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相良武有

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第六章 同級生遼子、ホステスから庭師へ転身

②遼子は高校を卒業するまで児童養護施設で暮らした

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 遼子は四歳で父親と死に別れ、五歳の時に母親も亡くなって児童養護施設に預けられた。高校を卒業するまで彼女は其処で暮らした。
 遼子の預けられた施設は比較的先進的で恵まれた環境にあった。
マンションタイプの寮が六棟有り、一棟に五人の子供達が入って先生三人と一緒に暮らした。年齢の高い中学生や高校生には個室が与えられ、遼子も中学生になった時、個室を宛がわれた。寮には玄関、洗面所、風呂場、台所、リビングが有り、通常のマンションの間取りとさほど変わりは無かった。
 遼子は施設で寝泊りし、学校へ行き、放課後には友達と遊んで夕方になると施設へ帰って食事をした。食事は棟毎に栄養士が決めた献立を調理資格を持つ先生達が手作りして共に食卓を囲んだし、入浴も洗濯も全て個別の部屋で行った。南向きにベランダがあって日当たりが良く、芝生の庭も広がっていた。
 日々の生活にはそれほど細かい規則や守らなければならない集団生活のルールは無かったし、社会に出て必要な常識的なこと以外には必要以上に縛られることは無かった。
 だが、施設で暮らして居る子供達は、遼子のように両親とも居なくて身寄りの無い子は少数で、片親を亡くした子、親が病気になった子、親が行方不明の子、親から虐待を受けた子等々、心に何らかの傷を負っており、特に、捨てられた、という思い込みが激しく、非行に走る子も間々居た。心の傷が色々有って喜怒哀楽の激しい子や普段はおとなしくても突然暴れだして精神的に不安定になる子等も居た。
 遼子は中学生になって思春期を迎えた頃、孤独感に苛まれて自閉した。
遼子は、預けられた時には既に五歳になっていたので、親という存在も解かっていたし、父親のことはあまり記憶に無かったが、母親と過ごした生活も母親の面影も僅かながらには憶えていた。中学校に上った時に施設長の先生から親のことを聞かされたが、やはり親が居ると違う生活が有ったんだ、とショックは隠せなかった。
 
 遼子の母親はこの都市一番の大きな花街で、一、二を競う美貌の芸妓だった。源氏名を菊千代、本名を小泉千代と言った。遼子は母親の姓を名乗ったことになる。
 父親は九州若松の、海運業の元締め「高田組」の二代目で、名を高田吾郎と言った。
 二人は初めてのお座敷で一目惚れし合ったらしい。それからは二ヶ月に一、二度の逢瀬だったが、座敷に呼んで呼ばれているうちに互いに忘れられない人となった。母親は半年後には引かされて唐津へ移った。金銭的なことは不義理の無いように、何の後腐れも無くきちんと二人で処理して行ったと言うことだった。
だが、二代目には既に正妻が居た。その為に、若松で住まうのは気が退けて、二人は唐津に移り住んだ。然し、母親は所詮日陰の身だったので、世間からは随分冷たい眼で見られたり蔑まれたりしたようだった。
 だが、遼子が四歳になった時、父親が突然の事故で呆気無く他界した。母親は遼子を伴って故郷のこの都市へ戻り、花街の端の髪結処で働いた。が、その母親も一年後に悪性のすい臓癌で三ヶ月の闘病後に、薬石効無く、亡くなった。身寄りの無い孤児となった遼子は施設に預けられることになった。
 
 遼子は施設長の話を詳しく聞き進むにつれて、次第に暗い思いを胸に沈ませて行った。自分はやくざ紛いの父親と芸者の母親との間に生まれた子供だったのだ、然も、妾の子だったのだ・・・生まれながらにして、普通の子では無かったのだ・・・
それから遼子は、洋服や本や雑貨等を床が見えない程に凄まじく散乱させて暮らした。散らかして置かないと心が落ち着かず、物に取り囲まれていることで安心感を得ていたのだった。部屋は遼子の心を表していた。散乱している物で鎧のように自分を包み、守って居たのだった。
 施設の丸山と言う女先生がピアノを教えたりCDを聞かせたり、音楽を拠所にして根気よく遼子の心を解いて行ってくれた。
 或る日、遼子はCDで聴いたジャズの音に全身を揺さ振られたような気がした。
遼子の身体を鮮烈なジャズのリズムが直撃して電撃が走ったようだった。遼子は痺れた。リズムもテンポも胸の奥底に深く響いた。遼子は魅了された。この世にこんなに愉しいものが在ったのだ!生まれて初めて知った愉しさだった。遼子はジャズの虜になった。
遼子は次第に心の鎧を脱ぎ始め、二年ほど後には部屋を片付けられるようになった。
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