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第2話 永遠の初恋
③母親が家を出て行った直後から香織は激変した
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翌年の春、聡亮と香織は同じ市立の高校へ進学した。が、暫くすると、二人は正反対の方向へ歩み始めるようになった。高校に入っても聡亮は勉強に励んで成績も良く、大学受験を目指して頑張っていた。
香織の家は、彼女が中学生になった時に購入された瀟洒な建売りの戸建て住宅であったが、この家に父親が帰って来るのは月に二日ほどしか無かった。
香織の父親は機械の設計、試作、試運転等をする技師で、東京へ単身で赴任していた。新しく買ったマイホームということもあったが、祖母が故郷のこの街を離れたがらなかったし、四歳上の兄は大学受験勉強の真っ只中に在った。止む無く、父親は単身で東京へ赴いたのだった。父親は仕事一筋の無口で頑固な技術屋であったが、兄や香織や祖母には優しい眼差しを向ける懐の深い男だった。
母親は居なかった。香織が高校に入って間も無くに家を出て行ったのである。男を作って家出したらしかった。その時、兄は東京の国立大学に受かって既に京都の家には居なかった。
母親が家を出て行った直後から香織は変わった。激変した。通っていた高校はリベラルな校風で制服も無かったが、香織の服装は一際目立つものだった。他の女生徒達は思い思いに高校生らしい身形で通学していたが、香織は残バラ髪の短髪で足首が隠れるほどのロングスカートを履いていた。派手な色柄のスカートを履くわけでは無かったが、たとえ濃紺一色のスカートであっても、人目を引くのは確かだった。彼女は他の生徒たちからは次第に白い眼で見られるようになった。香織はいつも憤怒を滾らせてうっすらと歩き、規則や道徳など無視して、その生き様も生活も荒んで行った。
今日もバス停までの下校の途中で、彼女の前に大きなバイクが爆音を轟かせて停まった。
「どうだ?乗って行かねぇか?」
「うん、ありがとう」
声を掛けて来たのは、目下のところの交際相手で「タケシ」と言う呼び名の男だった。二十二歳でトラックの運転手をしていると言う。だが、香織には、歳が幾つだろうが仕事が何であろうが、そんなことはどうでも良かった。ただ、刹那の快楽が時間と自分を忘れさせてくれればそれで良かった。タケシがサドルの後ろのボックスから取り出して手渡してくれた白いヘルメットを被り、顎紐を結んで、香織は彼の後ろに跨った。そして、両腕をタケシの胴へ巻き付けた。
「何処へ行く?」
「何処へでも、好きな処へ行って」
「そうか。この前の処で良いか?」
「うん、良いわよ」
バイクは轟音を響かせて通りを東に走り、薄汚れたピンク色のモーテルへ吸い込まれた。
ことが終わってモーテルを出ると、男はバイクを道路に引き出して身軽に跨った。
「乗らねぇのか?」
「うん、いいよ」
「そうか、じゃあな」
オートバイは爆音を残して遠ざかって行った。
香織はホッと一息吐いて家路に就いた。
男のことを好きなのかどうか、香織自身ハッキリしなかった。肩の厳つい若者で、当人は色男ぶっているが、香織のタイプではなかった。真実にトラックの運転手かどうかも定かではない。香織は相手の名前さえ知らなかった。男が名乗るままに「タケシ」と呼んでいた。
相手に多少の不満はあっても、モーテルでの逢引きは愉しかった。あっちこっち躰を愛撫されるのがこんなに気持の良いものだとは、香織はこれまで知らなかった。然も、逢引きを重ねる毎に愉悦は大きくなった。彼女にとってセックスは初めての体験だったし、夢中になって男と戯れた。が、モーテルを出る頃には、いつも、何故だか、相手が詰まらなく思えるのだった。
街には灯りが燈り始めていた。
家へ帰ると祖母が夕餉の支度を整えてテーブルの前に座り、テレビを観ていた。
「ただ今・・・」
「また、男と乳繰り合って来たんだろう」
「えっ、何で判るの?」
「判るも何も・・・そんな貌をして居りゃ、一目瞭然だよ」
祖母はあきれ顔で言った。
「お前はあの母親の娘かも知れないが、お父さんの子でもあるんだよ。お父さんは立派な男だ。誰の為に父親が東京くんだりまで行って、独りで頑張って稼いでいるのか解っているんだろうな」
香織は顔を顰めた。彼女も父親には感謝している。この世の中で最も愛しているのは東京に居る父親なのかも知れない。
父親は口数も少なく厳めしかったが、家族には優しかった。時には下手な冗談を言って香織や兄を笑わせたりした。目鼻立ちの凛々しい仕事愛と家族愛が作り上げた貌だった。
そういう父親を捨てて出て行った母親が、香織は許せなかった。母親の淫乱の血が自分にも流れているのかと思うと、彼女は躰の彼方此方を引き毟りたくなる。母親に逃げられた娘だと思うと憤怒と悲痛が香織の胸にどっと溢れ返った。
だが、彼女は長いスカートを履いて悪ぶっていても、徒党を組んで乱闘騒ぎを起こすようなことは一度も無かった。そもそも、徒党など組める高校ではなかった。市内有数の進学校なのである。そう思うと香織は聡亮の清々しさが急に恋しくなった。あの色白のイケメン、つけ睫毛のように軽く反った長い睫毛・・・
香織は早めに就寝した。どれだけ若くて健康な少女であっても逢引きの後は疲れもするし、翌朝に寝坊する訳にも行かなかった。香織は市バスで通学している。明日の朝、バスの中で聡亮と逢うのが楽しみになった。
香織の家は、彼女が中学生になった時に購入された瀟洒な建売りの戸建て住宅であったが、この家に父親が帰って来るのは月に二日ほどしか無かった。
香織の父親は機械の設計、試作、試運転等をする技師で、東京へ単身で赴任していた。新しく買ったマイホームということもあったが、祖母が故郷のこの街を離れたがらなかったし、四歳上の兄は大学受験勉強の真っ只中に在った。止む無く、父親は単身で東京へ赴いたのだった。父親は仕事一筋の無口で頑固な技術屋であったが、兄や香織や祖母には優しい眼差しを向ける懐の深い男だった。
母親は居なかった。香織が高校に入って間も無くに家を出て行ったのである。男を作って家出したらしかった。その時、兄は東京の国立大学に受かって既に京都の家には居なかった。
母親が家を出て行った直後から香織は変わった。激変した。通っていた高校はリベラルな校風で制服も無かったが、香織の服装は一際目立つものだった。他の女生徒達は思い思いに高校生らしい身形で通学していたが、香織は残バラ髪の短髪で足首が隠れるほどのロングスカートを履いていた。派手な色柄のスカートを履くわけでは無かったが、たとえ濃紺一色のスカートであっても、人目を引くのは確かだった。彼女は他の生徒たちからは次第に白い眼で見られるようになった。香織はいつも憤怒を滾らせてうっすらと歩き、規則や道徳など無視して、その生き様も生活も荒んで行った。
今日もバス停までの下校の途中で、彼女の前に大きなバイクが爆音を轟かせて停まった。
「どうだ?乗って行かねぇか?」
「うん、ありがとう」
声を掛けて来たのは、目下のところの交際相手で「タケシ」と言う呼び名の男だった。二十二歳でトラックの運転手をしていると言う。だが、香織には、歳が幾つだろうが仕事が何であろうが、そんなことはどうでも良かった。ただ、刹那の快楽が時間と自分を忘れさせてくれればそれで良かった。タケシがサドルの後ろのボックスから取り出して手渡してくれた白いヘルメットを被り、顎紐を結んで、香織は彼の後ろに跨った。そして、両腕をタケシの胴へ巻き付けた。
「何処へ行く?」
「何処へでも、好きな処へ行って」
「そうか。この前の処で良いか?」
「うん、良いわよ」
バイクは轟音を響かせて通りを東に走り、薄汚れたピンク色のモーテルへ吸い込まれた。
ことが終わってモーテルを出ると、男はバイクを道路に引き出して身軽に跨った。
「乗らねぇのか?」
「うん、いいよ」
「そうか、じゃあな」
オートバイは爆音を残して遠ざかって行った。
香織はホッと一息吐いて家路に就いた。
男のことを好きなのかどうか、香織自身ハッキリしなかった。肩の厳つい若者で、当人は色男ぶっているが、香織のタイプではなかった。真実にトラックの運転手かどうかも定かではない。香織は相手の名前さえ知らなかった。男が名乗るままに「タケシ」と呼んでいた。
相手に多少の不満はあっても、モーテルでの逢引きは愉しかった。あっちこっち躰を愛撫されるのがこんなに気持の良いものだとは、香織はこれまで知らなかった。然も、逢引きを重ねる毎に愉悦は大きくなった。彼女にとってセックスは初めての体験だったし、夢中になって男と戯れた。が、モーテルを出る頃には、いつも、何故だか、相手が詰まらなく思えるのだった。
街には灯りが燈り始めていた。
家へ帰ると祖母が夕餉の支度を整えてテーブルの前に座り、テレビを観ていた。
「ただ今・・・」
「また、男と乳繰り合って来たんだろう」
「えっ、何で判るの?」
「判るも何も・・・そんな貌をして居りゃ、一目瞭然だよ」
祖母はあきれ顔で言った。
「お前はあの母親の娘かも知れないが、お父さんの子でもあるんだよ。お父さんは立派な男だ。誰の為に父親が東京くんだりまで行って、独りで頑張って稼いでいるのか解っているんだろうな」
香織は顔を顰めた。彼女も父親には感謝している。この世の中で最も愛しているのは東京に居る父親なのかも知れない。
父親は口数も少なく厳めしかったが、家族には優しかった。時には下手な冗談を言って香織や兄を笑わせたりした。目鼻立ちの凛々しい仕事愛と家族愛が作り上げた貌だった。
そういう父親を捨てて出て行った母親が、香織は許せなかった。母親の淫乱の血が自分にも流れているのかと思うと、彼女は躰の彼方此方を引き毟りたくなる。母親に逃げられた娘だと思うと憤怒と悲痛が香織の胸にどっと溢れ返った。
だが、彼女は長いスカートを履いて悪ぶっていても、徒党を組んで乱闘騒ぎを起こすようなことは一度も無かった。そもそも、徒党など組める高校ではなかった。市内有数の進学校なのである。そう思うと香織は聡亮の清々しさが急に恋しくなった。あの色白のイケメン、つけ睫毛のように軽く反った長い睫毛・・・
香織は早めに就寝した。どれだけ若くて健康な少女であっても逢引きの後は疲れもするし、翌朝に寝坊する訳にも行かなかった。香織は市バスで通学している。明日の朝、バスの中で聡亮と逢うのが楽しみになった。
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