5 / 39
第一章:チーム・コンパスの秘密調査
4
しおりを挟む
しばらくして、五限の授業開始の鐘が鳴った。昼休みに聞こえていた賑やかな声は、今は聞こえない。どの部屋も水を打ったかのような静寂に満ちていた。
そんな中、俺たちは三年の教室がある北校舎に居た。三階にある、社会科資料室。滅多に使われない教室だ。もはや空き教室に近いこの場所は、秘密の会議をするにはもってこいだろう。
「授業サボってまで呼び出すって、そんな大事なことでもあんの?」
行儀悪く机に腰掛けた北原雅が、赤茶色の髪の毛先を弄りながら言う。ハスキーな声は、少しだけ苛立っているように聞こえた。
「まぁまぁそんな怒るなって!」
「アンタに呼び出されたから余計に腹立つ。ましてや、あずまで授業サボらせるとかふざけてんの?」
「だー! 待て待て! 殴ろうとするな!」
「み、雅ちゃん、暴力はダメだよ……!」
「分かってるよ、あず。ったく、あずに感謝しろよクソ一吹」
「は、はいぃ……」
北原の背後に隠れるようにして立っている『あず』こと東屋優芽が、おどおどしながら北原を止める。二人の賑やかな声にかき消されそうなその声を聞き、北原が大人しくなった。
「……で、本題は何? いつメンしか居ないし、そんなに大事な内容とは思えないけど」
北原が腕を組みながら、短めのスカートから覗く足を組んだ。
この場に居るのは、一吹、北原、あず、夕凪、俺の五人だ。知らず知らずのうちに意気投合した俺たちは、クラスは違えどこうしてよく五人で集まっている。
「本題はなぁ、この世界の秘密を一緒に探りに行かないかってヤツだ!」
「はぁ?」
「そ、そんな怖い顔で睨むなよ……こっちは真面目に話してんだ」
「いや、真面目ではなかったよ」
「繋はオレの味方してくれよ!」
慌てて俺に縋る一吹を適当に流し、俺が代わりに答える。
「一吹がさ、この世界で俺たちが生きている理由とか世界の秘密が知りたいんだと。ほら、よくよく考えればこの世界って不思議なことが多いでしょ?」
俺が言うと、北原もあずも目を何度か瞬かせた後、控えめに頷いた。
「……確かに言われてみりゃそんな気もする」
「わ、私もそんな気がしてきた……」
「だから、それを調べに行こうって話。もちろん何か見つかるかもしれないし、何も見つからないかもしれない。俺もついさっきまで何の疑問も抱かず生活していたけど、こうやって改めて考えると気になってさ」
そう言いながら、扉に寄り掛かって皆の話を聞いている夕凪に視線を送れば、微笑を湛えたまま頷かれた。
「よければさ、北原とあずも協力してくれないかなって」
少しむくれた様子の一吹を押しのけて言えば、北原がしばし唸った後に口を開く。
「いいね、面白そうじゃん。一吹の提案ってのがアレだけど、世界の秘密を暴くっての何かカッコイイし」
「何でオレの提案だとダメなんだよ!」
「なんとなく」
「オレの扱い……」
「あずはどうする? 一緒に行く?」
「雅ちゃんが行くなら……! 私も、少しだけ気になるから」
あずがハーフアップの髪を揺らして頷いた。
話がとんとん拍子に進む。北原もあずも、多少なりともこの世界に疑問は抱いているらしい。
……なんだかワクワクしてきた。もし本当にこの世界に重大な秘密が眠っていたら、俺達が世紀の大発見をしたということになる。ニュースで大々的に取り上げられたりして。なんて妄想をしてみるが、注目の的になるのは御免だとその想像をかき消した。
「こころも一吹の誘いに乗ったのか?」
北原が振り返り、夕凪に訊ねた。
「えぇ、そうよ」
「へぇー。こころはこういうの興味ないかと思ってた」
「意外とこういうの好きなのよ。秘密を暴くって、いけないことをしているみたいでワクワクするじゃない?」
「お、おぉ……意外だな、こころ」
眩しい笑顔で言う夕凪に半ばドン引きした様子の北原。分かる、と心の中で何度も俺は頷く。
だが、正直なところ夕凪がいれば心強い。博識で誰よりも冷静に物事を見ている彼女なら、ありもしない世界の秘密すら暴いてみせそうだ。そう勝手に想像しておきながら、俺は彼女に微笑み返した。
「ふっふっふー。さすがにこれは本格的になってきたなぁ!」
「まさか全員がノッてくれるとは思わなかったよね」
「繋のお蔭だぜホント!お前が居ると上手く進む!お礼にオレがハグしてやろう!」
「結構です」
男にハグされても嬉しくない。飛びついてきた一吹を片手で軽くガードした。
「つれねぇなぁ……。んじゃ、まぁこれでメンバーが揃ったってことで!」
「ほ、他には誘わないの?」
「あずは誰か誘いたいヤツいるの?」
俯きがちに言ったあずに訊ねれば、「そうじゃないけど……」と目を逸らしてそのまま黙り込んだ。
「やめときなって、あず。誘ったところでアタシら以外、このこと調べようとしないだろ?」
「北原、それどういう意味?」
「ん? いやぁ、あのさ。転校してきたばっかの時とか、慣れてきた頃とかにさ、何度かこの学校に何か隠された秘密があるんじゃないかって思ったんだよね」
「雅もオレと同レベルじゃん」
「お前は黙ってて」
「はい……」
冷めた目で睨まれた一吹は青い顔で萎縮した。仕切り直すように北原が咳払いをする。
「なんか、強引に止められたんだよね。強引にって言い方はアレかもしれないけど、誰も誘いにはノッてくれなかったよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。そんなの調べなくていいじゃんとか、下手に調べない方がいいよって止めてきたぞ。必死に止めるっていうか、何か知られたくないことがあるみたいに笑顔で引き止めてきた」
「なるほど……」
「今思えば、あの時もうちょい追究しときゃよかったな」
北原は頭をガシガシと掻いて悔しそうな顔をした。
急に話が飛躍したな、と俺は思う。もしや、学校ぐるみで何か隠蔽していることがあるのかもしれない。触れてはいけない秘密とやらの可能性が、少しだけ見えてきた。
「俄然やる気出てきたな。おっしゃ、オレたちは今から秘密を暴く勇敢なチームだ!一緒に行動するからには、まずチーム名が必要だな!」
一吹が再び元気を取り戻し、部屋の隅に置かれていたホワイトボードを引っ張ってくる。置かれていたマーカーを手に取ると、掠れた黒色のペンで何かを大きく書いた。
「オレたちは今から、チーム・コンパス!」
「ダッサ」
「センスなさすぎか」
「コ、コンパス……?」
「あら、結構いいじゃない」
「お前らもう少しいい反応しろよ!」
得意げに『チーム・コンパス』と書いた一吹に対し、見ていた俺達四人は即座にそう反応した。夕凪を除く三人は、否定か困った反応しかしていない。そもそも何故コンパスなのかが分からない。
「でも由来が気になるわね」
俺が聞きたかったことを、夕凪が自然に訊ねてくれた。ナイスだ夕凪。
「オレらの苗字には方角が入っているだろ?だから、方位磁針ってことでコンパス!」
「あらあら、意外と安直ね。でも悲しいわ。私だけ方角が入っていないもの」
見るからにしゅんとした様子の夕凪に、安心しろと一吹が自らの胸を叩いた。
「こころって、感じで書くと中心の『シン』だろ?オレたち四人の中心……つまりこころは方位磁針の針だ!」
なるほど。
これには少し納得した。一吹にしては上手く名付けたものだと、素直に感心する。こじつけのようなネーミングではあるが、俺は納得したし気に入った。
「それは嬉しいわね。いい名前じゃない」
「だろ? ふふん、オレは天才の一吹様だからな!」
「その一言がなければ完璧だった」
「繋の言う通りだな」
「私もそう思います……」
あずにまで言われたら終わりだろ。内心そうツッコんでいると、さすがの一吹もそれは理解しているようで、見るからにショックを受けていた。
「チーム名を決めたら、次はリーダーかしら?」と乗り気の夕凪が一吹の代わりにペンを取った。
「繋でいいんじゃね?」と真っ先に北原が俺を指さした。
「え、オレは⁉」
「一吹は論外」
「私も西条くんでいいかなぁと……」
「私も賛成よ」
「……まぁ、別にいいけどよぉ」
全員の視線が俺に向けられる。あまりに話の進みが早いから理解できていなかったが、ワンテンポ遅れて言葉の意味を理解する。
「俺、リーダーって柄じゃないけど……」
「繋なら大丈夫じゃね? 確かに人前に立つようなタイプじゃないけど、皆のことよく気遣えるしちょうどいいと思うけど」
「北原……」
「ま、仕方ねぇ。リーダーの座は繋に譲るとするか。繋、どうだ?」
一吹が仕方ないと溜息を吐きながら問う。
言い出しっぺの一吹がリーダーじゃなくて良いのだろうか。確かに彼がリーダーだと頼りない部分もあるけれど、俺よりは行動力があるし、リーダーシップもあると思うのだが……。
全員が俺で良いと言っている以上、特別断る理由もなかった。
「分かった。それでいい」
「決まりね」
夕凪がチーム・コンパスと書かれた下に、『リーダー・繋』と整った字で書いた。半ば司会のようなポジションにいる夕凪の方がリーダーらしい気もするが、それはあえて口にしないでおく。
「じゃあ早速だけど……どこを調査しようか」
「やっぱ校長室とかだろ! 機密資料とかありそうだしな!」
一番に答えたのは一吹だ。
「いきなりハードル高そうだから、後回しの方がいいんじゃない?」
「む、リーダーが言うなら仕方ない……」
「生徒会室とかどうなんだ?あそこって限られた人間しか入れないだろ?」
そう言った北原に真っ先に反応したのは、生徒会に所属している夕凪だった。
「あそこには意外と何もないわよ? 全部の場所を調べたわけじゃないけど、そんな重要そうな書類とかは見た事がないわね……」
「んー……じゃあまだ調べなくていいかな」と北原が頭を悩ませる。
「旧校舎とかはどうかな……?」
「意外と職員室とかもありそうだな!」
「そうねぇ……案外、普通に使っている教室とかも視野には入れた方がいいんじゃないかしら」
次々とアイデアが皆の口から吐き出されていく。ホワイトボードの空いているスペースに走り書きで場所をメモしていくが、候補が多すぎる。天明高校は無駄に広い。調査対象の部屋が多すぎるのだ。
全てを調べようと思えば、きっと何か月もかかりそうだ。そもそも目的がデカすぎて、どこをどう調べたらいいかも見当がつかない。
最初からこの調子で、世界の秘密なんてものに辿り着けるのだろうか。
「リーダー、どうするの?」
一通り場所の候補が出尽くしたところで、夕凪が俺を呼ぶ。
「うーん……とりあえず、放課後までに各自で場所の優先順位を決めるのはどうかな? 三位くらいまで順位付けをして、全員の意見を合わせて一番順位が高かった所から調査しよう」
「だな。それが一番いい」
「ひとまずはこれで解散って感じ?」
「とりあえずはね。また放課後に集まろうと思うんだけどどう?」
俺は全員と目を合わせて問う。俺は特に部活動に所属していないが、他の四人は部活動に参加している。夕凪は部活動ではないにしろ、生徒会で忙しいかもしれない。
「サボるから問題ねぇ!」
「アタシは今日は部活ない日だから」
「私も先生が体調不良でいらっしゃらないから……」
「生徒会の活動日じゃないから大丈夫よ」
「オッケー。問題ありなのは一吹だけね」
「なんでだよ!」
漫才宛ら大声でツッコミを入れてくれたが、華麗にスルーしておく。後日顧問に怒られている一吹の様子が容易に想像できた。
「それじゃ、放課後また集まろう。いきなり巻き込んでごめんな」
「いいって。こういうのワクワクするしね」
「私も久しぶりに楽しみなこと増えた……!」
あずと北原が玩具を見つけた幼子みたいに無邪気に笑う。
どうやら、高校生というものは非日常や秘密という類のものが大好物らしい。それは俺も例外ではない。現に、秘密組織みたいに結成されたチーム・コンパスのリーダーになったことで、さらなる高揚感が体を襲っている。
果たして世界の秘密とやらは、本当に存在するのか。
不確かな存在を求めて、俺たちは日常を飛び出した。
そんな中、俺たちは三年の教室がある北校舎に居た。三階にある、社会科資料室。滅多に使われない教室だ。もはや空き教室に近いこの場所は、秘密の会議をするにはもってこいだろう。
「授業サボってまで呼び出すって、そんな大事なことでもあんの?」
行儀悪く机に腰掛けた北原雅が、赤茶色の髪の毛先を弄りながら言う。ハスキーな声は、少しだけ苛立っているように聞こえた。
「まぁまぁそんな怒るなって!」
「アンタに呼び出されたから余計に腹立つ。ましてや、あずまで授業サボらせるとかふざけてんの?」
「だー! 待て待て! 殴ろうとするな!」
「み、雅ちゃん、暴力はダメだよ……!」
「分かってるよ、あず。ったく、あずに感謝しろよクソ一吹」
「は、はいぃ……」
北原の背後に隠れるようにして立っている『あず』こと東屋優芽が、おどおどしながら北原を止める。二人の賑やかな声にかき消されそうなその声を聞き、北原が大人しくなった。
「……で、本題は何? いつメンしか居ないし、そんなに大事な内容とは思えないけど」
北原が腕を組みながら、短めのスカートから覗く足を組んだ。
この場に居るのは、一吹、北原、あず、夕凪、俺の五人だ。知らず知らずのうちに意気投合した俺たちは、クラスは違えどこうしてよく五人で集まっている。
「本題はなぁ、この世界の秘密を一緒に探りに行かないかってヤツだ!」
「はぁ?」
「そ、そんな怖い顔で睨むなよ……こっちは真面目に話してんだ」
「いや、真面目ではなかったよ」
「繋はオレの味方してくれよ!」
慌てて俺に縋る一吹を適当に流し、俺が代わりに答える。
「一吹がさ、この世界で俺たちが生きている理由とか世界の秘密が知りたいんだと。ほら、よくよく考えればこの世界って不思議なことが多いでしょ?」
俺が言うと、北原もあずも目を何度か瞬かせた後、控えめに頷いた。
「……確かに言われてみりゃそんな気もする」
「わ、私もそんな気がしてきた……」
「だから、それを調べに行こうって話。もちろん何か見つかるかもしれないし、何も見つからないかもしれない。俺もついさっきまで何の疑問も抱かず生活していたけど、こうやって改めて考えると気になってさ」
そう言いながら、扉に寄り掛かって皆の話を聞いている夕凪に視線を送れば、微笑を湛えたまま頷かれた。
「よければさ、北原とあずも協力してくれないかなって」
少しむくれた様子の一吹を押しのけて言えば、北原がしばし唸った後に口を開く。
「いいね、面白そうじゃん。一吹の提案ってのがアレだけど、世界の秘密を暴くっての何かカッコイイし」
「何でオレの提案だとダメなんだよ!」
「なんとなく」
「オレの扱い……」
「あずはどうする? 一緒に行く?」
「雅ちゃんが行くなら……! 私も、少しだけ気になるから」
あずがハーフアップの髪を揺らして頷いた。
話がとんとん拍子に進む。北原もあずも、多少なりともこの世界に疑問は抱いているらしい。
……なんだかワクワクしてきた。もし本当にこの世界に重大な秘密が眠っていたら、俺達が世紀の大発見をしたということになる。ニュースで大々的に取り上げられたりして。なんて妄想をしてみるが、注目の的になるのは御免だとその想像をかき消した。
「こころも一吹の誘いに乗ったのか?」
北原が振り返り、夕凪に訊ねた。
「えぇ、そうよ」
「へぇー。こころはこういうの興味ないかと思ってた」
「意外とこういうの好きなのよ。秘密を暴くって、いけないことをしているみたいでワクワクするじゃない?」
「お、おぉ……意外だな、こころ」
眩しい笑顔で言う夕凪に半ばドン引きした様子の北原。分かる、と心の中で何度も俺は頷く。
だが、正直なところ夕凪がいれば心強い。博識で誰よりも冷静に物事を見ている彼女なら、ありもしない世界の秘密すら暴いてみせそうだ。そう勝手に想像しておきながら、俺は彼女に微笑み返した。
「ふっふっふー。さすがにこれは本格的になってきたなぁ!」
「まさか全員がノッてくれるとは思わなかったよね」
「繋のお蔭だぜホント!お前が居ると上手く進む!お礼にオレがハグしてやろう!」
「結構です」
男にハグされても嬉しくない。飛びついてきた一吹を片手で軽くガードした。
「つれねぇなぁ……。んじゃ、まぁこれでメンバーが揃ったってことで!」
「ほ、他には誘わないの?」
「あずは誰か誘いたいヤツいるの?」
俯きがちに言ったあずに訊ねれば、「そうじゃないけど……」と目を逸らしてそのまま黙り込んだ。
「やめときなって、あず。誘ったところでアタシら以外、このこと調べようとしないだろ?」
「北原、それどういう意味?」
「ん? いやぁ、あのさ。転校してきたばっかの時とか、慣れてきた頃とかにさ、何度かこの学校に何か隠された秘密があるんじゃないかって思ったんだよね」
「雅もオレと同レベルじゃん」
「お前は黙ってて」
「はい……」
冷めた目で睨まれた一吹は青い顔で萎縮した。仕切り直すように北原が咳払いをする。
「なんか、強引に止められたんだよね。強引にって言い方はアレかもしれないけど、誰も誘いにはノッてくれなかったよ」
「え、そうなの?」
「あぁ。そんなの調べなくていいじゃんとか、下手に調べない方がいいよって止めてきたぞ。必死に止めるっていうか、何か知られたくないことがあるみたいに笑顔で引き止めてきた」
「なるほど……」
「今思えば、あの時もうちょい追究しときゃよかったな」
北原は頭をガシガシと掻いて悔しそうな顔をした。
急に話が飛躍したな、と俺は思う。もしや、学校ぐるみで何か隠蔽していることがあるのかもしれない。触れてはいけない秘密とやらの可能性が、少しだけ見えてきた。
「俄然やる気出てきたな。おっしゃ、オレたちは今から秘密を暴く勇敢なチームだ!一緒に行動するからには、まずチーム名が必要だな!」
一吹が再び元気を取り戻し、部屋の隅に置かれていたホワイトボードを引っ張ってくる。置かれていたマーカーを手に取ると、掠れた黒色のペンで何かを大きく書いた。
「オレたちは今から、チーム・コンパス!」
「ダッサ」
「センスなさすぎか」
「コ、コンパス……?」
「あら、結構いいじゃない」
「お前らもう少しいい反応しろよ!」
得意げに『チーム・コンパス』と書いた一吹に対し、見ていた俺達四人は即座にそう反応した。夕凪を除く三人は、否定か困った反応しかしていない。そもそも何故コンパスなのかが分からない。
「でも由来が気になるわね」
俺が聞きたかったことを、夕凪が自然に訊ねてくれた。ナイスだ夕凪。
「オレらの苗字には方角が入っているだろ?だから、方位磁針ってことでコンパス!」
「あらあら、意外と安直ね。でも悲しいわ。私だけ方角が入っていないもの」
見るからにしゅんとした様子の夕凪に、安心しろと一吹が自らの胸を叩いた。
「こころって、感じで書くと中心の『シン』だろ?オレたち四人の中心……つまりこころは方位磁針の針だ!」
なるほど。
これには少し納得した。一吹にしては上手く名付けたものだと、素直に感心する。こじつけのようなネーミングではあるが、俺は納得したし気に入った。
「それは嬉しいわね。いい名前じゃない」
「だろ? ふふん、オレは天才の一吹様だからな!」
「その一言がなければ完璧だった」
「繋の言う通りだな」
「私もそう思います……」
あずにまで言われたら終わりだろ。内心そうツッコんでいると、さすがの一吹もそれは理解しているようで、見るからにショックを受けていた。
「チーム名を決めたら、次はリーダーかしら?」と乗り気の夕凪が一吹の代わりにペンを取った。
「繋でいいんじゃね?」と真っ先に北原が俺を指さした。
「え、オレは⁉」
「一吹は論外」
「私も西条くんでいいかなぁと……」
「私も賛成よ」
「……まぁ、別にいいけどよぉ」
全員の視線が俺に向けられる。あまりに話の進みが早いから理解できていなかったが、ワンテンポ遅れて言葉の意味を理解する。
「俺、リーダーって柄じゃないけど……」
「繋なら大丈夫じゃね? 確かに人前に立つようなタイプじゃないけど、皆のことよく気遣えるしちょうどいいと思うけど」
「北原……」
「ま、仕方ねぇ。リーダーの座は繋に譲るとするか。繋、どうだ?」
一吹が仕方ないと溜息を吐きながら問う。
言い出しっぺの一吹がリーダーじゃなくて良いのだろうか。確かに彼がリーダーだと頼りない部分もあるけれど、俺よりは行動力があるし、リーダーシップもあると思うのだが……。
全員が俺で良いと言っている以上、特別断る理由もなかった。
「分かった。それでいい」
「決まりね」
夕凪がチーム・コンパスと書かれた下に、『リーダー・繋』と整った字で書いた。半ば司会のようなポジションにいる夕凪の方がリーダーらしい気もするが、それはあえて口にしないでおく。
「じゃあ早速だけど……どこを調査しようか」
「やっぱ校長室とかだろ! 機密資料とかありそうだしな!」
一番に答えたのは一吹だ。
「いきなりハードル高そうだから、後回しの方がいいんじゃない?」
「む、リーダーが言うなら仕方ない……」
「生徒会室とかどうなんだ?あそこって限られた人間しか入れないだろ?」
そう言った北原に真っ先に反応したのは、生徒会に所属している夕凪だった。
「あそこには意外と何もないわよ? 全部の場所を調べたわけじゃないけど、そんな重要そうな書類とかは見た事がないわね……」
「んー……じゃあまだ調べなくていいかな」と北原が頭を悩ませる。
「旧校舎とかはどうかな……?」
「意外と職員室とかもありそうだな!」
「そうねぇ……案外、普通に使っている教室とかも視野には入れた方がいいんじゃないかしら」
次々とアイデアが皆の口から吐き出されていく。ホワイトボードの空いているスペースに走り書きで場所をメモしていくが、候補が多すぎる。天明高校は無駄に広い。調査対象の部屋が多すぎるのだ。
全てを調べようと思えば、きっと何か月もかかりそうだ。そもそも目的がデカすぎて、どこをどう調べたらいいかも見当がつかない。
最初からこの調子で、世界の秘密なんてものに辿り着けるのだろうか。
「リーダー、どうするの?」
一通り場所の候補が出尽くしたところで、夕凪が俺を呼ぶ。
「うーん……とりあえず、放課後までに各自で場所の優先順位を決めるのはどうかな? 三位くらいまで順位付けをして、全員の意見を合わせて一番順位が高かった所から調査しよう」
「だな。それが一番いい」
「ひとまずはこれで解散って感じ?」
「とりあえずはね。また放課後に集まろうと思うんだけどどう?」
俺は全員と目を合わせて問う。俺は特に部活動に所属していないが、他の四人は部活動に参加している。夕凪は部活動ではないにしろ、生徒会で忙しいかもしれない。
「サボるから問題ねぇ!」
「アタシは今日は部活ない日だから」
「私も先生が体調不良でいらっしゃらないから……」
「生徒会の活動日じゃないから大丈夫よ」
「オッケー。問題ありなのは一吹だけね」
「なんでだよ!」
漫才宛ら大声でツッコミを入れてくれたが、華麗にスルーしておく。後日顧問に怒られている一吹の様子が容易に想像できた。
「それじゃ、放課後また集まろう。いきなり巻き込んでごめんな」
「いいって。こういうのワクワクするしね」
「私も久しぶりに楽しみなこと増えた……!」
あずと北原が玩具を見つけた幼子みたいに無邪気に笑う。
どうやら、高校生というものは非日常や秘密という類のものが大好物らしい。それは俺も例外ではない。現に、秘密組織みたいに結成されたチーム・コンパスのリーダーになったことで、さらなる高揚感が体を襲っている。
果たして世界の秘密とやらは、本当に存在するのか。
不確かな存在を求めて、俺たちは日常を飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる