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公務「結婚式」
かくして、あれよあれよという間に結婚式当日。
緻密かつ繊細な刺繍が施されているレースが上腕を覆うオフショルダーの格式高いウェディングドレス。
首元にはダイヤモンドとパールのネックレス。
純白のヴェールの下には、額から後頭部に掛けて豪奢に頭部を彩る白金のサークレット。それらには大小さまざまなアクアマリンがあしらわれていた。
遠目から見ても品質の高さ、希少さが理解できる品々に始めは気後れしてしまった。
――これ一式で国が傾きそう……
それでも両親も侍女たちも「とてもお似合いです」と褒めるばかりだった。
控室に迎えに来たヒースは、私の姿をみて目を見開いて頬を赤らめた。
頭部を彩るアクセサリーの宝石に似た瞳を細め、彼は私の手を取った。
「……すごく綺麗だ」
「ありがとう。あなたも素敵よ、ヒース」
それは本心だ。
あの日のディナーのように黒銀色の髪をかき上げ、撫でつけたヒースはいつにも増して色香がありながら上品だ。
凛々しく、艶やかな花婿である。
私たちが乗る馬車はエレガントなバルーシュタイプ。
真っ白なボディには浮き彫り細工で蔦薔薇模様が施されている。それだけでなく色とりどりの花々が新郎新婦の座す場所を彩っている。
馬車を曳く二匹の馬はどれも大柄で一点の染みもない葦毛。
「さあ、いこう。皆にその美しい姿を見せてあげてやれ」
「ええ」
彼に手を差し伸べられるまま、私たちは馬車に乗り込んだ。
※
「ナディア様~っ! ヒースクリフ様~っ!」
「なんてお綺麗なんでしょう……」
「ご結婚おめでとうございます! 末永くお幸せにっ!」
私たちに老若男女の祝福の言葉が花びらとライスの粒と共に降り注ぐ。
その度に私たちは右へ左へと会釈をする。
彼らの笑顔や歓喜の涙を流す姿を見ると心が穏やかに癒されていく。
お姉様の時はこうはならなかった。
大聖堂で親類縁者だけを集め、誓いの後は自分の離宮でどんちゃん騒ぎをするだけだった。
――『お前みたいな女が王族で国民は恥ずかしい』。そう言ったのはお姉様だったかしら、それともメロディアナだっけ? もう会えないとなると、二人の記憶もだんだん霞んでくるわ。
散々自分を苛んだ存在であるにしても血の繋がった家族ではあるのに、私ったらひどい女ね。
ふと、ヒースの方を見ると彼は最初から私がそうするのを待っていたかのように真っすぐな視線を向け肩を抱く代わりに、ぎゅ、と手を握ってくれた。
彼に触れられると心が安らぐというのに、何故か高鳴っていって落ち着かない。
「もうすぐ教会だ。緊張してる?」
「え、ええ……とても」
「俺だって、そうだ……だから手を離さないでくれよ?」
ヒースも同じ気持ちなのだろう。その言葉を聞いて、安堵する。
途切れることのない群衆の拍手を浴びながら、私たちは教会の大聖堂に向かう。
さすがにそちらは荘厳な空気が流れ、いよいよ神の御許で夫婦として誓い合うのだと実感する。
「いこう」
「ええ」
高いドーム状の天井を支える柱に囲まれた主身廊を、二人で歩く。
一歩、また一歩、輝かしく神を讃えるステンドグラスの待つ祭壇へと向かう。
パイプオルガンと聖歌隊の調べの中、私たちは神父の前で誓いの言葉を立てる。
「さあ、指輪の交換を」
儀礼用の服を纏ったシスターが、二つの指輪が置かれたクッションを差し出す。
まずは私が、大きいサイズの指輪をヒースの左手薬指に通す。ヒースも同じように、いいえ、私よりも優しく私の左手をとって嵌めてくれた。
「では、新郎は新婦のヴェールを取り、誓いのキスを」
私は頭を垂れ、彼が取りやすいようにする。
ずっと薄布が外され、視界が晴れていく。
私の方に手を添えたヒースは、これ以上ないほど満ち足りた笑みを私に向けた。
「幸せだよ。ナディア。これからは永遠に一緒だ。片時も離れないからな」
そう誓うと、自身の決意を私に刻むように、ヒースは私に口付けた。
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