20 / 64
未惟奈の爆弾に被弾する鈍い俺
しおりを挟む
「今度、信頼できる中国武術家を紹介するから、また連絡するわね」
春崎さんは、帰り際にそんな約束をしてくれた。
プロの格闘技ライターが、たとえ未惟奈の知り合いとはいえ、普通の高校生のために色々と動いてくれるなんて破格の対応だ。
「なんか、仕事じゃないのにすみません」
「いいわよ、翔君のお願いならお安い御用よ」
"翔君のお願いなら"などとリップサービスを交えつつ、まるで空気を吸うように自然に、またあの魅惑的な笑顔を見せた。
大人の女性はこういった"技"がマジで怖い。こんな笑顔を普通の男子高校生が見たらどうなるか、少しは想像してほしいものだ。
「"翔のお願いなら"って、どういう意味ですか? 春崎さん」
未惟奈も、その笑顔が"あざとい"と映ったのか、少し不快そうな表情を浮かべて春崎さんに尋ねた。
「未惟奈ちゃん、安心して。翔君は私にとって注目の空手家だからそうしているだけよ。彼を誑かそうなんてしてないから大丈夫」
春崎さんはからかうように未惟奈に言った。
「はあ!? なんで私がそんなこと心配しなくちゃいけないのよ!」
未惟奈が食ってかかる。
「ハハ、未惟奈ちゃんって実は独占欲が強かったんだね」
春崎さんに笑われて、未惟奈は不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
「春崎さん、未惟奈は何を独占しようとしてるんですか?」
イマイチ話の流れに乗れていない俺がそう尋ねると、春崎さんはあきれ顔になった。
「はぁ……確かに未惟奈ちゃんが言う通りね。翔君の鈍さは重症かも」
「え? どういうこと?」
「翔君、今の流れで言ったら分かるでしょ?」
"今の流れで言ったら分かるでしょ?"
これと同じセリフを、以前にも未惟奈から言われたことがあったな……。
ってことは、やっぱり話の飲み込みが悪い俺がいつも悪いってことになるのか? ちょっとショックなんだけど。
「春崎さん、その話はいいから!!」
未惟奈が急に口調を強め、そしてなぜか少し慌てた様子で春崎さんを制した。
「翔君、お節介かもしれないけど、空手ばかりじゃなくてもう少し女心を勉強した方がいいかもね」
春崎さんは未惟奈の慌てぶりを楽しむように微笑んでから、俺にそう言った。
「女心? 誰の?」
「だから、今は私以外に未惟奈ちゃんしかいないでしょ?」
「春崎さん、やめて!! ……翔には好きな人がいるんだから!」
突然、未惟奈がぶっ込んできた爆弾に、俺は全身の血液が逆流したかと思うほどの衝撃を受けた。
な、何を言い出すんだ未惟奈は。正気か!?
俺が一気にパニック状態に陥る中、隣にいる春崎さんに目をやると、彼女は明らかに「しまった」という表情を浮かべていた。
「ご、ごめんなさい、未惟奈ちゃん」
春崎さんはさっきまでの意地悪い表情から一変し、動揺を隠せない様子だ。
「み、未惟奈……ちょっといい加減にしろよ。突然なにを言い出すんだ?」
「翔は余計な口を挟まないで!」
「おい! 俺の話を勝手にしておいて、その言い草はないだろう!?」
「あんたのために言ってんのよ!」
「俺のため?」
未惟奈はまた自分勝手な理屈で話を押し切ろうとしているのか。
「未惟奈が俺のために何をしようというんだ? 余計なことはやめてほしいんだけど」
俺の場合、「好きな人がいる」という話は、単なる恋バナでは済まない"特殊な事情"を抱えている。未惟奈はそのことを知る唯一の人物なのだ。
「ご、ごめんなさい……私が余計なことを言ったばかりに」
二人の、いや特に俺の憤りをなだめるために、春崎さんが慌てて仲裁に入った。しかし、俺と未惟奈はお互いに視線を逸らさずに睨み合い、一触即発の状態になっていた。
「翔があの人の顔を思い出して、暗い顔をするのは勘弁してほしいのよ」
「お、おい!!」
未惟奈のこの言葉には、さすがに俺も堪えられなくなり語気が荒くなった。
「いい加減にしろよ! 今、その話をするか!?」
「だって、そんな顔を見せられるこっちの身にもなってよ!」
クソッ! 俺が檸檬の顔を思い出して、いつも暗い顔をしているとでもいうのか? いや、それは未惟奈がそういった微妙な変化に気づきすぎているだけだろう。
「み、未惟奈ちゃん? ちょっと色々事情がありそうだけど、この話はもう終わりにして……ほら、そんな顔しないで」
見ると、未惟奈は悔しさのあまり、目に涙を浮かべていた。
な、なんだよその表情は。自分から仕掛けておいて、なんで俺が泣かせたみたいな空気になってるんだよ。
「すみません春崎さん、余計なことに巻き込んでしまって。この問題は私がなんとかしますから」
「はあ? 未惟奈がなんとかする? 余計なことすんなって言ってるだろ!」
この件に、未惟奈がさらに首を突っ込んでくる気なのか。マジでいい加減にしてほしい。
未惟奈が檸檬の件で、一体何をしようというのだ。
対する春崎さんは何かを悟ったのか、驚きの表情のあと、急に優しい視線を未惟奈に向けていた。
俺はその視線の意味が分からず、ただただ負の感情を抑えながら、二人の表情を見つめることしかできなかった。
春崎さんは、帰り際にそんな約束をしてくれた。
プロの格闘技ライターが、たとえ未惟奈の知り合いとはいえ、普通の高校生のために色々と動いてくれるなんて破格の対応だ。
「なんか、仕事じゃないのにすみません」
「いいわよ、翔君のお願いならお安い御用よ」
"翔君のお願いなら"などとリップサービスを交えつつ、まるで空気を吸うように自然に、またあの魅惑的な笑顔を見せた。
大人の女性はこういった"技"がマジで怖い。こんな笑顔を普通の男子高校生が見たらどうなるか、少しは想像してほしいものだ。
「"翔のお願いなら"って、どういう意味ですか? 春崎さん」
未惟奈も、その笑顔が"あざとい"と映ったのか、少し不快そうな表情を浮かべて春崎さんに尋ねた。
「未惟奈ちゃん、安心して。翔君は私にとって注目の空手家だからそうしているだけよ。彼を誑かそうなんてしてないから大丈夫」
春崎さんはからかうように未惟奈に言った。
「はあ!? なんで私がそんなこと心配しなくちゃいけないのよ!」
未惟奈が食ってかかる。
「ハハ、未惟奈ちゃんって実は独占欲が強かったんだね」
春崎さんに笑われて、未惟奈は不貞腐れてそっぽを向いてしまった。
「春崎さん、未惟奈は何を独占しようとしてるんですか?」
イマイチ話の流れに乗れていない俺がそう尋ねると、春崎さんはあきれ顔になった。
「はぁ……確かに未惟奈ちゃんが言う通りね。翔君の鈍さは重症かも」
「え? どういうこと?」
「翔君、今の流れで言ったら分かるでしょ?」
"今の流れで言ったら分かるでしょ?"
これと同じセリフを、以前にも未惟奈から言われたことがあったな……。
ってことは、やっぱり話の飲み込みが悪い俺がいつも悪いってことになるのか? ちょっとショックなんだけど。
「春崎さん、その話はいいから!!」
未惟奈が急に口調を強め、そしてなぜか少し慌てた様子で春崎さんを制した。
「翔君、お節介かもしれないけど、空手ばかりじゃなくてもう少し女心を勉強した方がいいかもね」
春崎さんは未惟奈の慌てぶりを楽しむように微笑んでから、俺にそう言った。
「女心? 誰の?」
「だから、今は私以外に未惟奈ちゃんしかいないでしょ?」
「春崎さん、やめて!! ……翔には好きな人がいるんだから!」
突然、未惟奈がぶっ込んできた爆弾に、俺は全身の血液が逆流したかと思うほどの衝撃を受けた。
な、何を言い出すんだ未惟奈は。正気か!?
俺が一気にパニック状態に陥る中、隣にいる春崎さんに目をやると、彼女は明らかに「しまった」という表情を浮かべていた。
「ご、ごめんなさい、未惟奈ちゃん」
春崎さんはさっきまでの意地悪い表情から一変し、動揺を隠せない様子だ。
「み、未惟奈……ちょっといい加減にしろよ。突然なにを言い出すんだ?」
「翔は余計な口を挟まないで!」
「おい! 俺の話を勝手にしておいて、その言い草はないだろう!?」
「あんたのために言ってんのよ!」
「俺のため?」
未惟奈はまた自分勝手な理屈で話を押し切ろうとしているのか。
「未惟奈が俺のために何をしようというんだ? 余計なことはやめてほしいんだけど」
俺の場合、「好きな人がいる」という話は、単なる恋バナでは済まない"特殊な事情"を抱えている。未惟奈はそのことを知る唯一の人物なのだ。
「ご、ごめんなさい……私が余計なことを言ったばかりに」
二人の、いや特に俺の憤りをなだめるために、春崎さんが慌てて仲裁に入った。しかし、俺と未惟奈はお互いに視線を逸らさずに睨み合い、一触即発の状態になっていた。
「翔があの人の顔を思い出して、暗い顔をするのは勘弁してほしいのよ」
「お、おい!!」
未惟奈のこの言葉には、さすがに俺も堪えられなくなり語気が荒くなった。
「いい加減にしろよ! 今、その話をするか!?」
「だって、そんな顔を見せられるこっちの身にもなってよ!」
クソッ! 俺が檸檬の顔を思い出して、いつも暗い顔をしているとでもいうのか? いや、それは未惟奈がそういった微妙な変化に気づきすぎているだけだろう。
「み、未惟奈ちゃん? ちょっと色々事情がありそうだけど、この話はもう終わりにして……ほら、そんな顔しないで」
見ると、未惟奈は悔しさのあまり、目に涙を浮かべていた。
な、なんだよその表情は。自分から仕掛けておいて、なんで俺が泣かせたみたいな空気になってるんだよ。
「すみません春崎さん、余計なことに巻き込んでしまって。この問題は私がなんとかしますから」
「はあ? 未惟奈がなんとかする? 余計なことすんなって言ってるだろ!」
この件に、未惟奈がさらに首を突っ込んでくる気なのか。マジでいい加減にしてほしい。
未惟奈が檸檬の件で、一体何をしようというのだ。
対する春崎さんは何かを悟ったのか、驚きの表情のあと、急に優しい視線を未惟奈に向けていた。
俺はその視線の意味が分からず、ただただ負の感情を抑えながら、二人の表情を見つめることしかできなかった。
1
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました
ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。
意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。
しかし返ってきたのは――
「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。
完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。
その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる