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【不死】
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穏やかな陽気に包まれるお昼過ぎ。一人の勇者が何やら考え込んでいる。時には頭を抱え、かと思えば手を打ったりもしていた。そして何かを思いついた。
「そうだっ!! その手があったんだっ!! 僕はなんて頭の回りが良いんだろう…」
勇者は夜になるのを待ち、ランタン片手にとある場所へと向かった。その場所は墓地。勇者は数ある墓石の中から適当に一箇所を選び、その前で腰を下ろして何やら呪文を唱えた。
「すいませーん、出てきてくださーい」
呪文を締めるように叫んだ呼び声に応えるかのように、墓石の下から土を掻き分けてスケルトンが一体現れた。その表情は伺いしれないが、どこかうんざりしたような、不機嫌そうに見えた。
「………はい、なにか?」
「実はあなたに一つ、お聞きしたいことがあるんです」
「はぁ、偉大なる勇者サマがまた、こんなスケルトン風情に一体何を聞きたいんで?」
「あなたは所謂アンデット…つまり不死ってことですよね?」
「えぇ、まぁ………」
「いつも普段はそんな風に土の中に埋まっているんですか?」
「えぇ、まぁ………。どーせこんな姿ですから自由に出歩くわけにもいきませんし、それに日の光もダメですからね、結局土の中の方がラクなんですよ」
「そうなんですか………、あぁいや、僕が聞きたいことはそんなことじゃなくて、あなたは、その、どうやって不死になったんですか?」
「はぁ………。あっしは普通に蘇生魔法ですかね。生きてるうちに不死属性を与えてなるパターンもあるんですけどね」
勇者は首を傾げた。
「不死属性付与とか蘇生魔法って、最近あんまり聞きませんよね。今世では魔法学校で習いもしませんでした。実際あるんですね」
「あー、それはですね、みんな不死になりたがらなくなったから、廃れていったんですよ」
いつの間にかスケルトンと勇者は膝を突き合わせて話していた。
「え、どうしてですか? 不死とか蘇生って古今東西みんなが追い求めるやつじゃないですか」
「そうですよね、かく言うあっしもそうでして、今からそうだなぁ…五百年くらい前かな、その時あっしは戦士をやっていまして、ある日魔物との戦いの中で不覚にもやられちまいまして。で、僧侶に蘇生を頼んだんですよ。一度蘇生魔法で蘇れば不死属性を得られるって聞いていたもんで、これはって思いましてね」
突然、スケルトンの顔に影が落ちた。ような気がした。
「確かにあっしは生き返りました。んで、不死属性を得ました。それからはもう無茶のしっぱなしで…へへっ」
「でも、なぜか浮かない顔をされてる…ような気がしますけど」
「えぇ…。後悔したのはそれから六十年位経ったときですかねぇ。実は不死って言ってもね、年は取るんですよ。代謝や細胞分裂? は変わらず続くんですよ…」
勇者は背中に嫌に冷たい風を感じた。
「肉体はどんどん年を取っていき…やがて朽ちていく、気がつけばこの通り、骨だけになっちまいやした。けど不死ですから、こうやって生き続けているんですよ。空腹とかいわゆる欲求とかが無くなったのは救いですがね」
「そ、そんなぁ………」
スケルトンは何もないところを指さした。青ざめている勇者はその方向を見た。やはり何もない。
「いきなり指差して………何もないじゃないですか………」
「何も見えませんよね。けどね、あそこにはあっしみたいな不死者が確かにいるんですよ。あっしよりはるか昔に不死者になった者で、骨すら朽ち果てて砂粒になって粒子になって、今や分子レベルであそこらへんに漂ってるんですよ。でも不死ですから、意識はあそこらへんに留まっているんでしょう。普段から、一体何を考えて感じて生きているのやら………」
「………不死魔法が廃れた理由が分かった気がします………」
「そうでしょう、あんなふうになりたくなかったら不死になるなんて考えないことです。あっしもあと二百年くらいしたら、あぁなるんでしょうね………。ほんと、後悔先に立たずってやつですわ」
「勇者に転生し続けるのが辛いから不死になれば転生しなくて済む、なんて甘い考えでした………。突然掘り起こさせて申し訳ありませんでした」
「勇者って、そんなにおつらいんですかねぇ? あなたみたいな勇者がよくここに来るんですよ。んで、その度に今の話をすると皆同じような感じになるんで」
「それはもうっ………いや、あなた方不死者の方がよっぽどお辛いと思います………」
「はぁ、まぁみんな辛いってことですかね。転生したら、もうちょっとはマシな人生になると思っていたんですがねぇ………」
転生者の悲哀は続く。しかし夜明けは必ず訪れる。スケルトンの彼は勇者の肩をポンッと叩いて、また土の中へと潜って行ってしまった。
おわり
「そうだっ!! その手があったんだっ!! 僕はなんて頭の回りが良いんだろう…」
勇者は夜になるのを待ち、ランタン片手にとある場所へと向かった。その場所は墓地。勇者は数ある墓石の中から適当に一箇所を選び、その前で腰を下ろして何やら呪文を唱えた。
「すいませーん、出てきてくださーい」
呪文を締めるように叫んだ呼び声に応えるかのように、墓石の下から土を掻き分けてスケルトンが一体現れた。その表情は伺いしれないが、どこかうんざりしたような、不機嫌そうに見えた。
「………はい、なにか?」
「実はあなたに一つ、お聞きしたいことがあるんです」
「はぁ、偉大なる勇者サマがまた、こんなスケルトン風情に一体何を聞きたいんで?」
「あなたは所謂アンデット…つまり不死ってことですよね?」
「えぇ、まぁ………」
「いつも普段はそんな風に土の中に埋まっているんですか?」
「えぇ、まぁ………。どーせこんな姿ですから自由に出歩くわけにもいきませんし、それに日の光もダメですからね、結局土の中の方がラクなんですよ」
「そうなんですか………、あぁいや、僕が聞きたいことはそんなことじゃなくて、あなたは、その、どうやって不死になったんですか?」
「はぁ………。あっしは普通に蘇生魔法ですかね。生きてるうちに不死属性を与えてなるパターンもあるんですけどね」
勇者は首を傾げた。
「不死属性付与とか蘇生魔法って、最近あんまり聞きませんよね。今世では魔法学校で習いもしませんでした。実際あるんですね」
「あー、それはですね、みんな不死になりたがらなくなったから、廃れていったんですよ」
いつの間にかスケルトンと勇者は膝を突き合わせて話していた。
「え、どうしてですか? 不死とか蘇生って古今東西みんなが追い求めるやつじゃないですか」
「そうですよね、かく言うあっしもそうでして、今からそうだなぁ…五百年くらい前かな、その時あっしは戦士をやっていまして、ある日魔物との戦いの中で不覚にもやられちまいまして。で、僧侶に蘇生を頼んだんですよ。一度蘇生魔法で蘇れば不死属性を得られるって聞いていたもんで、これはって思いましてね」
突然、スケルトンの顔に影が落ちた。ような気がした。
「確かにあっしは生き返りました。んで、不死属性を得ました。それからはもう無茶のしっぱなしで…へへっ」
「でも、なぜか浮かない顔をされてる…ような気がしますけど」
「えぇ…。後悔したのはそれから六十年位経ったときですかねぇ。実は不死って言ってもね、年は取るんですよ。代謝や細胞分裂? は変わらず続くんですよ…」
勇者は背中に嫌に冷たい風を感じた。
「肉体はどんどん年を取っていき…やがて朽ちていく、気がつけばこの通り、骨だけになっちまいやした。けど不死ですから、こうやって生き続けているんですよ。空腹とかいわゆる欲求とかが無くなったのは救いですがね」
「そ、そんなぁ………」
スケルトンは何もないところを指さした。青ざめている勇者はその方向を見た。やはり何もない。
「いきなり指差して………何もないじゃないですか………」
「何も見えませんよね。けどね、あそこにはあっしみたいな不死者が確かにいるんですよ。あっしよりはるか昔に不死者になった者で、骨すら朽ち果てて砂粒になって粒子になって、今や分子レベルであそこらへんに漂ってるんですよ。でも不死ですから、意識はあそこらへんに留まっているんでしょう。普段から、一体何を考えて感じて生きているのやら………」
「………不死魔法が廃れた理由が分かった気がします………」
「そうでしょう、あんなふうになりたくなかったら不死になるなんて考えないことです。あっしもあと二百年くらいしたら、あぁなるんでしょうね………。ほんと、後悔先に立たずってやつですわ」
「勇者に転生し続けるのが辛いから不死になれば転生しなくて済む、なんて甘い考えでした………。突然掘り起こさせて申し訳ありませんでした」
「勇者って、そんなにおつらいんですかねぇ? あなたみたいな勇者がよくここに来るんですよ。んで、その度に今の話をすると皆同じような感じになるんで」
「それはもうっ………いや、あなた方不死者の方がよっぽどお辛いと思います………」
「はぁ、まぁみんな辛いってことですかね。転生したら、もうちょっとはマシな人生になると思っていたんですがねぇ………」
転生者の悲哀は続く。しかし夜明けは必ず訪れる。スケルトンの彼は勇者の肩をポンッと叩いて、また土の中へと潜って行ってしまった。
おわり
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