャは少し不機嫌そうな顔をしていた。おそらく使役用の死霊を手に入れたかったのだろう。
「すまんな。おそらく魔力暴走だ。力が制御できなかった」
「まったく魔物達もいい迷惑だったろうな。このまま主もやっちまうのか?」
「ああ、せっかくだからな。ここの主はリッチだったか?」
アンクバートが軽く頷くと、横にいたプルジャが小さな杖をパッとおれに向けた。
「主は私に。あなたじゃたぶん倒せない」
「倒せない? ただのリッチだろう?」
「そう。でもあなたには無理」
アンクバートをちらりと見ると、彼も肩をすくめながら首をかしげた。困惑するおれ達を気にする様子もなく、プルジャはすたすたと主の部屋へと歩き始めた。
彼女の後に続き奥へと進むと青白い炎が点在する部屋へと辿り着いた。その中央にはこのダンジョンの主であるリッチが、こちらに背を向けたまま立っていた。
プルジャが杖を構え何やら長い詠唱を始める。その気配に気づいたのかリッチがのそりとこちらに振り返った。
「ロアーナ……」
それはかつて戦いを共にした仲間の姿だった。
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