詩集「支離滅裂」

相良武有

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第一章 二十歳の詩集

⑦亡き京子に捧ぐ

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 「あっ、すみません、私、拾います」

 十字路でセーラー服の少女が接触した

 「いいよ」

 一冊のノートに二人の手が同時に触れて

 二人は微笑み合った

 「私、お兄さん、知ってます」

 「僕も君のこと、ずっと見てたよ」
 
 「あら、真実?嬉しい」

 手放しで喜ぶ少女の顔は未だ未だ幼なかった

 健康だな・・・

 京子との最初の出逢いだった


 「こんにちわ、お兄さん居らっしゃいます?」

 弾んだ声が跳び込んで来た

 戸口に立った僕に

 澄んだ瞳が微笑っていた

 「どうしたんだよ?」

 「今、試験中なの、くさくさするからお顔見に来たの、じゃ、さよなら」

 「おい、京子、待てよ、待てったら・・・」

 おかしな奴だぜ、全く・・・
 
 僕の瞳孔に可愛い後姿が焼きついた

 
 「綺麗な星ね、真実に宝石みたい」

 「綺麗だな、まるで京子の瞳みたいだ」

 「あら」

 恥ずかしそうに白い歯が覗いた

 肩に京子の小首が軽く

 頬に髪の柔らかさが愛しかった

 「お兄さん、少し寒い」

 コートでしっかり抱いた腕の中で

 瞼を閉じた白い笑顔が震えていた


 「お兄さん、足、折ったんだって?痛い?」

 青い制服の京子は清々しかった

 滅入った心から孤独が往ぬ

 「痛いよ、全く泣けてくる」

 「あら、弱虫言ってる、でも速く癒くなってね」

 リンゴを剥く恭子の横顔が陰った

 「京子・・・」

 振り向いた京子は、でも、明るかった


 「お兄さん、来て下さったのね、京子、待ってたの」

 やつれた顔に懸命の微笑が湧く

 握った手には温もりが無かった

 僕の頭に直感が閃く

 「京子、死ぬんじゃないぞ!」

 弱々しく頷く恭子の頬に涙が伝う

 温かいのは京子の涙と心だけ

 僕の体温を分けてやりたいと切に思った


 星が今夜も降るように煌めいている

 小砂利を踏みしめて一人行く僕の中で

 京子の叫び声が胸に痛い

 「お兄さん、元気出して!」

 二人の遺愛を永遠なものにしよう

 僕は僕自身に誓った
 

 
 
 

 


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