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マニアな女性の審眼
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保険室を後にした俺は、空手着を着替えるために体育館の更衣室へ向かった。
体育館では俺が”しでかしてしまった”事件の動揺は既に収まっているようで「部活説明会」がプログラム通り進んでいるようだった。
* * *
「君、ちょっといいかしら?」
俺は着替えを終えて、体育館の裏手にある踊り場に出たところで一人の女性にいきなり声を掛けられた。
歳の頃は20代中盤だろうか?
学校の教師に見えなくもないが、服装のセンスや雰囲気で教師ではないと直感的に思った。
入学式ならいざ知らず、スーツ姿というのが違和感あるしデザインや色合いも妙に派手で肩までかかる明るい髪の色も場にそぐわない。
だとすると”部外者”ということになるが、今日はウィリス未惟奈の取材陣で多くのマスコミ連中が体育館に入り込んでしまっている。
俺はきっと”その類の人だろう”と想像した。
だとすれば、当事者のど真ん中にいる俺にとっては少し面倒なことになるかもしれない。
つまり未惟奈と戦った張本人となれば、スポーツ新聞のネタにされかねない。
「どちら様ですか?」
俺は警戒心を強めて、なるべく不信感全開で、かつ超絶面倒くさそうに応えた。
「あ、ゴメンナサイ」
俺のそんな態度に少し慌てた女性は急にセカンドバッグから名刺入れを取り出し一枚俺に差し出した。
「私、『月刊スポーツ空手』のライターをしている春崎須美と言います」
月刊スポーツ空手のライター?
ってことは予想通りウィリス未惟奈の取材で入り込んだ人間ということだ。
「月刊スポーツ空手」と言えば、競技カラテに特化した空手専門紙。
発行部数の少ない数ある空手雑誌の中ではかなり売れている方だと思う。
特にその売上発行部数に大きく貢献するウィリス未惟奈の特集記事はこの雑誌が一番充実していた。
「そんな警戒しないで。別に取材のために声をかけたんじゃないから」
春崎と名乗る女性は、俺の警戒心を察して、急に馴れ馴れしい愛想笑いをした。
フフ、笑止。
ちょっと美人だからといってそんな作り笑顔で男子高校生を簡単に転がそうなんて思うなよ?
その手に乗るか。
「俺、急いでるんですけど?なんか用ですか?」
俺は一層顔をしかめて、彼女を睨み返した。
「そ、そんないじめないでよ?」
俺の完全拒絶モードに閉口してしまった春崎は心底困った顔になっていた。
しかしながら、それでも話は最後までするつもりというライターらしい粘り腰を見せた。
「さっき、未惟奈と対戦したのは君よね?」
ほらほら、やっぱり目的はウィリス未惟奈だ。
「取材じゃないんですよね?」
俺は有無を言わさぬ物言いで、ピシャリと切り返した。
俺は当然、”今日の事件”が月刊スポーツカラテの未惟奈特集記事に盛り込まれ、かつ俺のことまで記事にされることを警戒しての反応だった。
しかし、この反応は少々迂闊だった。
この答えは、春崎の問いに対して必然的に”俺が対戦相手だ"と白状しているようなものだった。
「やっぱりそうなんだ。でも安心して?君と未惟奈の対戦の話を記事にするつもりはないから。私が聞きたいのは未惟奈とは関係のない話」
「未惟奈の話ではない?どういうことですか?」
未惟奈が関係ないとすると”俺そのもの”に興味があるということか?
いやいや、それは絶対にあり得ない。
未惟奈にも話した通り、俺は今まで空手の試合に出たことはない。
ゆえに例え格闘技ライターだからと言って俺のことを知っているはずがない。
俺はまた少し警戒の色を強めた。
「また、そんな顔しないでよ。じゃあ端的に聞くね。君は鵜飼貞夫の関係者?」
俺は驚きのあまり目を見開き、春崎須美の顔を凝視してしまった。
「な、なんで?」
「あぁ、やっぱりそうなんだ」
春崎は鋭い眼光を俺に向けた。
俺は頭がフリーズして、何も言い返すことができなくなってしまった。
「フフ、格闘技ライターを舐めないでもらいたいなあ~。私は直ぐに気付いたよ?」
「気付く?何に?」
「君がなぜ神童”有栖天牙”をも一撃で葬ったウィリス未惟奈に対抗できたのか。その理由にだよ」
「なんだって?」
「君の構え、そしてあの地味だけど完璧な合わせ技。
ああいう動きは今の空手家はやらないからね。
ただ私は過去に一度だけ見たことがある」
俺は若い女性ライターと聞いて少し侮っていたのかもしれない。
そうか、この女性はあの構えと俺の動きだけで鵜飼貞夫に辿りついたのか。
そして春崎はさらに続けた。
「型で見かけても、試合で見ることなんて決してない”後屈立ち”の”前羽の構え”。
あれを試合で見せたのは鵜飼貞夫以外、君しかいない」
フフ、凄いな。
この人。
「へえ、見かけによらずマニアなんですね?」
「でしょ?いいなあ、君は。話が通じて」
春崎は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「いや、褒めてないです。若い女性がそこまで格闘マニアだとかなり引くんですけど?」
「でも君は好印象を持ったよね。違う?」
ただの武道、格闘技マニアの変態女性と油断していたら急に魅惑的な視線を送ってきたので俺は不覚にもうろたえてしまった。
「別に、好意も悪意も感じていませんよ」
俺は視線を逸らし辛うじて誤魔化したが、春崎は勝ち誇ったように笑みを強めて言を繋いだ。
「で、まだ応えてもらってないんだけど?」
「何が?」
「だから君と鵜飼貞夫の関係」
「ああ、ご察しの通りですよ」
「ってことは、やっぱり君の空手は……」
「ええ、全部鵜飼貞夫から習いました」
体育館では俺が”しでかしてしまった”事件の動揺は既に収まっているようで「部活説明会」がプログラム通り進んでいるようだった。
* * *
「君、ちょっといいかしら?」
俺は着替えを終えて、体育館の裏手にある踊り場に出たところで一人の女性にいきなり声を掛けられた。
歳の頃は20代中盤だろうか?
学校の教師に見えなくもないが、服装のセンスや雰囲気で教師ではないと直感的に思った。
入学式ならいざ知らず、スーツ姿というのが違和感あるしデザインや色合いも妙に派手で肩までかかる明るい髪の色も場にそぐわない。
だとすると”部外者”ということになるが、今日はウィリス未惟奈の取材陣で多くのマスコミ連中が体育館に入り込んでしまっている。
俺はきっと”その類の人だろう”と想像した。
だとすれば、当事者のど真ん中にいる俺にとっては少し面倒なことになるかもしれない。
つまり未惟奈と戦った張本人となれば、スポーツ新聞のネタにされかねない。
「どちら様ですか?」
俺は警戒心を強めて、なるべく不信感全開で、かつ超絶面倒くさそうに応えた。
「あ、ゴメンナサイ」
俺のそんな態度に少し慌てた女性は急にセカンドバッグから名刺入れを取り出し一枚俺に差し出した。
「私、『月刊スポーツ空手』のライターをしている春崎須美と言います」
月刊スポーツ空手のライター?
ってことは予想通りウィリス未惟奈の取材で入り込んだ人間ということだ。
「月刊スポーツ空手」と言えば、競技カラテに特化した空手専門紙。
発行部数の少ない数ある空手雑誌の中ではかなり売れている方だと思う。
特にその売上発行部数に大きく貢献するウィリス未惟奈の特集記事はこの雑誌が一番充実していた。
「そんな警戒しないで。別に取材のために声をかけたんじゃないから」
春崎と名乗る女性は、俺の警戒心を察して、急に馴れ馴れしい愛想笑いをした。
フフ、笑止。
ちょっと美人だからといってそんな作り笑顔で男子高校生を簡単に転がそうなんて思うなよ?
その手に乗るか。
「俺、急いでるんですけど?なんか用ですか?」
俺は一層顔をしかめて、彼女を睨み返した。
「そ、そんないじめないでよ?」
俺の完全拒絶モードに閉口してしまった春崎は心底困った顔になっていた。
しかしながら、それでも話は最後までするつもりというライターらしい粘り腰を見せた。
「さっき、未惟奈と対戦したのは君よね?」
ほらほら、やっぱり目的はウィリス未惟奈だ。
「取材じゃないんですよね?」
俺は有無を言わさぬ物言いで、ピシャリと切り返した。
俺は当然、”今日の事件”が月刊スポーツカラテの未惟奈特集記事に盛り込まれ、かつ俺のことまで記事にされることを警戒しての反応だった。
しかし、この反応は少々迂闊だった。
この答えは、春崎の問いに対して必然的に”俺が対戦相手だ"と白状しているようなものだった。
「やっぱりそうなんだ。でも安心して?君と未惟奈の対戦の話を記事にするつもりはないから。私が聞きたいのは未惟奈とは関係のない話」
「未惟奈の話ではない?どういうことですか?」
未惟奈が関係ないとすると”俺そのもの”に興味があるということか?
いやいや、それは絶対にあり得ない。
未惟奈にも話した通り、俺は今まで空手の試合に出たことはない。
ゆえに例え格闘技ライターだからと言って俺のことを知っているはずがない。
俺はまた少し警戒の色を強めた。
「また、そんな顔しないでよ。じゃあ端的に聞くね。君は鵜飼貞夫の関係者?」
俺は驚きのあまり目を見開き、春崎須美の顔を凝視してしまった。
「な、なんで?」
「あぁ、やっぱりそうなんだ」
春崎は鋭い眼光を俺に向けた。
俺は頭がフリーズして、何も言い返すことができなくなってしまった。
「フフ、格闘技ライターを舐めないでもらいたいなあ~。私は直ぐに気付いたよ?」
「気付く?何に?」
「君がなぜ神童”有栖天牙”をも一撃で葬ったウィリス未惟奈に対抗できたのか。その理由にだよ」
「なんだって?」
「君の構え、そしてあの地味だけど完璧な合わせ技。
ああいう動きは今の空手家はやらないからね。
ただ私は過去に一度だけ見たことがある」
俺は若い女性ライターと聞いて少し侮っていたのかもしれない。
そうか、この女性はあの構えと俺の動きだけで鵜飼貞夫に辿りついたのか。
そして春崎はさらに続けた。
「型で見かけても、試合で見ることなんて決してない”後屈立ち”の”前羽の構え”。
あれを試合で見せたのは鵜飼貞夫以外、君しかいない」
フフ、凄いな。
この人。
「へえ、見かけによらずマニアなんですね?」
「でしょ?いいなあ、君は。話が通じて」
春崎は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「いや、褒めてないです。若い女性がそこまで格闘マニアだとかなり引くんですけど?」
「でも君は好印象を持ったよね。違う?」
ただの武道、格闘技マニアの変態女性と油断していたら急に魅惑的な視線を送ってきたので俺は不覚にもうろたえてしまった。
「別に、好意も悪意も感じていませんよ」
俺は視線を逸らし辛うじて誤魔化したが、春崎は勝ち誇ったように笑みを強めて言を繋いだ。
「で、まだ応えてもらってないんだけど?」
「何が?」
「だから君と鵜飼貞夫の関係」
「ああ、ご察しの通りですよ」
「ってことは、やっぱり君の空手は……」
「ええ、全部鵜飼貞夫から習いました」
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