オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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七章 ※

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結局二人で四合も使って食べてしまった。
玄二も大きな背丈を縮こませてネギとかハムを切ってくれたり、卵を溶いてくれたりしてくれて、それがとても楽しくなって調子に乗ってしまったのもある、かな。
片手間に作った鶏ガラスープも、デザートに食ったプリンも玄二はみんな喜んでくれた。美味しそうに食っている玄二の顔を見ていると、オレも自然と食欲がわいてきてスプーンが進んだ。
歯を磨いて、一緒に皿洗いをしてから風呂が沸くまで一緒にテレビを見る。いつも恋白にチャンネルを譲っているから今まで知らなかったが、玄二は太平洋の自然特集のドキュメンタリーを熱心に見ていた。彼曰く、海の生き物が好きらしい。

「海ってすごいよな……ゴミだらけですげえ汚れてたりする海でも、澄み切ったリゾート地のキラキラした海でも、みんな同じ一つで繋がってるんだもんな。そこには沢山の生き物が住んでて、なんていうか、別世界って感じ」
「深いこと言うな。つか玄二だったら学者とかにもなりそう。海洋生物学、とかなんとかいうの。玄二頭いいしさ」
「……でも、学者って、なるのにも金掛かるじゃん。そういう研究するってことはなにかしらのノルマ課されるし、金が稼げるってわけでもないし」

うーん。さすが頭が切れる玄二だ。まだガキなのにそこまで考えられるなんて。
頭が切れて物事を賢く考えられるのもあるけど、今までの環境のせいなのもあるよな。虐待してくる両親は兄妹にろくに食事も与えなかったし、経済面でも苦労したのだろう。この時期の歳頃の子供には珍しく、将来の夢よりも金のことばかり気にするのはそのせいだろう。

「なりたいって思ってたら、そういうの支援してくれるとこもあるらしいぜ? 玄二だったら誰にも気に入られるよ」
「支援……か」

玄二は首を傾げて、何か思い詰めているような顔をする。
今はゆっくり悩めばいい。もう将来を脅かす両親はいないんだから。もし新たにそんな人間が出てきたらオレが絶対に許さないし、オレが潮として傷つけることになったら……その時のことも決めないとな。

風呂から出ていくと、敷かれた布団の上で座っていた玄二が「お帰り」という。

「ドライヤー、ありがと。次、兄貴の髪も乾かすからこっち来て」
「おう。ありがとな」

オレは玄二に背中を向けて座り、肩に掛けたタオルを外した。
玄二の長い指が丁寧にオレの髪をとかしながらドライヤーの温風を当てる。昼に男達にあれだけの暴力を振るっていたとは思えない、優しい手付きだ。
恋白にやっていて慣れているのだろう。本当にいいお兄ちゃんだな……
髪が乾くと、持って来たのであろうヘアオイルをつけてくれた。しかも高級な美容院でするようなヘッドマッサージまでしてくれた。頭皮を揉まれると、じわじわと体が温かくなって、緊張がほぐれていく気がする。

「ありがとな……めっちゃ気持ちよかった」
「よかった。兄貴にそう言って貰えて嬉しい」

振り返って見てみると、玄二は歯を見せて屈託のない笑顔を見せる。
その笑顔は年相応に子供らしくてほっとする。
そんな笑みを見ると、居ても立っても居られずに彼の頭に手を伸ばす。

「無理はするなよ、玄二」

紫色の髪を優しく撫でる。
きっと今まで誰もしたことないだろう。玄二がオレにしてくれたように、慎重に、教え込むように触れる。
このままでいいんだ。これからの不安はあるが、本編の時のような悲劇は起きていない。
だから、このまま玄二には健やかに過ごして欲しい。
オレが世界で誰より幸せになってほしいと思った人なのだから。

「オレはいつでもお前の味方だからさ」

まだ自信はないけれど、頼ってくれた時は出来る限りのことはする。
あの日、兄貴になるといって誓った時からそうするつもりだ。
玄二は金色の瞳の視線を床に落として、唇を噤んで何とも言えないような表情をしていた。

「じゃあ、さ」

小さな声でそういうと、頭に置かれたオレの手に自分の手を重ねた。
そこからオレの顔を覗き込んできた。何かお願いがあるのか、少し頬を赤らめている。

「兄貴はオレの気持ちも、受け入れてくれるよな?」
「気持ち?」

そう聞き返す前に、オレの世界が反転する。
ぐるりと世界が回ると、目線の先にはオレの部屋の天井があった。
自分の身に何が起こっているのか理解出来ずに戸惑っていると、下半身に違和感を感じる。スウェットのズボンがもぞもぞと動いて、何かがオレの下腹部に入ってくる。
本能的な危機感から視線を下に送ると、とんでもないものがあった。

「なにしてんだ玄二!」

思わず声が上擦る。
あってはいけない光景だ。
だって、あの阿古屋玄二が……オレのパンツを下ろしている!
AV女優とかがやるように、オレに目線を向けながらオレのペニスに頬ずりしていた。風呂に入って来たばかりの洗い立てで、敏感になってるそこに触れられると腰がビクンと跳ねる。前世含めて女性経験がないオレには、あまりに刺激が強い。いやそれ以前に理解が出来ない。

「げんじ、なにして」

やっと出てきたのは、そんな間抜けな声だった。
オレの声が聞こえなかったのか、玄二は嬉しそうに目を細めてペニスの根元を掴む。ぞわりと背中が震える。ペニスは刺激に合わせてびく、びくと揺れるが勃起するまでにはならない。
玄二はそれに焦っているようで、必死に手を上下させている。
その度にまるで首を絞められているかのような、息苦しさを感じてしまう。玄二の端正な唇から漏れる吐息が触れると、熱くて恐怖する。
これが、快楽なのか? こんな刺激が気持ちいいものなのか?
オレより体格のいい玄二の手はオレのそれよりも大きい。その長く、無骨過ぎない男らしい手がオレのペニスを掴んで、立たせる。
そして彼は、口を開けその先に近づける。

いけない。こんな事はいけない。

「離れろ玄二!」

気付けば玄二の肩を掴んで、そう怒鳴っていた。
玄二が体を震わせながら手を離したのを見逃さず、ズボンを上げる。
全部夢だ。そういう事にしよう。
バクバクとうるさい心臓をそう思い込ませて鎮めて、玄二の方を振り返る。
玄二は、ただ何も言わず布団の上に座り込んでいるままだった。唇は言葉もなく動いて、普段は意志の強く鋭い瞳が揺らいでいた。

「あにき、オレ」
「大丈夫……オレ、気にしない。忘れるから」

これはきっと、バグか何かなんだろう。
そうじゃなければするはずない。あの阿古屋玄二が、あんなことを。

「ごめん……オレ、喜んで欲しくて……」
「玄二」
「ガキの時、こうすれば大人は喜んでくれたから……だから、兄貴も……って」
「え」

その先を聞きたくない。体が冷えているのに、再び動悸が激しくなる。
だが玄二は、堪え切れないように言葉を続けた。

「あいつらの機嫌が特に悪かったときがあって……家にも帰れなくて、恋白と一緒にホームレスみたいな生活しててさ……真冬に、だぜ? そんなとき、さ、おじさんに出会ってさ、家、住まわせてくれたんだ……あったかくて、しばらくは幸せに過ごせてた。ご飯もいっぱい出てきて……おじさんは、オレたちにとって、神様に見えたよ」
「それって」
「だから、あの人のいう事はなんでも正しいって思えた……そこを口で舐められるのが気持ちいいって、相手を悦ばせることだって……そう言われたから。次のこと教えるっていう前に、金渡されて追い出されたけど」

真っ当な愛情がなんなのか知らないまま、玄二は歪められた。
弱みに付け込まれて、貪られた。
真っ当な触れ合いの過程をすっとばして、搾取されるだけの為の知識と技術を教え込まれたんだ。
怒りで手が震えるのを抑える事が出来ない。

「あ……?」

玄二は不思議そうに自分の掌を見ていた。
そこには自分の目から零れた雫がぽたぽたと落ちていった。

「なんでオレ、泣いて……? こんなの、ずっと、なかったのに」
「玄二……?」
「あいつらといた時からずっとこんな惨めな、真似、しなかったのに……なんで」

泣いている姿をオレに見られまいと手で顔を覆う。まるでそれが暴力を恐れる子供のようで、ひどく痛い痛しい。
小さな男の子が暴力の嵐の中で妹を守り、自分に泣くことすら許さず、それがなんなのか知ることもなく歪んだ性知識を教え込まれた。そんなことが許されるはずがない。阿古屋玄二のような、素晴らしい人間が。

「あにき……嫌いに、ならないで」

蚊の鳴くような、窓の外の風にすら掻き消されそうな声で、玄二は懇願する。

瞬間、オレの体は玄二の元に飛び出していた。
両手で玄二の頭を抱きしめると、自分の胸の中に閉じ込めた。その涙を誰にも見せずにオレ一人で受け止めるように。

――つらかったな。もう大丈夫だ。
――オレがもっと早く玄二と出会えていたらそんな目に合わせなかったのに。
――これからはオレの胸で泣けばいい。

こういう時に言うべき台詞を考えてはいるが、そのどれもが喉につかえて出てこない。
分かってる。それはオレが玄二を受け止めるだけの器にないということの証左だ。所詮は、ただ玄二に憧れただけの、必死になって駆けずり回る愚かな男の一人でしかない。
胸に響く玄二の嗚咽が、震えが伝わるたびにオレまで泣きたくなってくる。そんな情けない男なんだ。

それからどれくらいの時間が経っただろうか。
気付けば二人、そのまま朝まで眠っていた。
朝起きると、オレたちはごく普通に過ごした。「ごめん」も「ありがとう」もなく、普通に顔を洗って、着替えて、朝食を食べて、それから別れた。

「じゃあ、またな」
「……うん」

そして全てを無かったことにして、オレは家に戻った。

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