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第一章【赤との出会い編】
第二話『ネクタイと雑居ビル』
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翌日、大学が冬休みということもあって良助は昼前に目覚めた。テーブルの上には昨晩、あのあと帰ってきてすぐに平らげたチーズケーキのパックがそのまま置かれていて、昨夜の出来事が夢などではなく現実であったことを良助に突き付けた。何かを否定せんと首を振って、しかたなくテレビをつける。
年末特番ばかりの中、ニュースに自分の住む町の名前が聞こえたので注視した。
『須照市に本社を置く大企業、イワトコーポレーション社長、後藤狢氏の…』
最後まで見ることなくチャンネルを変える。大企業社長の何かしらの挨拶になど興味を持てず、年末の大型お笑い番組の方がよっぽど良助にとっては意味のあるものと言えた。ベテランコンビの漫才が終わるのを待たずに電話が鳴る。
「あかさか、さゆりぃ…? あぁ、昨日の…。まぁ、夢じゃないよなぁ…」
電話に出ると赤坂小百合は、まくし立てるようにとある場所を指定して今すぐ来るように命じ、一方的に電話を切った。良助は渋々、本当に渋々、支度をした。
その場所とは良助が住むマンションから電車で一駅行ったところにある、飲食店が何軒が入った雑居ビルだった。ビルの入り口に赤坂小百合は昨日と同じ学生服で腕を組んで立っていた。
「遅いわね」
「寝起きで30分でしかも電車乗って来てんだぞ、努力を認めろ…」
「まぁいいわ、入るわよ」
「ここ、飯屋ばっか入ったビルだけど…。昼飯食うのか?」
「なわけないでしょ、ここに事務所があんの、アタシたちの」
ビルの入り口、それぞれのフロアに入っている店名が書かれている中に、5階に確かにあった。
「対ユーザー事案専門解決班COLORS本部…。あった。マジかよ」
二人は手狭なエレベーターに乗り込み、無言のまま重力をしばし感じ、五階にたどり着いた。そこの一室、ドアには先ほどと同じく『対ユーザー事案専門解決班COLORS本部』と書かれていた。小百合はドアを開き、良助を部屋に押し込んでから無造作にドアを閉めた。とんでもない轟音が良助の耳を襲った。
「おまっ、お前…、ちょいちょい手荒だよな。名刺の時といい…」
「無駄口叩いてんじゃないわよ、ほら、さっさと奥へ進みなさいよ」
「口も大概悪いよな…、最近の女子高生ってみんなそうなのか?…」
「っさいわねぇ…。あのねぇ、そういう事言うとオッサンぽいから、やめときなさいよ?」
奥、と言っても一般的な個人経営している飲食店と同じ間取りであるためさほど広くなく、廊下を数歩進むとリビングにたどり着いた。リビングと言ってもデスクが二つに応接用であろうソファが一対あるだけの生活感とは無縁な部屋だった。そのデスクのうちの一つ、少しだけ高級感のある革張りの椅子に深く腰を下ろしている男性が一人いた。真っ黒なネクタイと真っ白なスーツに身を包んだその男性の髪は真っ白だが、年齢は良助とそれほど変わらないように見えた。
「座ってくれ給え」
白髪の男性は芝居がかったような話し方の低い声で良助をソファに促した。その独特の雰囲気な飲み込まれそうになった良助は、どこかぎこちなくソファに座った。その隣に小百合はドカッと腰を下ろした。
「いやはや、すまないね、こんな朝早くに呼びつけてしまって」
「いや…、もう昼過ぎてますけど、まぁ…、恐れ入ります」
「君は…冬休みの大学生だろう? ならちょうど今頃が寝起きだと思ったのだが、違ったかね?」
「いやまぁ、そのとおりですけど…」
「ましてやこの年の瀬…。非常識だと思わんかね、28日にも関わらずこうして仕事をしているとは…」
「まぁ…、でも…まぁ、そういう人も多いでしょう…」
「私はね、年末年始は家に居たいのだよ。絶対的にね」
「あぁ…たしかそう聞いてました…はい、なんかすみません…」
良助は隣で無言でスマホゲームに勤しんでいる小百合に耳打ちした。
(あの人、なんか…だいぶ独特だよな、話し方と言うか、雰囲気というか…)
(いつもあぁなのよ、初対面の人には。まぁ、もうそろそろよ)
小百合がニヤッとすると、それが合図であるかのように白髪の男性はネクタイを緩めて襟を開き、大きく息を吐いた。
「あー、もう疲れた。もういいよね、小百合君」
まるでカットのかかった俳優のように突然雰囲気が崩れた白髪の男性は、非常に明るい声で良助に声かけた。小百合は何も答えない。
「いや~、すまないね、ほら、初対面の人にはカッコつけたいじゃん? それに僕ってさ、どこか近寄りがたい雰囲気があるって小百合君たちに言われてるからさ、キャラ変してみようかなぁ~って思ってさ。さ、楽にしてよ」
良助はリアルで面食らったのは初めてかもしれないなぁと関心しつつ、隣でクスクス笑っている小百合の方を見なかった。
「まぁ、年は僕の方が上だけど、気にせずタメ口でいいからさ、因みに僕って何歳に見える? ねぇ?」
良助はリアルでウザ絡みされたのは初めてかもしれないなぁと辟易しつつ、やはら隣でクスクス笑っている小百合の方を見なかった。
「あーっと…、25くらい、ですかね?」
「あは、嬉しっ めっちゃ若く見られた。いやねぇ、実は僕こう見えて30歳なんだよ…その割には白髪凄いでしょ、いつももっと上に見られるから嬉しいなぁ。君とは仲良くできそうだよ~」
「白金さん、そろそろ自己紹介くらいしたら?」
無言を貫いていた小百合が漸く口を開いた。とても真っ当なことを言ったなぁと良助は密かに感心した。
「あ、まだだっけ? それは失礼した。僕は白金真輝志。対ユーザー事案専門解決班COLORSの代表をしている。宜しくね」
「あ、どうも、工藤良助と言います。昨日の夜、まぁ、色々あってここに来ることになりまして…。」
白金は先ほどの芝居がかった雰囲気とは打って違い、しかしつい今の砕けた雰囲気とも違う、一言で言えばカリスマ性を感じさせる別の雰囲気を突如纏い、居住まいを正した。
「いきなり多くの事を話しても混乱させるだけだからね、今は多くは語らない。ユーザーについては小百合君から少し聞いているだろう? …我々はこの能力を得た時、ある使命と言うか、それとも約束か…。まぁいい、この力を正しく使おうと誓ったんだ。だからこの力を悪用する者は許せない。そしてこの街も好きだ。だからこの力でしか成さない形で街を守ろうと思ったんだ」
真輝志はデスクの上にある水を一口飲み、少し息を整えてから再び口の開いた。良助は真輝志の言葉をただ黙って聞いていた。
「しかし僕たちも万能ではない、だから偶に君のように能力によって被害を被る人が出てきてしまう。これは僕の力不足だ。…そうだね、単刀直入に言おう、君に力になってもらいたい。…いや、言葉を濁すのは失礼だね。僕たちは悪意や敵意のないユーザーは管理下に置きたい。それだけだ。君はどうやら人間的には敵意は感じられない。だが君はイレギュラーだ」
「そのイレギュラーって…、俺が自分がユーザーだって知らなかったこと、ですよね?」
「あぁ。通常、ユーザーになった者は無意識に自覚し、能力についても…そうだな、まるで元々あったかのようにいきなり、使いこなせるものなんだ。…何度も問い詰めるようで申し訳ないが、本当に心当たりはないかな?」
「あ、あぁ…。本当に昨日まで、そんな超常現象なんて信じてなかったし無縁だった…」
「…君は確か2年前に、ここ須照市に引っ越してきたんだね?」
「大学進学で、学校の近くに部屋を借りて。須照大を受けたのも、たまたまだし…」
「その頃くらいから、なにか、些細なことでも、ほんの少しの違和感とかも…なかったかな?」
良助はしばし考え込んだあと、何かを思い出したように手を打った。
「そういえば…、この街に引っ越してきてすぐの頃、越したマンションの隣の部屋の住人が初対面なのにやたら親切というか、なんか色々世話になったりしたなぁ…。その他にも、初めて行った定食屋のおばちゃんが何でかおかず一つサービスしてくれたり、同級生が初日から奢ってくれたりとか、その他にも…」
「そんなの、たまたまアンタが住んでた所が良い人ばっか住んでたってだけでしょ。くっだらない」
小百合は飽き飽きしたとばかりに口を挟んだ。それがきっかけに部屋を包んでいた独特の緊張感は薄れ、白金も元の軽い感じに戻っていた。
「やー、すまないね、僕の悪い癖なんだ。つい、問い詰めるようなことをしてごめんね。君の能力やらなんやらに関しては追々、ということで。それで…、さっき言った協力してほしいというのは強制じゃないから、君の意思を尊重する。でも一つだけ約束してほしい。もし自分の能力を知ったとしても、決して悪用しないでほしい。君とは敵対したくないんだよ、本当にね」
真輝志の言葉は掴み所がないが、その一言だけは本心だと感じた良助は頷いた。
「じゃあ、そういうわけで後のことは僕たちに任せて、君は日常に戻り給えー、なんてね。小百合君、お見送りして~」
小百合はソファから立ち上がり、首だけで良助を促した。
「あの、後のことって…、昨日のマネキンを操ってた犯人を探すってことですよね?」
良助の質問に真輝志は意外そうな顔をした。
「そうだけど?」
「もしかして、万が一、俺がターゲットにされてたってことも、あるんですかね?」
「それは分からない。無差別な通り魔的犯行か、それとも君がユーザーだから、か…」
「って事は、これって俺もまだ当事者ってことですよね? だったら、なんていうか、このまま無視するのも後味悪いような…」
「か弱い女子高生一人に任せるのも気が引けるから?」
「か弱くはなさそうですけど、まぁそれもあります。…取り敢えず、この件だけは俺にも何か手伝わせて貰えませんかね?」
それを聞いた真輝志の顔は明らかに晴れ晴れと、そしてしてやったりと言った顔になり、立ち上がって良助の両手を掴んだ。
「よくぞ言ってくれたっ!! やはり君は僕が見込んだだけのことはある。よろしくお願いするよ、同志よっ!!」
「見込まれてないし丸め込まれた気がしてならない…」
小百合の顔は何とも言えないものになっていた。
「じゃあ早速だけど、今回の件に関して少し気になる情報が入ってきたんだ。協力してくれるってことで、君にも話すよ」
真輝志はデスクの引き出しから一本のネクタイを取り出した。派手な黒と黄色のストライプ柄だった。
「こ、これは…クジュークの新作ではっ!?」
突如、良助は鼻息を荒くしてそのネクタイを手にとって裏地から隅々まで観察し始めた。小百合は明らかに引いているが、真輝志はただただ頷いている。
「やはり君は見る目がある…。そう、それこそは稀代のファッションデザイナー、我が須照市が誇る逸材、九十九ジャスミンが代表を務めるファッションブランド、クジュークが先日発表した新作のネクタイだっ!!」
「しょ、初日に並んでも手に入らなかった代物を…あなたって人はぁっ!!」
「ふははははっ!! 4日前から並べば造作もないことよっ!! 甘い、甘いぞぉっ!!」
「え、なにこのノリ…」
小百合を置き去りにして二人の男は別世界に旅立ってしまった。ネクタイ好きという共通点を得た二人はそれから15分ほど談義を交わした後、小百合に物理的に止められて正気を取り戻した。
「すまない小百合君…。まさかここまで深くネクタイの話ができる人と出会えるとは思わなくてね…」
「俺もです…。ネクタイ好きってだけで引かれてましたから…」
「…で、そのクジュクー? が、どうかしたんですか?」
「クジューク、だっ!! あぁいや、それがね、ここ最近、この須照市にあるクジュークのショップからマネキンが何度か一体ずつ、紛失してるという話があるんだ。因みに昨日も一体、消えているそうだ」
「一体ずつ…間違いないわな」
「ん? 一体ずつが何か不思議なのか?」
良助は疑問には真輝志が答えた。
「ユーザーの超能力はね、一度に一つの対象しか操れないんだよ。ほら、昨日、小百合君もマネキンを動かしただろう? 何体でも動かせたらもう1体の方も操られていた」
「なるほど…。しかし何度もそんな、紛失って…盗難で警察が動くんじゃ…」
「警察に関しては、僕たちと警察は協力関係にあってね、ユーザー案件に関しては警察から一任されているんだ。悪質なユーザーの場合は僕たちが無力化してから警察に引き渡して、それぞれ適した罪状で逮捕される。だからニュースにはあまりならない。しかしそれでも情報が今まで入らなかったのは不可解だ」
「公にならなかった?」
「あぁ、しかし…そうだね…、その情報を聞いた者によると、まるで内部告発をしているかのようだったそうだ…」
「内部告発…口止めされてた? と言うことはある程度、力のある人間の仕業で…まさか」
そこで良助の顔が曇った。小百合は未だ腕を組んで唸っていた。
「僕も認めたくなかったんだが…そうだ、九十九ジャスミンは須照市在住だ。さらに付け加えておくと、超能力を使うには、操りたい対象が視界に入っていなければならないんだよ」
「と言うことは…、まさかっ!? あそこに、俺のすぐ近くに、九十九ジャスミンがいたってことなのかっ!? マジかよっ!?」
「いや、問題はそこじゃないでしょ…」
既に考えることをやめていた小百合は、深くため息をついた。
つづく
年末特番ばかりの中、ニュースに自分の住む町の名前が聞こえたので注視した。
『須照市に本社を置く大企業、イワトコーポレーション社長、後藤狢氏の…』
最後まで見ることなくチャンネルを変える。大企業社長の何かしらの挨拶になど興味を持てず、年末の大型お笑い番組の方がよっぽど良助にとっては意味のあるものと言えた。ベテランコンビの漫才が終わるのを待たずに電話が鳴る。
「あかさか、さゆりぃ…? あぁ、昨日の…。まぁ、夢じゃないよなぁ…」
電話に出ると赤坂小百合は、まくし立てるようにとある場所を指定して今すぐ来るように命じ、一方的に電話を切った。良助は渋々、本当に渋々、支度をした。
その場所とは良助が住むマンションから電車で一駅行ったところにある、飲食店が何軒が入った雑居ビルだった。ビルの入り口に赤坂小百合は昨日と同じ学生服で腕を組んで立っていた。
「遅いわね」
「寝起きで30分でしかも電車乗って来てんだぞ、努力を認めろ…」
「まぁいいわ、入るわよ」
「ここ、飯屋ばっか入ったビルだけど…。昼飯食うのか?」
「なわけないでしょ、ここに事務所があんの、アタシたちの」
ビルの入り口、それぞれのフロアに入っている店名が書かれている中に、5階に確かにあった。
「対ユーザー事案専門解決班COLORS本部…。あった。マジかよ」
二人は手狭なエレベーターに乗り込み、無言のまま重力をしばし感じ、五階にたどり着いた。そこの一室、ドアには先ほどと同じく『対ユーザー事案専門解決班COLORS本部』と書かれていた。小百合はドアを開き、良助を部屋に押し込んでから無造作にドアを閉めた。とんでもない轟音が良助の耳を襲った。
「おまっ、お前…、ちょいちょい手荒だよな。名刺の時といい…」
「無駄口叩いてんじゃないわよ、ほら、さっさと奥へ進みなさいよ」
「口も大概悪いよな…、最近の女子高生ってみんなそうなのか?…」
「っさいわねぇ…。あのねぇ、そういう事言うとオッサンぽいから、やめときなさいよ?」
奥、と言っても一般的な個人経営している飲食店と同じ間取りであるためさほど広くなく、廊下を数歩進むとリビングにたどり着いた。リビングと言ってもデスクが二つに応接用であろうソファが一対あるだけの生活感とは無縁な部屋だった。そのデスクのうちの一つ、少しだけ高級感のある革張りの椅子に深く腰を下ろしている男性が一人いた。真っ黒なネクタイと真っ白なスーツに身を包んだその男性の髪は真っ白だが、年齢は良助とそれほど変わらないように見えた。
「座ってくれ給え」
白髪の男性は芝居がかったような話し方の低い声で良助をソファに促した。その独特の雰囲気な飲み込まれそうになった良助は、どこかぎこちなくソファに座った。その隣に小百合はドカッと腰を下ろした。
「いやはや、すまないね、こんな朝早くに呼びつけてしまって」
「いや…、もう昼過ぎてますけど、まぁ…、恐れ入ります」
「君は…冬休みの大学生だろう? ならちょうど今頃が寝起きだと思ったのだが、違ったかね?」
「いやまぁ、そのとおりですけど…」
「ましてやこの年の瀬…。非常識だと思わんかね、28日にも関わらずこうして仕事をしているとは…」
「まぁ…、でも…まぁ、そういう人も多いでしょう…」
「私はね、年末年始は家に居たいのだよ。絶対的にね」
「あぁ…たしかそう聞いてました…はい、なんかすみません…」
良助は隣で無言でスマホゲームに勤しんでいる小百合に耳打ちした。
(あの人、なんか…だいぶ独特だよな、話し方と言うか、雰囲気というか…)
(いつもあぁなのよ、初対面の人には。まぁ、もうそろそろよ)
小百合がニヤッとすると、それが合図であるかのように白髪の男性はネクタイを緩めて襟を開き、大きく息を吐いた。
「あー、もう疲れた。もういいよね、小百合君」
まるでカットのかかった俳優のように突然雰囲気が崩れた白髪の男性は、非常に明るい声で良助に声かけた。小百合は何も答えない。
「いや~、すまないね、ほら、初対面の人にはカッコつけたいじゃん? それに僕ってさ、どこか近寄りがたい雰囲気があるって小百合君たちに言われてるからさ、キャラ変してみようかなぁ~って思ってさ。さ、楽にしてよ」
良助はリアルで面食らったのは初めてかもしれないなぁと関心しつつ、隣でクスクス笑っている小百合の方を見なかった。
「まぁ、年は僕の方が上だけど、気にせずタメ口でいいからさ、因みに僕って何歳に見える? ねぇ?」
良助はリアルでウザ絡みされたのは初めてかもしれないなぁと辟易しつつ、やはら隣でクスクス笑っている小百合の方を見なかった。
「あーっと…、25くらい、ですかね?」
「あは、嬉しっ めっちゃ若く見られた。いやねぇ、実は僕こう見えて30歳なんだよ…その割には白髪凄いでしょ、いつももっと上に見られるから嬉しいなぁ。君とは仲良くできそうだよ~」
「白金さん、そろそろ自己紹介くらいしたら?」
無言を貫いていた小百合が漸く口を開いた。とても真っ当なことを言ったなぁと良助は密かに感心した。
「あ、まだだっけ? それは失礼した。僕は白金真輝志。対ユーザー事案専門解決班COLORSの代表をしている。宜しくね」
「あ、どうも、工藤良助と言います。昨日の夜、まぁ、色々あってここに来ることになりまして…。」
白金は先ほどの芝居がかった雰囲気とは打って違い、しかしつい今の砕けた雰囲気とも違う、一言で言えばカリスマ性を感じさせる別の雰囲気を突如纏い、居住まいを正した。
「いきなり多くの事を話しても混乱させるだけだからね、今は多くは語らない。ユーザーについては小百合君から少し聞いているだろう? …我々はこの能力を得た時、ある使命と言うか、それとも約束か…。まぁいい、この力を正しく使おうと誓ったんだ。だからこの力を悪用する者は許せない。そしてこの街も好きだ。だからこの力でしか成さない形で街を守ろうと思ったんだ」
真輝志はデスクの上にある水を一口飲み、少し息を整えてから再び口の開いた。良助は真輝志の言葉をただ黙って聞いていた。
「しかし僕たちも万能ではない、だから偶に君のように能力によって被害を被る人が出てきてしまう。これは僕の力不足だ。…そうだね、単刀直入に言おう、君に力になってもらいたい。…いや、言葉を濁すのは失礼だね。僕たちは悪意や敵意のないユーザーは管理下に置きたい。それだけだ。君はどうやら人間的には敵意は感じられない。だが君はイレギュラーだ」
「そのイレギュラーって…、俺が自分がユーザーだって知らなかったこと、ですよね?」
「あぁ。通常、ユーザーになった者は無意識に自覚し、能力についても…そうだな、まるで元々あったかのようにいきなり、使いこなせるものなんだ。…何度も問い詰めるようで申し訳ないが、本当に心当たりはないかな?」
「あ、あぁ…。本当に昨日まで、そんな超常現象なんて信じてなかったし無縁だった…」
「…君は確か2年前に、ここ須照市に引っ越してきたんだね?」
「大学進学で、学校の近くに部屋を借りて。須照大を受けたのも、たまたまだし…」
「その頃くらいから、なにか、些細なことでも、ほんの少しの違和感とかも…なかったかな?」
良助はしばし考え込んだあと、何かを思い出したように手を打った。
「そういえば…、この街に引っ越してきてすぐの頃、越したマンションの隣の部屋の住人が初対面なのにやたら親切というか、なんか色々世話になったりしたなぁ…。その他にも、初めて行った定食屋のおばちゃんが何でかおかず一つサービスしてくれたり、同級生が初日から奢ってくれたりとか、その他にも…」
「そんなの、たまたまアンタが住んでた所が良い人ばっか住んでたってだけでしょ。くっだらない」
小百合は飽き飽きしたとばかりに口を挟んだ。それがきっかけに部屋を包んでいた独特の緊張感は薄れ、白金も元の軽い感じに戻っていた。
「やー、すまないね、僕の悪い癖なんだ。つい、問い詰めるようなことをしてごめんね。君の能力やらなんやらに関しては追々、ということで。それで…、さっき言った協力してほしいというのは強制じゃないから、君の意思を尊重する。でも一つだけ約束してほしい。もし自分の能力を知ったとしても、決して悪用しないでほしい。君とは敵対したくないんだよ、本当にね」
真輝志の言葉は掴み所がないが、その一言だけは本心だと感じた良助は頷いた。
「じゃあ、そういうわけで後のことは僕たちに任せて、君は日常に戻り給えー、なんてね。小百合君、お見送りして~」
小百合はソファから立ち上がり、首だけで良助を促した。
「あの、後のことって…、昨日のマネキンを操ってた犯人を探すってことですよね?」
良助の質問に真輝志は意外そうな顔をした。
「そうだけど?」
「もしかして、万が一、俺がターゲットにされてたってことも、あるんですかね?」
「それは分からない。無差別な通り魔的犯行か、それとも君がユーザーだから、か…」
「って事は、これって俺もまだ当事者ってことですよね? だったら、なんていうか、このまま無視するのも後味悪いような…」
「か弱い女子高生一人に任せるのも気が引けるから?」
「か弱くはなさそうですけど、まぁそれもあります。…取り敢えず、この件だけは俺にも何か手伝わせて貰えませんかね?」
それを聞いた真輝志の顔は明らかに晴れ晴れと、そしてしてやったりと言った顔になり、立ち上がって良助の両手を掴んだ。
「よくぞ言ってくれたっ!! やはり君は僕が見込んだだけのことはある。よろしくお願いするよ、同志よっ!!」
「見込まれてないし丸め込まれた気がしてならない…」
小百合の顔は何とも言えないものになっていた。
「じゃあ早速だけど、今回の件に関して少し気になる情報が入ってきたんだ。協力してくれるってことで、君にも話すよ」
真輝志はデスクの引き出しから一本のネクタイを取り出した。派手な黒と黄色のストライプ柄だった。
「こ、これは…クジュークの新作ではっ!?」
突如、良助は鼻息を荒くしてそのネクタイを手にとって裏地から隅々まで観察し始めた。小百合は明らかに引いているが、真輝志はただただ頷いている。
「やはり君は見る目がある…。そう、それこそは稀代のファッションデザイナー、我が須照市が誇る逸材、九十九ジャスミンが代表を務めるファッションブランド、クジュークが先日発表した新作のネクタイだっ!!」
「しょ、初日に並んでも手に入らなかった代物を…あなたって人はぁっ!!」
「ふははははっ!! 4日前から並べば造作もないことよっ!! 甘い、甘いぞぉっ!!」
「え、なにこのノリ…」
小百合を置き去りにして二人の男は別世界に旅立ってしまった。ネクタイ好きという共通点を得た二人はそれから15分ほど談義を交わした後、小百合に物理的に止められて正気を取り戻した。
「すまない小百合君…。まさかここまで深くネクタイの話ができる人と出会えるとは思わなくてね…」
「俺もです…。ネクタイ好きってだけで引かれてましたから…」
「…で、そのクジュクー? が、どうかしたんですか?」
「クジューク、だっ!! あぁいや、それがね、ここ最近、この須照市にあるクジュークのショップからマネキンが何度か一体ずつ、紛失してるという話があるんだ。因みに昨日も一体、消えているそうだ」
「一体ずつ…間違いないわな」
「ん? 一体ずつが何か不思議なのか?」
良助は疑問には真輝志が答えた。
「ユーザーの超能力はね、一度に一つの対象しか操れないんだよ。ほら、昨日、小百合君もマネキンを動かしただろう? 何体でも動かせたらもう1体の方も操られていた」
「なるほど…。しかし何度もそんな、紛失って…盗難で警察が動くんじゃ…」
「警察に関しては、僕たちと警察は協力関係にあってね、ユーザー案件に関しては警察から一任されているんだ。悪質なユーザーの場合は僕たちが無力化してから警察に引き渡して、それぞれ適した罪状で逮捕される。だからニュースにはあまりならない。しかしそれでも情報が今まで入らなかったのは不可解だ」
「公にならなかった?」
「あぁ、しかし…そうだね…、その情報を聞いた者によると、まるで内部告発をしているかのようだったそうだ…」
「内部告発…口止めされてた? と言うことはある程度、力のある人間の仕業で…まさか」
そこで良助の顔が曇った。小百合は未だ腕を組んで唸っていた。
「僕も認めたくなかったんだが…そうだ、九十九ジャスミンは須照市在住だ。さらに付け加えておくと、超能力を使うには、操りたい対象が視界に入っていなければならないんだよ」
「と言うことは…、まさかっ!? あそこに、俺のすぐ近くに、九十九ジャスミンがいたってことなのかっ!? マジかよっ!?」
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戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
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