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ゲヘナ編
二十九章
しおりを挟む千麻を探す為、『クライシス』はすぐに行動に移った。
鳳兄弟は自分達の情報網を駆使し、ミキとカズは彼らの示す場所を手分けして調べていた。オレはと言えばノートパソコンを弄る玄二の側にいた。
「あの佐々木の顔、自分の勝利を確信してた。奴はその女がオレらに絶対に見つけられない場所にいるって知ってるんだ」
「なんで、そんなこと」
「オレらを服従させたいから、だろうな。ああいう人種は一目見ればわかる」
冷徹な口調でそう吐き捨て、玄二はカタカタとパソコンを動かしていた。
「鳳たちには伝えたが、まずは佐々木のよくいる場所で情報集めた方がいいな。目立たずに動けなさそうだし、すぐに尻尾はつかめるはずだ」
「頼もしいよ。玄二」
「それでさ、兄貴。千麻って女、どんな外見だっけ。チビだってことしか覚えてねえよ」
オレの方に首を傾ける玄二に、オレは千麻の特徴を離す。
ピンクがかったふわふわした茶髪。ぱっちりとしたオレンジの瞳。活発で優しそうな雰囲気がある、いかにも優等生といった子。
キャラブにあった設定から言ってみたが、そこまで聞くと玄二は顔を顰めていた。
「……詳しいな、兄貴。やっぱよく知ってるから?」
その言葉には嫉妬心が溢れていた。
「え?」
「兄貴と別れた後、見たんだよ。あいつが兄貴に声かけてんの」
見てたのか、アレ。
オレが同じ転生者だと思って声をかけてきたんだ、なんて言えるわけがない。本当の松葉潮のことだってうまく伝えられなかったんだ。
「あれは……さ、仲のいい二人で微笑ましいって言われただけだよ。ルイとミキの仲と同じように応援してるって言われた」
嘘はついていない。
異様に興奮していたけど、今の奏千麻はオレらの関係を応援してくれるとてもいい子だ。
だが、その答えだけでは玄二は満足しなかった。
バタン、とノートパソコンを閉じるとオレににじり寄って来た。息が頬にかかるほど近づいて、玄二は問いただす。
「じゃあ、なんでわざわざあんなとこで兄貴に声かけたんだ? 兄貴あいつから何か言われた?」
恋人と知らない女がこっそり話していたら嫉妬してもおかしくない。
ルイが敵に連れられたっていうのに今することじゃないってわかっていても、それでも止まらないだろう。
「か、槐のこと、不安だけど、向かい合いたいって言ったんだ。カノジョだから、って。色々不安だったんだよ。こんな世界の人間だからさ、いつかどうにかなっちゃうかもって……そうならないように見張るって、意気込んでた」
「……そう。ただ、恋バナしたかっただけ、ってこと?」
「オレを見かけたのは、ほんと偶然だった、と思うよ……同じような世界にいる人間だったから相談したいことあったんだろ。身近にいるルイじゃ出来ないこと」
そうやって頬に触れると、次第に玄二の表情も和らいでいく。
これで納得してくれたと思うけど……
ものの数分で、千麻の情報が届いた。
ここから西の方にある、『クライシス』の縄張り外の繁華街のクラブだった。
「当たりだな。他のみんなには場所を送っといた。オレらは先にバイクで向かおう」
「え、バイク持ってたの?」
「暴走族からパクったので、気に入ったのがあってさ。結構いいんだよ。後ろ乗って」
そして玄二は、家の倉庫からバイクを取り出した。バイクには詳しくないが、全身が黒塗りで、車体は艶やかでゴツくてかっこいいというのがよくわかる。
後部座席に座り、運転する玄二の腰に手を回してクラブに向かう。
鋭い風が体中を打ちつける。そのまま車道を突き進み、即座に繁華街に着いた。ビルの裏にバイクを停め、オレたちは目立たないようにこっそりとクラブに向かう。
そんな時だ。
見覚えのある人間が大勢の男たちに囲まれていた。
余裕のないオレと玄二の目にも、その人物の姿はすぐに目に留まった。
「――槐!?」
覆面を被った物々しい集団に囲まれているのは、槐その人だった。
結んでいた髪は解け、毛束を揺らしながら男達に向かっていった。
「兄貴」
「オレもいく、頼むぞ」
まともな事情じゃないことは分かる。
取り敢えずオレたちは槐に加勢することにした。
……とはいえ、ほとんど玄二がノしちゃったんだけど。
覆面の集団を倒すと、槐を見た。
普通に立っているけど、体中に擦り傷があるし息が荒い。
そして一歩、オレらに近づいてきた。
「よせ、オレらはお前の彼女さんを――」
「知ってる。だから、オレが探す」
「……探すって、場所もわかんねえだろ」
そう言っても、槐は止まらない。
あんな感じでも千麻のこと、本気で思ってんだな。
そんな彼を止めたのは玄二だ。
「テメェのとこの佐々木が行きつけのクラブに、奏千麻に似た見た目の女がいるってよ」
アイスブルーの瞳がこちらを見る。
普段から変わらない冷めた眼差しが、驚きに見開かれていた。
「案内するよ。会いたいんだろ? 一緒に来い」
「なんでテメェらを信じると思うの?」
「お前のオンナがいなくなったせいでオレたちが疑われてんだよ。リーダーであるお前がそいつを見つければ、『ゲヘナ』は文句言わねえだろ?」
耳が痛くなるような沈黙が流れる。
だが槐はいつもの笑顔を捨て、真顔のままで玄二に近づいた。
「連れてけよ」
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