傷の舐め合い? どうぞお好きなように

毒島醜女

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寄り添い、支え合うもの ※ヒースクリフside


「ナディア、こっちの書類は片付いたよ」
「ありがとう、ヒース。外交については……」
「はい。対応する価値の無いものはこっちで処分しておいた。残りはこれだけ」

俺が出した書類を、ナディアは笑顔で受け取る。
あの日からずっと余計なものに煩わされることもなく、滞りなく公務を行っている。外交と内政事情において自分はプロだから、王配兼政治顧問として俺もしっかりサポートしているさ。夫婦とはそういうものだろう?
二人の働きを皆は褒め称えてくれる。国王陛下から「いつでも王位を譲れるな」とありがたいお言葉を賜るほどだ。
愛しの次期女王はある書類を見て、口を開いた。

「隣国の王太子妃が男児を産んだそうね」
「彼女と共に来た側妃たちも、滞りなく子を産んだそうだ。安泰だな、あの国は」
「……息災でなによりね。祝いの品を贈りましょう」

あんな無礼者がナディアの脳を芥子粒ほどでも存在しているのは腹立たしいが、これも公務。仕方ないことだ。
それに、あの国、というのは隣国のことだけではない。正妃と側妃たちの祖国でもある。
隣国に嫁いでいった正妃、並びに側妃たちの祖国は凄まじい派閥争いにより王族の男性が命を散らした。その争いで勝ち上がり長年独裁してきた国王は王族、貴族、平民の女性たちを毒牙に掛け、彼女らの本来伴侶となるべき男性を排除した。その愚王が種無しで早々に腹上死したことは幸いであり、男達の争いに翻弄されすぎた女たちは決意を胸に海外に旅立った。
王族であった王太子妃もそうだ。海外の王族の子種を貰い、自分達の血族を増やしてまた一から祖国を復興せんとしているのだ。彼女に付き添った側妃たちも同じ心を持っている。
隣国の王太子は見目麗しく豊満な体の女達が群れを成して自分を求めてきた、としか思ってないだろう。
自分の国が見下してきた女たちに取って代わられるなど夢にも思ってないだろう。
あちらの姫君たちに送った増強剤は姫の祖国の亡き国王も愛用していたものだ。
激しい興奮と欲望の虜となり、交配の下僕となる。自慢の頭髪が腫れあがり、肌がボロボロになり、記憶が消えていくことも気づかぬうちに夢の中にいる間に命を落とすだろう。
その頃にはナディアのことも忘れているはずだ。
巻き込まれた被害者ともいえるだろう。だがお前のような下卑た男の脳にナディアがいるのが許せないのだ。

しばらくしてナディアは書類を全て横に片付け、ペンを置いて息を吐いた。
仕事が終わった合図をみて、俺は待っていましたとばかりに彼女に歩み寄りその肩に手を置く。
彼女はその手に自身の手を重ね、花が綻ぶような笑みを向ける。

「昼前なのに、もう全部の仕事が片付いてしまったわ。私の夫は優秀ね」
「この国の未来の女王陛下が素晴らしいお人なだけだよ」

俺の手に添えてくれている柔らかく小さな手を取り、その甲にキスをする。
もうそれが日課になったからか、人目に付かない場所ですればナディアはそれを笑顔で受け入れてくれる。

「今日は天気がいいから、中庭の東屋でランチにしようか」
「いいわね。素敵だわ」

ちょうどその時執務室に入って来た執事に書類の整理の完遂を告げ、ランチを中庭でしたいと頼んでみる。
執事は「承りました」と告げ、一時間後に準備ができるといって去っていった。

「じゃあ、今から大臣と話して来るわ。すぐに終わると思うから、後でね」
「名残惜しいよ……じゃあ、またな」

書類についての最終確認をする為に、各担当の大臣を呼ぶことになる。
俺も影に会うなど自分の仕事があるから、しばし別れる事になった。

影たちの運んできた情報を脳内で整理し、どう対処するかと考えていると声をかけられた。

「仲睦まじいようで何よりです、ヒースクリフ様……ああ、失礼。殿下とお呼びした方がよろしいですね」
「……ああ、君か」

彼はこの国の宰相で、俺に一礼した。
若干うさんくさい雰囲気のある男であるが信頼できる人材だ。

「まだランチには時間があるでしょうし、少しお話しても?」
「構わないよ。君にはお世話になっているから」

この庭の隅は俺と影がよく使う待ち合わせ場所で、死角になりやすく聞き耳を立てる者も来ない。
宰相の父はマーヴェリック公爵により強引に土地の権利を奪われた。世間的には円満な取り引きだと言われていたが、それは悍ましい脅迫の上の略奪であった。
これにより宰相の家庭は崩壊し、彼の父は気を病んで病死、その妻も体を壊し階段を踏み外して亡くなった。
以上の事からマーヴェリック家に遺恨のある宰相は、俺の計画に協力してくれた。
かくして彼に奪われた土地を返すことが出来た。

「天上の父母の元に、地獄から響く彼らの悲鳴が届くことを祈ります」
「そうだろうな」
「ところで、ヒースクリフ様は例のクラブには行かれないのですか?」
「……なぜ?」

外交がてら取り引きをするために足を運んだ事はある。だがその仕事はもう影かビルマートン家の跡取りとなった弟に任せている。

「なぜ、とは……あなたがあそこに贈った件の『踊り子』の姿を見たくはないのですか? 今ならまだ、彼女の魅惑の手足を拝めるというのに」

まだ四肢が残っているぞ、という事か。
せっかくこれからナディアと外でランチだというのに胸糞悪い話をしやがって。
俺は段々苛立ってきて、宰相の前に出る。

「生憎だが、俺はもう、ナディアとは片時も離れたくないんだ。アレが相応しい場で生きている。それだけ分かればいい」

王配は忙しいんだ。ナディアの側を離れてわざわざ目を汚しにいくわけないだろう。
そんな当たり前のことを伝えると、宰相はクスクスと笑う。

「……驚きましたね」
「なにがだ?」
「あなたほど執念深いお方が、獲物を仕留めたか確認するよりも、女性との時間を優先するなど。ナディア殿下はあのビルマートン家の御長男をこうも変えてしまったのですね。
いやはや、恐ろしいことだ」

俺への意趣返しのつもりか当たり前のことを言い返す宰相を、俺は鼻で笑う。

「ああ。俺に相応しい女性だろ?」

それだけ言って彼の元を去る。
さて、爺の長話に付き合っているうちにそろそろランチの時間だ。
腹をすかせたナディアを待たせるわけにいかない。急がないとな。






(ご愛読、ありがとうございました。
次回、ヒースクリフの弟目線で書き切れなかったことを語っていこうとおもいます)

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