19 / 24
第五章【全てを塗り潰す色編】
第十九話【既に混ざりしは黒】
しおりを挟む
赤坂は白金の指示通り、待機という名の日常を謳歌していた。表面的な付き合いしかしてこなかったクラスメイトともごく自然に話すようになり、放課後の付き合いもするようになった。
そのようになったきっかけの一つに目黒の存在があった。目黒はその人柄から転校してすぐにクラスに打ち解け、今やいわゆるクラスの人気者となり、少し浮き気味になっていた赤坂とクラスの女子との仲を取り持った。赤坂はそのことには心から感謝していた。気が付けば、目黒と話す時にはたまに素が出ることさえあった。
「目黒君は適応力あるわよ、本当に。アタシが保証するわ」
「赤坂さんも結構砕けるっていうか、そっちが本当だったんだね」
「そうなのよ、本当はお淑やかな優等生なんかじゃないのよ、アタシって」
「確かに、無理してなさそう」
「なによ。今までアタシ、無理してるように見えてたの?」
「まぁ…ちょっとね。うん、今の方が良いと思うよ」
「そ、そう? …ま、アタシは楽な方が良いわ」
二人はとても仲が良かった。それは周りの誰が見てもそのように見えたし、事実だった。それは赤坂自身が一番、そう思っていた。だから、彼女の『鋭角』を鈍らせていることに、彼女自身が一番、気付けなかった。
その日の放課後。目黒は何か意を決したかのような面持ちで隣を向いた。帰り支度をしている赤坂はその視線を感じて目黒の方を向いた。目黒は何かを手に握り締めている。目黒は赤坂の顔をじっと見つめながら、手を開いた。そこには少しクシャクシャになった映画のチケットが二枚あった。
「よ、良かったらさ、これ、一緒に観に行ってくれ…ませんかっ!?」
「これ…映画の券よね?」
「今どき紙の券って…ダサかった、かな?」
「アタシは別にそういうのは気にしないけど…アタシって映画とかに対しても言いたいこと言っちゃうわよ? そんな人と一緒に観ても楽しいかしら?」
「赤坂さんと一緒に…行きたいんだ。…やっぱりダメかな?」
まだ教室に残っていた数人のクラスメイトは、固唾を呑んでその様子を見つめていた。実は目黒に頼まれて残っていた者たちだ。
「別に…ダメとは言ってないけど。映画館なんていつ以来かしら」
「じゃ、じゃあ…」
「いいわよ、行きましょう」
何故か静かな歓声が周りで起こった。目黒は何度も肩を叩かれている。赤坂はそれを不思議そうに見ていた。
「き、緊張が解けたらトイレ行きたくなっちゃった…ごめん赤坂さん、先に下駄箱行っててくれるかな?」
「なんで緊張してんのよ…じゃあ、あとでねっ」
赤坂は未だ不思議そうな顔でクラスメイトたちの顔を見つめながら、教室を後にした。それから目黒はクラスメイトたちに頭を下げて、やや浮き足立った様子で教室からトイレに向かった。
「それにしても目黒くんもやるわね。教室で映画に誘うなんて」
残ったクラスメイトが口々に言っている。
「けど、あの赤坂さんもまんざらでもない感じだったね~」
「協力しがいがあったわね」
「小百合、恐雲さんが引っ越してショック受けてたけど、入れ替わりに転校していた目黒君のおかげで元気取り戻したって言うか、前より明るくなったよね」
「けどさ…さっきチラッと見えたんだけどさ、チケット? あんなタイトルの映画、今やってたっけ?」
「いや、あたしたちが知らない映画くらいやってんでしょ普通に」
「そりゃそっか」
その頃、良助は良助で待機という名の日常を謳歌していた。普通に大学に行って、帰りに最近見つけたスイーツ店で少しお高めのチーズケーキをホールで買ってホクホクとした気持ちでいた。
「ヤバいだろ…いやヤバいだろ。苦学生がこのレベルのチーズケーキをホールで買って家で一人で食べるのヤバいだろ…背徳とか言う次元じゃないだろぉ…」
「確かにヤバいですね」
突如、後ろから声を掛けられる。振り向くと、同じチーズケーキをホールで買っている黒髪の青年が笑顔をこちらに向けていた。
「なんだあんた…って、そっちも同じの手に持ってんじゃねぇか。同類じゃねぇか」
「いや、僕は家族で食べるために買って来てるんですよ。あなたみたいに一人で食べる訳じゃない」
「そっすか。じゃ」
「家族で…そう。僕と兄さんと、小百合さんでね」
「………今なんか聞こえたんだけど?」
「そうですか? …もう行くんじゃないんですか?」
「ドライアイス入ってるからまだ慌てることないんで、付き合ってやってもいいが」
「そうですか、じゃあ僕と来てください。工藤良助さん」
その黒髪の青年は笑顔を崩さずに、良助と小百合の名を口走った。
つづく
そのようになったきっかけの一つに目黒の存在があった。目黒はその人柄から転校してすぐにクラスに打ち解け、今やいわゆるクラスの人気者となり、少し浮き気味になっていた赤坂とクラスの女子との仲を取り持った。赤坂はそのことには心から感謝していた。気が付けば、目黒と話す時にはたまに素が出ることさえあった。
「目黒君は適応力あるわよ、本当に。アタシが保証するわ」
「赤坂さんも結構砕けるっていうか、そっちが本当だったんだね」
「そうなのよ、本当はお淑やかな優等生なんかじゃないのよ、アタシって」
「確かに、無理してなさそう」
「なによ。今までアタシ、無理してるように見えてたの?」
「まぁ…ちょっとね。うん、今の方が良いと思うよ」
「そ、そう? …ま、アタシは楽な方が良いわ」
二人はとても仲が良かった。それは周りの誰が見てもそのように見えたし、事実だった。それは赤坂自身が一番、そう思っていた。だから、彼女の『鋭角』を鈍らせていることに、彼女自身が一番、気付けなかった。
その日の放課後。目黒は何か意を決したかのような面持ちで隣を向いた。帰り支度をしている赤坂はその視線を感じて目黒の方を向いた。目黒は何かを手に握り締めている。目黒は赤坂の顔をじっと見つめながら、手を開いた。そこには少しクシャクシャになった映画のチケットが二枚あった。
「よ、良かったらさ、これ、一緒に観に行ってくれ…ませんかっ!?」
「これ…映画の券よね?」
「今どき紙の券って…ダサかった、かな?」
「アタシは別にそういうのは気にしないけど…アタシって映画とかに対しても言いたいこと言っちゃうわよ? そんな人と一緒に観ても楽しいかしら?」
「赤坂さんと一緒に…行きたいんだ。…やっぱりダメかな?」
まだ教室に残っていた数人のクラスメイトは、固唾を呑んでその様子を見つめていた。実は目黒に頼まれて残っていた者たちだ。
「別に…ダメとは言ってないけど。映画館なんていつ以来かしら」
「じゃ、じゃあ…」
「いいわよ、行きましょう」
何故か静かな歓声が周りで起こった。目黒は何度も肩を叩かれている。赤坂はそれを不思議そうに見ていた。
「き、緊張が解けたらトイレ行きたくなっちゃった…ごめん赤坂さん、先に下駄箱行っててくれるかな?」
「なんで緊張してんのよ…じゃあ、あとでねっ」
赤坂は未だ不思議そうな顔でクラスメイトたちの顔を見つめながら、教室を後にした。それから目黒はクラスメイトたちに頭を下げて、やや浮き足立った様子で教室からトイレに向かった。
「それにしても目黒くんもやるわね。教室で映画に誘うなんて」
残ったクラスメイトが口々に言っている。
「けど、あの赤坂さんもまんざらでもない感じだったね~」
「協力しがいがあったわね」
「小百合、恐雲さんが引っ越してショック受けてたけど、入れ替わりに転校していた目黒君のおかげで元気取り戻したって言うか、前より明るくなったよね」
「けどさ…さっきチラッと見えたんだけどさ、チケット? あんなタイトルの映画、今やってたっけ?」
「いや、あたしたちが知らない映画くらいやってんでしょ普通に」
「そりゃそっか」
その頃、良助は良助で待機という名の日常を謳歌していた。普通に大学に行って、帰りに最近見つけたスイーツ店で少しお高めのチーズケーキをホールで買ってホクホクとした気持ちでいた。
「ヤバいだろ…いやヤバいだろ。苦学生がこのレベルのチーズケーキをホールで買って家で一人で食べるのヤバいだろ…背徳とか言う次元じゃないだろぉ…」
「確かにヤバいですね」
突如、後ろから声を掛けられる。振り向くと、同じチーズケーキをホールで買っている黒髪の青年が笑顔をこちらに向けていた。
「なんだあんた…って、そっちも同じの手に持ってんじゃねぇか。同類じゃねぇか」
「いや、僕は家族で食べるために買って来てるんですよ。あなたみたいに一人で食べる訳じゃない」
「そっすか。じゃ」
「家族で…そう。僕と兄さんと、小百合さんでね」
「………今なんか聞こえたんだけど?」
「そうですか? …もう行くんじゃないんですか?」
「ドライアイス入ってるからまだ慌てることないんで、付き合ってやってもいいが」
「そうですか、じゃあ僕と来てください。工藤良助さん」
その黒髪の青年は笑顔を崩さずに、良助と小百合の名を口走った。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる