ボクと王子サマの田舎生活

毒島醜女

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リタの気持ち

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夜中、ふと目が覚めた。
と言うよりかはずっと眠れなかったので、違和感に気づいたと言った方が正しいだろう。

「ん……?」

正樹は目を細めて窓を見る。
深夜にしては窓が明るい。
身を乗り出すと、外から見える海岸になにか明かるく光るものがあった。

港でもないし、目立った明かりがないこの近くの海岸に船が来ることはない。

しかし正樹はあの光を放っておけなかった。
あの光の下に行かないと何か取り返しのつかないことになる気がしてならなかった。

リタを起こさぬように廊下を進み、正樹は海に向かった。

月夜に照らされた浜辺は静寂に包まれ、波の音だけが穏やかに響いていた。

いつも通りの夜の海だ。
ただ一つを覗いて。

「なん、だ」

まるでそこにもう一つ月があるように、暗い砂浜に黄金の球体が浮かんでいた。
独りでに浮かぶそれには電線も見当たらず、正樹の頭には「魔法」の二文字が現れて消えない。

その光る水晶は、正樹の登場を待っていたかのようにふよふよと彼の元に近づいてくる。

「初めまして。異世界の人」

水晶の中から聞こえたのは品性を感じる低すぎない男性の声だった。
瞬間、正樹は確信した。
リタの話は、彼の身の上は真実のものだったと。

「驚かしてごめんね。あの子から事情は聞いているだろうが、君たちの世界では魔法がないのだろう?」
「え、ええ。あなたは、リタくんの――」
「知ってる。この辺りの記憶は読ませてもらった。マサキ。リタを保護してくれて感謝する。私はリタの兄。シグウィン・アンド・ロクサータという」

球体の中から正樹に挨拶をする男、シグウィンはまたふよふよと辺りを浮遊する。

「リタは幸せそうだったな……あんなに笑顔ではしゃいで、本当に幸せそうだったね」
「はい。自己卑下ばかりしていた精神状態も安定しています」
「そうだろうね。魔法のない世界に来れたんだから……あの子を煩わす者は何もないだろう。現に普通の子として扱ったそうだし」

柔らかい彼の口調からはリタへの同情や軽蔑などの感情は読み取れない。
兄というシグウィンはリタに愛情を持ってくれている。これまでリタを被虐待児と思い込んでいた正樹はどこか安心した。

「――だからロクサータ王国に魔法の使えない人間を集めた地区を作ろうと思う。リタを領主としてね。さあ、リタのところまで案内してくれ」

その言葉を聞いて、正樹は問うた。

「何故です? どうしてそんな事を」
「私の国ではリタは腫物のように扱われていた。仕方ない。あの子は魔法が使えないのだから。だから魔法の使えない人間に囲まれればいい。幸い、他国からの移民がいる。私の目の届く場所なら、そんな連中を使っても安心だ」

違う。
リタが笑顔を取り戻したのは、そんなことではない。
彼が自分で勇気を出して人と接し、打ち解け、心を開いたからだ。
そんな誰かが決めた関係のなかで彼の人生を閉じ込めてしまうなどあってはならない。

「あなたの気持ちはわかります、シグウィンさん。でも、あの子には友達もいるんです。心の整理も必要です」
「……お前に何がわかるんだ?」

瞬間、水晶の、シグウィンの纏っている雰囲気が変わった。
明らかに彼は正樹に敵意を抱いていた。

「世界は変われど人間は変わらない。魔法の有無でもそうだ。今リタを友と呼んでいる奴も、いつリタを裏切るかわかったものじゃない……ぬるま湯のような町で過ごしたただの医者になにがわかる?」

流石は王族なのだろう。気迫のある声色はそこにシグウィンがいなくても威圧感を感じさせた。
だが恐怖よりもまず先に、正樹には思うことがあった。

――同じだ。

シグウィンは正樹自身だ。
他人がいつ自分を傷つけるか警戒し、勝手に避けて、信頼してくれる町の人間にも壁を作っていた自分だ。
王族という身分であるシグウィンはさぞかし人間の醜い部分を見てきたのだろう。だからこそ弟にはそれに触れされないようにしているんだ。

「わかるさ」
「……なに?」
「僕だって思っていた。本当だったら魔法なんてない、あの子が何にも悩むことがないこの世界のほうがリタには相応しいんじゃないかって」

自分もシグウィンを責められない。
蜂宮の話をすぐにリタに教えず、勝手に元の世界に戻らない方が幸せなのだと決めつけてしまった。

でも違う。
大人としてすべきことはそんな事ではない。
リタを想っているのならば……

「大事なのはあの子の気持ちだ。生きていけばツラいことも悲しいこともあるでしょ。そんな時に僕たち大人がすべきなのは、あの子が自分の足で立てるようにすべきことなんです」

人生には絶望もある。痛みもある。
それは仕方のないことだ。
それでも自分達がするのはそれを遠ざけた場所に閉じ込めることじゃない。

「シグウィンさん。僕、あなたの気持ちがわかります」
「は……?」
「人がどれだけ汚いのか、醜いのか。それだけはわかります。それが嫌で嫌で逃げてきた卑怯な人間ですから、僕は。でも、それじゃダメなんです。喜びも悲しみも味合わせて、あの子なりの強さを見つけてあげるように支えてあげないといけないです。シグウィンさんがリタくんを思う気持ちもわかります。でもまずは、あの子の気持ちを聞いてみてはくれませんか?」

暗い海に、波音だけが響く。
しばしの沈黙の間、宙を浮いていた水晶の玉はゆっくりと正樹の元に降りてきた。

「手を、掲げて」
「はい」

言われた通りに両手を水晶玉に手を伸ばす。すると子供の頭ほどのそれは、正樹の掌の中に納まっていく。

「この水晶は私と繋がっていて、いつでも私と会話できる。電話機、と言えば君たちにもなじみ深いだろう? 明日の朝、これをリタに渡してくれ。私はいつでも迎えに行く。いつでもいい」

次第に水晶玉の光は消えていく。
後に残ったのはずしりとした手の中の水晶の重さだけだった。

リタの未来は、この夜の海のように何も見えない。
それでも正樹は彼の背を支えると決めたのだ。
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