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第三話 愛の虚妄
⑥次郎に再会した麗華、庭の球根の仕舞いを依頼する
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五日ほどが経って麗華が買い物に外へ出ると、向こうからやって来る次郎の姿が見えた。彼は自転車に乗ってやって来た。麗華を見る前に同い歳くらいの女性に声を掛けられて次郎は自転車を止めた。先日一緒に居た女子大生のようだった。彼は自転車に跨ったまま片足を地に着いて何か話し合っている。そして、大袈裟に真上の空を仰いで笑った後、ハイタッチを交わして二人は離れた。
麗華は話を終えて此方へ向かった次郎の方へ近づいて行った。次郎が彼女に気付いたのを見ると麗華は手を挙げて微笑った。次郎も手を挙げて応えた。
「あの傷はもう治った?あら、未だ絆創膏を貼っているのね」
「ああ、もう取っても大丈夫なんだけど・・・」
言いながら彼は、麗華の眼の前で、黒く汚れた絆創膏を剥がした。ふやけた白い手の甲が見えた。
「今年初めてチューリップを植えたんだけど、球根の仕舞い方がよく解らないの。今度暇な時に、大学の帰りにでも寄って教えて下さらない?お宅でも植えていらっしゃるのでしょう?」
麗華は人目を気にしながら口早やに言った。
「ああ」
次郎は答えた。
「明日にでも行かせて貰うよ」
翌日、夕暮れ近くに彼はやって来た。
「遅かったのね?」
「ああ、練習があったのでね」
「何のクラブに入って居るの?」
「サッカー」
「道理で、陽に焼けているんだ」
「まあ、ね」
答えて次郎は白い歯を覗かせて微笑った。
「もう、今日は良いわ。後は私がやるから・・・」
そう言った麗華に構わず、日が暮れても彼は庭に屈みこんで花の根を弄っていた。
漸く終わって上って来た次郎に麗華が勧めた。
「有難う、疲れたでしょう?」
「そうでもないよ」
「遅くなった序だわ。お食事を用意したから食べてらっしゃい」
「えっ?良いんですか?」
「お酒、召し上がる?」
「家では親父とよく呑むよ」
「そう、それじゃ」
酒を飲み食事をする次郎を、麗華は自分に何かを言い聞かせているような表情で見守った。眼を上げて視線が行き交う度、彼女の口元には不可解な微笑が浮かんだ。次郎は初め少し燥ぐように微笑って麗華を見返していたが、その内に気圧されたように黙り込んで箸だけを動かした。
麗華が空いた杯に酒を注いだ。
「お口直しよ」
「いや、もう良いです。俺、帰ります」
「あら、どうして?もう少し安んだ方が良いんじゃないの?体に悪いわ。それとも私がそんなに怖く見えるのかしら?」
「い、いや、そんなことは無いけど・・・」
「じゃ、もう少しゆっくりしてらっしゃいよ」
麗華は話題を探し、二人は絵の話を暫くしたが、彼は思い掛けなく、ゴヤが好きだと言った。彼女は乞われて持っていた版画集を貸して持たせた。
「また、お庭のこと、色々教えてね。私もあなたのお役に立つことがあったらお教えするわ」
門まで送りながらそう言った麗華に次郎はぴょこんとお辞儀を返した。彼は通りの途中まで歩いて行くと一度振り返り、そして、走り去って行った。
麗華は話を終えて此方へ向かった次郎の方へ近づいて行った。次郎が彼女に気付いたのを見ると麗華は手を挙げて微笑った。次郎も手を挙げて応えた。
「あの傷はもう治った?あら、未だ絆創膏を貼っているのね」
「ああ、もう取っても大丈夫なんだけど・・・」
言いながら彼は、麗華の眼の前で、黒く汚れた絆創膏を剥がした。ふやけた白い手の甲が見えた。
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麗華は人目を気にしながら口早やに言った。
「ああ」
次郎は答えた。
「明日にでも行かせて貰うよ」
翌日、夕暮れ近くに彼はやって来た。
「遅かったのね?」
「ああ、練習があったのでね」
「何のクラブに入って居るの?」
「サッカー」
「道理で、陽に焼けているんだ」
「まあ、ね」
答えて次郎は白い歯を覗かせて微笑った。
「もう、今日は良いわ。後は私がやるから・・・」
そう言った麗華に構わず、日が暮れても彼は庭に屈みこんで花の根を弄っていた。
漸く終わって上って来た次郎に麗華が勧めた。
「有難う、疲れたでしょう?」
「そうでもないよ」
「遅くなった序だわ。お食事を用意したから食べてらっしゃい」
「えっ?良いんですか?」
「お酒、召し上がる?」
「家では親父とよく呑むよ」
「そう、それじゃ」
酒を飲み食事をする次郎を、麗華は自分に何かを言い聞かせているような表情で見守った。眼を上げて視線が行き交う度、彼女の口元には不可解な微笑が浮かんだ。次郎は初め少し燥ぐように微笑って麗華を見返していたが、その内に気圧されたように黙り込んで箸だけを動かした。
麗華が空いた杯に酒を注いだ。
「お口直しよ」
「いや、もう良いです。俺、帰ります」
「あら、どうして?もう少し安んだ方が良いんじゃないの?体に悪いわ。それとも私がそんなに怖く見えるのかしら?」
「い、いや、そんなことは無いけど・・・」
「じゃ、もう少しゆっくりしてらっしゃいよ」
麗華は話題を探し、二人は絵の話を暫くしたが、彼は思い掛けなく、ゴヤが好きだと言った。彼女は乞われて持っていた版画集を貸して持たせた。
「また、お庭のこと、色々教えてね。私もあなたのお役に立つことがあったらお教えするわ」
門まで送りながらそう言った麗華に次郎はぴょこんとお辞儀を返した。彼は通りの途中まで歩いて行くと一度振り返り、そして、走り去って行った。
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