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第一話 許されざる軽はずみ
⑦靖彦、真理子と一線を越える
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真理子が靖彦を案内したのは、香林坊片町の犀川沿いに隠れ家のようにひっそりと店を構えるたった十二席の小さなフレンチレストランだった。
やや重い扉を押して店内に入った二人は、都会の喧騒から離れ、ゆっくりと流れる時間の中で、独創性溢れる艶やかなコース料理とゴージャスなワインを味わうことになった。
前菜に出された有機人参のムースは、新鮮な素材の甘味が際立つ無農薬人参が雲丹のコンソメジュレと一緒になって蕩けるような感覚だった。滑らかな口当たりで程よく柔らかく、人参と雲丹の色合いも綺麗な見た目にも楽しめる一皿だった。
鮮度の良い鴨を炭火で焼いた医王山の青首鴨のローストは、重厚な風味と香りが口いっぱいに拡がる絶品だった。地元医王山の自然の中で伸び伸びと育った野生の青首鴨を炭火で炙り、濃厚な内蔵のソースを絡めた深い味わいが魅力だった。ブルゴーニュ産のワインとの相性がぴったりだった。
輪島の平目のローストは、豊かな北陸の海が育んだ新鮮な海の幸を、地元野菜と共に贅沢に愉しめる珠玉の逸品だった。ローストされた天然平目がふわ~っと解れて柔らかな香りと甘味が漂っていたし、加賀野菜の源助大根とせり、ふきのとうが三重のモト牡蠣と一緒になって、地元愛の溢れるエッセンスが凝縮した一皿だった。
二人は居心地の良い快適な空間で食事もワインもじっくり堪能して、至福のひと時を過ごした。
それから真理子が靖彦を連れて行ったのは生バンドの入ったグランドクラブだった。
女性シンガーのショーが終わってライトが少し落とされ、ムーディーなブルースの曲が奏でられ始めた。
真理子は青く仄暗いフロアに靖彦を誘い、二人は抱き合って踊り始めた。
「あなたの眼って、素敵ね」
「君もチャーミングだよ」
「涼し気で・・・好きだったなあ、その眼」
「会えて嬉しかったよ」
真理子は靖彦にピタリと身体を寄せて彼の胸に顔を埋めた。靖彦も真理子を抱く腕に力を込めた。
「どなたの好みかしら、この匂い・・・」
「妬くなんて君らしくもないね」
演奏は間断なく続いていた。
サックスの音色と淡い灯りに酔ったのか、真理子は瞳を潤ませ、睫毛が濡れていた。
「ねえ、私を好きだと言って」
「もう夜も遅い、そろそろ帰ろうか」
「そんな嫌よ・・・ラストまで踊っていたいの」
グランドクラブを出た靖彦は真理子をタクシーに乗せて、駅前の超高層ホテルへ彼女を送って行った。
部屋の前で引き返そうとした靖彦を真理子が止めた。
「今日一日は未だ終わってないわ」
真理子はそう言って靖彦の腕を取り彼を中へ引き入れた。
部屋に入ると直ぐに、真理子は靖彦の首に両腕を回して唇を合わせて来た。それは熱い狂おしい深い接吻だった。靖彦もしっかりと真理子を抱きしめた。
唇を離した真理子は燃えるような瞳で覗き込むように靖彦の眼をじっと見つめながら、彼の上衣を脱がせネクタイを解き、シャツのボタンを外してズボンのベルトを緩めた。靖彦も真理子の眼を凝視して彼女の衣服を一枚一枚ゆっくりと剥がしタイトスカートのジッパーを引き下ろした。生まれたままの姿になった二人は唇を合わせ、抱き合って縺れながらベッドに倒れ込んだ。
真理子のそれは思いの外、稚拙だった。肉体を固く強張らせ眼を見開いて靖彦を受け入れた。靖彦は優しく緩やかに突き進んだ。靖彦の優しい愛撫に、やがて、真理子は心を解いて肉体を開き、あ~あぁ、あ~あぁ、と喘ぎ始めた。靖彦の動きが強く激しくなるに連れて真理子は昇り始め、仰け反ったり沈んだりを繰り返しながら、幾度となく昇りつめて、やがて二人は頂点に達して、一緒に果てた。
身体を離した靖彦の傍で、真理子は暫く放心したように定まらぬ視線を宙に泳がせていたが、靖彦の胸に顔を埋めて、徐に、言った。
「ああ、良かったぁ・・・わたし、蕩けちゃったわ・・・」
靖彦は真理子の滑らかな肩を抱き寄せて括れた背中を優しく撫でた。
間も無く、潮が退くように余燼が肉体から退いて行った真理子は浴室へ消えて行った。
暫くして出て来た真理子は下着をつけ始めた。
「帰るのか?」
「ううん、わたしは別の部屋へ移るから、あなたは此処でゆっくり休んで居て」
着衣を終えた真理子はバッグを手に持って立ち上がった。
「今日は一日付き合ってくれて、真実に有難う」
それから、ドアの前で立ち止まった真理子は靖彦の方を振り向いて言った。
「ああ、さっぱりした。これでもう、何の後顧の憂いも無く彼と結婚出来るわ」
後ろ手にドアを閉めて彼女は出て行った。
真理子の最後の言葉を耳にして、ハッと我に返った靖彦の胸に苦い思いがじわ~っと湧き上がって来た。
やや重い扉を押して店内に入った二人は、都会の喧騒から離れ、ゆっくりと流れる時間の中で、独創性溢れる艶やかなコース料理とゴージャスなワインを味わうことになった。
前菜に出された有機人参のムースは、新鮮な素材の甘味が際立つ無農薬人参が雲丹のコンソメジュレと一緒になって蕩けるような感覚だった。滑らかな口当たりで程よく柔らかく、人参と雲丹の色合いも綺麗な見た目にも楽しめる一皿だった。
鮮度の良い鴨を炭火で焼いた医王山の青首鴨のローストは、重厚な風味と香りが口いっぱいに拡がる絶品だった。地元医王山の自然の中で伸び伸びと育った野生の青首鴨を炭火で炙り、濃厚な内蔵のソースを絡めた深い味わいが魅力だった。ブルゴーニュ産のワインとの相性がぴったりだった。
輪島の平目のローストは、豊かな北陸の海が育んだ新鮮な海の幸を、地元野菜と共に贅沢に愉しめる珠玉の逸品だった。ローストされた天然平目がふわ~っと解れて柔らかな香りと甘味が漂っていたし、加賀野菜の源助大根とせり、ふきのとうが三重のモト牡蠣と一緒になって、地元愛の溢れるエッセンスが凝縮した一皿だった。
二人は居心地の良い快適な空間で食事もワインもじっくり堪能して、至福のひと時を過ごした。
それから真理子が靖彦を連れて行ったのは生バンドの入ったグランドクラブだった。
女性シンガーのショーが終わってライトが少し落とされ、ムーディーなブルースの曲が奏でられ始めた。
真理子は青く仄暗いフロアに靖彦を誘い、二人は抱き合って踊り始めた。
「あなたの眼って、素敵ね」
「君もチャーミングだよ」
「涼し気で・・・好きだったなあ、その眼」
「会えて嬉しかったよ」
真理子は靖彦にピタリと身体を寄せて彼の胸に顔を埋めた。靖彦も真理子を抱く腕に力を込めた。
「どなたの好みかしら、この匂い・・・」
「妬くなんて君らしくもないね」
演奏は間断なく続いていた。
サックスの音色と淡い灯りに酔ったのか、真理子は瞳を潤ませ、睫毛が濡れていた。
「ねえ、私を好きだと言って」
「もう夜も遅い、そろそろ帰ろうか」
「そんな嫌よ・・・ラストまで踊っていたいの」
グランドクラブを出た靖彦は真理子をタクシーに乗せて、駅前の超高層ホテルへ彼女を送って行った。
部屋の前で引き返そうとした靖彦を真理子が止めた。
「今日一日は未だ終わってないわ」
真理子はそう言って靖彦の腕を取り彼を中へ引き入れた。
部屋に入ると直ぐに、真理子は靖彦の首に両腕を回して唇を合わせて来た。それは熱い狂おしい深い接吻だった。靖彦もしっかりと真理子を抱きしめた。
唇を離した真理子は燃えるような瞳で覗き込むように靖彦の眼をじっと見つめながら、彼の上衣を脱がせネクタイを解き、シャツのボタンを外してズボンのベルトを緩めた。靖彦も真理子の眼を凝視して彼女の衣服を一枚一枚ゆっくりと剥がしタイトスカートのジッパーを引き下ろした。生まれたままの姿になった二人は唇を合わせ、抱き合って縺れながらベッドに倒れ込んだ。
真理子のそれは思いの外、稚拙だった。肉体を固く強張らせ眼を見開いて靖彦を受け入れた。靖彦は優しく緩やかに突き進んだ。靖彦の優しい愛撫に、やがて、真理子は心を解いて肉体を開き、あ~あぁ、あ~あぁ、と喘ぎ始めた。靖彦の動きが強く激しくなるに連れて真理子は昇り始め、仰け反ったり沈んだりを繰り返しながら、幾度となく昇りつめて、やがて二人は頂点に達して、一緒に果てた。
身体を離した靖彦の傍で、真理子は暫く放心したように定まらぬ視線を宙に泳がせていたが、靖彦の胸に顔を埋めて、徐に、言った。
「ああ、良かったぁ・・・わたし、蕩けちゃったわ・・・」
靖彦は真理子の滑らかな肩を抱き寄せて括れた背中を優しく撫でた。
間も無く、潮が退くように余燼が肉体から退いて行った真理子は浴室へ消えて行った。
暫くして出て来た真理子は下着をつけ始めた。
「帰るのか?」
「ううん、わたしは別の部屋へ移るから、あなたは此処でゆっくり休んで居て」
着衣を終えた真理子はバッグを手に持って立ち上がった。
「今日は一日付き合ってくれて、真実に有難う」
それから、ドアの前で立ち止まった真理子は靖彦の方を振り向いて言った。
「ああ、さっぱりした。これでもう、何の後顧の憂いも無く彼と結婚出来るわ」
後ろ手にドアを閉めて彼女は出て行った。
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