妹ばかり溺愛する親に嫌気がさした僕は好きなことで見返そうと思います

友利奈緒

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第五章 本当の敗北

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 深夜二時。

 練習はまだ終わらない。

 主人公は連続二十戦目の対局ログを見返していた。

「集中が切れてるな」

 黒崎が低く言う。

「すみません……」

「謝るな。弱いままでいるほうが罪だ」

 静かな部屋。

 ふと、主人公は聞いた。

「黒崎さんは……どうして本当に引退したんですか?」

 黒崎の手が止まる。

 少しだけ、空気が重くなった。

「公式発表は“成績不振”だ」

「でも、世界ベスト4だったんですよね」

「表向きはな」

 黒崎はゆっくりソファに腰を下ろした。

「プロの世界は“勝つ”だけじゃ足りない」

 モニターに一つの動画が映る。

 そこに映っていたのは、若き日の黒崎。

 そして――決勝戦。

 対戦相手は、スポンサー企業の看板選手。

「俺は決勝でそいつを追い詰めた」

 ライフ差、圧倒。

 誰が見ても黒崎有利の盤面。

「だが、突然“接続トラブル”が起きた」

 画面が止まる。

 再開後――黒崎の手札が公開されている。

「あり得ないミスが起きたことにされた」

 主人公の目が見開く。

「……不正?」

「証拠はない。だが試合後、スポンサーから言われた」

 ――“空気を読め”

 黒崎は笑う。

「勝ってはいけない試合だったらしい」

 会場の拍手。

 優勝トロフィーは別の男へ。

 黒崎はその日、全てを理解した。

「勝てる実力があっても、勝たせてもらえないことがある」

 拳が強く握られる。

「俺は抗議した。だが、契約違反で追い出された」

 スポンサーも、チームも、消えた。

「そのあと、俺は壊れた」

 カードを握れなくなった。

 盤面を見ると吐き気がした。

「才能の壁なんかじゃない」

 黒崎は静かに言う。

「俺は“システム”に負けたんだ」

 部屋が静まり返る。

「だから裏に回った。表が腐ってるなら、外からひっくり返す」

 主人公は震える。

「それで……僕を?」

「ああ」

 黒崎の目はまっすぐだった。

「俺は二度と表に戻れない。だが、お前は違う」

「……」

「お前が公式の舞台で正面から勝てば、それが俺の復讐だ」

 言葉の重みが違う。

 これは単なる育成じゃない。

 黒崎は、自分の“未完”を託している。

「覚悟はあるか?」

 主人公は拳を握る。

 父に才能がないと言われた。

 妹と比較され続けた。

 でも今、目の前には

 才能ではなく“理不尽”に負けた男がいる。

「あります」

 即答だった。

「勝ちます。全部」

 黒崎はわずかに笑う。

「なら教えてやる」

 机に一枚のカードを置く。

「これは俺が決勝で使うはずだった切り札だ」

 十年前、封印されたカード。

「このカードはな――」

 黒崎は静かに続ける。

「勝つ覚悟がないと使えない」

 主人公はそのカードを握る。

 冷たいのに、熱い。

 地区予選まで、あと一日。

 これは少年の挑戦だけじゃない。

 十年前に奪われた王座への、

 もう一度の宣戦布告だ。
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