オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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十七章

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店の中はハワイアンをモチーフにした南国調で、明るい色調とウクレレのBGMでここにいるだけで気分が軽くなるようだ。
オレの予想通り人はまだまばらで、ゆっくりと堪能できそうだ。
店員に導かれるままに席に座るとテーブルの上でメニューを広げる。

「あ! 期間限定のマンゴーだって。豪華だな……ソースだけじゃなくてちゃんと本物のマンゴーも乗ってる」
「いいじゃん」
「でもさ、チョコバナナも気になってんだよな……定番だけど、すっげーうまいし」
「もう二枚頼んじゃえば?」
「いつもならそれでもイケるんだけど、今日は、そのお腹がいっぱいで」
「あ……」

まあ、確かに。内臓を押し上げるようなことしちゃったからな。いつもより胃が小さくなってもしょうがねえか。

「じゃ、オレがチョコバナナにすっからお前はマンゴーにしたら、そしたら半分こ出来るじゃん」
「兄貴と? ……へへ。なんか特別って感じだな」

食べさせ合いなんて恋白とよくやってたのに、赤らんだ顔でそういう玄二にオレまでドキドキしてくる。

「そんなに特別な事か?」
「だって初めてじゃね? 恋人としてこの店に来るのって。だから特別だろ」
「まあ、そう、だな」

改めてそう言われると、まじで照れるな。

注文を通し、待っている間テーブルの下でこっそりと手を繋いだ。
玄二の大きく長い指がオレの手を愛おしそうに撫でる。
温かくくすぐったい感触に、オレはその指を優しく握った。
玄二はさっきオレを恋人だって褒めてくれた。だったらオレだって玄二に伝えないと。

「玄二」
「なに?」
「オレのこと、カッコいいって言ってくれてありがとな。オレにとっても玄二は大事で可愛い恋人だ」

は、うっかり可愛いなんて言ってしまった。男にいう事じゃねえのはわかってるが、だって本当のことだしな。
でも玄二はそう言われても嬉しそうに笑うだけだ。

「嬉しい」

呟いたその声は囁きのように小さく、遠くの雑踏の音にかき消されそうだった。
甘いもの食う前だっていうのに、甘く浮ついた気持ちになっていく。

しばらくして香ばしいバターの薫りと共に二皿のパンケーキが運ばれてきた。
山盛りのクリームの上に。鮮やかに熟したマンゴーの果肉がゴロゴロと乗っかったパンケーキを前に、玄二の瞳はいつもより輝きを増していた。
オレもチョコバナナパンケーキを前に手を合わせる。

「じゃ、いただきます」
「うん、いただきます」

オレを真似て手を合わせ、パンケーキを切り取って食べる。
昔を思い出すと、出会ったばっかの玄二たちは「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶もしなかったし、箸もまともに持てなかったな。母さんと一緒に色々と教えてあげたっけ。
感慨深くなりながら、オレもバナナを乗っけたパンケーキを口にする。
濃厚でそれでいて甘すぎないチョコレートソースは、バナナにもパンケーキにもよく合った。オレも玄二も恋白も好きな味で、定番の一品だ。

「玄二。そっちのマンゴーのはどう?」
「やっぱ、っ、すごく美味い。甘いのにさっぱりしてて、果肉もすげーいいんだ。ほら、兄貴も食べてみて」

そういって満面の笑みを見せた玄二は、自分の皿をこちらに渡す。オレの彼のものと交換し、マンゴーパンケーキを堪能する。
まるまる一ページ使って宣伝しているのに恥じない味だ。キューブ状の果肉を一つ頬張るとじゅわっと甘酸っぱい汁が溢れてくる。パンケーキやクリームとの相性も抜群で、気をつけないと一気に食べてしまえそうだ。

「ホントだ。美味いな、コレ」
「だろ? チョコバナナも定番だけどフルーツもいいよな。ずっと置いてて欲しい」
「そしたらずっと悩んじゃわない? チョコバナナかマンゴーかってさ」
「その時はまた兄貴と半分こするよ」
「お前ぇ~」

……どんなスイーツより甘いセリフ言って来やがって。本当に可愛いなあ!

どこまでも甘く幸せなブランチを終え、アイスコーヒーを飲んでいると次にどうするかという話題になった。

「でさ、どっか寄りたい店とかある?」
「店か……今対して欲しいもんはないな。服は前に買ったし、パソコン関係も問題ない……あ」
「どうした?」
「卵とウインナー使っちゃったから買い足してえな。あとうち恋白が帰る時疲れてるだろうし何か作ってやりてえ。カレーなら作れるからさ」
「いいお兄ちゃんだなぁ。じゃ、スーパー行って帰りでいい?」
「うん」

ニコっと眩しい笑みで頷く玄二。
どんな時でも家族を思ってやれるお兄ちゃん。でも、もっとオレに甘えて、わがままを言って欲しいな。
会計を済ませ、スーパーへと向かった。

「玄二の家は、何カレー? 豚肉派とか牛肉派とかあるじゃん」
「鶏肉だよ。兄貴の家と一緒。ジャガイモに人参に玉ねぎ、それと隠し味に甘めのヨーグルトが入ったやつ」
「……そっか」

玄二にとってはオレの家の味が家庭の味なんだ。
それだけ玄二の中ではオレの存在が大きいんだと思うと、思わず頬が緩んでしまう。

「なんかホント、玄二にとってオレって大きい存在なんだな」
「そうだぜ? 大好きだからな、兄貴のこと」

こいつまた人前でなんてこと……
そう言いたいのに嬉しさの方が大きくてまた叱るタイミングを逃した。
野菜と肉類のコーナーで求めている品をカゴに入れて、次は乳製品の方へ向かう。たしかそこの近くには卵も置いてあったよな。
かくして求めた品たちを全て手に入れ、レジの方に向かった。

荷物は多くなったが、帰路は楽しいものだった。
重いビニール袋を一緒に持っている、という体で公の場で手を繋げたのだ。玄二の顔も行きの時以上にウキウキとしていた。
家に帰ると、リビングにずっしりとした袋を置いて素材が痛まぬように冷蔵庫に入れる。
手を洗い終わった玄二は米びつからザルへと米を運んでいた。

「忘れないうちにご飯炊くわ」
「じゃ、オレ、その間に風呂洗っとくよ」
「え? そんないいよ、悪いって」
「いいのいいの。それくらいうちでも毎日やってるし。この家じゃ二回も入っちゃったし、一宿一飯の恩返しってやつだよ」

一宿一飯だけじゃすまないものを玄二から貰ってるんだけどな。
少し戸惑ったが、玄二は次に笑顔で「お願いします」と頭を下げた。
風呂場の隅っこに置かれた風呂用洗剤とスポンジを取り出し、オレはいつも家でやるよりも念入りに磨き上げた。
泡を洗い流すと、服を整えて入念に手を洗ったあとでリビングに向かう。

「風呂掃除終わったー」
「ありがとな、兄貴。早ぇな」

そう言ってこちらを向く玄二は、野菜を並べているところだった。

「もう夕飯の準備してんの?」
「うん。ほら、カレーって煮込めば煮込むほど美味いっていうだろ? だから早いうちに作ってうまみを引き出したくてさ」

うーん。さすが玄二だ。こだわりがあるな。

「じゃ、手伝うよ。一緒にやった方が早く作れるだろ?」
「マジ!? ほんっとカッコいいなぁ、兄貴は」

そんな可愛い笑顔を見せられたなんだってしてやるに決まってんだろ。
玄二の剥いた玉ねぎを、オレが切る。その間に玄二はジャガイモと人参を洗って皮を剥く。そしてそれをオレが切る。そんな共同作業を繰り返すうちに、あっという間に鍋の中にカレーの具材が入っていった。ここに水を入れて煮込み、後は隠し味のヨーグルトとルーを入れて更に煮込んで完成となる。
玄二はヨーグルトの容器をオレに向ける。それは母さんがよく食べているものであり、カレーの隠し味に使うのと同じものであった。

「これでお母さんのと同じ味になるかなぁ」
「ならなくってもオレはいいよ? 玄二の料理だし、どっちも好きになるよ」
「なんでそんなにオレの心を掴むようなこと言うんだよ。ほんっとイケメンだな。兄貴がモテなくて良かった……」
「さらっと酷い事いってねえ?」

まあ事実だし、もしモテたとしても恋人がいるし困るんだけどさ。

なんやかんやでカレーは完成し、十分ほど煮込んだら火を止めて寝かせることにした。
昼はパンケーキで腹が膨れたから軽いものでいいと、栄養には悪いがお互いにカップ麺となった。こういう食生活が許されるのも若さの特権だよなぁ……
同じ大盛サイズのカップラーメンで、オレは塩味、玄二は醤油味を選んだ。
三分待って、オレたちは昼飯とした。

「兄貴。これも交換する?」
「ン……じゃあ、一口だけ」
「うん。わかった」

そういうと、玄二は自分のカップ麺を持ってオレの隣に座った。
そして麺を箸で持つと、それをオレの口の前まで運んだ。

「はい、どーぞ。早くしないと垂れちゃうぜ?」

あーんとか、怪我をしたときぶりだ。
今は誰の目もないお陰ですんなりと受け入れられ、オレは口を開いて醤油風味のそれを受け入れた。

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