52 / 72
第五章 同級生、印刻師の菅原
②菅原、初めて一人で創作印を彫る
しおりを挟む
菅原は先ず材料の選定から始めることにした。
象牙や水牛、柘や彩樺等の高級印材も在ったが、楓、桜、椿、山椒、竹、ハナミズキ、ざくろ、茶等の木材類が多く積まれていた。彼はイラストと文字を彫ることを考えて自然木を選ぶことにした。自然木は堅さも形も木肌も全く異なるが、人の手にやさしく手触りが良い。菅原は楓を使うことにした。楓は歪みや割れ等の変形に強く、耐久性に勝れて欠け難いので印鑑に最適の材質であった。
それから次に彫刻刀の選別を始めた。
刃先の幅が異なる、然も後ろにも刃の付いている刀を十二、三種類選び出し、それらを全て研ぐ準備に取り掛かった。機械を使って単一のものを彫るのではないので、後ろにも刃の付いている彫刻刀が入用だったし、通常一週間に一度は研がなければならないものだったので、最初に全部を研ぐことにした。頑張っている少女の為に世界でただ一個の印章を創ろう、機械で彫ればみんな同じ物になってしまう、それでは意味が無い、手で彫れば全く同じ形や絵柄が出来上がることは無い、材料は堅くて手彫りは大変であるが、何とか喜んで貰えるものを創りたい、菅原はそう考えて道具の研磨にも力を注いだ。グリップになる柄の部分の籐がぼろぼろになった彫刻刀や刃が減って来ているものは、籐を自分で巻き直してから研いだ。汗を流して研いでいる菅原の姿を、時折、龍鳳がちらっと見たが、取り立てて何も言わなかった。
翌日、菅原は彫り込む絵柄と文字とデザインを考えた。
余り難易度の高いものは今の自分には上手く彫れそうもないと知っている菅原は、飛翔する鶴と少女の姓名だけを彫ることにした。それも出来るだけシンプルになるようにと考えた。
鶴の絵柄と足立佳純の文字を形や大きさや配置を変えて何枚ものデザインを描いてみたが、今日一日では菅原の満足出来るものは描けなかった。
自宅に持ち帰った菅原はそれらのデザイン画を妹に見せた。
広げられた七、八枚のデザインを見た妹は、真剣な面持ちで暫くの間思案していたが、無造作に、これが良いんじゃない、とその中の二枚を指差した。
「どうしてこれが良いんだ?」
「どうして、って。感じよ、直感よ、わたしのインスピレーションよ。だって、そういうものでしょう、デザインなんていうものは」
菅原がよく見ると、なるほど、鶴の図柄も文字の形も躍動的で頑張る少女にふさわしい感じがした。その躍動感のイメージを基本に菅原は、角印ではなく丸印にしようと決めた。円形の下辺に沿って姓名を草書体で彫り、その上部に鶴が舞っている構図を考えた。飛翔する鶴は、懸命にリハビリを続ける少女にはより相応しいだろうと思った。自分の技能不足を考えて、鶴の図柄と姓名の文字が重ならないようにすることも忘れなかった。幾ら凝った良いデザインでも自分が上手く彫れなければ絵に描いた餅に終わってしまう。
次の日、菅原は師匠の龍鳳に前日考えたデザインの構図を見て貰った。
菅原の話を聞き、ラフデザインをじっと見ていた龍鳳は
「うん、なかなか面白そうじゃないか、これで良いんじゃないか」
と賛同してくれた。序でに、印章の大きさは、この図柄だと直径の長さは四センチくらい要るだろうな、とアドバイスもしてくれた。
楓の木で直径五センチの印材を作った菅原は、愈々、彫りの作業を始めることにした。これまでの二年程の経験で一通りの工順は解かってはいたが、上手く出来るかどうかは極めて不安で自信は無きに等しかった。が、菅原は自分ひとりで、独力で唯やり遂げることだけを考えることにした。窮すれば通じるだろう、と腹を括った。
先ずは「面訂」という作業である。
