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俺のための記者会見
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記者の質問に対して未惟奈は一瞬迷った様子を見せ、不自然に沈黙してしまった。
こんな未惟奈の動揺を“勘の鋭い”記者たちが見逃さなかった。
「半年前に天才高校生の有栖天牙を瞬殺している未惟奈さんが、普通の高校生に負けるなんてことはないだろうと勝手に想像していましたが。あの噂、まさか事実なんですか?」
未惟奈は少しだけ視線をエドワード・ウィリスに向けると、彼は未惟奈の視線に気づき、“アイコンタクト”をしながら頷いた。
すると未惟奈は視線を正面に戻し、意を決したように話し始めた。
「ええ、私は今通っている北辰高校の部活説明会で、ある男子高校生に一瞬で“倒された”経験があります」
未惟奈がそこまで言うと、また記者たちからどよめきが起きた。
「私はきっと慢心していたのだと思います。だから彼に会って、自分はまだまだだと思い知らされました。もっと空手を学ぶ必要があると思ったんです」
未惟奈の想像以上のぶっちゃけぶりに、俺は焦りを通り越して呆れ返ってしまった。
確かに俺の名前こそ言ってはいないが、これでは全部ぶちまけてしまったようなものだ。
この流れでいったら、記者たちが当然“誰に倒されたのか”ということに興味を持つに決まっている。
「それは、未惟奈さんのいる北辰高校に、それだけの実力者がいるということですか?」
「誰なんですか?」
「有栖天牙より強いってことですか?」
「過去の実績はどれくらいあるんですか?」
興奮した記者から矢継ぎ早に怒涛の質問が未惟奈に向けられ、会見場は騒然となってしまった。
未惟奈はさすがにどう応えていいか当惑している様子で、それが意地の悪いマスコミたちをさらに調子に乗せてしまっていた。
その時である。
ウィリス父が、突如大声で未惟奈と記者のやりとりに介入してきた。
「お静かに願います。今日は未惟奈の会見です。その男子高校生は一般人ですよ? 個人情報をここでお話しできるはずがないでしょう?」
もう恫喝と言ってよいほどに怒気を含んだエドワード・ウィリスの声に、記者たちは一瞬で凍りついてしまった。
「その高校生の男性に関する取材は、是非とも固く控えていただけるようにお願いします。もし彼に迷惑が掛かるようなことがあれば、そのメディアとの付き合いは考えさせてもらいます」
完全に脅しだ。
さすがに興味本位で未惟奈に食いついていた記者たちは、たちどころにシンと静まり返った。
その様子を見ていた美影が、意外なことを言った。
「どうやらこの会見は、君のために企画されていたようだな」
「え? どういうこと?」
「ウィリス君がわざわざ空手を続ける理由に、君の存在を匂わせたのは、きっと父親に今のセリフを言わせるためだろう。エドワード氏は、あらかじめ準備されていたセリフを言ったように見えたが」
相変わらず妙に鋭い美影は、こともなげに言う。
「そんなバカな……」
「おそらくマスコミの矛先が君にいかないよう、釘を刺すのがこの会見の目的だったんじゃないか? もしかすると、すでに君の存在に気づいて近づこうとしていたメディアがあったのかもしれないな。だから動かれる前に先手を打った」
「ま、まさか……未惟奈が、なんでそんな気を回して俺を庇う必要があるんだ?」
「さあ、それは知らんが、彼女は世間から一挙手一投足を注目されている存在だ。そんな彼女に巻き込まれて、君に迷惑が掛かるのを嫌ったんじゃないか」
確かに美影の言うことは、いちいち辻褄が合っている。
――記者会見は、美影の想像を裏付けるように、ウィリス父が恫喝した直後にすぐお開きとなってしまった。
これは見方によっては、言いたいことだけを一方的に言い切った会見とも取れる。
だからそれ以上の質問は一切受け付けないという、マスコミ側から見ればまったくメリットのない、印象の悪い会見だったように思われた。
記者たちは納得した様子ではなかったが、未惟奈とウィリス父はそそくさと会見場を後にしてしまった。
考えてみれば、色々と不思議なことがある。
部活説明会での未惟奈の対戦を動画で録画していた人間は、大勢いたはずなのだ。
それなのに結局、SNSでもこのネタがバズることはなかった。
春崎さんと俺が初めて会った時、彼女は俺の情報がリークすることを懸念していた。
だが冗談交じりに、エドワード・ウィリスがマスコミに圧力をかけて抑え込めるようなことを言っていたのを思い出す。
それが案外、事実だったりするのだろうか。
俺は未惟奈の会見が終わって、しばらく経ってから彼女に連絡を入れた。
「あ、翔……連絡遅くない?」
「いやいや、気を使って時間置いて電話してんだけど?」
「なんだ、ずっと待ってたのに」
「だったらそっちからしろよ? ってか、なんで俺が連絡する前提なんだよ?」
「だって、あの会見見たら絶対、怒って連絡してくると思ったもの」
「別に怒りはしないよ」
「怒らないの?」
「だって今日の会見は、俺を庇う意味が強かったんだろ?」
「え? なんで分かったの?」
やっぱりそうなのか。
俺のための会見……
「いや、美影がそうなんじゃないかって」
「ああ、なるほどね。彼か。翔がそこまでは気づかないと思ってた」
「鈍いって言うな」
「言ってないし。ってか被害妄想やめてよね?」
いや、絶対言おうとしてただろ!
全く──
「でも、実は翔のことを執拗に嗅ぎ回ろうとしている人間がいるって情報が、昨日入ってね」
「俺のことを嗅ぎ回る? それはやっぱりマスコミなのか?」
「いや、マスコミならまだ抑えられたんだけど……どうもそうじゃないらしいんだ」
「マスコミじゃない? 誰なんだ? 俺のことを嗅ぎ回るとか」
「有栖天牙と、その関係者よ」
「な、なんだって!?」
「どうも有栖天牙が、私を倒した相手との対戦を強く望んでいるらしいの」
「はあ? なんだそれ!?」
こんな未惟奈の動揺を“勘の鋭い”記者たちが見逃さなかった。
「半年前に天才高校生の有栖天牙を瞬殺している未惟奈さんが、普通の高校生に負けるなんてことはないだろうと勝手に想像していましたが。あの噂、まさか事実なんですか?」
未惟奈は少しだけ視線をエドワード・ウィリスに向けると、彼は未惟奈の視線に気づき、“アイコンタクト”をしながら頷いた。
すると未惟奈は視線を正面に戻し、意を決したように話し始めた。
「ええ、私は今通っている北辰高校の部活説明会で、ある男子高校生に一瞬で“倒された”経験があります」
未惟奈がそこまで言うと、また記者たちからどよめきが起きた。
「私はきっと慢心していたのだと思います。だから彼に会って、自分はまだまだだと思い知らされました。もっと空手を学ぶ必要があると思ったんです」
未惟奈の想像以上のぶっちゃけぶりに、俺は焦りを通り越して呆れ返ってしまった。
確かに俺の名前こそ言ってはいないが、これでは全部ぶちまけてしまったようなものだ。
この流れでいったら、記者たちが当然“誰に倒されたのか”ということに興味を持つに決まっている。
「それは、未惟奈さんのいる北辰高校に、それだけの実力者がいるということですか?」
「誰なんですか?」
「有栖天牙より強いってことですか?」
「過去の実績はどれくらいあるんですか?」
興奮した記者から矢継ぎ早に怒涛の質問が未惟奈に向けられ、会見場は騒然となってしまった。
未惟奈はさすがにどう応えていいか当惑している様子で、それが意地の悪いマスコミたちをさらに調子に乗せてしまっていた。
その時である。
ウィリス父が、突如大声で未惟奈と記者のやりとりに介入してきた。
「お静かに願います。今日は未惟奈の会見です。その男子高校生は一般人ですよ? 個人情報をここでお話しできるはずがないでしょう?」
もう恫喝と言ってよいほどに怒気を含んだエドワード・ウィリスの声に、記者たちは一瞬で凍りついてしまった。
「その高校生の男性に関する取材は、是非とも固く控えていただけるようにお願いします。もし彼に迷惑が掛かるようなことがあれば、そのメディアとの付き合いは考えさせてもらいます」
完全に脅しだ。
さすがに興味本位で未惟奈に食いついていた記者たちは、たちどころにシンと静まり返った。
その様子を見ていた美影が、意外なことを言った。
「どうやらこの会見は、君のために企画されていたようだな」
「え? どういうこと?」
「ウィリス君がわざわざ空手を続ける理由に、君の存在を匂わせたのは、きっと父親に今のセリフを言わせるためだろう。エドワード氏は、あらかじめ準備されていたセリフを言ったように見えたが」
相変わらず妙に鋭い美影は、こともなげに言う。
「そんなバカな……」
「おそらくマスコミの矛先が君にいかないよう、釘を刺すのがこの会見の目的だったんじゃないか? もしかすると、すでに君の存在に気づいて近づこうとしていたメディアがあったのかもしれないな。だから動かれる前に先手を打った」
「ま、まさか……未惟奈が、なんでそんな気を回して俺を庇う必要があるんだ?」
「さあ、それは知らんが、彼女は世間から一挙手一投足を注目されている存在だ。そんな彼女に巻き込まれて、君に迷惑が掛かるのを嫌ったんじゃないか」
確かに美影の言うことは、いちいち辻褄が合っている。
――記者会見は、美影の想像を裏付けるように、ウィリス父が恫喝した直後にすぐお開きとなってしまった。
これは見方によっては、言いたいことだけを一方的に言い切った会見とも取れる。
だからそれ以上の質問は一切受け付けないという、マスコミ側から見ればまったくメリットのない、印象の悪い会見だったように思われた。
記者たちは納得した様子ではなかったが、未惟奈とウィリス父はそそくさと会見場を後にしてしまった。
考えてみれば、色々と不思議なことがある。
部活説明会での未惟奈の対戦を動画で録画していた人間は、大勢いたはずなのだ。
それなのに結局、SNSでもこのネタがバズることはなかった。
春崎さんと俺が初めて会った時、彼女は俺の情報がリークすることを懸念していた。
だが冗談交じりに、エドワード・ウィリスがマスコミに圧力をかけて抑え込めるようなことを言っていたのを思い出す。
それが案外、事実だったりするのだろうか。
俺は未惟奈の会見が終わって、しばらく経ってから彼女に連絡を入れた。
「あ、翔……連絡遅くない?」
「いやいや、気を使って時間置いて電話してんだけど?」
「なんだ、ずっと待ってたのに」
「だったらそっちからしろよ? ってか、なんで俺が連絡する前提なんだよ?」
「だって、あの会見見たら絶対、怒って連絡してくると思ったもの」
「別に怒りはしないよ」
「怒らないの?」
「だって今日の会見は、俺を庇う意味が強かったんだろ?」
「え? なんで分かったの?」
やっぱりそうなのか。
俺のための会見……
「いや、美影がそうなんじゃないかって」
「ああ、なるほどね。彼か。翔がそこまでは気づかないと思ってた」
「鈍いって言うな」
「言ってないし。ってか被害妄想やめてよね?」
いや、絶対言おうとしてただろ!
全く──
「でも、実は翔のことを執拗に嗅ぎ回ろうとしている人間がいるって情報が、昨日入ってね」
「俺のことを嗅ぎ回る? それはやっぱりマスコミなのか?」
「いや、マスコミならまだ抑えられたんだけど……どうもそうじゃないらしいんだ」
「マスコミじゃない? 誰なんだ? 俺のことを嗅ぎ回るとか」
「有栖天牙と、その関係者よ」
「な、なんだって!?」
「どうも有栖天牙が、私を倒した相手との対戦を強く望んでいるらしいの」
「はあ? なんだそれ!?」
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