11 / 72
第八章 純子ママ
⑥純子、キャバ嬢「茉莉」になる
しおりを挟む
山崎に捨てられた純子の胸には悲嘆と怨念と憤怒が大きく渦巻いた。それは純子自身が怖くなるほど大きくて激しいものだった。自分の何処にこんな激しい感情があったのだろうかと訝るほどの激しさだった。純子はその憤怒の赴くままに身を任せた。
会社を辞めた純子は数日後、ふらっと店頭の貼り紙を見て、キャバクラの面接を受けた。
純子は居直った。男っていうのはあんなもんだ、精々金を稼いで人生面白おかしく生きてやれ、どうせこの世の中はそんなもんだ・・・純子は自棄になり破れかぶれだった。
純子は自ら素顔を消した。そして、その瞬間から源氏名「茉莉」のキャバ嬢人生を走り始めた。
茉莉が勤めたキャバクラは時間制料金の明朗会計でクラブの高級感を併せ持ち、ショータイムもある大きな店だった。ショーには従業員の「キャバ嬢」が出演して唄やダンスを披露したし、ゲストダンサーが出演する本格的なショーも行われた。
店にはキャバ嬢が三十人余り在籍していたが、十九歳から二十三歳くらいの娘が中心で、二十五歳以上のキャバ嬢は斑で少なかった。二十四歳の茉莉は歳高の方だった。店員は、他には、店内のホール業務を統括する「黒服」と呼ばれる男性とボーイ達、それにキャッシャー、バニーガール、調理担当、バーテン、店長などが居た。キャバ嬢は「キャスト」と呼ばれ、ショーに出る者は「ショーメンバー」と称された。店は風俗営業等取締法の規制を受けて、十八歳未満の者に客の接待をさせることは許されなかったし、十八歳未満の者を入店させてもいけなかった。営業時間も午前零時から日の出までの深夜は営業出来なかった。
茉莉は夕方から午前零時までの勤務で、笑顔を絶やさず、相手に話を合わせながら楽しい気分でお酒を飲ませるのが仕事だった。中には、店外デートや同伴出勤、或いは、閉店後に酒やカラオケに行く「アフター」に誘ったりする客も居た。同伴出勤の回数はキャバ嬢の給与体系に組み込まれ、店内での指名回数やドリンクの売上等と合わせてポイント化されて時給が上下する基準になっていた。
キャバ嬢は一様に、胸や背中の大きく開いた上衣にミニのスカートを穿いていた。彼女達は表面は笑顔を繕っていたが、互いがライバルだった。人気の有る指名の多い者が「同伴」や「アフター」の回数も増え、売上も上位にランクされて、皆がナンバーワンを競っていた。特に若い娘の立ち居振る舞いや態度にその傾向が強かった。茉莉はきりっと締まった細身の知性的な美貌だったので客受けは良く、特に一人で来店するお客から好まれた。特段競った訳ではなかったが、人気は高く指名も多かった。
或る夜に手洗いに立った洗面所でベテランのキャバ嬢から詰られたこともあった。
「一寸くらい顔が良いからって大きな顔をするんじゃないよ」
客の男性は三十歳代から五十歳代くらいまでで、様々な思いを持ってキャバクラへやって来るようだった。
「前の彼女は、俺がキャバクラへ来る度に、別に浮気するとかエッチする訳でもないのに、いちいち詮索しよって、それが憂とうしくなって気持が離れてしまった。今の彼女は、店の外で会うのは浮気だけど、店に行くだけなら付き合いもあるだろうからOKよ、なんて言っているよ」
「男同士で飲みに出ると最後は此処へ来るよな。男だから可愛い女の娘の居る店に誰でも来たがるよ。付き合いもあるけれど、酒を飲む時に隣に可愛い女の娘がうるうる眼で見詰めてくれて居たら気分良く酔えるし、仕事の疲れも吹き飛ぶわ、な」
「彼女と飲んでも気持ち良く酔えないの?」
「彼女も仕事を持っているし、飲むと職場の愚痴を聴くことにもなる。聞き役に徹していたりすると気持ち良く酔えはしないよ」
此処へ来ると癒される、という三十歳代半ばの男性も居た。
「君たちは皆、客に優しいからな。俺の失敗談を黙って聞いてくれるし、会話が咬み合わなくても黙って笑顔で頷いてくれる、それだけで心が和むんだよ」
「キャバに来るのは男の活力源、って言う訳ね」
「別に彼女をないがしろにしている訳じゃないからな、男の身勝手かも知れないけど」
彼女には弱音を吐きたくないし、みっともない姿も見せたくない、恋愛関係の無いキャバ嬢ならその場限りのみっともない話をすることも出来る、兎に角、気が楽ということか、と茉莉は思った。
月に二、三度、接待でやって来る四十歳代前半の営業マンも居た。
「商談で厳しい雰囲気で話をしていた相手でも、隣に女の娘が座ると和やかな雰囲気になるし、しつこくて話のくどい相手の時でも、女の娘に相手をして貰えば俺も楽だし相手の気持も解れる。尤も俺は、プライベートではクラブの方が好きだけどな、あっちの方が大人の雰囲気だからね」
五十歳代の妻子有る男性達が、笑いながら言い合った。
「野朗だけで酒飲んで話していても詰んないから、俺たちおじさんだって連れ立ってキャバに行くことはあるよな。娘よりも若くて可愛い女の娘が横に座ると、俺たちは皆、鼻の下を長く伸ばすよ。別に彼女達とセックスしたいとも思わないし、外でデートしたいとも思わないけどな」
「時々、偶に逢いたいです、なんて言うメールが来ると、此方も営業用のメールだと直ぐに解かるから、僕も逢いたいけど今金欠だよ、なんて返事を返してさ」
そこで皆は、顔を見合わせて爆笑した。
キャバクラはあくまで楽しい大人の遊び場ということか?目的は接待、癒し、心身の疲労回復?然し、店に好みの女の娘が居て、メルアドを交換し外でデートでもするようになれば、恋愛に発展することはあるだろう。中にはそれを目当てに通ってくる客も居る筈だ。現に茉莉も三十歳代の男性客から直裁に誘われたことが有る。
「俺のような安月給ではクラブの女性には手が出ないけど、素人っぽいキャバ嬢なら落とせるかも知れない、別に彼女にしたい訳ではなく、ただセックスが出来れば嬉しいよ」
こういう男の下心にキャバ嬢達は、一応警戒はしていたが、開放的な若い娘の中には、好みの客から口説かれると、思いの外、気安く乗る者も居た。
「同伴」や「アフター」は言葉通りのデートやカラオケだけではなく、「大人の恋愛」を意味するものでもあった。
茉莉にはもう、こうしたい、ああしよう、という前を向いた意思はなかった。男を手玉にとって金を貢がせ、人生面白おかしく、その日その時の感情のままに刹那的に動いた。唯、妙に何かに刃向う逆立つ憤怒だけが在った。茉莉はその滾る憤怒の赴くままに生きた。
働く茉莉の様子は嘗ての純子とは一変していた。控え目で目立たなかった言動が激変し、よく笑いよく喋り、よく踊りよく飲んだ。殆ど口にしなかった酒を客に合わせてぐいぐい飲むようになったし、ダンスも自分から客を誘ったりした。
数人で群れて来る客達も茉莉を指名することが多くなった。指名だけでなく、同伴出勤の回数もアフターの付き合いも驚異的に多くなった。誘われれば何時でも何処へでも誰とでも出かけて行った。当然ながら売上は飛躍的に増大し瞬く間に茉莉はナンバーワンになった。周りの人間からは、それは凄絶で凄惨にさえ見えた。
二十六歳になった茉莉は店から大事にされ、店長初め黒服やバーテンも、それにスタッフ一同もキャバ嬢たちも皆、茉莉に一目置いた。売上は常に一、二を争い、客受けはいつもナンバーワンだった。茉莉の美貌には凄艶ささえ漂っていたが、キャバ嬢としては既に峠を超え、その生き方や暮らしは荒れていた。
会社を辞めた純子は数日後、ふらっと店頭の貼り紙を見て、キャバクラの面接を受けた。
純子は居直った。男っていうのはあんなもんだ、精々金を稼いで人生面白おかしく生きてやれ、どうせこの世の中はそんなもんだ・・・純子は自棄になり破れかぶれだった。
純子は自ら素顔を消した。そして、その瞬間から源氏名「茉莉」のキャバ嬢人生を走り始めた。
茉莉が勤めたキャバクラは時間制料金の明朗会計でクラブの高級感を併せ持ち、ショータイムもある大きな店だった。ショーには従業員の「キャバ嬢」が出演して唄やダンスを披露したし、ゲストダンサーが出演する本格的なショーも行われた。
