聖女の妻にずっと裏切られていた勇者がその全てを壊すまで

三毛猫ジョーラ

文字の大きさ
5 / 23

5話 豪雨の中

しおりを挟む

「なにっ!? ヴァレントが単独でダンジョンを攻略しているだとっ!?」

 執務室の外の廊下でモーファが大声で怒鳴っていた。ヴァレントという名前を聞き一瞬体が強張る。心を落ち着かせようと私は窓の外に降る雨を見つめていた。扉が乱暴に開かれ、モーファが苛立ちを隠そうともせず執務室へと入ってきた。私はゆっくり振り返ると彼に微笑みかけた。

「すまないレベリオ……見苦しいところを見せたな」

 彼は一瞬だけ目を落とすと部屋の鍵を掛けてから窓際の方へとやってきた。わずかに震える私の手を両手で握りしめ、ゆっくりと胸の前まで持ち上げた。

「聞こえていたと思うが、ヴァレントが一人でダンジョンを攻略中らしい。君は知っていたのか?」

 私は彼から目を逸らすように下を向きながら首を横に振った。

「昨夜主人は外に出たっきり帰ってこなかった……何がどうなってるのか私にもわからないの。まさか私たちの関係が――」

 突然雷鳴がとどろき窓に打ちつける雨が勢いを増した。モーファが私の体を引き寄せ、そしてきつく抱きしめた。彼が私の耳元で囁きかける。

「なぁに大丈夫さ。確たる証拠なんてありはしない。きっと訳も分からず勘ぐっているんだろう。ダンジョンから戻ってきたらおれが説き伏せてやるよ」

「ありがとうモーファ。やっぱりあなたは頼りになるわ。ねぇ……今ここで抱いて欲しいの」

 彼の口元が嬉しそうに吊り上がった。結界を張る必要がないくらい外の雨音が激しくなる。そして私は彼に身を委ね、また闇へと落ちていった。




 ダンジョンの最下層、主の部屋へと続く道をおれは進んでいた。もう何日も経ってるかのように時間の感覚はすでに失われていた。その時、遠くから足音が聞こえてきた。わざと気配を消していないのか、おれはこちらへ近づく人物を立ち止まって待つことにした。

「よくここまで来れたな」

 暗闇から姿を現したのはアンクバートだった。彼の数歩後ろをプルジャがてくてくと歩いていた。

「おまえさんが全部倒しちまって魔物が一匹もいなかったからな。死霊までまったく見当たらなかったからプルジャが怒ってるぜ」

 アンクバートが言う通りプルジャは少し不機嫌そうな顔をしていた。おそらく使役用の死霊を手に入れたかったのだろう。

「すまんな。おそらく魔力暴走だ。力が制御できなかった」

「まったく魔物達もいい迷惑だったろうな。このまま主もやっちまうのか?」

「ああ、せっかくだからな。ここの主はリッチだったか?」

 アンクバートが軽く頷くと、横にいたプルジャが小さな杖をパッとおれに向けた。

「主は私に。あなたじゃたぶん倒せない」

「倒せない? ただのリッチだろう?」

「そう。でもあなたには無理」

 アンクバートをちらりと見ると、彼も肩をすくめながら首をかしげた。困惑するおれ達を気にする様子もなく、プルジャはすたすたと主の部屋へと歩き始めた。

 彼女の後に続き奥へと進むと青白い炎が点在する部屋へと辿り着いた。その中央にはこのダンジョンの主であるリッチが、こちらに背を向けたまま立っていた。

 プルジャが杖を構え何やら長い詠唱を始める。その気配に気づいたのかリッチがのそりとこちらに振り返った。

「ロアーナ……」

 それはかつて戦いを共にした仲間の姿だった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...