妹ばかり溺愛する親に嫌気がさした僕は好きなことで見返そうと思います

友利奈緒

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第二章 元“王者”

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 連れてこられたのは、高級マンションの一室だった。

 ヤクザの家――というよりは、静かな研究室のような空間。

 壁一面に並ぶカードファイル。

 棚には大会トロフィー。

 中央には大型モニターと配信用の機材。

「……え?」

 僕は言葉を失った。

 そのトロフィーの一つに刻まれていた名前。

 **――黒崎 龍牙**

 その名前は、知っている。

 数年前、カードゲーム界を席巻した男。

 無敗の連勝記録。

 冷徹な盤面制圧。

 “氷の王者”と呼ばれた伝説のプロプレイヤー。

「まさか……」

 震える声で振り向く。

 男はネクタイを緩めながら笑った。

「やっと気づいたか」

「あなた……黒崎龍牙なんですか?」

「元、な」

 空気が震えた。

 黒崎龍牙――
全国大会二連覇。
世界大会ベスト4。
当時の最年少記録保持者。

 だが、ある日突然、表舞台から消えた。

「どうして……引退したんですか?」

 黒崎は冷蔵庫から水を取り出し、静かに言った。

「才能の壁だ」

 その言葉に、僕は息をのんだ。

「俺は努力型だった。死ぬほど研究した。睡眠三時間、毎日十時間検証。だが、世界には“直感で最善手を選ぶ怪物”がいる」

 机にカードを広げる。

「俺は勝てなくなった」

 その声に、悔しさはない。

 事実だけがあった。

「スポンサーも離れた。居場所もなくなった。だから裏方に回った」

 黒い世界のスポンサー。

 大会の資金提供。

 有望株の発掘。

 それが今の彼だった。

「俺はな――」

 黒崎は僕を見る。

「“才能がない側”の気持ちが分かる」

 胸が締めつけられる。

「お前は俺に似ている」

「……僕が?」

「ああ。目だ。認められなくて、それでも諦めてねぇ目だ」

 黒崎はカードを一枚差し出す。

「デッキを組め」

「え?」

「今から俺とやる」

 突然の対戦。

 震える指でシャッフルする。

 試合は――十ターンも持たなかった。

 完敗。

 完膚なきまでの制圧。

「……強い」

「当たり前だ」

 黒崎は立ち上がる。

「いいか。プロになるには三つ必要だ」

 指を一本立てる。

「①再現性」

 もう一本。

「②読みの深さ」

 最後の一本。

「③盤面以外を見る力」

「盤面以外?」

「相手の癖、呼吸、時間の使い方、心理。カードゲームは情報戦だ」

 僕はただ聞く。

 まるで別世界の話だった。

「お前をプロにしてやる」

 その一言で、空気が変わった。

「ただし条件がある」

「……なんですか」

「途中で逃げるな」

 黒崎の目は本気だった。

「才能はなくていい。だが覚悟がない奴はいらん」

 拳を握る。

 家を出た覚悟。

 見返すという誓い。

 ここで逃げたら、全部嘘になる。

「やります」

 黒崎はニヤリと笑った。

「よし」

 机の上にノートを投げる。

「明日から朝五時だ」

「え?」

「基礎から叩き込む。まずは2000戦だ」

「に、2000!?」

「プロはその十倍やる」

 スーツを脱ぎ、シャツ姿になる黒崎。

 その背中は、もう“ヤクザ”ではなく、

 かつて頂点に立った男の背中だった。

「才能がないならな――」

 黒崎は振り向かずに言った。

「努力で殴れ」

 その夜、

 僕の本当の戦いが始まった。




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