店にはキャバ嬢が三十人余り在籍していたが、十九歳から二十三歳くらいの娘が中心で、二十五歳以上のキャバ嬢は斑で少なかった。二十四歳の茉莉は歳高の方だった。店員は、他には、店内のホール業務を統括する「黒服」と呼ばれる男性とボーイ達、それにキャッシャー、バニーガール、調理担当、バーテン、店長などが居た。キャバ嬢は「キャスト」と呼ばれ、ショーに出る者は「ショーメンバー」と称された。店は風俗営業等取締法の規制を受けて、十八歳未満の者に客の接待をさせることは許されなかったし、十八歳未満の者を入店させてもいけなかった。営業時間も午前零時から日の出までの深夜は営業出来なかった。
茉莉は夕方から午前零時までの勤務で、笑顔を絶やさず、相手に話を合わせながら楽しい気分でお酒を飲ませるのが仕事だった。中には、店外デートや同伴出勤、或いは、閉店後に酒やカラオケに行く「アフター」に誘ったりする客も居た。同伴出勤の回数はキャバ嬢の給与体系に組み込まれ、店内での指名回数やドリンクの売上等と合わせてポイント化されて時給が上下する基準になっていた。
キャバ嬢は一様に、胸や背中の大きく開いた上衣にミニのスカートを穿いていた。彼女達は表面は笑顔を繕っていたが、互いがライバルだった。人気の有る指名の多い者が「同伴」や「アフター」の回数も増え、売上も上位にランクされて、皆がナンバーワンを競っていた。特に若い娘の立ち居振る舞いや態度にその傾向が強かった。茉莉はきりっと締まった細身の知性的な美貌だったので客受けは良く、特に一人で来店するお客から好まれた。特段競った訳ではなかったが、人気は高く指名も多かった。
或る夜に手洗いに立った洗面所でベテランのキャバ嬢から詰られたこともあった。
「一寸くらい顔が良いからって大きな顔をするんじゃないよ」
客の男性は三十歳代から五十歳代くらいまでで、様々な思いを持ってキャバクラへやって来るようだった。
「前の彼女は、俺がキャバクラへ来る度に、別に浮気するとかエッチする訳でもないのに、いちいち詮索しよって、それが憂とうしくなって気持が離れてしまった。今の彼女は、店の外で会うのは浮気だけど、店に行くだけなら付き合いもあるだろうからOKよ、なんて言っているよ」
「男同士で飲みに出ると最後は此処へ来るよな。男だから可愛い女の娘の居る店に誰でも来たがるよ。付き合いもあるけれど、酒を飲む時に隣に可愛い女の娘がうるうる眼で見詰めてくれて居たら気分良く酔えるし、仕事の疲れも吹き飛ぶわ、な」
「彼女と飲んでも気持ち良く酔えないの?」
「彼女も仕事を持っているし、飲むと職場の愚痴を聴くことにもなる。聞き役に徹していたりすると気持ち良く酔えはしないよ」
此処へ来ると癒される、という三十歳代半ばの男性も居た。
「君たちは皆、客に優しいからな。俺の失敗談を黙って聞いてくれるし、会話が咬み合わなくても黙って笑顔で頷いてくれる、それだけで心が和むんだよ」
「キャバに来るのは男の活力源、って言う訳ね」
「別に彼女をないがしろにしている訳じゃないからな、男の身勝手かも知れないけど」
彼女には弱音を吐きたくないし、みっともない姿も見せたくない、恋愛関係の無いキャバ嬢ならその場限りのみっともない話をすることも出来る、兎に角、気が楽ということか、と茉莉は思った。
月に二、三度、接待でやって来る四十歳代前半の営業マンも居た。
「商談で厳しい雰囲気で話をしていた相手でも、隣に女の娘が座ると和やかな雰囲気になるし、しつこくて話のくどい相手の時でも、女の娘に相手をして貰えば俺も楽だし相手の気持も解れる。尤も俺は、プライベートではクラブの方が好きだけどな、あっちの方が大人の雰囲気だからね」
五十歳代の妻子有る男性達が、笑いながら言い合った。
「野朗だけで酒飲んで話していても詰んないから、俺たちおじさんだって連れ立ってキャバに行くことはあるよな。娘よりも若くて可愛い女の娘が横に座ると、俺たちは皆、鼻の下を長く伸ばすよ。別に彼女達とセックスしたいとも思わないし、外でデートしたいとも思わないけどな」
「時々、偶に逢いたいです、なんて言うメールが来ると、此方も営業用のメールだと直ぐに解かるから、僕も逢いたいけど今金欠だよ、なんて返事を返してさ」
そこで皆は、顔を見合わせて爆笑した。
キャバクラはあくまで楽しい大人の遊び場ということか?目的は接待、癒し、心身の疲労回復?然し、店に好みの女の娘が居て、メルアドを交換し外でデートでもするようになれば、恋愛に発展することはあるだろう。中にはそれを目当てに通ってくる客も居る筈だ。現に茉莉も三十歳代の男性客から直裁に誘われたことが有る。
「俺のような安月給ではクラブの女性には手が出ないけど、素人っぽいキャバ嬢なら落とせるかも知れない、別に彼女にしたい訳ではなく、ただセックスが出来れば嬉しいよ」
こういう男の下心にキャバ嬢達は、一応警戒はしていたが、開放的な若い娘の中には、好みの客から口説かれると、思いの外、気安く乗る者も居た。
「同伴」や「アフター」は言葉通りのデートやカラオケだけではなく、「大人の恋愛」を意味するものでもあった。
茉莉にはもう、こうしたい、ああしよう、という前を向いた意思はなかった。男を手玉にとって金を貢がせ、人生面白おかしく、その日その時の感情のままに刹那的に動いた。唯、妙に何かに刃向う逆立つ憤怒だけが在った。茉莉はその滾る憤怒の赴くままに生きた。
働く茉莉の様子は嘗ての純子とは一変していた。控え目で目立たなかった言動が激変し、よく笑いよく喋り、よく踊りよく飲んだ。殆ど口にしなかった酒を客に合わせてぐいぐい飲むようになったし、ダンスも自分から客を誘ったりした。
数人で群れて来る客達も茉莉を指名することが多くなった。指名だけでなく、同伴出勤の回数もアフターの付き合いも驚異的に多くなった。誘われれば何時でも何処へでも誰とでも出かけて行った。当然ながら売上は飛躍的に増大し瞬く間に茉莉はナンバーワンになった。周りの人間からは、それは凄絶で凄惨にさえ見えた。
二十六歳になった茉莉は店から大事にされ、店長初め黒服やバーテンも、それにスタッフ一同もキャバ嬢たちも皆、茉莉に一目置いた。売上は常に一、二を争い、客受けはいつもナンバーワンだった。茉莉の美貌には凄艶ささえ漂っていたが、キャバ嬢としては既に峠を超え、その生き方や暮らしは荒れていた。
1
あなたにおすすめの小説
まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!
小林汐希
ライト文芸
2年5組の生徒:松本花菜(17歳 高校2年生)
2年5組の担任:長谷川啓太(23歳 教師歴1年目)
幼い頃から、様々な悩みを抱えながら過ごしてきた花菜。
それは幼い頃に父との離別を経験した家庭環境だったり、小学校の最後に作ってしまった体の古傷であったり。
学校外の時間を一人で過ごすことになった彼女の唯一、かつ絶対的な味方でいてくれたのが、近所に住む啓太お兄ちゃんだった。
しかし年の離れた二人の関係では仕方ないとはいえ、啓太の大学進学や環境変化とともに、その時間は終わりを迎えてしまう。
ふさぎ込む花菜を前に、啓太は最後に「必ず迎えに来る」という言葉を残して街を離れた。
言葉を受け取った花菜は、自分を泣かせないための慰めだったという諦めも入りつつ、一方で微かな希望として心の中で温め続けていた。
数年の時を経て二人が再び顔を合わせたものの、もはや運命の意地悪とでもいうべき「担任教師と生徒」という関係。
最初は様子伺いだったけれど、往時の気持ちが変わっていないことを再確認してからは、「一人じゃない」と嬉しいこと・辛いことも乗り越えていく二人には少しずつ背中を押してくれる味方も増えていく。
再会した当初は「おとなしい終末的運命キャラ」になっていた花菜も次第に自信を取り戻し、新米教師の啓太も花菜のサポートを裏で受けつつ堂々と教壇に立ち続けた。
そんな互いを支えあった二人の前に開けた世界は……。
たった一つだけの約束を胸に、嬉しいときは一緒に喜び、悲しいときは支えあって走り抜けた二人の物語です。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる