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第十章 春よ、早く来い!
③次の日、メモリアルウォークに参加した
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次の日の朝、岡林は地震発生時刻に黙祷して鎮魂を祈り、「慰霊と復興のモニュメント」がある公園へ行って、竹灯篭の蝋燭に灯を点した。妻と娘を思って知らず知らずに瞼が熱くなり、感情が溢れて涙が流れ出た。岡林は、辛い時は泣けば良い、時間が色々なことを教えてくれるだろう、亡くなった二人の分まで強く生きなきゃ、と幻想的な空気の中で、そう思った。
それから、岡林は純子ママや嶋木と共にメモリアルウォークに参加して、約三千二百人が避難し救援物資輸送のルートともなった十五キロの道のりを歩いた。
一緒に歩いた七十過ぎの老人の話が三人の胸に堪えた。
「あの時は月が唯一の明りでしたねえ」
歩きながら老人が当時を振り返った。
「独り暮らしの義母が心配で、車で迎えに行ったんですよ。然し、直ぐに渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなりましてねぇ。月明かりを頼りに暗闇の中を四時間懸けて歩きました」
「それで、お義母さんは?」
「住んでいた家は潰れて跡形も無く、近くの避難所も訪ねましたが、義母は居ませんでした。翌日の晩、警察官らと一緒に家の瓦礫を除けていたら、変わり果てた義母の遺体が見つかりました」
岡林も純子ママも嶋木も、話し継ぐ言葉が見つからなかった。
死亡届などの手続きの為に約一週間、今歩いているのと同じ道を自転車で往復した、と言う。
「辛い思い出はもう忘れても良いのかなぁ、と思うことも有りますよ。でも、経験した者として当時の状況を語り継いで行きたい、とも思っています」
二人の老夫婦の話も三人の胸を強く打った。
震災で脚に重い障害が残った夫に代わって、会社の経営を託された妻が、持ち前の気持の強さで苦難を乗り越えて来た話だった。
夫が自宅近くで経営していた塗装会社は、当時社員が二十五人ほど居たが、震災の翌日から借入金の返済など金融機関との交渉までもが妻に託された。病院に泊り込んで夫の看病をし、朝になるとヒッチハイクで会社へ出勤する、そんな毎日が半年も続いた。
「四月に突然、声が出なくなりましてねえ、慣れない仕事のストレスで、約二週間・・」
「で、奥さんは如何されたんですか?」
「どうもこうも、休む訳にはいきませんから、出勤しましたよ。社員とは筆談しました。自分がしっかりしないと社員もその家族も皆、扱けてしまいますからね」
歯を食い縛って頑張ったんだ、と嶋木は胸が熱くなった。
「その後、ご主人は?」
「六月になって漸く主人が会社に復帰しました。でも、数千万円あった借入金の返済は、震災の影響で滞っていましたし、漸く軌道に乗り始めたのは一年後でしたね。その時、嘗ての知り合いの女性に、慰霊祭でばったり出会いましたの。もう嬉しくて、嬉しくて、抱き合ったら何故かホッとして、涙が零れて止りませんでした」
「だが、僕がね、アルコール依存症に陥ってしまったんですよ」
夫が話を引き取って、その後を語ってくれた。
「震災のショックを引き摺っていたんでしょうね。二年ほど経った時に、毎日酒を飲んで仕事に行かなくなってしまったんです。何ヶ月も続きましたねえ。今も時々、偶に家を出られなくなる時があります。会社が震災を乗り越えられたのは、一にも二にも、妻のお陰です。心底、感謝していますよ」
夫が照れながら、しんみりと言った。
今は、社員は三十五人に増え、長男が後を継いでいる、と言う。
「二人で何処かへ旅行に行くのが小さな夢よね」
杖をついて歩く夫に、妻がそっと手を添えた。
それから、岡林は純子ママや嶋木と共にメモリアルウォークに参加して、約三千二百人が避難し救援物資輸送のルートともなった十五キロの道のりを歩いた。
一緒に歩いた七十過ぎの老人の話が三人の胸に堪えた。
「あの時は月が唯一の明りでしたねえ」
歩きながら老人が当時を振り返った。
「独り暮らしの義母が心配で、車で迎えに行ったんですよ。然し、直ぐに渋滞に巻き込まれて身動きが取れなくなりましてねぇ。月明かりを頼りに暗闇の中を四時間懸けて歩きました」
「それで、お義母さんは?」
「住んでいた家は潰れて跡形も無く、近くの避難所も訪ねましたが、義母は居ませんでした。翌日の晩、警察官らと一緒に家の瓦礫を除けていたら、変わり果てた義母の遺体が見つかりました」
岡林も純子ママも嶋木も、話し継ぐ言葉が見つからなかった。
死亡届などの手続きの為に約一週間、今歩いているのと同じ道を自転車で往復した、と言う。
「辛い思い出はもう忘れても良いのかなぁ、と思うことも有りますよ。でも、経験した者として当時の状況を語り継いで行きたい、とも思っています」
二人の老夫婦の話も三人の胸を強く打った。
震災で脚に重い障害が残った夫に代わって、会社の経営を託された妻が、持ち前の気持の強さで苦難を乗り越えて来た話だった。
夫が自宅近くで経営していた塗装会社は、当時社員が二十五人ほど居たが、震災の翌日から借入金の返済など金融機関との交渉までもが妻に託された。病院に泊り込んで夫の看病をし、朝になるとヒッチハイクで会社へ出勤する、そんな毎日が半年も続いた。
「四月に突然、声が出なくなりましてねえ、慣れない仕事のストレスで、約二週間・・」
「で、奥さんは如何されたんですか?」
「どうもこうも、休む訳にはいきませんから、出勤しましたよ。社員とは筆談しました。自分がしっかりしないと社員もその家族も皆、扱けてしまいますからね」
歯を食い縛って頑張ったんだ、と嶋木は胸が熱くなった。
「その後、ご主人は?」
「六月になって漸く主人が会社に復帰しました。でも、数千万円あった借入金の返済は、震災の影響で滞っていましたし、漸く軌道に乗り始めたのは一年後でしたね。その時、嘗ての知り合いの女性に、慰霊祭でばったり出会いましたの。もう嬉しくて、嬉しくて、抱き合ったら何故かホッとして、涙が零れて止りませんでした」
「だが、僕がね、アルコール依存症に陥ってしまったんですよ」
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「震災のショックを引き摺っていたんでしょうね。二年ほど経った時に、毎日酒を飲んで仕事に行かなくなってしまったんです。何ヶ月も続きましたねえ。今も時々、偶に家を出られなくなる時があります。会社が震災を乗り越えられたのは、一にも二にも、妻のお陰です。心底、感謝していますよ」
夫が照れながら、しんみりと言った。
今は、社員は三十五人に増え、長男が後を継いでいる、と言う。
「二人で何処かへ旅行に行くのが小さな夢よね」
杖をついて歩く夫に、妻がそっと手を添えた。
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