悪役令嬢の婚約者~巻き添えくらったΩの僕を救ってくれたのは幼馴染のβでした~

毒島醜女

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九話 胸を張って変わっていく

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今でも思い出す。
僕を見て落胆する貴族。
他の見目麗しい令嬢の元に向かうαたち。
大勢が見ている前で僕を罵倒する婚約者。
哀れなものを見るかのような、あの冷めた目。
城に来るたびに、あの日のことが昨日のことのように思い出される。
その度に心臓が痛むし、足が重くなる。

「オリバー様、大丈夫ですか?」

僕にだけ聞こえる小さな声で、クレイが尋ねた。
僕は彼を見上げる。
完璧にメンテナンスされた軍服に、同じ色合いの軍帽を被った彼はどこからどう見ても完璧だった。
そんな彼が、僕を気遣ってくれている。

「大丈夫。行こう」

……もう、大丈夫だ。
彼が側にいてくれるおかげで僕はもうなにも怖くなくなった。

「クレイ・アレクシアン大佐、オリバー・スミス伯爵子息の登場です」

会場のドアが開かれ、僕はクレイの腕に手を回して、共に中に入っていく。
会場にいた人間の目が僕らに向けられる。
その中には、アンジェラが逮捕された日に僕を見ていた貴族もいた。
だが彼らは、以前のような冷めた目で見てはいなかった。

「スミス子息、だと? あれが……あのΩ?」
「見違えたな……」
「誰かと思ったぞ」

僕の姿を見た人々は口々にそういう。
マホガニー色の格式高さを感じる燕尾服。
胸元にはクレイの目の色と同じ、濃い色合いのエメラルドのブローチ。
髪に椿油を着けて艶を出し、前髪をかきあげている。
自分で鏡を見て、その変化に驚いたほどだ。
僕は今、かつてないほど自信を持って会場に立っている。
優雅な衣装を纏っているだけじゃない。

「平気ですか?」
「うん」

僕の隣にはクレイがいる。
彼の逞しい腕の中にいると、心が安らいでいく。
挨拶も滞りなく終えて、壁沿いでこっそりと会話した。

「安心しました。オリバー様より、俺の方が心配してますね……」
「どうしてだい?」
「あなたがあまりに綺麗だから、良からぬ気を起こす連中が出そうで」

こんな時までなんてこと言うんだ。
肩で小突くと、クレイはクスクスと笑った。
先の戦の功労者として将軍にクレイが呼ばれ、僕は一人で待たされた。
そんな僕に声をかける人間がいた。

「スミス子息」

声がした方へ振り向いて、僕は礼をする。
他の貴族よりも格上の優美な空気を放つその人は、王太子その人であった。

「王太子殿下……」
「あの夜会以来だな。息災か?」
「はい、何事もなく過ごしています」

殿下は一歩僕に近づいて、眉尻を下げた。

「アルヴァスの件はすまなかったな。無関係なお前まで晒し者にした挙句、名誉を傷つけてしまった」
「いえ……まだ無関係とはわかっていませんでしたし」
「本来なら断罪をした本人であるアイツが然るべき対応をすべきだったのだが、全てを私に丸投げして辺境に帰ってしまってな。対応が遅れてしまったのだ」

申し訳無さそうに笑う殿下に僕は頭を下げる。
確かに僕の無実がわかった時点で、アルヴァス様が何かしてくださると思ったけど、奥方と辺境に戻ったきり帰ってこなかったもんな……
そして殿下は僕にそっと近づくと、声をひそめて質問をした。

「それでだが、今の婚約者とはどうだ?」
「クレイですか? とても良くして貰っています」
「そうか……で、あるなら、他に相手を探してはいないのだな?」

その言葉に、彼の真意が伝わってくる。
頭の固い一部の貴族は、成り上がりの新興貴族を快く思っていない。軍人であればなおのことだ。

「君が望むなら、侯爵家との結婚を推薦してもよかったのだが……」

殿下に悪気はない。
今まで家の為、Ωとしての幸せを掴むために、上位貴族との結婚を望んでいたのは僕だ。
でも、今の僕は違う。
今の僕は心から「この人だ」と思える人の手を取ったのだ。

「その件については、お断りします。クレイは僕にとって最良の伴侶です」

僕の言葉を聞くと、殿下は爽やかに笑った。

「無粋なことを聞いてしまったね。あの君をここまで変えた男であるクレイ・アレクシアンを見誤っていたようだ」

そう言って殿下は去っていく。
彼と入れ違いになるように、クレイがこちらに戻ってくる。
僕は笑顔で彼を出迎えた。

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