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謎の美女と高校チャンピオン
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俺と未惟奈が武道場に入るなり、そこにいた空手部員達からどよめきが起きた。
しかしこのどよめきは、「未惟奈を倒した男子高校生が満を持して登場した」ことで起きたわけではない。
残念ながら、俺にそのような存在感はない。
この空手部員達のどよめきの原因は、世界スポーツ界の屈指の天才美人アスリート、“ウィリス未惟奈”の登場によるものだ。
この武道場にいたすべての空手部員が未惟奈の存在にざわついてしまった。
特に海南高校部員にとっては、ほとんどメディアでしか彼女を見たことはないはずで、その男子生徒の視線の熱気たるや尋常ではなかった。
道場内には我が北辰高校の空手部メンバーが10名、そして海南高校の空手部と思しきメンバーは30名程度いた。
あのように熱を帯びた海南高校の男子生徒の視線を感じてしまうと、わざわざ岩手の田舎の高校に押しかけてきた理由も、実はウィリス未惟奈に会いたいからじゃないか? などと邪推してしまう。
そして道場内に入ってすぐに気づいたことがある。
あまりデザインに違いがないはずの空手着を着ているにもかかわらず、北辰高校生と海南高校生の区別が一目でついた。
体型が違うのだ。
北辰高校の空手部だってそれなりのフィジカルトレーニングはしていると思うのだが、海南高校の“ガタイのよさ”と比較すると、明らかに北辰高校生の体つきが一回り小さい。
これだけ見ても、海南高校がランク的に北辰高校よりも頭一つ抜けていることが一目で知れてしまった。
まあ、一切フィジカルトレーニングをしていない俺がそれを言うなよって感じではあるのだが……
さて、ウィリス未惟奈の外見は今更だが、超がつく程の美形だ。
それは例えば最近バラエティー番組でも数多く見かけるハーフタレントと比較しても、ずば抜けている。
しかし、さっき海南高校の生徒達が起こしたどよめきの理由は、きっと未惟奈の“外見だけ”ではないように思えた。
彼女はこの道場に入るなり、全身から放たれた威圧感が半端ないのだ。
そう、俺が初めて未惟奈と会った、あの部活説明会で壇上にいた時と同じように。
未惟奈のどの感情がそうさせているのかは今のところ分からないのだが、少なくとも“平静”ではないということは確かなようだった。
俺たちが武道場に入ると、海南高校の大男達に交じっていた、唯一の女子学生風の一人が小走りにこちらに近づいてきた。
マネージャーだろうか?
彼女は俺たちの前に来るとすぐに深々と頭を下げた。
「こんなことになって申し訳ございません」
俺と未惟奈は“きょとん”としてしまったが、隣にいた吉野先輩が慌てて口を開いた。
「芹沢先生、めっそうもございません! 僕らはとてもいい経験をさせてもらっています!」
は? 先生だって?
女子高生ちゃうんかい?
長い黒髪を割とラフに束ねて、おそらくノーメイク。
それに普通の学校ジャージ姿だから遠目には女子高生にしか見えない。
しかし、よくよく見れば確かに大人の女性だ。
にしてもこの容姿は反則級だな。
すっかり吉野先輩もほほを赤らめてしまっている。
「ほんとすみません。うちの生徒が無理を言ってしまって」
確かに“お飾り顧問”であろうこの女性教師が、我の強い空手部員をコントロールするのは至難の業だ。
同情はするが、さすがに吉野先輩の“いい経験させてもらってます”と鼻の下を伸ばしている姿は看過できない。
「先輩? いい経験できてるなら、俺、必要ないですよね?」
意地悪で一言出てしまった。
俺が口を開いたことで、芹沢と名乗った顧問は視線を俺に向けた。
ん? なんだ?
俺は芹沢の視線に“違和感”を覚えた。
芹沢の視線が、ほんの僅かに上下に揺れたことを俺は見逃さなかった。
今、この一瞬で俺の身体をスキャンした。
俺は未惟奈に視線を合わせた。
すると……未惟奈は小さく頷いた。
つまり未惟奈も気づいたのだ。
この女性顧問──
素人ではない。
「あ、彼が神沼翔です」
俺と芹沢が目が合ったのを見て、吉野先輩が俺を紹介した。
「神沼翔です」
俺は表情を変えずに、軽く会釈をしつつ名前だけを口にした。
「あ、神沼翔さん……海南高校の空手部顧問をしています。芹沢薫子です。うちの部員が無理言って申し訳ございません」
芹沢は先ほどと同じように、また深く頭を下げた。
困り果てた顔をしているが、これが演技だったら……少し怖いものを感じる。
さっきの視線はそれを思わせるほどの鋭さがあった。
しかし、俺もそこまでされると何も言い返すことはできない。
「私はウィリス未惟奈。知ってるよね?」
未惟奈は相変わらずの不遜な態度で自分から名乗った。
さすがにこれには俺も苦笑した。
「ええ、もちろん知ってます。始めまして芹沢薫子です」
未惟奈は鋭い視線で、睨むように芹沢を見つめたが、芹沢は未惟奈の視線に臆することなく、張り付いたような笑顔で未惟奈を見つめた。
「神沼さん、いいのかしら?お相手してもらっても?」
芹沢はもう一度俺に視線を戻し、そうして確認を入れてきた。
遠慮しているようで、でも否定を許さないような絶妙な聞き方のような気がする。
まあ、俺もここまで来たからにはいまさら断るつもりはない。
「ええ、僕も学ばせていただきます」
少しだけ嫌味を込めて慇懃にそう応えた。
「ほんとごめんなさい」
* * *
俺たちは一旦芹沢と離れた。
俺は道場に入ってすぐ、海南高校の生徒の中にあって明らかに他の部員とは”違う”生徒の存在に気づいていた。
有栖天牙
その顔は雑誌や映像で良く知っているが実際に見るのは初めてだ。
第一印象は……予想以上に「でかい」ということだった。
身体の”厚み”がフィジカルのしっかりしている海南高校の部員と比較しても圧倒的だった。
その”厚さ”は高校生のレベルではなく全日本の常連クラスと大差はないように感じられた。
その有栖がこちらに歩み寄ってきた。
「まさかウィリス未惟奈さんまでお出ましとは驚いたな」
有栖の不遜なものいい。
未惟奈は露骨に不快な顔をし、視線を合わせることなく聞こえないフリをした。
この未惟奈の失礼極まりない態度に俺の方が慌ててしまった。
「お、おい未惟奈!!」
小声で促すとようやく未惟奈は、顔はそのままで視線だけを有栖に向けた。
「どちらさまですか?」
そう”のたまわった”未惟奈に今度こそ俺は絶句してしまった。
どちらさま?っておまえ対戦してるだろ?
なんだこの喧嘩の売り方は?
「あははは……随分嫌われてるみたいだな?」
有栖も余裕の笑みを崩すことはなくそう返した。
未惟奈のあのリアクションに全く動じないこの有栖のメンタルも相当なものだ。
「嫌う?嫌うほどあなたのこと意識もしていないんだけど?」
「未惟奈、いいかげんにしろよ?」
「翔?なに言ってんの?この人のせいで私は要らない記者会見まで開く羽目になったんだよ?」
あ~。なるほどな。
有栖が未惟奈を倒した高校生、つまり俺を探しまわってるということを止めるように釘をさすのが先日の未惟奈の記者会見の目的だ。
ここに具体例がちゃんといたのね。
「え、俺がなにをしたというのだ?この高校だって我々との交流稽古を喜んで承諾したんだぞ?」
有栖はしらじらしくもそう言った。
そしてここに来てようやく視線を”俺”に向けた。
「えっと、彼は?」
有栖は俺の頭の先から足の先まで一瞥すると、不思議そうに未惟奈に問いかけた。
俺は未惟奈が答える前に自分から声を出した。
「北辰高校一年の神沼翔です」
「神沼君?……君はなにをしにここに来たんだ?」
ほうほう、そうきたか。
俺がとても未惟奈に勝った男に見えないと。
まあそうだろうな。
さてどうしたものか?
俺から”未惟奈を倒した男子高校生です”と自信満々で名乗るなんて野暮なことは自意識過剰な俺が出来る訳もない。
そんなどうでもいいことで俺が言い澱んでいると、さっきから俺らのやり取りを心配そうに眺めていた吉野先輩が助け船を出してくれた。
「彼が部活説明会で未惟奈さんと対戦した男子生徒です」
「え?そうなのか?」
明らかに”信じられない”という程に顔を歪めて有栖は俺のことを見返した。
そしてもう一度俺の身体をマジマジと凝視する。
「なんか申し訳なかったな。俺の思い違いだったのか」
有栖は急にガッカリした顔でそんなことを言った。
しかしこのどよめきは、「未惟奈を倒した男子高校生が満を持して登場した」ことで起きたわけではない。
残念ながら、俺にそのような存在感はない。
この空手部員達のどよめきの原因は、世界スポーツ界の屈指の天才美人アスリート、“ウィリス未惟奈”の登場によるものだ。
この武道場にいたすべての空手部員が未惟奈の存在にざわついてしまった。
特に海南高校部員にとっては、ほとんどメディアでしか彼女を見たことはないはずで、その男子生徒の視線の熱気たるや尋常ではなかった。
道場内には我が北辰高校の空手部メンバーが10名、そして海南高校の空手部と思しきメンバーは30名程度いた。
あのように熱を帯びた海南高校の男子生徒の視線を感じてしまうと、わざわざ岩手の田舎の高校に押しかけてきた理由も、実はウィリス未惟奈に会いたいからじゃないか? などと邪推してしまう。
そして道場内に入ってすぐに気づいたことがある。
あまりデザインに違いがないはずの空手着を着ているにもかかわらず、北辰高校生と海南高校生の区別が一目でついた。
体型が違うのだ。
北辰高校の空手部だってそれなりのフィジカルトレーニングはしていると思うのだが、海南高校の“ガタイのよさ”と比較すると、明らかに北辰高校生の体つきが一回り小さい。
これだけ見ても、海南高校がランク的に北辰高校よりも頭一つ抜けていることが一目で知れてしまった。
まあ、一切フィジカルトレーニングをしていない俺がそれを言うなよって感じではあるのだが……
さて、ウィリス未惟奈の外見は今更だが、超がつく程の美形だ。
それは例えば最近バラエティー番組でも数多く見かけるハーフタレントと比較しても、ずば抜けている。
しかし、さっき海南高校の生徒達が起こしたどよめきの理由は、きっと未惟奈の“外見だけ”ではないように思えた。
彼女はこの道場に入るなり、全身から放たれた威圧感が半端ないのだ。
そう、俺が初めて未惟奈と会った、あの部活説明会で壇上にいた時と同じように。
未惟奈のどの感情がそうさせているのかは今のところ分からないのだが、少なくとも“平静”ではないということは確かなようだった。
俺たちが武道場に入ると、海南高校の大男達に交じっていた、唯一の女子学生風の一人が小走りにこちらに近づいてきた。
マネージャーだろうか?
彼女は俺たちの前に来るとすぐに深々と頭を下げた。
「こんなことになって申し訳ございません」
俺と未惟奈は“きょとん”としてしまったが、隣にいた吉野先輩が慌てて口を開いた。
「芹沢先生、めっそうもございません! 僕らはとてもいい経験をさせてもらっています!」
は? 先生だって?
女子高生ちゃうんかい?
長い黒髪を割とラフに束ねて、おそらくノーメイク。
それに普通の学校ジャージ姿だから遠目には女子高生にしか見えない。
しかし、よくよく見れば確かに大人の女性だ。
にしてもこの容姿は反則級だな。
すっかり吉野先輩もほほを赤らめてしまっている。
「ほんとすみません。うちの生徒が無理を言ってしまって」
確かに“お飾り顧問”であろうこの女性教師が、我の強い空手部員をコントロールするのは至難の業だ。
同情はするが、さすがに吉野先輩の“いい経験させてもらってます”と鼻の下を伸ばしている姿は看過できない。
「先輩? いい経験できてるなら、俺、必要ないですよね?」
意地悪で一言出てしまった。
俺が口を開いたことで、芹沢と名乗った顧問は視線を俺に向けた。
ん? なんだ?
俺は芹沢の視線に“違和感”を覚えた。
芹沢の視線が、ほんの僅かに上下に揺れたことを俺は見逃さなかった。
今、この一瞬で俺の身体をスキャンした。
俺は未惟奈に視線を合わせた。
すると……未惟奈は小さく頷いた。
つまり未惟奈も気づいたのだ。
この女性顧問──
素人ではない。
「あ、彼が神沼翔です」
俺と芹沢が目が合ったのを見て、吉野先輩が俺を紹介した。
「神沼翔です」
俺は表情を変えずに、軽く会釈をしつつ名前だけを口にした。
「あ、神沼翔さん……海南高校の空手部顧問をしています。芹沢薫子です。うちの部員が無理言って申し訳ございません」
芹沢は先ほどと同じように、また深く頭を下げた。
困り果てた顔をしているが、これが演技だったら……少し怖いものを感じる。
さっきの視線はそれを思わせるほどの鋭さがあった。
しかし、俺もそこまでされると何も言い返すことはできない。
「私はウィリス未惟奈。知ってるよね?」
未惟奈は相変わらずの不遜な態度で自分から名乗った。
さすがにこれには俺も苦笑した。
「ええ、もちろん知ってます。始めまして芹沢薫子です」
未惟奈は鋭い視線で、睨むように芹沢を見つめたが、芹沢は未惟奈の視線に臆することなく、張り付いたような笑顔で未惟奈を見つめた。
「神沼さん、いいのかしら?お相手してもらっても?」
芹沢はもう一度俺に視線を戻し、そうして確認を入れてきた。
遠慮しているようで、でも否定を許さないような絶妙な聞き方のような気がする。
まあ、俺もここまで来たからにはいまさら断るつもりはない。
「ええ、僕も学ばせていただきます」
少しだけ嫌味を込めて慇懃にそう応えた。
「ほんとごめんなさい」
* * *
俺たちは一旦芹沢と離れた。
俺は道場に入ってすぐ、海南高校の生徒の中にあって明らかに他の部員とは”違う”生徒の存在に気づいていた。
有栖天牙
その顔は雑誌や映像で良く知っているが実際に見るのは初めてだ。
第一印象は……予想以上に「でかい」ということだった。
身体の”厚み”がフィジカルのしっかりしている海南高校の部員と比較しても圧倒的だった。
その”厚さ”は高校生のレベルではなく全日本の常連クラスと大差はないように感じられた。
その有栖がこちらに歩み寄ってきた。
「まさかウィリス未惟奈さんまでお出ましとは驚いたな」
有栖の不遜なものいい。
未惟奈は露骨に不快な顔をし、視線を合わせることなく聞こえないフリをした。
この未惟奈の失礼極まりない態度に俺の方が慌ててしまった。
「お、おい未惟奈!!」
小声で促すとようやく未惟奈は、顔はそのままで視線だけを有栖に向けた。
「どちらさまですか?」
そう”のたまわった”未惟奈に今度こそ俺は絶句してしまった。
どちらさま?っておまえ対戦してるだろ?
なんだこの喧嘩の売り方は?
「あははは……随分嫌われてるみたいだな?」
有栖も余裕の笑みを崩すことはなくそう返した。
未惟奈のあのリアクションに全く動じないこの有栖のメンタルも相当なものだ。
「嫌う?嫌うほどあなたのこと意識もしていないんだけど?」
「未惟奈、いいかげんにしろよ?」
「翔?なに言ってんの?この人のせいで私は要らない記者会見まで開く羽目になったんだよ?」
あ~。なるほどな。
有栖が未惟奈を倒した高校生、つまり俺を探しまわってるということを止めるように釘をさすのが先日の未惟奈の記者会見の目的だ。
ここに具体例がちゃんといたのね。
「え、俺がなにをしたというのだ?この高校だって我々との交流稽古を喜んで承諾したんだぞ?」
有栖はしらじらしくもそう言った。
そしてここに来てようやく視線を”俺”に向けた。
「えっと、彼は?」
有栖は俺の頭の先から足の先まで一瞥すると、不思議そうに未惟奈に問いかけた。
俺は未惟奈が答える前に自分から声を出した。
「北辰高校一年の神沼翔です」
「神沼君?……君はなにをしにここに来たんだ?」
ほうほう、そうきたか。
俺がとても未惟奈に勝った男に見えないと。
まあそうだろうな。
さてどうしたものか?
俺から”未惟奈を倒した男子高校生です”と自信満々で名乗るなんて野暮なことは自意識過剰な俺が出来る訳もない。
そんなどうでもいいことで俺が言い澱んでいると、さっきから俺らのやり取りを心配そうに眺めていた吉野先輩が助け船を出してくれた。
「彼が部活説明会で未惟奈さんと対戦した男子生徒です」
「え?そうなのか?」
明らかに”信じられない”という程に顔を歪めて有栖は俺のことを見返した。
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