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3話 二十代最後の恋
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大学で演劇サークルに所属していたという高橋先生のアドバイスに、私とクラスの全員が全身全霊をかけて取り組んだ。時には檄を飛ばし、時に励まし、時に共に涙し、教師になって初めて生徒に正面からぶつかった気がした。
私は何度も音楽室へと足を運び高橋先生に助言を乞うた。学校が休みの日には先生の家まで押しかけ遅くまで二人でアイデアを出し合った。
自然と私と彼の距離は近づいていった。
ある日、参考までにとミュージカルのアニメ版を先生宅で見ていた。二人掛けのソファーに座っているとふいに彼が私の肩に手を回してきた。
映画を見始める前からこうなるんじゃないかと多少予想はしていたが、いざとなるとやっぱりドキドキして思わずビクっとしてしまった。
モニターではメインテーマの曲が流れだしキスシーンが始まろうとしていた。
それに合わせるかのように彼が私の顔を横に向ける。徐々に近づく彼の唇を見ながらそっと私は目を閉じた。
唇が触れ合い私の吐息は熱を帯びる。彼の舌が私の口の中へと入ってきた時、私もそれに合わせ舌を絡める。
お互いの息が熱く混ざり合い体温が一気に上がる。彼の背中に手を回すときつく抱き返され、優しくソファへと私を倒した。
彼の細く長い指が服の中へと入ってくる。そのまま私の胸に触れると今度は唇が首筋へと向かう。私は耐え切れず甘い声を漏らした。
固くなった彼のものが私の太ももに当たる。ブラのホックを外したその右手はなぞるように私のズボンの中へと吸い込まれた。しなやかな指に触れられ私は思わず体をくねらせた。
やっぱり指使いが上手いんだな――その言葉を最後に私の理性はどこかへ消え去った。その日は明け方近くまで、私は何度も彼を受け入れ続けた。
それから最初の数日間は学校で顔を合わせると少し恥ずかしかった。生徒達に悟られぬようなるべくいつも通りに振る舞った。
話し合って決めた訳ではないが、暗黙の了解で、学校では二人の関係は秘密にしておこうという雰囲気になっていた。
それでも私の心は常にウキウキしていた。まるで初恋をしている少女の様に、彼の事を想うとふわふわとした幸せに包まれた感じがした。
これはきっと二十代最後の恋。
「島田先生ー! 半分持ってあげまっすよ」
ヨタヨタと廊下を歩く彼は急に後ろから声を掛けられ本を全部落としてしまった。その本を拾いつつ私は「恋をすると人に優しくなれるのね」と少女漫画のヒロインムーブを周りにまき散らしていた。
文化祭の前日の放課後、私は一人で音楽室へと来ていた。
「あ~やばい、もうすでに緊張してる。明日の本番大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だよ。みんなたくさん練習したし、かなり良いものに仕上がってるよ」
私の不安を打ち消すように、修哉は頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「四葉も今日まで頑張ったね。後は生徒達を信じよう、桐谷先生」
彼は私をしっかり見つめ微笑んでくれた。私もそれに笑顔で頷き返した。
そしてゆっくり抱き寄せられると、彼と私の唇が重なった。徐々にお互いの舌を絡ませ合い、深く長いキスをした。ドアの隙間から私達を見る視線に気づかずに……
そして迎えた文化祭。我が一年C組のミュージカルは見事学校一位に輝いた。
拍手が巻き起こると同時にクラス全員が喜びを爆発させた。私も生徒と抱き合い、思いっきり泣いた。教師をやってきて良かったと初めて思えた瞬間だった。
女子生徒の何人かが今日まで協力してくれた修哉の元へと駆け寄った。彼も少し目を潤ませ生徒たちの頭を撫でていた。
そして私と目が合うと大きく頷き微笑んでくれた。私も涙を拭きながら彼に笑い返した。
表彰式が終わった後、私はこれまでのお礼を伝えに再び一人で音楽室を訪れた。
「おめでとう四葉! みんな本番強かったね。今までで一番良い芝居してた」
思わず泣いちゃったよと、彼は微笑みながら言った。
「私も今日はいっぱい泣いちゃった。これもクラスのみんなと修哉のお陰だね」
「一番の功労者は四葉だよ。大変だったのも見てたし、最後まで良く頑張りました」
そういうと彼はまたぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。その瞬間、これまでの苦労や苦悩が一気に押し寄せてきた。ああ、私は知らないうちに色んなこと我慢してたんだな。そんな私をずっと笑顔で支えてくれた修哉の顔を見て、また涙が溢れてくる。
彼は何も言わず、私が泣き止むまで抱き締めてくれた。
「ほんとに今日は泣きっぱなしだなぁ。メイク崩れてるからあんまり見ないで」
彼の腕を解いて離れようとした時、私の肩を掴んで彼は言った。
「準備とかでゴタゴタしてたからタイミングがなかったんだけど。改めて――
四葉愛してるよ。おれと付き合って下さい。」
「はい。私も愛してます」
そしてあのミュージカルのラストシーンのような甘い甘いキスをした。
その時、音楽室のドアがガラガラーと開いた。
「あーいたいた! みんな~桐谷っちいたよー!」
そう叫びながら私のクラスの春香ちゃんが音楽室に入ってきた。私たちは慌てて離れると、彼女の後ろから衣装を着たままのクラス全員がぞろぞろとやってくる。
「桐谷っち~みんなで写真撮ろうよ! 丁度良かった、高橋先生も一緒に!」
私たちの周りに生徒たちが集まって来る。カメラマンの写真部まで連れてくるとは、春香ちゃんは優秀だ。
「みんなこっち見て~、じゃあ撮りますよ~、せ~の~」
カシャ!
その時みんなで撮った集合写真は今でも机に飾ってある。
思わずその写真を見つめニヤニヤと笑いながらイヤホンを外した。
気づけば五限目終了のチャイムが鳴っていた。慌てて次の授業の準備を始める。
その時ふと修哉に貸していた本に栞が挟まっているのが目に留まる。
栞とか挟んでたっけと、小首を傾げながら抜き取ってみると、それは桜の押し花の栞だった。
淡いピンクの桜がとても綺麗で可愛らしい栞だった。
(手作りかな? まさか修哉の趣味とか?)
らしくないなと、思わずぷっと吹き出して笑ってしまった。一応返してリアクションでも楽しむか、と少しいたずら心を浮かべながらそれを自分のノートに挟んだ。
私は何度も音楽室へと足を運び高橋先生に助言を乞うた。学校が休みの日には先生の家まで押しかけ遅くまで二人でアイデアを出し合った。
自然と私と彼の距離は近づいていった。
ある日、参考までにとミュージカルのアニメ版を先生宅で見ていた。二人掛けのソファーに座っているとふいに彼が私の肩に手を回してきた。
映画を見始める前からこうなるんじゃないかと多少予想はしていたが、いざとなるとやっぱりドキドキして思わずビクっとしてしまった。
モニターではメインテーマの曲が流れだしキスシーンが始まろうとしていた。
それに合わせるかのように彼が私の顔を横に向ける。徐々に近づく彼の唇を見ながらそっと私は目を閉じた。
唇が触れ合い私の吐息は熱を帯びる。彼の舌が私の口の中へと入ってきた時、私もそれに合わせ舌を絡める。
お互いの息が熱く混ざり合い体温が一気に上がる。彼の背中に手を回すときつく抱き返され、優しくソファへと私を倒した。
彼の細く長い指が服の中へと入ってくる。そのまま私の胸に触れると今度は唇が首筋へと向かう。私は耐え切れず甘い声を漏らした。
固くなった彼のものが私の太ももに当たる。ブラのホックを外したその右手はなぞるように私のズボンの中へと吸い込まれた。しなやかな指に触れられ私は思わず体をくねらせた。
やっぱり指使いが上手いんだな――その言葉を最後に私の理性はどこかへ消え去った。その日は明け方近くまで、私は何度も彼を受け入れ続けた。
それから最初の数日間は学校で顔を合わせると少し恥ずかしかった。生徒達に悟られぬようなるべくいつも通りに振る舞った。
話し合って決めた訳ではないが、暗黙の了解で、学校では二人の関係は秘密にしておこうという雰囲気になっていた。
それでも私の心は常にウキウキしていた。まるで初恋をしている少女の様に、彼の事を想うとふわふわとした幸せに包まれた感じがした。
これはきっと二十代最後の恋。
「島田先生ー! 半分持ってあげまっすよ」
ヨタヨタと廊下を歩く彼は急に後ろから声を掛けられ本を全部落としてしまった。その本を拾いつつ私は「恋をすると人に優しくなれるのね」と少女漫画のヒロインムーブを周りにまき散らしていた。
文化祭の前日の放課後、私は一人で音楽室へと来ていた。
「あ~やばい、もうすでに緊張してる。明日の本番大丈夫かなぁ……」
「大丈夫だよ。みんなたくさん練習したし、かなり良いものに仕上がってるよ」
私の不安を打ち消すように、修哉は頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「四葉も今日まで頑張ったね。後は生徒達を信じよう、桐谷先生」
彼は私をしっかり見つめ微笑んでくれた。私もそれに笑顔で頷き返した。
そしてゆっくり抱き寄せられると、彼と私の唇が重なった。徐々にお互いの舌を絡ませ合い、深く長いキスをした。ドアの隙間から私達を見る視線に気づかずに……
そして迎えた文化祭。我が一年C組のミュージカルは見事学校一位に輝いた。
拍手が巻き起こると同時にクラス全員が喜びを爆発させた。私も生徒と抱き合い、思いっきり泣いた。教師をやってきて良かったと初めて思えた瞬間だった。
女子生徒の何人かが今日まで協力してくれた修哉の元へと駆け寄った。彼も少し目を潤ませ生徒たちの頭を撫でていた。
そして私と目が合うと大きく頷き微笑んでくれた。私も涙を拭きながら彼に笑い返した。
表彰式が終わった後、私はこれまでのお礼を伝えに再び一人で音楽室を訪れた。
「おめでとう四葉! みんな本番強かったね。今までで一番良い芝居してた」
思わず泣いちゃったよと、彼は微笑みながら言った。
「私も今日はいっぱい泣いちゃった。これもクラスのみんなと修哉のお陰だね」
「一番の功労者は四葉だよ。大変だったのも見てたし、最後まで良く頑張りました」
そういうと彼はまたぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。その瞬間、これまでの苦労や苦悩が一気に押し寄せてきた。ああ、私は知らないうちに色んなこと我慢してたんだな。そんな私をずっと笑顔で支えてくれた修哉の顔を見て、また涙が溢れてくる。
彼は何も言わず、私が泣き止むまで抱き締めてくれた。
「ほんとに今日は泣きっぱなしだなぁ。メイク崩れてるからあんまり見ないで」
彼の腕を解いて離れようとした時、私の肩を掴んで彼は言った。
「準備とかでゴタゴタしてたからタイミングがなかったんだけど。改めて――
四葉愛してるよ。おれと付き合って下さい。」
「はい。私も愛してます」
そしてあのミュージカルのラストシーンのような甘い甘いキスをした。
その時、音楽室のドアがガラガラーと開いた。
「あーいたいた! みんな~桐谷っちいたよー!」
そう叫びながら私のクラスの春香ちゃんが音楽室に入ってきた。私たちは慌てて離れると、彼女の後ろから衣装を着たままのクラス全員がぞろぞろとやってくる。
「桐谷っち~みんなで写真撮ろうよ! 丁度良かった、高橋先生も一緒に!」
私たちの周りに生徒たちが集まって来る。カメラマンの写真部まで連れてくるとは、春香ちゃんは優秀だ。
「みんなこっち見て~、じゃあ撮りますよ~、せ~の~」
カシャ!
その時みんなで撮った集合写真は今でも机に飾ってある。
思わずその写真を見つめニヤニヤと笑いながらイヤホンを外した。
気づけば五限目終了のチャイムが鳴っていた。慌てて次の授業の準備を始める。
その時ふと修哉に貸していた本に栞が挟まっているのが目に留まる。
栞とか挟んでたっけと、小首を傾げながら抜き取ってみると、それは桜の押し花の栞だった。
淡いピンクの桜がとても綺麗で可愛らしい栞だった。
(手作りかな? まさか修哉の趣味とか?)
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