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3章 アルバム1
秘密
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彼は中学生だった。
二年生だったと思う。
こちらは六年生だった。
もう、訳がわからない年齢ではない。
善悪というものも、よくよく分かっていた。法的にどうかは知らないけれど。
「秘密だよ。」
彼はそう言った。いつも、いつも。
そう言って腕を引くと、誰も住まなくなった民家の裏、人気のない場所へ向かう。
別にこの“秘密”を共有する必要はないのだけれど、彼は人気者だったし、何より優しかった。それにどうせ秘密なら、嫌悪がない方がいい。
ギリギリまで外で時間を潰す生活だから、彼とはいい暇つぶしになった。
茂みに置かれたビールケースに段ボールが轢かれている。
そこに腰掛ける。
「本当に綺麗だね。」
彼はよくそう言った。
おそらくは自分の容姿の事をそう言っているのだけど、自分ではよく分からない。けれどこの頃になると、この薄い色の髪も、同様に薄い虹彩も、やたらと人目を惹くことを理解していた。加えて、自分の顔は整っているらしい。
彼はそれを酷く気に入っていて、いつも自分を連れ出していた。
「そうかな。」
「自覚がない?本当に綺麗だ。」
そう言う彼も、世間的にはカッコいいと言われる容姿だと思う。アイドルグループのような中性的な顔立ち。
「いつか二人で暮らしたい。」
夢みがちな言葉だ。
彼がこう言う度、何と返答しようか迷う。彼と過ごすことは嫌ではなかったから。そして自分の生活に執着がなかったから。けれど、彼はいつも真剣な目でそんなことを言う。
だから黙っていた。
「まだ、分からないかな。」
それをいつも、彼は子供だからだと納得していた。
そして、そっと、頬に口づけた。
「大切にしたいんだ」
いつもそう言いながら。
大切に、なんて無駄なのに。
でも、そんな事を言ったら彼が泣いてしまうんじゃないかと思った。
だからそれを、彼に告げることはなかった。
たった一度も。
彼は六年生の冬に、いなくなってしまった。
文字通り、いなくなったのだ。
この世界から。
十二月末のことだった。
彼の母方の実家へ帰省する途中、玉突き事故に巻き込まれたらしい。
ダンプカーとトラックに挟まれ、一家は全員が即死だった。
そして、それを知ったのは年が明けて、彼の葬儀等が全て終わった新学期のことだった。
ああ、死んだのか、と。
彼の優しい声はもう聞かれないのか、と。
彼が「綺麗だ」と言うことももうないのか、と思うと何だか妙な感じだった。
いつも彼が連れ出したあの廃墟に、今後行くことは無くなるのだろう。
それが少し、つまらない。
彼は、天国へ行ったのだろうか。
二年生だったと思う。
こちらは六年生だった。
もう、訳がわからない年齢ではない。
善悪というものも、よくよく分かっていた。法的にどうかは知らないけれど。
「秘密だよ。」
彼はそう言った。いつも、いつも。
そう言って腕を引くと、誰も住まなくなった民家の裏、人気のない場所へ向かう。
別にこの“秘密”を共有する必要はないのだけれど、彼は人気者だったし、何より優しかった。それにどうせ秘密なら、嫌悪がない方がいい。
ギリギリまで外で時間を潰す生活だから、彼とはいい暇つぶしになった。
茂みに置かれたビールケースに段ボールが轢かれている。
そこに腰掛ける。
「本当に綺麗だね。」
彼はよくそう言った。
おそらくは自分の容姿の事をそう言っているのだけど、自分ではよく分からない。けれどこの頃になると、この薄い色の髪も、同様に薄い虹彩も、やたらと人目を惹くことを理解していた。加えて、自分の顔は整っているらしい。
彼はそれを酷く気に入っていて、いつも自分を連れ出していた。
「そうかな。」
「自覚がない?本当に綺麗だ。」
そう言う彼も、世間的にはカッコいいと言われる容姿だと思う。アイドルグループのような中性的な顔立ち。
「いつか二人で暮らしたい。」
夢みがちな言葉だ。
彼がこう言う度、何と返答しようか迷う。彼と過ごすことは嫌ではなかったから。そして自分の生活に執着がなかったから。けれど、彼はいつも真剣な目でそんなことを言う。
だから黙っていた。
「まだ、分からないかな。」
それをいつも、彼は子供だからだと納得していた。
そして、そっと、頬に口づけた。
「大切にしたいんだ」
いつもそう言いながら。
大切に、なんて無駄なのに。
でも、そんな事を言ったら彼が泣いてしまうんじゃないかと思った。
だからそれを、彼に告げることはなかった。
たった一度も。
彼は六年生の冬に、いなくなってしまった。
文字通り、いなくなったのだ。
この世界から。
十二月末のことだった。
彼の母方の実家へ帰省する途中、玉突き事故に巻き込まれたらしい。
ダンプカーとトラックに挟まれ、一家は全員が即死だった。
そして、それを知ったのは年が明けて、彼の葬儀等が全て終わった新学期のことだった。
ああ、死んだのか、と。
彼の優しい声はもう聞かれないのか、と。
彼が「綺麗だ」と言うことももうないのか、と思うと何だか妙な感じだった。
いつも彼が連れ出したあの廃墟に、今後行くことは無くなるのだろう。
それが少し、つまらない。
彼は、天国へ行ったのだろうか。
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