8 / 10
【勇者】
しおりを挟む
「一回だけ、試しに一回だけ。本当に。マジで。腕試しって言うか、もしかしたらワンチャンあるかもしれないじゃん。まかり間違ってもし仮に。そう、仮、に、ね? 勝っちゃったらヤバくない? いやホントにマジで、大逆転と言うか下剋上と言うか………魔族再興どころの騒ぎじゃなくね?」
一人の下級魔族の若者が周りの友人に鼻息荒く熱弁している。その顔は紅潮し、既に気分は英雄になりきっていた。友人達は冷ややかにそれとなく聞いている。
「お前マジでやめとけよ、シャレなんねーって」
一人の友人が老婆心から制しているが、彼にはそんな言葉は届いてはいない。
「いや、俺はやるぜ。人間どもに宣戦布告してやるんだ。またあの頃のような戦乱の世を取り戻すんだよ」
「それになんの意味があんだよ………。もしさ、お前、人間にやられて転生してさ、勇者にでもなっちまったらどーすんだよ」
「俺は前では戦士だったから、必ず勇者になるとは限らないんだよ」
二人の会話を側で聞いていた、目深にフードを被った一人の若者がゆっくりと重い口を開いた。
「お前は勇者になったことがないから分からないんだよ………あの無限に続く苦しみを」
「いや、お前だって勇者になったことないじゃん?、今、魔族なんだし」
そう言われて若者は溜め息をつきながらフードを脱ぎ、その素顔を二人に晒した。
「おまっ………その顔………角がないし目も赤くないし………ま、まさか」
「そう、俺は人間だ。それも勇者だ。少しでも勇者でいたくないがために、こうやって魔族のフリをして過ごしている。あまり意味なんてないんだけどな………もう良いか?」
頷く二人をよそに彼はフードを被り直した。
「なぁ、俺はこの通り人間、それも勇者だ。どうする?」
先程まで息巻いていた若者は、思わず圧倒されその場にへたり込んでしまった。
「そ、その………なんとも言えないけどなんかものすごい修羅場をくぐってきたその目………そんな奴にかなうはずもない………お、俺は、なんてことを考えていたんだ………」
フードの彼は、へたり込む若者に優しく手を差し伸べた。
「いいんだ。平和が一番だよ、な?」
「………あ、あぁ」
さりとて、若者の勢いや向こう見ずとはその程度で収まるはずもなく、後日、息巻いていた若者は友人達の言葉を無視して無謀にもたった一人で人類へと宣戦布告をし、そして呆気なく手近な村の少年一人に返り討ちにあった。若者が知る由もないが、その村の者は全員が勇者の生まれ変わりであった。
若者は命を落とし、その意識は光の中を漂い以下略。
次に若者が前世の記憶を取り戻した時にまず目に入ったのは、嬉々とした表情で勇者の印を自分に授けんとしている国王の姿だった。
おわり
一人の下級魔族の若者が周りの友人に鼻息荒く熱弁している。その顔は紅潮し、既に気分は英雄になりきっていた。友人達は冷ややかにそれとなく聞いている。
「お前マジでやめとけよ、シャレなんねーって」
一人の友人が老婆心から制しているが、彼にはそんな言葉は届いてはいない。
「いや、俺はやるぜ。人間どもに宣戦布告してやるんだ。またあの頃のような戦乱の世を取り戻すんだよ」
「それになんの意味があんだよ………。もしさ、お前、人間にやられて転生してさ、勇者にでもなっちまったらどーすんだよ」
「俺は前では戦士だったから、必ず勇者になるとは限らないんだよ」
二人の会話を側で聞いていた、目深にフードを被った一人の若者がゆっくりと重い口を開いた。
「お前は勇者になったことがないから分からないんだよ………あの無限に続く苦しみを」
「いや、お前だって勇者になったことないじゃん?、今、魔族なんだし」
そう言われて若者は溜め息をつきながらフードを脱ぎ、その素顔を二人に晒した。
「おまっ………その顔………角がないし目も赤くないし………ま、まさか」
「そう、俺は人間だ。それも勇者だ。少しでも勇者でいたくないがために、こうやって魔族のフリをして過ごしている。あまり意味なんてないんだけどな………もう良いか?」
頷く二人をよそに彼はフードを被り直した。
「なぁ、俺はこの通り人間、それも勇者だ。どうする?」
先程まで息巻いていた若者は、思わず圧倒されその場にへたり込んでしまった。
「そ、その………なんとも言えないけどなんかものすごい修羅場をくぐってきたその目………そんな奴にかなうはずもない………お、俺は、なんてことを考えていたんだ………」
フードの彼は、へたり込む若者に優しく手を差し伸べた。
「いいんだ。平和が一番だよ、な?」
「………あ、あぁ」
さりとて、若者の勢いや向こう見ずとはその程度で収まるはずもなく、後日、息巻いていた若者は友人達の言葉を無視して無謀にもたった一人で人類へと宣戦布告をし、そして呆気なく手近な村の少年一人に返り討ちにあった。若者が知る由もないが、その村の者は全員が勇者の生まれ変わりであった。
若者は命を落とし、その意識は光の中を漂い以下略。
次に若者が前世の記憶を取り戻した時にまず目に入ったのは、嬉々とした表情で勇者の印を自分に授けんとしている国王の姿だった。
おわり
0
あなたにおすすめの小説
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる