オレが推しを抱くなんて! かませ犬転生元社畜×闇深最強ラスボス 

毒島醜女

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ゲヘナ編

二十八章

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『ゲヘナ』との決戦前夜。
集会で明日への意気込みを皆で述べていた、その時だ。
アジトの外が俄に騒がしくなった。バイクのエンジン音に男たちの怒声。
オレたちがアジトを出るとそこにはあの男がいた。
イヤミったらしい笑顔を貼り付けた佐々木だ。隣にはカノジョである例の女性もいた。
開口一番、佐々木はこう言った。

「やってくれたなぁ、『クライシス』よお!」
「何の意味だ? 決戦は明日だろ」
「うちのトップのオンナ拉致ってとぼけてんのか? ええ?」

言っている意味がわからない。
そんな俺らを差し置いて、確か栞里という名の女が眉をひそめて訴える。

「槐さんのカノジョさんの千麻ちゃんよ! いくら喧嘩する相手だからって、関係ない千麻ちゃんを攫うなんてひどいわ!」
「――千麻?」

その名を聞いてルイが目を見開く。
『クライシス』の他の面々が戸惑う中、佐々木はまるで鬼の首でも取ったかのような表情で見下ろす。

「槐さんのオンナがお前ら『クライシス』の陣地、そこにいる総長のイヌの隣に住んでたの、知ってたんだよな? だったらいつだって好きに出来るよなぁ?」
「証拠は? オレらがなんでそんなことしなきゃなんねえの? つかさ、槐のオンナが誰かとか知らねえんだけど、当のリーダーはどうしたん?」

ミキが一歩前に出て『ゲヘナ』へ睨み返す。ルイが何かをしたと決めつけられ、彼も怒りを隠していない。佐々木は自分の女と共に一瞬尻込みしたが、スキンヘッドの男がカバーした。

「槐さんは自分からオンナを探しに行っている。オレらはテメェらが奏千麻に関係があるかねえかハッキリさせに来た。幹部に聞きたい。昨日の夜、どこにいた?」

ミキやカズたちは、各々集会終わりの自分の行動について口を開いた。
ミキはルイと家にいた。
カズも自宅。
鳳兄弟は景気づけにとクラブに行っていたそうだ。元気だな。
そしてオレらは……ラブホでしけこんでたなんて言えるわけもなく、一緒に街を歩いていたといった。
身内だけだったり自分だけだったり、アリバイとしてはどれも成立しない。

ようやく威勢を取り戻した佐々木がまた出しゃばった。

「明日までに奏千麻を見つけてこい。そうすりゃお前らの無実を信じてやるよ。そうじゃなかったら、こっちにも条件がある」
「なんだ」
「『クライシス』は『ゲヘナ』に無条件で降伏し、傘下に下る」

彼の出した条件はあまりに不条理だ。
突然行方不明になった相手チームの恋人が、自分のチームの陣地に住んでいたからといって、その責任が全て『クライシス』にあるなんて。
当然構成員たちが怒鳴り散らして抗議していた。
しかし佐々木は一笑する。

「お前らも足りない頭使って考えたらどうだ? このまま喧嘩する相手のオンナ拉致っただせえ連中のままで終わるか、潔くオレらに従うか、どっちの方が『クライシス』らしいかよお」

そこまで言うと、栞里が彼にしな垂れかかって口を挟んだ。

「私は信じてるわ。皆だって本当はこんなこと、したくなかったんでしょう。大丈夫。『ゲヘナ』ではあなた達に居場所を与えてあげるから」

まるで聖人のようなことを口走りながら、彼女の、欲に満ちた眼差しはある一人の男に向けられていた。
玄二だ。彼女は玄二を狙っているんだ。
背筋が寒くなっていく。
もし『ゲヘナ』の思い通りに事が運んだら、玄二はどうなる?

オレが嫉妬心やら焦りやらでまともな思考が出来なくなっている間にも話は続いていく。

「栞里がこういってもなんだが、ここでお前ら好きにさせても尻尾巻いて逃げそうだなぁ? つーわけでさ、人質よこせよ。適当な雑魚じゃなくて、ちゃんと幹部の中から」

また抗議の声が湧きそうになったが、一人、挙手する人間がいた。

「オレで、いいだろ」

それは、ルイだ。

「第一容疑者は、オレだろ? だったらオレを連れていけよ。下らねえ嘘なんて言わねえからよ」

真っすぐにそういうルイの背中に、ミキが叫ぶ。

「なに勝手に出てんだ! 戻れルイ!」

額に血管を浮かべ、紅色の目を怒りで爛々と燃えさせている。彼は本気で怒っている。

「総大将。今、一番『クライシス』に迷惑かけてんのはオレです。だから、オレがコイツらに『クライシス』の無実を訴えます。だからみんなは、千麻を見つけてくれ」
「お前は関係ねえんだろ。戻れ!」
「それは出来ません……ミキくん。これは、オレが決めました」

その青い瞳は決して揺るがない。
オレたち読者の心を掴んだ、どん底の中でも光り輝く瞳。
そしてオレたちは知っている。この目をしたルイはもうどうあっても止まらないと。

「太雅くん、星雅くんの人脈もあるし……玄二。お前の頭なら千麻を見つけられるはずだ。頼んだぞ」
「ルイ……」

玄二の呼びかけに笑顔で答え、ルイは『ゲヘナ』の方に歩んでいく。
佐々木は乱暴にその腕を引いて、バイクに乗せる。
ミキは彼の背中が見えなくなるまでずっと見つめ、やっと、口を開いた。

「みんな……探すぞ。絶対ぇルイを取り戻す」

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