オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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十八章

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名残り惜しくはあるがバッグのある玄二の部屋で帰宅の準備をしていた。
するとふと、玄二のベッドのシーツが昨晩のものと違うと気づいた。

「シーツ、代えてあるんだな」
「うん。兄貴が寝てる間に洗濯した。どうせ寝るなら新しいのが兄貴にもいいと思ってさ。あ、ゴムはちゃんと中が見えない袋の中に入れて捨てといたからな。恋白も見えないようにしてる。だから安心して」

なんつう気遣いをしてくれるんだ。
可愛い癖にスパダリのイケメン過ぎないか?

「それでさ、兄貴。ゴムとローションだけど」
「うん、どした?」
「よかったら、この部屋に置いとかない? また、スるかもしんねえし。兄貴の部屋でする時は、オレが用意するから」

爽やかにとんでもないこと言うな。
でも、確かに母さんに見つかったら気まずいからな。思春期の息子の性関係なんて知りたくないよな、真っ当な親なら。

「な、頼むよ。絶対バレないとこに隠すから」
「ああ……じゃ、それで頼むわ」
「ふふ。ありがと」

そして玄二がオレにキスをしようとしたその時、玄関から声がした。

「おにいただいま~。あ、うし兄まだいるんだ」

その声がした瞬間、オレらの距離は一気に開いた。
快活で可愛らしい声の持ち主は、玄二の妹の恋白だ。

玄二と二人で階段を降りると、真向かいにある限界に立つ少女を出迎える。
彼女は豊かな栗色の髪をお下げに結び、玄二と同じ金色の瞳をしていた。

「おかえり恋白、早かったな」
「恋白、おかえり」

オレら二人を見ると恋白は「そういう事か」とニコリと微笑んだ。

「お邪魔しちゃってごめんね。色々あって早めに帰る事にしたの」
「トラブルか? 言えよ。おにいが何とかしてやるから」
「そんな必死になることないってば」

心配している玄二をなだめ、恋白は玄関を上がってリビングに向かう。

「あ! カレーだ! お母さんのカレーと同じ匂いする!」
「玄二兄ちゃんが恋白の為に作ったんだぜ? いい兄ちゃんだよな」
「兄貴だって一緒に作っただろ? 今夜はたっぷり味わえよ、恋白。オレと兄貴の自信作だからな」
「ほんっとおにいはうし兄大好きだね~」

満面の笑みを浮かべる恋白に、感慨が深くなる。
あの日玄二の背で怯えていた少女がこんなに明るく、友達とも仲良くしているのを思うと涙が出てきそうになるほど感動する。
恋白が荷物を置いてリビングに座ると、玄二は彼女に質問した。

「そういや、色々あったってなんなんだ? 喧嘩か?」
「うーん。違うの。なんか、『クライシス』じゃない変な不良が映画館の近くで暴れてて、それで友達が怖がっちゃって映画いけなくなったんだよね」
「あ? あの辺りにそんな奴らが……名前わかるか?」
「それはわかんない。でもロクな連中じゃないよ。私たちにも突っかかって来たんだもん……直接暴力は受けてないけど、気を付けた方がいいかも」
「そっか。それは、怖かったな、恋白」

暴力に怯えていたはずなのに、友達を庇うようになったのか。
そんな彼女の為にもその不良を始末しなくてはならない。ミキたちにも報告しなくては。

「後は『クライシス』に任せてくれ。大丈夫オレらなら何とかするから」
「ありがとね。うし兄! おにいもいるから安心だよ」

そこで恋白は「そうだ」と言った。

「うし兄一緒に晩御飯食べよ? お家の味と一緒かどうかジャッジして欲しいな」
「あ~……そうしたいけど、母さんに悪いし帰るよ。夕飯準備してるかもしれないし」
「そっかあ……ざんねぇん」

シュンと視線を下に向ける恋白の頭を撫でて、玄二は「それはまた今度な」と言った。

「じゃ、オレはこれで行くわ」
「うん、じゃあね、うし兄」
「玄関まで送ってくよ。ちょっと待ってな。恋白」

荷物を持ったままオレと玄二は玄関の方に向かう。
靴を履いて振り返った時、唇に温かいものが触れた。
目の前に玄二の顔があった。
いたずらが成功した、と言わんばかりの笑みを浮かべ玄二はそっと身を離す。

「じゃ、また今度な」
「あ、ああ……」

手を振る玄二に見送られ、オレは外に出た。

こんな幸せがあっていいのか?
なんか体も心もふわふわして、夢の中にいるみたいだ。
ふと、手の甲をつねってみた。痛い。ああ、これは夢じゃないんだ。

「最高かよ……」

ずっとこの甘ったるい気持ちに浸っていたい。
この幸せを守りたい。
キスの感触を思い出すように指で唇に触れる。
このまま何事もなくみんな幸せになって欲しい。



 ※



連休明け初日の集会。
真剣な眼差しをしたカズがまず口を開いた。

「玄二と潮から聞いた映画館近くで暴れてた不良だが、オレたち一番隊でシめにいったところその正体がわかった」

カズは相変わらず行動が早い。
カズはある腕章をみんなに見えるように掲げる。

「え」

その腕章を見て、オレの心臓が高鳴る。
嘘だ、そんなわけがない。
だって、それを作った人間はもういないんだ。

黒地に白の逆さ十字。

カズはその腕章を手に持って続ける。

「奴らはこう名乗っていた――『ゲヘナ』と」

『ゲヘナ』
『血と涙と太陽』にて阿古屋玄二が作った犯罪グループ。
――多くの人間を地獄に落とす。それを目的にして。
妹という希望を失った、あの日の自分のように。

だが『ゲヘナ』はもういない。
圧倒的頭脳とカリスマ性でグループを導いた玄二は今、オレの隣に、『クライシス』にいる。
なのにどうして、『ゲヘナ』が立ち上がったんだ……?


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