Dear〜親愛なる貴女へ〜

芋けんぴ

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第一章

シャーベット

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 少年は有名な私立高校のブレザーを着ていた。
 頭が良いんだね、と話しかければ
 勉強ばっかりで辛いです、と苦笑いした。

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 第一章
  シャーベット
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「僕、バスで通学してるんです。普段通り単語帳見ながら乗っててたんですけど、気付いたら知らない道で。慌てて次の停留所で降りたけど、どうしていいか分からなくて彷徨ってたんです。そしたら季節外れの格好をしたお二人がいたから……。」
「同類だって思ったんだ。」
「そうです。」

 私達は近くにあったコンビニのイートインスペースで話をしていた。暑いので飲料を買うことになったが、楓から奢ってと強請られ、私は期間限定の桃のシャーベットを買ってやった。

 汗で服がびちょびちょになってしまった私と楓とは違い、涼しい顔をしてアイスコーヒーを飲む彼の隣の席には、ダウンコートやマフラー、手袋等の大量の冬服が積まれている。よく見なくてもイケメンと分かる彼を見かけて、2人の女子高生が小声で騒いでいるのが見える。

「お二人、これからどうするんですか?」
「……分かりません。此処は、僕らが居た世界と何かが違うんです。だから、どうしたらいいのか……。」

 彼の問いに、楓がストローで溶けかけたシャーベットをかき回しながら答えた。

「でも、このままでいる訳にはいかないでしょう?」

 彼がコーヒーをテーブルに置いて此方を見る。

「そうね。いち早く元の世界に戻る方法を探さないとね。」

 私が返せば、彼は眉を顰めた。

「探すって言ったってそう簡単に見つかるものじゃ無いでしょうし、見つけるまでどうして行くのかを先に考えなければならないと思いますよ。」
「どういう事?」
「つまりは、今夜寝泊まりする宿はあるのか、という事です。」

 確かに。元の世界に帰れるまでこの世界で生きていくしかないのだ。この極暑の中野宿なんてしたら、熱中症やら脱水症状やらで倒れてしまうのは目に見えている。帰る方法を手当たり次第探す前に、一先ず今日の夜をどう乗り越えるかを考えなくてはならない。

「何処か泊まるにしても、お金が要るでしょう?僕、もう使い切っちゃった。」

 楓が財布をひっくり返す。百円にも満たないであろう数枚の硬貨が、机の上にじゃらりと散らばった。

「私も。一部屋借りれる程のお金なんて持ってないよ……。」

 財布の中を覗く。一千円札が一枚と、硬貨が数枚。このお金も今日の夕食代で消えてしまうだろう。

「どうします、桜さん……?」

 楓が泣きそうな目で此方を見つめる。大きなその瞳で見つめられると私も泣きそうになってしまう。

「どうしよう……。」

 2人してうるうると見つめ合っていると、向かいに座っていた彼が、はぁ……。と深い溜息を付いた。

「僕の家、来ますか?まぁ、この世界にもあったら、ですけどね。」

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