オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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ゲヘナ編

十九章

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オレは混乱している。
『ゲヘナ』を作り、その圧倒的な才能で組織を大きくした阿古屋玄二。
彼は今、闇落ちすることなく『クライシス』のメンバーとなっている。
なのにどうして『ゲヘナ』が生まれるんだ……?

「『ゲヘナ』は新しく出来たチームらしいが、警戒はしといたほうがいい。シメた奴らはオレらの縄張りだって知らなかったと言っているが、それも疑わしい。逆恨みで喧嘩吹っ掛けてくる可能性もある。ミキ、お前もそう思うだろ」
「だな。その度胸だけは買ってやるよ」

カズの言葉に、ミキは溜め息を吐きながら答える。
ルイは彼へ信頼に満ちた眼差しをミキに向けて、太雅は欠伸をし、星雅も暇そうにしていた。

避けられたと安心していたのに、もし、原作の悲劇が避けられるず『ゲヘナ』による不幸がみんなに訪れたら……?

カズ、太雅、ミキ……そして玄二が死んでしまう運命が変えられなかったら……?

体の震えが止まらず、拳を強く握る。

「兄貴……どうした? 大丈夫?」
「……げん、じ」

玄二の声で現実に戻される。
金色の綺麗な瞳がオレを見つめてくれている。
……失いたくない。
やっと手に入れた、オレの幸せ。オレだけの玄二。
彼や、仲間との幸せを守るためなら、オレは何だってする。

まず、今の『ゲヘナ』が何者なのかを調べないと。
オレと玄二の調べによれば、最近は目立った不良たちも少年犯罪に手を染める存在もなかった。
玄二が関わってないのだから原作のような大規模な組織になっていないのは確かだ。
『ゲヘナ』の規模、志向、活動場所を知っておかなくては。
もう『クライシス』とぶつかってしまったのだから、それには仲間たちの助けがいる。

「ミキ。そのクライシスについてなんだが――」
「総大将! 大変です!」

オレが総大将のミキに提案しようとした矢先、外を見張っていた『クライシス』の構成員が慌てて入って来た。

「どうしたん?」
「げ、『ゲヘナ』の連中がアジトの前にいます! リーダーのやつもいます!」

その言葉に頭をぶん殴られたかのような気分になった。
カチコミか? 構成員がやられたからって?
逸る気持ちのままに、オレは一気に外に出ていた。

大勢の男達を従えて、その先頭に立つ男。
スラリとした長身に、日光を浴びて煌びやかに輝くプラチナブロンドの長い毛束。
そしてオレを見る、氷みたいに冷え切った薄い青の瞳。
彼の手には真っ黒な鞘に納められた日本刀が握られている。

オレは彼を知っている。

だってコイツは、玄二を殺した男なのだから。

――「つまんねえ奴になるくらいならさ、死ねよ」

最終決戦にてルイに負け、その真っすぐさに心打たれ、もう一度やり直そうとした玄二。
そんな玄二の背中を彼は、かいはその刀で切り裂いた。
玄二の片腕として悪の道を歩んでいた槐にとって、その玄二が道を外れることが許せなかったのだ。玄二に致命傷を負わせたことがわかると、槐は玄二の血がついた刃を自分の首にあてがって自害した。

その槐が、今オレの前にいる。
周りの空気が凍っていく。
まるで死神と対面しているような気分だった。

槐は口をゆっくりと開いた。

「……お前、『クライシス』?」
「なんで、お前がここにいる」

咄嗟に声が出た。
会わせたくない、この男をみんなに、玄二に。
ミキがオレの肩に手を置いた。

「ウッシー。後はオレがやる。下がれ」
「っ、オレだってやれる。お前ら、それ以上こっちに来るんじゃねえ」
「……お前がそんな強気なの、珍しいじゃん。しゃーね。許してやるよ」

そのままオレの前に立つと、ミキは『ゲヘナ』たちに声を張り上げた。

「『クライシス』総大将、龍見美木男だ! ここがオレらのアジトだって知って来たのか!?」

覇気のあるその声を浴びながら、槐はニタっと笑った。

「ああ。そうだ。オレら『ゲヘナ』はその為にここに来た。オレはリーダーの槐。『クライシス』に贈り物がある」

肩に担いでいた日本刀を下げると、槐は後ろから何人かの男を前に突き出した。
彼らの顔には痣があり、カズがハッとして声をあげる。

「アイツら……オレらと揉めた連中だ。映画館で騒いでたやつ」
「え……?」
「うっわ。やば。ね、アイツら裸足だよ……? しかも、真っ赤になってる……」

珍しくトーンの低い太雅の言葉で、オレは彼らの足元を見る。
それと同時に顔を背けた。
あまりにも悍ましかった。

彼らの足の爪は、全部剥がされていた。
その上で裸足でここまで歩かされたのだ。
拷問以外の何物でもないだろう。

「なんの真似だよ」
「これで全員か? お前らのシマで暴れてたってゆうの。もうコイツらはクビにしといたから、後はお前らの好きにしていいよ。所謂、詫びの印ってやつ」

彼からの『詫び』を見せられても、ミキだけは一切動じなかった。

「いらねえよ。こんなもん」
「なんだ、金か? 案外俗物だな、『ゲヘナ』のリーダーサマは」

槐は「佐々木」と呼ぶと、吊り目の、やけに気取った男が、ニヤついた笑みを張り付けて封筒を持ってこっちにやって来た。

「こちらをどうぞ総大将サマ。慰謝料です」
「中身ここで確認していいぜ? 百枚入ってるから数えんの大変だろうけどよ」

槐にも促されたがミキは封筒の中身を見ることなく、重量のあるソレを目の前の吊り目の男の顔面に投げつけた。
「ぶえ」と情けない声を出した佐々木だが、すぐに封筒を拾って槐の後ろに下がった。

「槐さん! 見ましたか、コイツら、オレらとやる気ですよ!」
「黙ってろ。今は槐さんと向こうの話し合いだろが」

キャンキャンを喚く佐々木を、大柄なスキンヘッドの男が抱えて下がっていく。
どうやら向こうは一枚岩じゃないようだ。

「じゃあさ、どうすりゃそっちは満足なの? 『クライシス』」
「金も謝罪の品もいらねえ。オレらはオレらの欲しいものを貰う」

何時にもなく真顔で、ミキは槐を睨んでいた。

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