トクサで印面を平らにする、肉眼ではなかなか確認出来ない程の印面のがたつきをトクサで擦って平に修正する。力を入れ過ぎるときちっとした平面が出ずに歪んでしまって、後の彫刻作業に支障をきたす。経験を積み、勘を掴めばきちんとした水平が出るようになるが、未熟な菅原は何度も何度もやり直さなければならなかった。
「なあ、菅原。ぼちぼちと、な。慌てるんじゃないぞ、じっくりと自分で納得の行く仕事をするんだぞ」
先輩職人がそう言って励ましてくれた。
何とか自分で納得の行く水平が出せた菅原は次に「朱打ち」の作業を始めた。
粗彫りを行う際に筆書きした文字や図柄の線が判り易いように、朱色の墨を印面に均一に塗る作業である。「字入れ」は墨で行うので、この朱色の墨が残った部分を粗彫りで彫って行く訳であるが、印面に均一に墨を打つのはなかなか難しく、菅原は(有)龍鳳印刻堂へ入った頃にはよく師匠に叱られたものだった。
「朱打ち」が終わると次は「字割り」である。
これは、分指しと言う定規のような道具を使って印面に線を引き、文字や絵柄を入れる比率のバランスを決める工程である。全体の印象を左右する重要な作業であった。菅原は文字の密度や全体のバランスを見ながら、最も美しい仕上がりになるように練り上げていった。
文字と絵柄の配置を決めた後は、愈々、「印稿」というデザインを書き入れる作業である。小筆を使って印面に直接文字と絵柄を書いて行く作業であるが、印鑑なので当然ながら左右反転で描かなければならない。この「字入れ」と言う作業の出来が美しくないと、幾ら綺麗に彫ってもなかなか満足出来る手彫り印鑑には成らない。朱墨で何度も修正を重ねながら、菅原は納得行くまでデザインを練り直した。
「字入れ」が完成すると次は「粗彫り」に入るが、菅原は此処までの作業に略一週間近くも掛かってしまった。初めて独りでする仕事は、未熟な技能しか身についていない菅原には殆どが始めてに等しかった。彼は慣れない手つきで懸命に作業を続けた。
翌日から菅原は「粗彫り」の作業に取り掛かった。
墨で手書きした文字と絵柄以外の、朱墨が残った部分を彫る作業である。菅原は文字や絵柄を傷つけないように細心の注意を払いながら、印刀で丁寧に慎重に彫って行った。龍鳳のような一等彫刻師は、それが真骨頂の如く、流麗な刀捌きを冴え渡らせるが、慣れない未熟な菅原は丸一日も費やしてしまった。
漸く粗彫りが終わった後、菅原はもう一度トクサで印面を擦って、一度打った墨を全て落とした。「字入れ」作業の際に何度も墨で修正を重ねたので、印面には墨による凹凸が出来ていたからである。
面擦りで凹凸を綺麗に修正した菅原は、再度、印面に墨を打った。仕上げ彫りの際に、粗彫りで彫った文字と絵柄の輪郭を確認し易くする為である。これは仕上げ彫りの完成度を高めるのに欠かすことの出来ない作業であった。
さて、愈々、仕上げ刀で文字と絵柄と枠を仕上げる大事な作業である。文字と絵柄に生き生きとした躍動感を生み出し、印刻師が全身全霊で印鑑に生命を吹き込む最も大切な作業である。菅原は僅かコンマ数ミリの微調整を二日の間、続けた。
後ろから覗き込んだ先輩が言った。
「文字と絵柄だけに集中するんじゃなく、枠にも気を配れよ。枠を欠け難くする為に土手を少し厚く仕上げるんだぞ。そうすれば耐久性が高まるからな」
一心不乱に仕上げて漸く納得した菅原は、イメージ通りに仕上がっているかどうかを確認する為に、紙に試し押しをして見た。一応、これで良いだろう、と思って押してみたが、未だ未だ修正を要するポイントが幾つか見つかった。この修正は困難を極めた。根気の要る、精根尽きる気の遠くなるような微調整が又、一日続いた。試し押しを重ねながら、イメージ通りになるまで、何度も仕上げ刀を握って、菅原は自分で納得の出来る完成を目指した。
