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18話 怒りの矛先
しおりを挟むアジュダの首元にかざしたロディの手にはバチバチと雷がほとばしっていた。すでに雷魔法で拘束しているのだろうか、彼女は痺れたように体を硬直させていた。
「わかってはいると思うが、動いたらアジュダの頭は吹き飛ぶぞ。まさか悪魔の力がそこまでとはな。だがそれほど長くは憑依させておけないんだろう?」
嘲り笑うかのようにロディの口元が綻んだ。確かに彼が言う通り、体の自由は少しずつ奪われ始めている。私に残された時間はあまり残っていない。惑う心がわずかな隙を生んでしまった。
「風羽」
ロディがアジュダを抱えたまま外へと飛び出した。すぐさま私も悪魔の翼を広げその後を追いかけた。
ドラゴンの攻撃により城の外はまるで戦場と化していた。崩壊した建物、逃げ惑う人々の悲鳴。これこそロディが思い描いた残酷な未来。そしてそれに加担したのは私自身。
「これ以上……もうこれ以上は――」
もっと早くヴァレントに伝える術はあったはずだ。だけどそこから逃げて目を逸らしていた結果がこれだ。この悲劇は私が幕を下ろさなければいけない。ロディの背中を射程に捉えた。
「まずはアジュダを――」
そう思った矢先、ロディが後へ振り返り投げ捨てるようにしてアジュダから手を放した。彼女の体がゆっくりと宙を舞う。
「雷光の槍」
ロディが放った稲妻がアジュダの背中を貫き、彼女はのけ反りながら地面へと叩きつけられた。
「アジュダーー!!」
私は急いでアジュダの元へ降り立ち彼女を抱き上げた。その胸元はぽっかりと穴が開き血がとめどなく流れていた。血の気を失い、彼女の呼吸はもう途切れ途切れだった。
「あぁ……アジュダ……なんてこと」
「レベリオ……私はいいから……みんなを守っ――」
アジュダの目から光がすうっと消えた。だらりと人形の様になってしまった彼女の体を静かに地面に横たえた。体が怒りで震え、憎悪が腹の底から沸き立ってくる。
負の感情が膨れ上がると、まるでそれに歓喜するかのような悪魔の嗤い声が耳元で鳴り響いた。
プルジャがスタンピートを鎮圧している最中、アンクバートは前線を離れその様子を窺っていた。そこへ王と王女を連れた騎士団の一行が現れる。
「停まれっ! この先はすでに魔物が押し寄せている! 引き返せ!」
アンクバートの声を聞き、王が騎士達をかき分けながら歩み出た。
「おお、アンクバート! ロディが叛逆を起こしよった! 今すぐ奴を討ち――」
王の言葉はそれ以上は続かなかった。周りにいた数人の騎士達と共にその首は宙へと舞った。血を顔中に浴びた王女が泣き叫ぶ。
「きゃあぁぁーー! 父上ーーー!!!」
その悲鳴を満足げな顔で聞いていたのはロディだった。悠然と、まるで野原を散策するかのように騎士団の方へと歩を進めている。
「陣形を乱すな! 盾を構えろっ!!」
アンクバートがロディの横に大きく回り込みながら矢を放つ。しかしそれは魔法による氷壁によって防がれた。
「ちっ! あいつが相手じゃ分が悪すぎる。影隠し」
アンクバートの姿が景色に溶け込むようにすっと消える。そのままロディの背後へ回り込むと彼は短剣を振り上げた。
「雷風」
ロディが唱えたのは雷と風の複合魔法だった。竜巻と稲妻が彼の周りを取り囲むかのように現れた。
「ぐはっ!!」
風に巻き上げられると同時に雷がアンクバートの体に絡みつく。体が痺れそのまま壁へと吹き飛ばされた。
「煩い蠅が邪魔しよって」
倒れたアンクバートを見下ろしながらロディが手を上げた、その時だった――
「龍の息吹」
青い炎が一直線にロディへと迫った。寸での所で飛び退くようにしてそれを躱すと、ロディは目を見開いた。
「これは!……ロアーナの魔法」
彼が見つめた先にいたのは死霊となったロアーナと並び立つプルジャの姿だった。
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