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びおら

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第一章【赤との出会い編】

第一話『夜とマネキンとチーズケーキ』

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 年の瀬の深夜0時半、街灯の明かりは空に浮かぶ満月より明るく夜道を照らし、昼間は学生で溢れかえる駅前は既に人の気配はなく、道端で淡くぼやけるコンビニの前には灯に誘われた羽虫の様に無為に屯する若者二、三人。

 ごく当たり前な夜の街の風景である。その当たり前の中に自然と溶け込む、つまり突然深夜に食欲に襲われコンビニに向かう大学生が一人いようと、それは紛れもない日常のあり様なのは疑いようがない。

 なのに、

 その大学生、夜中の0時過ぎになんの脈絡もなく突然チーズケーキが無性に食べたくなる衝動に襲われた工藤良助は、何故か全力疾走で夜道を駆けている。一体のマネキンに追いかけられながら。
「え、なんで、どういう状況? あれマネキンだよな? 首ガクンガクンして、明らかに人のソレじゃない動きしてるよな? ってか走ってるよな? 追いかけられてるよな、俺?」
 工藤良助は何度も振り返ってはマネキンを確認し、無意識にモノローグを声に出しながら色々と考えて走っている。自宅のマンションの部屋に向かうのは果たして正しいのか、部屋に押し入られるのは避けたい、しかし行く当てがない。警察に行こうとも考えたがこんな時間にウロウロしてる自分もどうなんだと色々面倒くさい感じになるのも嫌だし、それになんとなく肌感覚でこの事態は警察にどうこうできる問題ではないのでは? と映画の見過ぎのせいで警察には頼れないと考え、結果、ノープランでとにかく走り回っているしかない現状に、そろそろ体力の限界が差し迫っていた。
「…で、ひとりごと終わった?」
 突然、良助の真横から声が聞こえる。その方向を見ると、街灯に照らされた白い肌に映える真っ赤な髪の、服装から見るに恐らく女子高生が一人、息を上げることなく並走していた。
「だ、だ、誰だよッ!? ってかこんな時間に女子高生が外を彷徨くなよっ!? 親御さんが心配するだろうがっ!?」
「今そんな事どーでもいいでしょ。で、アンタ、助けて欲しくない?」
「助けるって…、あれからかっ!?」
 マネキンはやはり不気味な挙動のまま、少しずつ距離を縮めて来ていた。焦点のない瞳は、しかしどこか怪しく浮かぶ満月を捉えているようにも見えた。
「このままずーっと追いかけっこするのがアンタの希望だったら止めないけど」
「助けて下さい助けて下さいマジで助けて下さい年下の女子高生に土下座する事も辞さないくらい助けて下さい」
「圧が怖い。あと目つきが悪い。…って言うかさぁ、自分で何とかしたらどうなのよ、ユーザーなんだし」
「ユーザー? なんの? っていうか何? いやお前もなかなか目つき悪いだろ」
 聞き慣れない単語に疑問を抱いているうちに、赤髪の女子高生は急ブレーキをかけて立ち止まり、迫りくるマネキンに対峙した。良助もやや距離を取ってから漸く立ち止まり、女子高生とマネキンの行方を伺った。
 女子高生は徐ろに左腕の袖を捲り上げ、そこに巻いているイチゴ型の腕時計にそっと右手で触れた。
「あーっと、えーっと…どこかに、ない、か、なぁーっ、と」
 突如、女子高生は間抜けな声を上げて辺りを見回し、一瞬嫌な顔をしてため息をついた。
「はぁー、ダルいわぁ。ないじゃん」
 そう言って女子高生は振り返り、再び走り出した。良助も慌ててそれに追随する。マネキンの勢いは留まらない。
「おいおいおい、さっきのアレなんだったんだよっ!? なんか手首に触れてだろ、なんかやる感じだっただろ、なんもしてねぇじゃねぇかっ!?」
「っさいわねぇ、なかったんだからしょーがないでしょ、それより、この先って郵便局とかって、なかった?」
「はぁ? 郵便局? 確か…なかったような…あったような」
「ったく使えないわねぇ…。ポストでもあればと思ったんだけど」
「ポストぉ? 誰かに手紙でも出して助けを」
「なわけないでしょ、バカじゃないの? とにかく赤い物よ、何でもいいから赤くてそこそこ大きい物、探してちょうだい」
 女子高生の謎の要求に良助は首をひねりながらも周りを見やる。すると視界の奥に、普段よく利用するファーストフード店を見つける。店頭には季節柄か、サンタクロースの格好をしたマネキンが悠々と鎮座していた。
「なんでまだサンタが置いてあるんだよ、もう27日だろ…」
「あら、あるじゃない。…よーし、マネキンにはマネキンでやってやるわよ。趣があって良いわ」
 女子高生はニヤリと口の端をつり上げ、そのサンタの目の前で立ち止まった。
「アンタ、ケガしたくなかったら離れてなさいよ」
 言われたとおりに良助は割と距離をとって不安そうに女子高生とサンタを見つめた。
 マネキンはついに追いつき、女子高生の前で止まり、両腕をガチャガチャと不規則に振り回してみせた。しかしそんな不気味な光景にも一切臆することなく、女子高生は先ほどと同じようにイチゴ型の腕時計に触れた。
「見せてやるわよ、私の超能力をっ!!」
 叫びと当時に女子高生のそばで立つサンタのマネキンが突如浮かび上がり、うつぶせの形となってまるでロケットのような推進力を得て前方のマネキンに突撃した。相対するマネキンは避けるような動作を見せることなく、二体はそのまま激突した。
 ぶつかる衝撃音はそれほど大きくなかったが、二体のマネキンは無残な姿で折り重なって、どちらももう動き出すことはなかった。恐る恐る良助はそれに近づき、やはり服屋などでディスプレイされている、ごく普通のマネキンであることを確認する。
 女子高生は一仕事してやった感を出して良助の方を見ている。良助は、またもや恐る恐る女子高生に近づく。
「どう、年下の女子高生に助けてもらった気分は?」
「た、助かった、ありがとう。…うん、ありがとう、マジで」
「で、なんで自分の能力で何とかしなかったのよ、教えなさいよ」
 女子高生は詰問する感じで良助に詰め寄った。だが良助にはその言葉の意味や心当たりはなかった。
「何も知らない? そんなわけないでしょ。ユーザーはユーザーを認知出来るのよ。アンタは紛れもなくユーザー。隠したって良いことないわよ?」
「だから、ユーザーってなんなんだよ、本当に心当たりないんだって。今な、こうして普通にしてるけど、本当は頭ん中大混乱中なんだよ? 俺はただ普通に夜中にコンビニのチーズケーキが食べたくなったから買いに行っただけなんだよ、わかるだろ、いきなりチーズケーキ食べたくなるだろ?」
「ないわよ、少なくともアタシは。はぁ…、まぁ確かに、嘘ついてる感じじゃあ、ないのよねぇ…。何かのイレギュラーかしら? だとしたら…」
「あの…、とにかく助けてくれたことは感謝してる。じゃあ、もう行っていいかな? チーズケーキ欲と体力が限界なんだ」
「待ちなさいよ。アンタ、名前は?」
「名前ぇ? あぁー…、工藤良助だ。そこの須照大に通う大学二回生だ」
「そこまで教えてくれるなんてちょっと不用心じゃない? まぁ手間が省けたから良いけど。ほら、これ」
 女子高生はスカートのポケットから少しぐちゃっとなった白い紙を無造作に取り出し、良助の手に押し込んだ。見るとそれは名刺だった。
「えっと…、対ユーザー事案専門解決班COLORS、赤坂小百合。…取り敢えず君の名前だけは分かった。あとはサッパリ分からん」
「まぁ、色々詳しい事は年明けってことで。また連絡するから、番号教えなさいよ」
「番号は別に良いけどなんで年明けなんだよ、モヤモヤしたまま年を越せってか?」
「うちの代表、年末年始は何が何でも休むタイプなのよ。でも安心しなさい、ちゃんとパトロールはするから、もうこんなことは身の回りで起こらないはずよ、多分。まぁ、犯人を見つけ出すまで安心とは言えないけどね」
「全く安心できねぇ…。不明瞭しか存在しねぇ…」
「ったく、面倒くさいわねぇ…。じゃあ掻い摘んで説明すると、ユーザーっていうのは超能力者のこと、超能力。触らずに物を動かしたりするあれ。以上」
「以上。じゃねぇよ。なんでさも当たり前のように超能力者が存在してんだよ。この世はフィクションじゃねぇんだよ」
「いないよりいることのほうが証明しやすいとか言うでしょ、言わない? まぁいいわ、とにかく超能力者は存在すんの、この須照市にはね。二年前に突然、超能力に目覚めた人達が何人かいるの。どうしてか日本中でもこの須照市にだけね」
「二年前って俺が越して来た時か…。でも今の今まで、そんなファンタジーとは無縁なごく普通の日常過ごしてきたけどなぁ」
「ファンタジーって言うよりサイエンスでしょ、どーでもいいけど。それはね、アタシたちが常日頃から超能力関係の様々な問題を密かに解決してるからよ。この町はアタシたちの手で守られてるのよ、感謝しなさい」
「まぁ…、流石に信じないわけには行かないよなぁ。こんな目に遭った以上…。あぁっ、そんなことよりこんな夜遅くまで女子高生を外に居させるわけには行かないよな、今日はもう帰りなさい、さぁ」
「何なのよ、なんか妙に倫理観持ち出すのよね…。まぁ疲れたし今日はこれでいいわ。…そうねぇ、たしかにこのまま放置しとくわけにもいかないし…。明日にでも代表に連絡しとこうかな。じゃあ、また連絡するわ」
「え、なんで連絡するんだよ? もう今ので大体のことは聞いたし、君等が密かに解決してくれるんだろ? 俺はもう関係ないんでは…」
「関係あるに決まってんでしょ。アタシたちの仕事にはユーザーの把握と必要によっては管理ってのがあるのよ。アンタは…よくわかんないけどユーザーであることは間違いない。けど自分がユーザーだと自覚してないパターンなんて初めてだから、要観察対象ってことになんのよ。年明けを待たずに、近い内に代表に会わせるから」
「なんかえらいことに巻き込まれちまったなぁ…、はぁ…。あ、あと今思ったんだけど、さっき超能力使う時? なんかかっこよかったけど、あぁいう決めポーズ的なことってみんなするのか?」
「ど、どーでもいいこと聞くんじゃないわよ。ファンサービスよファンサービス。そう、ファンサービス、以上」
 こうして夜は更ける。良助にとっては、否が応でも何かが始まってしまった夜となった。

 つづく
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