漸く最終調整を終えて、これが完成品だ、と思えるものが出来上がった時、菅原の心に、やったあ、という達成感とこれまでに味わったことの無い幸福感が沸々と湧き上がって来た。
印鑑を手に取り、試し押しを見た龍鳳が、う~ん、と唸った。
「良い出来栄えだ、菅原君。君が心血を注いだこの半月間の全てが凝縮されている。草書体の文字は動きのある豊穣な線になっているし、鶴は今にも飛び立たんばかりの息吹に満ちている。誰が見ても素晴しいと思うんじゃないか」
龍鳳の賞賛を聞いて菅原は心の底から嬉しかった。初めて先生から褒められた!それから次第にホッとした安堵の気持が込み上げて来た、ああ、やっと一つやり遂げたぁ、と。
「印鑑の印影には彫った人間の人柄や価値観が出るものだからな」
それから龍鳳は思いも寄らぬことを菅原に言った。
「なあ菅原君。この印章をこの秋に行われる技術競技会に出品しようじゃないか。全日本印章連盟が主催する全国規模の競技会だ、是非、出品しようや、な」
「然し、先生、その依頼人の方には直ぐにでも渡さなくて良いんですか?」
「先方には競技会が終わってから進呈しても遅くはないだろう」
菅原は素直に龍鳳に従った。
「解かりました、宜しくお願いします」
菅原は出品に合わせて印箱を誂えた。中も外も漆黒に塗った円い箱に、すっぽりと被さる蓋の天面には緑青の竹を描いて紅く色づいた葉っぱを散らした。シックな中にも雅と華やぎが匂い立つ格好の印箱が出来上がった。
競技会の審査で菅原の作品は「奨励賞」を貰った。選外ではあったが、若手の作で、将来を期待出来るものに授与される賞であった。菅原は心底、喜んだ。少女に進呈するのにこの上ない華を添えることが出来た、と思った。
龍鳳の出品作は厚生労働大臣賞に輝いた。彼の彫った開運吉相体の印章は独創性と特異性に富んだ見事なものだった。流石に一等印刻師龍鳳の作品だった。
象牙や水牛、柘や彩樺等の高級印材も在ったが、楓、桜、椿、山椒、竹、ハナミズキ、ざくろ、茶等の木材類が多く積まれていた。彼はイラストと文字を彫ることを考えて自然木を選ぶことにした。自然木は堅さも形も木肌も全く異なるが、人の手にやさしく手触りが良い。菅原は楓を使うことにした。楓は歪みや割れ等の変形に強く、耐久性に勝れて欠け難いので印鑑に最適の材質であった。
それから次に彫刻刀の選別を始めた。
刃先の幅が異なる、然も後ろにも刃の付いている刀を十二、三種類選び出し、それらを全て研ぐ準備に取り掛かった。機械を使って単一のものを彫るのではないので、後ろにも刃の付いている彫刻刀が入用だったし、通常一週間に一度は研がなければならないものだったので、最初に全部を研ぐことにした。頑張っている少女の為に世界でただ一個の印章を創ろう、機械で彫ればみんな同じ物になってしまう、それでは意味が無い、手で彫れば全く同じ形や絵柄が出来上がることは無い、材料は堅くて手彫りは大変であるが、何とか喜んで貰えるものを創りたい、菅原はそう考えて道具の研磨にも力を注いだ。グリップになる柄の部分の籐がぼろぼろになった彫刻刀や刃が減って来ているものは、籐を自分で巻き直してから研いだ。汗を流して研いでいる菅原の姿を、時折、龍鳳がちらっと見たが、取り立てて何も言わなかった。
翌日、菅原は彫り込む絵柄と文字とデザインを考えた。
余り難易度の高いものは今の自分には上手く彫れそうもないと知っている菅原は、飛翔する鶴と少女の姓名だけを彫ることにした。それも出来るだけシンプルになるようにと考えた。
鶴の絵柄と足立佳純の文字を形や大きさや配置を変えて何枚ものデザインを描いてみたが、今日一日では菅原の満足出来るものは描けなかった。
自宅に持ち帰った菅原はそれらのデザイン画を妹に見せた。
