ルビコンを渡る

相良武有

文字の大きさ
51 / 80
第三話 転生

⑦日本代表チームとの強化試合

しおりを挟む
 日本女子プロ野球リーグが四チームに増え、選手の数も倍増して世間にも漸く認知され始めた五年目の春、日本女子野球協会から、八月にカナダで開催される国際女子野球連盟主催の女子野球ワールドカップに備えての強化試合が女子プロリーグへ申し入れられた。
「日本代表チームの強化試合を行いたいのですが、是非、女子プロ選抜チームと対戦させて頂きたいと思いまして・・・ご協力頂けませんか?」
マドンナジャパンと呼ばれる日本代表は、二年毎に行われる国際女子野球ワールドカップで、第一回大会から銀、銀、金、金と毎回世界中にその強さを誇って来た、謂わば、世界最強のチームであった。前大会では九試合中の四試合にコールド勝ちし、決勝戦でも十三対三の五回コールド、圧倒的な強さで優勝した。
 話を伝え聞いた由香は大きな不安を覚えた。
相手は長年に亘っての世界最強軍団、対する私達は創立から五年目を迎えたばかりで、然も、女子プロ選手の中には嘗て代表から漏れた選手も多く、私も補欠合格でしかなかった。代表選手自身にも、実力はプロよりもアマチュアである自分達の方が上だ、との思いが強いし、事実、プロに価値を見出せずプロの門を叩く実力者は数少ない。大方のマスコミやファンもそう考えている。もしプロが負ければリーグそのものの存在を否定されかねない・・・
 由香はその大きな不安を率直に大野徹にぶつけてみた。
「私たちプロリーグだってこの四年間、毎日、土と汗に塗れて猛練習を積んで来ましたし、試合にだって全知全霊を賭けて臨んで来ました・・・自信は有ります。でも、百パーセント勝つとは言い切れません」
「勝つことだけが全てでは無いんじゃないのか?」
「えっ?」
「プロを代表する一選手としての気持は痛いほど解る、が、お前、肝心なことを忘れていないか?」
「肝心なこと?」
「何方が勝っても負けてもお互いに良い勉強になるし、何より、プロとアマが交流することによって女子野球の裾野が拡がるだろう、これって素晴らしいことじゃないか」
「然し、プロがアマチュアに負ける訳には行きませんわ」
「勿論、俺もプロが勝つことを信じているよ。だが、勝負には、時の運、と言う言葉もあるしな」
「世間では私たちプロよりワールドカップで連覇しているアマチュアの方が強いのではないかって噂もありますし・・・」
「そんなこと、気にしないことだ。プロだろうとアマだろうと日本の女子野球に貢献するなら、何方が強いかなんて二の次だろう」
「・・・・・」
「プロとアマの壁なんて作っていたら、何時まで経っても女子野球はマイナースポーツのままだよ。野球がやりたくても出来ない女の子の為にプロリーグが創られたんだろう、本末転倒しちゃ駄目だよ」
「はい・・・」
「仮に、最初は負けることが有っても、プロという厳しい世界で情熱の全てを燃やして闘っているお前達だろう。その滾る熱い思いと鋼の根性で、二度三度と対戦すれば必ず勝つに決まっているよ、俺はそう信じているぞ」
「解りました、おっしゃる通りです。全力を尽くします」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...