聖女の妻にずっと裏切られていた勇者がその全てを壊すまで

三毛猫ジョーラ

文字の大きさ
16 / 23

16話 激昂

しおりを挟む

 風を切り裂くようにおれは大空へと舞い上がった。巨大なドラゴンの背中を眼下に捉えると狙いを定めて体勢をひっくり返す。そして魔力を全身に込め左右の剣で幾度となく切りつけた。

「くっ、硬い……」

 おれの剣は黄金の鱗にことごとく弾かれた。ドラゴンは悠々と身を翻しながらおれに向かって大きな口を開いた。

「回避しろ! ヴァレント!」

 物見櫓ものみやぐらに移動していたアンクバートが矢を放つ。おれが飛び退くのと同時にドラゴンの目の前で大爆発が起きた。ドラゴンが顔をのけ反らせながら大きく羽ばたいた。立ち込めていた煙の中からドラゴンがぬっと、ほぼ無傷の顔を覗かせた。

「ちっ! 全然効いちゃいねぇ!」

 アンクバートは舌打ちをしながら次の矢をつがえていた。一旦地上に降りたおれがもう一度飛ぼうとした時、プルジャがおれを呼び止めた。

「待って。光の輪っかアネルダリュム

 いつもより大きな光の輪から現れたのはワイバーンの死霊だった。尻尾が切れ翼はボロボロだったが、そのワイバーンは力強い咆哮を上げた。

「その子が一番飛ぶのが早い。振り落とされないようにして」

「ありがたく使わせてもらう」

 おれが背にまたがると、すぐさまワイバーンは二度三度と羽ばたき弾かれるように空へと舞いがった。そしてドラゴンの遥か上まで上昇すると、太陽の光を背に受けながら一気に滑空していく。

 こちらに気づいたドラゴンが激しい炎を噴いた。渦巻く火柱を掻いくぐりながらワイバーンはドラゴンの懐へと突っ込んで行く。

激昂ラビア

 おれは狂乱バーサク状態を更に一段階引き上げた。筋肉が引き裂かれるように膨張し魔力が全身を駆け巡る。まるでそれに比例するかのように、思考が混濁し意識が飛びそうになった。狂い始める自我を押し留めながらおれは剣を振るった。

「グギャアアアアーーー!!!」

 ドラゴンの脇腹から鮮血がほとばしった。硬い鱗を砕き割りながら鋭い剣先がその身体を切り裂いていく。苦しみ悶えるように巨躯きょくをよじり、ドラゴンが辺り構わず炎を噴き散らかした。

 王都の建物が、そして城壁が爆風に吹き飛ばされ崩れ落ちる。瓦礫を飛び越え数多の魔物達が押し寄せる波のようになだれ込んできた。




「早く逃げてーっ!」

 私は両手をかざしたまま騎士達に向かって叫んだ。王と王女を守りながら騎士達は城の外へと走り出した。

風切りコルタベント

 ロディが放った風魔法で死霊達が次々に一刀両断されていく。風の刃が壁や柱を鮮やかに切り倒しながら逃げる一行へと迫った。

氷壁ムルデゲル!」

 ぎりぎりの所でアジュダが防御魔法を展開した。氷の壁に阻まれた風の刃は勢いを失い霧散していく。

火の鳥オーデフォック!!」

 間髪を入れずにアジュダが火魔法をロディに向けて放った。彼女の魔法属性は火と氷。例え賢者であろうとも彼女と一緒に戦えば倒せるかもしれない。

「ふん。氷壁ムルデゲル

 だがロディは余裕の笑みを浮かべながら氷の壁を目の前に張った。炎の塊は氷と共に砕け散り、いとも簡単に相殺される。

雷光の槍トロナダ

 ロディが伸ばした手から稲妻がほとばしる。光り輝く閃光がアジュダの右腕を一瞬で貫いた。

「キャアアアーー!!」

 激しい衝撃でアジュダは壁に吹き飛ばされ体を強かに打ちつけた。腕からは血が滴り落ち、肉が焦げるような匂いがあたりに立ち込めた。

「アジュダっ!!」

 腕を押さえながらうずくまるアジュダに私は駆け寄った。すぐにでも治してやりたいが今の私にはそれが出来ない。

「はっはー! どうした? 聖女ならばそれくらいの傷は簡単に治せるだろう?」

 私はロディを睨みつけながらゆっくりと立ち上がった。不敵に笑うその顔が、長く苦しかった日々を私の心に蘇らせた。怒りが、憎しみが激しく燃え上がる。例えここで死に絶えようともあいつだけは絶対に許さない。


悪魔憑依トランスディアブラ


 足元に血が滲んだような魔法陣が浮かび上がる。

 地の底から湧き上がってきた漆黒の闇が私の体を包み込んだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...