広げられた七、八枚のデザインを見た妹は、真剣な面持ちで暫くの間思案していたが、無造作に、これが良いんじゃない、とその中の二枚を指差した。
「どうしてこれが良いんだ?」
「どうして、って。感じよ、直感よ、わたしのインスピレーションよ。だって、そういうものでしょう、デザインなんていうものは」
菅原がよく見ると、なるほど、鶴の図柄も文字の形も躍動的で頑張る少女にふさわしい感じがした。その躍動感のイメージを基本に菅原は、角印ではなく丸印にしようと決めた。円形の下辺に沿って姓名を草書体で彫り、その上部に鶴が舞っている構図を考えた。飛翔する鶴は、懸命にリハビリを続ける少女にはより相応しいだろうと思った。自分の技能不足を考えて、鶴の図柄と姓名の文字が重ならないようにすることも忘れなかった。幾ら凝った良いデザインでも自分が上手く彫れなければ絵に描いた餅に終わってしまう。
次の日、菅原は師匠の龍鳳に前日考えたデザインの構図を見て貰った。
菅原の話を聞き、ラフデザインをじっと見ていた龍鳳は
「うん、なかなか面白そうじゃないか、これで良いんじゃないか」
と賛同してくれた。序でに、印章の大きさは、この図柄だと直径の長さは四センチくらい要るだろうな、とアドバイスもしてくれた。
楓の木で直径五センチの印材を作った菅原は、愈々、彫りの作業を始めることにした。これまでの二年程の経験で一通りの工順は解かってはいたが、上手く出来るかどうかは極めて不安で自信は無きに等しかった。が、菅原は自分ひとりで、独力で唯やり遂げることだけを考えることにした。窮すれば通じるだろう、と腹を括った。
先ずは「面訂」という作業である。
トクサで印面を平らにする、肉眼ではなかなか確認出来ない程の印面のがたつきをトクサで擦って平に修正する。力を入れ過ぎるときちっとした平面が出ずに歪んでしまって、後の彫刻作業に支障をきたす。経験を積み、勘を掴めばきちんとした水平が出るようになるが、未熟な菅原は何度も何度もやり直さなければならなかった。
「なあ、菅原。ぼちぼちと、な。慌てるんじゃないぞ、じっくりと自分で納得の行く仕事をするんだぞ」
先輩職人がそう言って励ましてくれた。
何とか自分で納得の行く水平が出せた菅原は次に「朱打ち」の作業を始めた。
粗彫りを行う際に筆書きした文字や図柄の線が判り易いように、朱色の墨を印面に均一に塗る作業である。「字入れ」は墨で行うので、この朱色の墨が残った部分を粗彫りで彫って行く訳であるが、印面に均一に墨を打つのはなかなか難しく、菅原は(有)龍鳳印刻堂へ入った頃にはよく師匠に叱られたものだった。
「朱打ち」が終わると次は「字割り」である。
これは、分指しと言う定規のような道具を使って印面に線を引き、文字や絵柄を入れる比率のバランスを決める工程である。全体の印象を左右する重要な作業であった。菅原は文字の密度や全体のバランスを見ながら、最も美しい仕上がりになるように練り上げていった。
文字と絵柄の配置を決めた後は、愈々、「印稿」というデザインを書き入れる作業である。小筆を使って印面に直接文字と絵柄を書いて行く作業であるが、印鑑なので当然ながら左右反転で描かなければならない。この「字入れ」と言う作業の出来が美しくないと、幾ら綺麗に彫ってもなかなか満足出来る手彫り印鑑には成らない。朱墨で何度も修正を重ねながら、菅原は納得行くまでデザインを練り直した。
「字入れ」が完成すると次は「粗彫り」に入るが、菅原は此処までの作業に略一週間近くも掛かってしまった。初めて独りでする仕事は、未熟な技能しか身についていない菅原には殆どが始めてに等しかった。彼は慣れない手つきで懸命に作業を続けた。
翌日から菅原は「粗彫り」の作業に取り掛かった。
墨で手書きした文字と絵柄以外の、朱墨が残った部分を彫る作業である。菅原は文字や絵柄を傷つけないように細心の注意を払いながら、印刀で丁寧に慎重に彫って行った。龍鳳のような一等彫刻師は、それが真骨頂の如く、流麗な刀捌きを冴え渡らせるが、慣れない未熟な菅原は丸一日も費やしてしまった。
漸く粗彫りが終わった後、菅原はもう一度トクサで印面を擦って、一度打った墨を全て落とした。「字入れ」作業の際に何度も墨で修正を重ねたので、印面には墨による凹凸が出来ていたからである。
面擦りで凹凸を綺麗に修正した菅原は、再度、印面に墨を打った。仕上げ彫りの際に、粗彫りで彫った文字と絵柄の輪郭を確認し易くする為である。これは仕上げ彫りの完成度を高めるのに欠かすことの出来ない作業であった。
さて、愈々、仕上げ刀で文字と絵柄と枠を仕上げる大事な作業である。文字と絵柄に生き生きとした躍動感を生み出し、印刻師が全身全霊で印鑑に生命を吹き込む最も大切な作業である。菅原は僅かコンマ数ミリの微調整を二日の間、続けた。
後ろから覗き込んだ先輩が言った。
「文字と絵柄だけに集中するんじゃなく、枠にも気を配れよ。枠を欠け難くする為に土手を少し厚く仕上げるんだぞ。そうすれば耐久性が高まるからな」
一心不乱に仕上げて漸く納得した菅原は、イメージ通りに仕上がっているかどうかを確認する為に、紙に試し押しをして見た。一応、これで良いだろう、と思って押してみたが、未だ未だ修正を要するポイントが幾つか見つかった。この修正は困難を極めた。根気の要る、精根尽きる気の遠くなるような微調整が又、一日続いた。試し押しを重ねながら、イメージ通りになるまで、何度も仕上げ刀を握って、菅原は自分で納得の出来る完成を目指した。
漸く最終調整を終えて、これが完成品だ、と思えるものが出来上がった時、菅原の心に、やったあ、という達成感とこれまでに味わったことの無い幸福感が沸々と湧き上がって来た。
印鑑を手に取り、試し押しを見た龍鳳が、う~ん、と唸った。
「良い出来栄えだ、菅原君。君が心血を注いだこの半月間の全てが凝縮されている。草書体の文字は動きのある豊穣な線になっているし、鶴は今にも飛び立たんばかりの息吹に満ちている。誰が見ても素晴しいと思うんじゃないか」
龍鳳の賞賛を聞いて菅原は心の底から嬉しかった。初めて先生から褒められた!それから次第にホッとした安堵の気持が込み上げて来た、ああ、やっと一つやり遂げたぁ、と。
「印鑑の印影には彫った人間の人柄や価値観が出るものだからな」
それから龍鳳は思いも寄らぬことを菅原に言った。
「なあ菅原君。この印章をこの秋に行われる技術競技会に出品しようじゃないか。全日本印章連盟が主催する全国規模の競技会だ、是非、出品しようや、な」
「然し、先生、その依頼人の方には直ぐにでも渡さなくて良いんですか?」
「先方には競技会が終わってから進呈しても遅くはないだろう」
菅原は素直に龍鳳に従った。
「解かりました、宜しくお願いします」
菅原は出品に合わせて印箱を誂えた。中も外も漆黒に塗った円い箱に、すっぽりと被さる蓋の天面には緑青の竹を描いて紅く色づいた葉っぱを散らした。シックな中にも雅と華やぎが匂い立つ格好の印箱が出来上がった。
競技会の審査で菅原の作品は「奨励賞」を貰った。選外ではあったが、若手の作で、将来を期待出来るものに授与される賞であった。菅原は心底、喜んだ。少女に進呈するのにこの上ない華を添えることが出来た、と思った。
龍鳳の出品作は厚生労働大臣賞に輝いた。彼の彫った開運吉相体の印章は独創性と特異性に富んだ見事なものだった。流石に一等印刻師龍鳳の作品だった。
0
あなたにおすすめの小説
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる