【天才アスリート少女】普通男子と天才少女の物語【普通男子の武道家】

里見 亮和

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想定外な未惟奈

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 浮かない表情で”化粧室に行く”とスタジオを後にしていた未惟奈がようやく戻ってきた。

 俺は小走りで入口付近まで行って、出迎えるように未惟奈に声をかけた。

「未惟奈?大丈夫か?」

「え?なんで?」

「いや、なんでって……様子おかしいだろ?」

「いつも通りよ……大丈夫だから。……ごめんね、後にして」

 そう応えた未惟奈の声がやや”鼻声”だったとこと、目の周りがほんのり赤みを帯びていた。おそらく未惟奈は化粧室で涙を流していたに違いなかった。

 俺は未惟奈らしからぬ、その態度に激しく動揺してしまった。

 感情の起伏が激しい未惟奈だから涙もろいところもあることは知っている。

 例えば俺が有栖と対戦た時も涙を浮かべていた。

 しかし今回のそれはちょっと今までとはどこか違う。

 それに”ごめんね”なんて殊勝な態度をとるなんて、それこそ”らしくない”のだ。

「そ、そうか、わかった」

 咄嗟に俺はそう返すしかなかった。

 そして未惟奈は目も合わせずに俺を素通りしてウィリス父の方へ行ってしまった。

 未惟奈はいったいどうしたというのだ?俺と伊波が抱き合っていたからなんて暢気な理由ではないことくらいは俺にも分かっているのだが、その先は分からない。

「もうできるのか?」

 ウィリス父は未惟奈の”落ち込み”には気づいているはずだが、そんな様子は微塵も見せずただ未惟奈にそれだけを伝えた。

 未惟奈が戻ると、こちらもまた体育座りで落ち込んでいた伊波が気持ちを切り替えるように”ダンッ”と勢いよく立ち上がり、未惟奈とウィリス父のいるそばまで近づいて来た。

「伊波さんは、もう少し時間とった方がいいかな?」

 今俺との対戦を終えたばかりの伊波に対してウィリス父は伊波の体力的な回復を気にかけてそんな言葉をかけた。

 しかし伊波は不思議そうに首をかしげて応えた。

「え?たった2分ですよ?回復もなにも、全く疲労なんかしてませんよ?」

「まあ、伊波さんクラスならそうだろうな……じゃあ、すぐに始められる?」

「ええ、いつでも大丈夫です」

 伊波は俺に見せた悔しさに歪んだ顔はもうそこにはなく、明るい少女の顔になっていた。

「ルールは翔君との対戦と同じでいいのかな?」

「私は構わないわよ」

 まずは未惟奈が応えた。

「私もそれでいいです」

 伊波も頷きながら同意する。

 さて、これからがメインイベントということか。

 でも未惟奈の実力を一番よく知る俺からすれば、この勝負はやらずとも見えている。

 未惟奈がいつも通り電光石火の一撃を放てば、それが蹴りであろうと突きであろうと伊波にヒットすればそれで終わりだ。

 未惟奈の攻撃をまともに”食らえ”ば、ムエタイでタフな試合に慣れている伊波をしても、また顔面にファイスガードをしていようとも未惟奈の一撃で沈められるのは避けられない。

 未惟奈の攻撃はそれくらい危険なのだ。

 伊波は未惟奈の攻撃がどれほど危険なのかも承知で、今日はわざわざ未惟奈に会いに来ているのだと俺は予想している。

 しかし今、目の前にいる伊波は未惟奈を「恐れる」という態度を一切見せずむしろ好戦的で楽しんでいるようにすらみえる。

 まさかと思うが、伊波の中でも何か「勝算」があるとでもいうのだろうか?

 いよいよ二人はスタジオの中央で向かい合った。

 流石に俺の身体にも緊張が漲り、一瞬武者震いがした。

「でははじめ!」

 ウィリス父の声がスタジオに響いた。

 未惟奈が仕掛ければ一瞬で終わる。

 しかし……

 目の前の風景は、そういうことにはならなかった。

「え!?」

 さすがの俺も驚きのあまり、思わず声がもれてしまった。

 未惟奈は、いつものように開始早々光速移動して一撃を放つことはせずに、なんと俺と同じ構えをとったのだ。

 この意外過ぎる未惟奈の反応に、対面する伊波もフェスガード越しにその驚きの表情がはっきりと読み取れた。

 しかしただ一人、俺の隣でタイムキーパーをしているウィリス父だけはまるでこの光景を想像していたかのようにニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。

 俺と同じ構えをとるということは、積極的に自分から攻撃を仕掛けるのではなく相手の攻撃を捌いてカウンターを返すという戦い方になる。

 だから未惟奈が圧倒的に得意とする相手が攻撃する前に自分の光速攻撃を当ててしまうのとはまさに真逆の戦法だ。

 俺から曲がりなりにも空手の指導を受けている未惟奈が、師匠である俺と同じ構えを取ることは、普通なら別に不思議はない。

 むしろ弟子と言うのは完全コピーまでいかないまでも、師匠と近しい戦い方になることが多い。

 ただ俺と未惟奈の師弟関係はちょっと性質が違う。

 未惟奈に押し切られる形でスタートした未惟奈への空手の指導。その練習の中心は「自由組手」である。

 すでに十分すぎる程に戦法が完成している未惟奈に基礎から教えるようなことはしていないし、その必要性も感じてはいなかったからだ。

 だから俺と全く違ったスタイルの未惟奈に俺の戦い方を一から教えるような”やぼなこと”なんて無論やっていない。そんなことをしたら未惟奈のストロングポイントを生かせない空手を押し付けることになってしまうのだから。

 ではなんで未惟奈は教えてもいない俺のスタイルをやろうとしているのか?

 すくなくとも、今未惟奈がやっているのは俺の「見よう見まね」だ。教えていない俺が言うのだから間違いがない。

 それはさすがに無謀にもほどがあるだろう?

 第一、自分がやったことすらない戦法で戦おうなんて、全力で勝負しようとしている相手にだって失礼だ。

 伊波もどうやらこの状況を理解したらしく驚きの表情がすでに怒りの表情に変わりつつある。

 未惟奈はやはり伊波をなめているのか?

 伊波を失神させるようなことをしないための未惟奈なりの配慮なのか?

 未惟奈の真意はまだわかないが、もしかして俺の対戦の後に見せた未惟奈の不可解なリアクションが何か関係しているのだろうか?

 俺は未惟奈のこの予想外のやり方に全くこの対戦の予測がつかなくなってしまった。
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