46 / 56
第一章 悔恨
第11話 麗子、佐々木に信頼を寄せる
しおりを挟む
「剣道は人間形成の道なんだ。流汗悟道、つまり、汗水流して一生懸命ものごとをやれば、自ずと道は開ける、ということだよ」
集中力と決断力、責任感と自主精神、相手を尊重する態度、健康と安全、敏捷性と巧緻性、それらを育むのが剣道の狙いなんだ、と佐々木は言った。
「気剣体の一致、元気な掛け声、三つの先、隙を打つ、これが、俺が道場で習った教えだよ」
「三つの先、と言うと?」
「先の先、対の先、後の先、要は先手必勝ということだ」
「隙を打つというのはどういうことなの?」
「心の隙、構えの隙、動きの隙、この三つの隙を突くということだね」
「なるほど、そういうことなの。何か囲碁や将棋なんかと通じるものが有るように思うわね」
「稽古は試合の如く、試合は稽古の如く、という道場の教えも有ったよ。日頃稽古する時には試合を意識して真剣に臨み、試合では稽古の時のようにリラックスして余計な力を抜いて戦えば良い結果が導かれる、ということだ。尤も俺の場合は、稽古は稽古の如く、試合は試合の如くで、練習にはさっぱり緊張感が無く、試合に及んでは緊張しまくっていたけれどね」
佐々木はそう言って快活に笑った。
「勝負には勝つ時もあれば負ける時もある。唯、勝った時も負けた時も、其処で終わってしまっては成長がないから、何故勝ったのか?何故負けたのか?気持はどうだったのか?間合いはどうだったのか?技はどうだったのか?試合を振り返りながらそういったことを反省し、次の工夫に活かし、それを目指して努力する、そういうことが大切なんだと思うのだが・・・な」
日頃の穏やかで寡黙な言動からは隠れて見えない、その中に潜んでいる佐々木の矜持の強さを垣間見て、麗子は彼に深い興味と関心を持った。
そして、佐々木の持っている、何事からも逃げない、難題にも冷静に対峙していく芯の強さと、少々のことは飲み込んでしまう寛容さと優しさに、その懐の深さに、次第に信頼を寄せるようになった。
麗子は佐々木と居ると気持ちが和んで楽だった。嶋と居る時に感じた気負い立つような張り詰めた感情が、佐々木との間には無かった。
佐々木は麗子とのことについて比較的オープンでフランクだった。麗子には嶋と逢っていた時のような他人に隠れて忍び合う罪悪感のようなものが無かった。
やがて、ティールームでコーヒーを啜り合う二人の姿やレストランで微笑み合ってディナーを摂る姿、バーの止まり木やクラブのカウンターに並んで座っている姿やコンサートへ腕を組んで出かける姿が見かけられるようになった。二人は次第に友人としての垣根を越えて行くようだった。
集中力と決断力、責任感と自主精神、相手を尊重する態度、健康と安全、敏捷性と巧緻性、それらを育むのが剣道の狙いなんだ、と佐々木は言った。
「気剣体の一致、元気な掛け声、三つの先、隙を打つ、これが、俺が道場で習った教えだよ」
「三つの先、と言うと?」
「先の先、対の先、後の先、要は先手必勝ということだ」
「隙を打つというのはどういうことなの?」
「心の隙、構えの隙、動きの隙、この三つの隙を突くということだね」
「なるほど、そういうことなの。何か囲碁や将棋なんかと通じるものが有るように思うわね」
「稽古は試合の如く、試合は稽古の如く、という道場の教えも有ったよ。日頃稽古する時には試合を意識して真剣に臨み、試合では稽古の時のようにリラックスして余計な力を抜いて戦えば良い結果が導かれる、ということだ。尤も俺の場合は、稽古は稽古の如く、試合は試合の如くで、練習にはさっぱり緊張感が無く、試合に及んでは緊張しまくっていたけれどね」
佐々木はそう言って快活に笑った。
「勝負には勝つ時もあれば負ける時もある。唯、勝った時も負けた時も、其処で終わってしまっては成長がないから、何故勝ったのか?何故負けたのか?気持はどうだったのか?間合いはどうだったのか?技はどうだったのか?試合を振り返りながらそういったことを反省し、次の工夫に活かし、それを目指して努力する、そういうことが大切なんだと思うのだが・・・な」
日頃の穏やかで寡黙な言動からは隠れて見えない、その中に潜んでいる佐々木の矜持の強さを垣間見て、麗子は彼に深い興味と関心を持った。
そして、佐々木の持っている、何事からも逃げない、難題にも冷静に対峙していく芯の強さと、少々のことは飲み込んでしまう寛容さと優しさに、その懐の深さに、次第に信頼を寄せるようになった。
麗子は佐々木と居ると気持ちが和んで楽だった。嶋と居る時に感じた気負い立つような張り詰めた感情が、佐々木との間には無かった。
佐々木は麗子とのことについて比較的オープンでフランクだった。麗子には嶋と逢っていた時のような他人に隠れて忍び合う罪悪感のようなものが無かった。
やがて、ティールームでコーヒーを啜り合う二人の姿やレストランで微笑み合ってディナーを摂る姿、バーの止まり木やクラブのカウンターに並んで座っている姿やコンサートへ腕を組んで出かける姿が見かけられるようになった。二人は次第に友人としての垣根を越えて行くようだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる