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びおら

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第五章【全てを塗り潰す色編】

第十九話【既に混ざりしは黒】

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 赤坂は白金の指示通り、待機という名の日常を謳歌していた。表面的な付き合いしかしてこなかったクラスメイトともごく自然に話すようになり、放課後の付き合いもするようになった。
 そのようになったきっかけの一つに目黒の存在があった。目黒はその人柄から転校してすぐにクラスに打ち解け、今やいわゆるクラスの人気者となり、少し浮き気味になっていた赤坂とクラスの女子との仲を取り持った。赤坂はそのことには心から感謝していた。気が付けば、目黒と話す時にはたまに素が出ることさえあった。
「目黒君は適応力あるわよ、本当に。アタシが保証するわ」
「赤坂さんも結構砕けるっていうか、そっちが本当だったんだね」
「そうなのよ、本当はお淑やかな優等生なんかじゃないのよ、アタシって」
「確かに、無理してなさそう」
「なによ。今までアタシ、無理してるように見えてたの?」
「まぁ…ちょっとね。うん、今の方が良いと思うよ」
「そ、そう? …ま、アタシは楽な方が良いわ」
 二人はとても仲が良かった。それは周りの誰が見てもそのように見えたし、事実だった。それは赤坂自身が一番、そう思っていた。だから、彼女の『鋭角』を鈍らせていることに、彼女自身が一番、気付けなかった。

 その日の放課後。目黒は何か意を決したかのような面持ちで隣を向いた。帰り支度をしている赤坂はその視線を感じて目黒の方を向いた。目黒は何かを手に握り締めている。目黒は赤坂の顔をじっと見つめながら、手を開いた。そこには少しクシャクシャになった映画のチケットが二枚あった。
「よ、良かったらさ、これ、一緒に観に行ってくれ…ませんかっ!?」
「これ…映画の券よね?」
「今どき紙の券って…ダサかった、かな?」
「アタシは別にそういうのは気にしないけど…アタシって映画とかに対しても言いたいこと言っちゃうわよ? そんな人と一緒に観ても楽しいかしら?」
「赤坂さんと一緒に…行きたいんだ。…やっぱりダメかな?」
 まだ教室に残っていた数人のクラスメイトは、固唾を呑んでその様子を見つめていた。実は目黒に頼まれて残っていた者たちだ。
「別に…ダメとは言ってないけど。映画館なんていつ以来かしら」
「じゃ、じゃあ…」
「いいわよ、行きましょう」
 何故か静かな歓声が周りで起こった。目黒は何度も肩を叩かれている。赤坂はそれを不思議そうに見ていた。
「き、緊張が解けたらトイレ行きたくなっちゃった…ごめん赤坂さん、先に下駄箱行っててくれるかな?」
「なんで緊張してんのよ…じゃあ、あとでねっ」
 赤坂は未だ不思議そうな顔でクラスメイトたちの顔を見つめながら、教室を後にした。それから目黒はクラスメイトたちに頭を下げて、やや浮き足立った様子で教室からトイレに向かった。
「それにしても目黒くんもやるわね。教室で映画に誘うなんて」
 残ったクラスメイトが口々に言っている。
「けど、あの赤坂さんもまんざらでもない感じだったね~」
「協力しがいがあったわね」
「小百合、恐雲さんが引っ越してショック受けてたけど、入れ替わりに転校していた目黒君のおかげで元気取り戻したって言うか、前より明るくなったよね」
「けどさ…さっきチラッと見えたんだけどさ、チケット? あんなタイトルの映画、今やってたっけ?」
「いや、あたしたちが知らない映画くらいやってんでしょ普通に」
「そりゃそっか」

 その頃、良助は良助で待機という名の日常を謳歌していた。普通に大学に行って、帰りに最近見つけたスイーツ店で少しお高めのチーズケーキをホールで買ってホクホクとした気持ちでいた。
「ヤバいだろ…いやヤバいだろ。苦学生がこのレベルのチーズケーキをホールで買って家で一人で食べるのヤバいだろ…背徳とか言う次元じゃないだろぉ…」
「確かにヤバいですね」
 突如、後ろから声を掛けられる。振り向くと、同じチーズケーキをホールで買っている黒髪の青年が笑顔をこちらに向けていた。
「なんだあんた…って、そっちも同じの手に持ってんじゃねぇか。同類じゃねぇか」
「いや、僕は家族で食べるために買って来てるんですよ。あなたみたいに一人で食べる訳じゃない」
「そっすか。じゃ」
「家族で…そう。僕と兄さんと、小百合さんでね」
「………今なんか聞こえたんだけど?」
「そうですか? …もう行くんじゃないんですか?」
「ドライアイス入ってるからまだ慌てることないんで、付き合ってやってもいいが」
「そうですか、じゃあ僕と来てください。工藤良助さん」
 その黒髪の青年は笑顔を崩さずに、良助と小百合の名を口走った。

 つづく
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