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11. 悪役令嬢は、特訓がお好き
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「大変なことになってしまった……」
ベッドの上に座りながらフォークに刺さったリンゴをシャリシャリと噛みいれる。
あの騒ぎの後、カアン国王に発破をかけられたお母様は――
「――それでは、特別入学試験に向けて私たちはさっそく試験準備に取り掛かろうと思いますわ。各々方、本日は私共の茶会にご参加いただきまして誠にありがとうございます。是非、私の転移魔法でお見送りさせていただこうと思いますのでご用意はよろしいかしら?」
とやたら早口で言ったかと思うと、カアン国王らが返事を言い切る前に扇を翻す。
何かを予知したのだろうか。
「ッ!? イレーナ――」
突然慌てふためくシルヴァンを他所に、イレーナは転移魔法を高速で唱え始める。
「空よりいでし旅船よ、今こそ門を開きたまえ……『転移』!」
イレーナの転移魔法により、空間が捻じ曲げられた穴が湧き出る。
しかし――なんとその穴は。
シルヴァンの真下に出没した。
それにより必然的にシルヴァンはヒュンッと音を立てるように穴の中へ落ちていった。
「イレーナァアアアアア!!!――」
茶会会場には、哀れな宰相殿の声だけが木霊して残っていったのだった。
(お、落とし穴……)
先ほどちんちくりんなどと呼ばれたこともあって、フィアンナは仕返しとばかりにくすくすと笑い声を立てた。
シルヴァンが落ちていく場面を間近で見てしまったカアン国王は、ブフォッと思わず吹き出してしまったが、シルヴァンが落ちてしまった穴を可哀想に見つめているルカ殿下を抱きかかえている手前もあり、ぷるぷると震え笑い声をあげるのを涙目になりながら我慢していた。
「ぐふ、い、いやいや。み、見送り感謝する。私たちも是非ここから落ちて、じゃなかった。降りて王宮に帰らせていただこう」
「――ええ、是非そうなさってくださいませ」
シルヴァンを穴に落としたことで随分とスッキリしたのか。
いれーあは顔をツヤツヤとさせにっこりと微笑み返した。
「イレーナ……」
そのイレーナの思い切った行動に、アルバートはついに掌で両目を隠しはじめ、どうかこれ以上何も起こりませんようにと祈り始めるのだった。
「では、これにて今日は失礼させていただく。――また、近いうちにな」
「今日はお招きいただき誠に感謝する……フィアンナ」
ルカ殿下はカアン国王に続いて話したかと思うと、名前を呼びかけ、フィアンナを手招いてくる。
「ルカ殿下……?」
一体何の用だろうか。
不思議に思いながらカアン国王に抱きかかえられたルカ殿下の近くに寄っていく。
気を利かせたカアン国王にゆっくりと下ろされたルカ殿下は、フィアンナにしっかりと対面する。
「今日は、いろいろあったが……。お前とサンドイッチを食べたりして、その、とても、楽しかった……。今日はシルヴァンがお前に無礼なことを言ったが、普段はあのようなことを言うやつではないのだ。どうか、許してやってほしい」
「ルカ殿下……」
やっぱり、彼は他人の気持ちを考ことができる優しい少年なのだ。
そのことに心をあたたかくしたフィアンナだったが、シルヴァン宰相とくれば話は別である。
「えぇ、私もとても楽しく過ごせました。……宰相殿のことはほんの、ほんのちょっぴりだけ、ルカ王子に免じて許して差し上げることにいたします」
「フィアンナ……」
そう告げるフィアンナにルカ王子は困ったように笑った。
「また是非いらしてくださいませ。美味しいサンドイッチをシェフにお願いしておきます」
「! ――あぁ!」
ルカ殿下は今度は太陽のように朗らかに笑うとフィアンナと握手を交わし、カアン国王の隣に戻り、二人は手を繋いで一礼をとると優雅に転移魔法の穴へと去っていった。
王宮からの客人が帰ったことで、フィアンナはふぅと息を吐き、ようやく一安心できるかと思いきや――
「フィアンナ」
「ハイッ!!!」
青筋をビキビキと立てる般若――もとい、イレーナに声を掛けられる。
あまりにイレーナが恐ろしい形相だったこともあって、思わずアルバートとジェラールを往復して見やるが思い切り目を逸らされた。
(こういう時に助けて頂戴よ!!!)
「どこを見ているんです?」
本当に角が生えそうな様子だ。
「いっ、いえいえ! なんでもありませんわ! お母様!」
フィアンナのしどろもどろな有様に眉間のの皺を一瞬深めたイレーナだったが、
「――まぁ、いいでしょう」
落ち着いたのだろうか。ぱちりと扇を口元で閉じる。
「聞いての通りです。――これから先、貴方は3年後に控える魔法学園の『特別入学試験』に向け、更に教養に力を入れて取り組まねばなりません。ですから」
本日から、特訓を開始します。
――ってやる気満々になってるし」
「白薔薇の花嫁」ではフィアンナの両親は、意外とフィアンナに対して甘かったイメージがあったが、こちらの世界ではあまりそういう訳ではないようだ。
「――そもそも、なんで急に宰相殿と婚約の話なんか出てきたんだろ」
元々、今日はルカ殿下と婚約をするという話ではなかったのか。
付き添いに来ていたシルヴァン宰相も驚いていたようだったし、何か引っかかるものがある。
「国王陛下は今日来るって、お父様も言ってなかった」
カアン・レオミュール国王陛下。
ゲームの方ではルカ殿下とのイベントで少ししか出てこないキャラクターだったから今一つよく分からない。
ルカ殿下が成人するにつれて仲が悪くなっていった程の情報しかゲームの方でも明らかにされていないし、不仲はED後も結局のところ解消されず、ギクシャクしながらルカ殿下とロザーリアの結婚を祝福していた描写があったがどうにも謎な人物だ。
やはり、この世界は自分の知っていることよりも知らないことの方が多い。
食べ終わったリンゴの食器とフォークをテーブルの上に置き、パンプスを脱いでベットにごろんと寝転がる。
「魔法学園の『特別入学試験』、か」
魔法学園では途中入学が認められており、他の学校から優秀な成績を残した生徒が推薦を受け『特別入学試験』を行い、各学年の1年目に転校するような形で入学することができる。
主人公のロザーリアが、高学部の一年生から入学したことを考えると。
「もし会うのなら、高学部の入学式の時。……ってことになるよね」
魔法学園は小学部、中学部、高学部とあり、それぞれ3年間ずつ学部で分かれ勉強を進めていく。
小学部は確か、10歳から入学試験を行っていたはず。
「ってことは、今私、7歳か!3年後の特別入学試験ってことは逆算して7歳だもんね」
あースッキリした!
と人に聞くにも聞けない自分の年齢をはっきりできたことで上機嫌になるフィアンナだったが、はた、あることに気が付いてしまう。
特別入学試験。
「特別入学試験の『入学特別監督官』って……」
ルカ殿下の言っていた『入学特別監督官』。
当然、特別入学試験はその『入学特別監督官』が試験官を務める。
ということは?
「シルヴァン宰相が『入学特別監督官』なら、私どうやっても、試験落とされるんじゃ……」
………………。
フィアンナは目の前が真っ暗になったのを感じた。
ベッドの上に座りながらフォークに刺さったリンゴをシャリシャリと噛みいれる。
あの騒ぎの後、カアン国王に発破をかけられたお母様は――
「――それでは、特別入学試験に向けて私たちはさっそく試験準備に取り掛かろうと思いますわ。各々方、本日は私共の茶会にご参加いただきまして誠にありがとうございます。是非、私の転移魔法でお見送りさせていただこうと思いますのでご用意はよろしいかしら?」
とやたら早口で言ったかと思うと、カアン国王らが返事を言い切る前に扇を翻す。
何かを予知したのだろうか。
「ッ!? イレーナ――」
突然慌てふためくシルヴァンを他所に、イレーナは転移魔法を高速で唱え始める。
「空よりいでし旅船よ、今こそ門を開きたまえ……『転移』!」
イレーナの転移魔法により、空間が捻じ曲げられた穴が湧き出る。
しかし――なんとその穴は。
シルヴァンの真下に出没した。
それにより必然的にシルヴァンはヒュンッと音を立てるように穴の中へ落ちていった。
「イレーナァアアアアア!!!――」
茶会会場には、哀れな宰相殿の声だけが木霊して残っていったのだった。
(お、落とし穴……)
先ほどちんちくりんなどと呼ばれたこともあって、フィアンナは仕返しとばかりにくすくすと笑い声を立てた。
シルヴァンが落ちていく場面を間近で見てしまったカアン国王は、ブフォッと思わず吹き出してしまったが、シルヴァンが落ちてしまった穴を可哀想に見つめているルカ殿下を抱きかかえている手前もあり、ぷるぷると震え笑い声をあげるのを涙目になりながら我慢していた。
「ぐふ、い、いやいや。み、見送り感謝する。私たちも是非ここから落ちて、じゃなかった。降りて王宮に帰らせていただこう」
「――ええ、是非そうなさってくださいませ」
シルヴァンを穴に落としたことで随分とスッキリしたのか。
いれーあは顔をツヤツヤとさせにっこりと微笑み返した。
「イレーナ……」
そのイレーナの思い切った行動に、アルバートはついに掌で両目を隠しはじめ、どうかこれ以上何も起こりませんようにと祈り始めるのだった。
「では、これにて今日は失礼させていただく。――また、近いうちにな」
「今日はお招きいただき誠に感謝する……フィアンナ」
ルカ殿下はカアン国王に続いて話したかと思うと、名前を呼びかけ、フィアンナを手招いてくる。
「ルカ殿下……?」
一体何の用だろうか。
不思議に思いながらカアン国王に抱きかかえられたルカ殿下の近くに寄っていく。
気を利かせたカアン国王にゆっくりと下ろされたルカ殿下は、フィアンナにしっかりと対面する。
「今日は、いろいろあったが……。お前とサンドイッチを食べたりして、その、とても、楽しかった……。今日はシルヴァンがお前に無礼なことを言ったが、普段はあのようなことを言うやつではないのだ。どうか、許してやってほしい」
「ルカ殿下……」
やっぱり、彼は他人の気持ちを考ことができる優しい少年なのだ。
そのことに心をあたたかくしたフィアンナだったが、シルヴァン宰相とくれば話は別である。
「えぇ、私もとても楽しく過ごせました。……宰相殿のことはほんの、ほんのちょっぴりだけ、ルカ王子に免じて許して差し上げることにいたします」
「フィアンナ……」
そう告げるフィアンナにルカ王子は困ったように笑った。
「また是非いらしてくださいませ。美味しいサンドイッチをシェフにお願いしておきます」
「! ――あぁ!」
ルカ殿下は今度は太陽のように朗らかに笑うとフィアンナと握手を交わし、カアン国王の隣に戻り、二人は手を繋いで一礼をとると優雅に転移魔法の穴へと去っていった。
王宮からの客人が帰ったことで、フィアンナはふぅと息を吐き、ようやく一安心できるかと思いきや――
「フィアンナ」
「ハイッ!!!」
青筋をビキビキと立てる般若――もとい、イレーナに声を掛けられる。
あまりにイレーナが恐ろしい形相だったこともあって、思わずアルバートとジェラールを往復して見やるが思い切り目を逸らされた。
(こういう時に助けて頂戴よ!!!)
「どこを見ているんです?」
本当に角が生えそうな様子だ。
「いっ、いえいえ! なんでもありませんわ! お母様!」
フィアンナのしどろもどろな有様に眉間のの皺を一瞬深めたイレーナだったが、
「――まぁ、いいでしょう」
落ち着いたのだろうか。ぱちりと扇を口元で閉じる。
「聞いての通りです。――これから先、貴方は3年後に控える魔法学園の『特別入学試験』に向け、更に教養に力を入れて取り組まねばなりません。ですから」
本日から、特訓を開始します。
――ってやる気満々になってるし」
「白薔薇の花嫁」ではフィアンナの両親は、意外とフィアンナに対して甘かったイメージがあったが、こちらの世界ではあまりそういう訳ではないようだ。
「――そもそも、なんで急に宰相殿と婚約の話なんか出てきたんだろ」
元々、今日はルカ殿下と婚約をするという話ではなかったのか。
付き添いに来ていたシルヴァン宰相も驚いていたようだったし、何か引っかかるものがある。
「国王陛下は今日来るって、お父様も言ってなかった」
カアン・レオミュール国王陛下。
ゲームの方ではルカ殿下とのイベントで少ししか出てこないキャラクターだったから今一つよく分からない。
ルカ殿下が成人するにつれて仲が悪くなっていった程の情報しかゲームの方でも明らかにされていないし、不仲はED後も結局のところ解消されず、ギクシャクしながらルカ殿下とロザーリアの結婚を祝福していた描写があったがどうにも謎な人物だ。
やはり、この世界は自分の知っていることよりも知らないことの方が多い。
食べ終わったリンゴの食器とフォークをテーブルの上に置き、パンプスを脱いでベットにごろんと寝転がる。
「魔法学園の『特別入学試験』、か」
魔法学園では途中入学が認められており、他の学校から優秀な成績を残した生徒が推薦を受け『特別入学試験』を行い、各学年の1年目に転校するような形で入学することができる。
主人公のロザーリアが、高学部の一年生から入学したことを考えると。
「もし会うのなら、高学部の入学式の時。……ってことになるよね」
魔法学園は小学部、中学部、高学部とあり、それぞれ3年間ずつ学部で分かれ勉強を進めていく。
小学部は確か、10歳から入学試験を行っていたはず。
「ってことは、今私、7歳か!3年後の特別入学試験ってことは逆算して7歳だもんね」
あースッキリした!
と人に聞くにも聞けない自分の年齢をはっきりできたことで上機嫌になるフィアンナだったが、はた、あることに気が付いてしまう。
特別入学試験。
「特別入学試験の『入学特別監督官』って……」
ルカ殿下の言っていた『入学特別監督官』。
当然、特別入学試験はその『入学特別監督官』が試験官を務める。
ということは?
「シルヴァン宰相が『入学特別監督官』なら、私どうやっても、試験落とされるんじゃ……」
………………。
フィアンナは目の前が真っ暗になったのを感じた。
応援ありがとうございます!
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ご感想ありがとうございます。
回想シーンでは区切りを入れ、今後読みやすいように調整できたらと思います。
あらすじにつきましても見直し、変更を行いよりよいものにしていければと考えております。
婚約を断られる場面なのですが、現在フィアンナが7歳、宰相は25歳と、18歳の歳の差もあって宰相はその部分を気にしています。
あらすじでは主人公とは別存在の17歳の「フィアンナ」が宰相を誘惑し、ルカ殿下を自分のものにするために動いていたのですが、主人公はそんな「フィアンナ」にある日突然生まれ変わってしまいました。
そして生まれ変わった主人公のフィアンナはまだ7歳。
恋心を持っていた相手とよく似ているということとフィアンナが子どもということもあって宰相は自分の恋心を持っていた相手とフィアンナ。
この二人を比べて、宰相は「ちんくしゃ」という風に話しました。
今後はシルヴァン宰相のこういった葛藤も含めて書いていければと思っております。