37 / 43
ゲヘナ編
三十六章 ※
しおりを挟む「おやすみ、兄貴」
「ああ、またな」
用事を終え、家に帰る。
今までの緊張が解けたせいか疲れがどっと体にのしかかる。
飯食って風呂に入ると、すぐにベッドに入ってしまった。枕に顔を埋め、体を委ねる。重くなった瞼を閉じるとそのままストンと眠りに落ちた。
夢は見なかった。だがその代わり目が覚めてしまった。
携帯を開くと、今は二十三時。
もうすぐ深夜になるという時間だ。
体がむずむずとして、胸の中が抉られたように切なくなる。
これが人肌恋しい、と言うものなのだろう。
オレの指はそのまま玄二のアドレスを押していた。
――ごめんなこんな時間に。今、起きてるか?
そうメールを送ると、すぐに返事が帰って来た。
――起きてるよ。恋白はもう寝たとこ。
――ちょっと眼が覚めちゃってさ。このまま話とか、出来る?
そんな事を送って、しばらく沈黙が流れてから携帯が揺れた。
――どうせなら今から家来ねえ? オレ、リビングにいるから、そこの窓から上がってきて。ノックしてくれたら開けるから。
願ってもない誘いに、オレはその場で正座をしてしまった。
夜中にこっそり男を家に招くなんて、そんな大胆なことをしてくれるとは思わなかった。
だがオレの本能は恋人からの誘いを断るなんて無粋なことは許さない。返事をしてから身支度を整え、オレは玄二の家に向かった。
静かな夜道を進み、もう見慣れた家に辿り着くとこっそりと中に入った。
玄関をスルーして横にあるリビングの、カーテンが降ろされた掃き出し窓をノックする。
オレの恋人はすぐにカーテンを開いてオレを迎えてくれた。
「おかえり。兄貴」
「……ただいま」
夜這いじみたことをしてるっていうのに、そんな優しい言葉をかけられてオレはぎこちなく微笑んだ。
靴を持って中に入るオレを、玄二は抱きしめてくれた。
厚い胸板、甘くて、それでいて濃厚な匂い。
肉の奥から聞こえる心音に、オレの心が満たされていく。
玄二が今ここに生きている。
それが本当に嬉しい。
もう、不安に思わなくていいんだ。
その想い一つで、オレは玄二を抱き返した。
「会いたかった」
「さっき会ったばっかなのに?」
「こんな風に、くっつけなかっただろ?」
胸の隙間に顔を埋めながらそう言うと、玄二はオレの背に手を回しながら答えた。
「……シたい?」
「ああ」
恥ずかしさとか、そういうのは全然なかった。
今はただオレの全身で玄二を感じたいし、玄二の奥にオレを刻みつけたい。
顔をあげると玄二は一瞬目を見開いていたが、目を細め、頬を手で包んでくれた。
「分かった。じゃあ、準備してくる」
「いや、いいよ。オレがやるから」
風呂場に向かう玄二の手を掴んで止める。
心で思っている気持ちがそのまま口から出てしまう。
「今すぐに、玄二に触れたい。もっと、たくさん玄二を感じたい」
「あにき……ホントに? いいの」
「恋白にはバレないようにするから……さ」
暗い中でも玄二の頬が赤らんでいるのがわかる。あいつの心臓の音がこっちにまで聞こえてきそうだ。
玄二は腕に回されたオレの手を取って、指を交差させるように結ぶ。
「それじゃ、こっそり行こうか」
「ああ……」
「転ばないように、ちゃんとオレの手掴んでて」
そして手を繋いでべったりとくっついたままオレらは二階に向かった。
真っ暗な中を玄二の温もりだけを頼りに進むと、懐かしい部屋にたどり着いた。
玄二が扉を閉めた瞬間、後ろからオレは腰に手を回した。逞しい背筋に身を委ね、張りのある尻肉にもう勃ち上がりかけている息子を押し当てる。
「兄貴、もう勃ってる」
「ごめん、もう、我慢できなくて」
「平気。なんか嬉しいし……とりあえず、さ。脱ごうか」
「あ、そう、だな」
痛くなるほどに熱くなった股間を抑えながら、ベッドまで歩いて服を脱いだ。
暗闇に慣れた目に玄二の裸が映る。
逆三角形の上半身は本当にいつみても素晴らしい。本当によく出来たギリシャ彫刻に命が宿って動いているようだ。
すーっと通った鼻筋に彫りの深く、鋭い金の目。
闇に溶け込んでしまいそうな深紫の髪。
普段は只者ではない存在感を放っているが、孤独を抱えて誰かからの救いを求めていた。そんな心をずっと秘めていた、玄二。
その全てがオレのモノだ。
今夜はそれをオレにわからせて欲しかった。
「玄二、いいか?」
「いつだっていい。兄貴にだったら、いつでも抱かれたい」
そんな風に言われたらもう理性なんて保てなかった。
オレは仰向けになってベッドの上にいる玄二にのしかかって、両手で胸を揉みながら首筋に顔を埋めていた。
さっきよりも玄二の匂いが強くなってもっと興奮する。
「あの時、さ」
玄二が喘ぎながら、途切れ途切れに言葉を吐く。
「嬉し、かった……兄貴がクラブで、キス、してくれたの」
「あの女、玄二に色目使ってたから。ムカついてさ、教えてやりたかった」
「ふふ、やっぱり妬いてくれたんだ。びっく、りしたけど……ン、すげえ、幸せだった」
くすぐったそうに笑ってオレの項あたりを撫でる。
熱の籠った目は幸せそうに細められていて、潤んだ唇にオレは自分のものを重ねる。
「んん、ふっくぅ、んぁ」
「は……もっともっと、してやるからな。玄二」
オレの嫉妬すら嬉しいと言ってくれる玄二が愛しくて仕方ない。
もうオレは、彼が無くては生きてはいけない。
キュウ、と乳首を摘まむと甘ったるい息を漏らす。すかさずそこを舌で舐めて、緩急をつけて吸い付いた。
「あ、っあ、はぁ……うぅ」
吸っていない方は片手の指で押し潰すように弄る。先端をくりくりとさせると、玄二は腰をくねらせた。
玄二もオレに触れられることを喜んでくれている。それに胸が前よりも敏感になっている。
どんどんオレに貪欲になってくれていることが嬉しくてたまらない。
そんなことを思っているうちに、玄二のちんぽが太腿に当たった。それはもう勃起していた触って欲しそうにビクビクと跳ねていた。
「ちんぽ、キツい?」
唇だけで乳首を咥えたまま玄二に尋ねた。
玄二は目を潤ませながら、うんうんを何度も頭を下げた。
「……じ、自分で触っても、満足できなぃ……できなく、なった……あにきと、シてから」
「は……マジ?」
「うん……オレ、あにき無しじゃ、も、生きてけねえよぉ」
自分が今何を言って、どんな顔してるのかわかってんのか?
とろとろにとろけた顔でそんな可愛いセリフを、この世界で一番大好きな人間に言われてみろ。
もう理性どころか正気だって保てないって。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新するかもです。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新するかもです。
BLoveさまのコンテストに応募するお話に、視点を追加して、倍くらいの字数増量(笑)でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる