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第三章:青空のその向こうへ
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「あ、二人共ここにいたんだ……!」
ガラッと扉の音が開かれたかと思うと、そこにはへにゃりと気が抜けた笑顔を浮かべるあずが居た。
「おはよう、あず」
「おはよう西条くん、雅ちゃん」
「おはよ。あずも早く登校してきたのか?」
「え? そうでもないよ。確かにちょっと早いけど、十分くらいだし……」
その言葉を聞いて俺はサッと腕時計を確認した。
気が付けば、いつも登校している時間が迫っていた。早く学校に来たが、知らぬ間にかなりの時間が経過していたみたいだった。
「鞄はあるのに二人共いないから焦ったよ……」
「ごめんごめん。ちょっといろいろあってさ」
「いろいろ?」
「北原も記憶を取り戻したんだよ」
「ほんと⁉」
「うん。本当、簡単なことだったんだな」
「良かったね、雅ちゃん!」
報告を受けて、あずが心底嬉しそうに笑った。あずがあまりに嬉しそうに笑うものだから、北原もつられて笑顔になっていた。
「あず、あれから何か調査に進展はあったり、気になることはあったりしたか?」
「ううん、特には……。昨日のあれも、今日は見てないし、何か新しい発見もなかったよ」
「そっかー。繋の力になれたらよかったんだけどなぁ」
北原は「むむ……」と独特な唸りをあげながら腕を組んだ。
「アタシは繋が見つけてくれた楽譜のお蔭で記憶を取り戻せたし、何か力になれないものかね……」
「私も、皆が協力してくれたけど、アルバムを見つけてくれたのは西条くんだったからなぁ……」
「そんなに考え込まなくてもいいよ、二人とも」
「いやいや、これじゃアタシが納得しないから。ひとまず、何か繋の記憶に関連しそうなものがあれば、片っ端から報告するわ」
北原はそう言うとビシッと親指を立てた。あずもその様子を見て、控えめにグーサインを出してくる。
頼りになる仲間たちだ。
長いようで短かった一年。友達になったのが彼女たちで本当に良かったと、今心からそう感じている。
「あ、そういえば、西条くん」
「ん?」
「さっき南雲くんと会ったんだけどね、ちょっと元気なくてさ……」
あずがハッと思い出したかのようにそう告げた。
「昨日いろいろあったからね……」
「でも、そのことはもう落ち着いたって言ってたの。また秘密の調査はするし、こころちゃんの事も悪かったって言ってた。でも、何か別のことがあったみたいで……」
「んー、一吹は最近問題児だなぁ」
俺は頭をガシガシと掻きながら溜息を吐く。
今、一番不安定なのは彼だろう。俺達がここで生きる理由も世界の秘密も、一番興味を抱いていたのは一吹だ。それ故に、段々と明らかになっていく事実に惑わされているのだろう。彼は想像力が豊かなようだし、昨日の仮説を信じているのならば、余計に精神が参ってしまっても可笑しくはない。
「俺が話してくるよ。これでも、一吹の親友だし」
「ありがとう、西条くん」
「お前らいつも一緒にいるもんな」
「まぁ、気の置けない仲だからね」
揶揄うように言ってきた北原に苦笑し、俺は音楽室を出ていった。
一吹に「どこに居る?」とメッセージを飛ばせば、すぐに「図書室」と返ってきた。なんでまたそんな朝早くに図書室に居るのかと疑問を抱きながら、俺はのんびりと図書室へと向かった。
朝は基本的に図書室は施錠されているはずだが、一吹がまた鍵を盗んだのだろう、図書室の扉に鍵はかかっていなかった。
中へ入ると、そこには机に何かを広げて見つめる一吹がいた。
「……はよ、繋」
一吹が顔を上げて控えめに微笑んだ。
「おはよ。なにしてんの?」
「見ての通りさ」
「それ、アルバム?」
「おう」
アルバムを見ながら、一吹が短く返事をした。「見ていいぜ」と言われたから、そっとアルバムを覗き込んでみる。アルバムには、一吹と思わしき少年と誰かが一緒に映っている写真ばかりがおさめられていた。
「それどこで手に入れたの?」
「朝起きたら部屋に置いてあったんだよ」
「今まで無かったのに?」
「それが謎なんだよなぁ。母さんに聞いてみたけど、母さんが置いたわけじゃなかったし、見たこともないって言ってた」
「あずの写真とかアルバムみたいな感じかな」
「かもな」
一吹は小難しい顔でアルバムを捲る。
二人は幼い頃から一緒にいるようで、ページを捲る度に二人が成長していく。中学生に入ったあたりから、一吹の隣に映っている少年が誰か俺には分かった。
「もしかして、あの二見って人……?」
卒業生のプロフィールが綴られた冊子に載っていた人物の顔にそっくりだった。一吹があのページで止めてきたし、おそらくこの少年は二見光牙という人物で間違いなさそうだ。
「そうそう。オレの幼馴染なんだ」
「あ、やっぱりそうだったの?」
「あぁ。オレと同い年で、小学校からずっと一緒だったなぁ」
一吹が懐かしむように目を細めた。アルバムの中の一吹は、どこを見ても楽しそうだ。隣にいる二見っていうやつも、無愛想な顔をしているけど、不機嫌なようには見えなかった。
「不思議だよなぁ、何で忘れてたんだろ。アルバム見た途端にこんな簡単に思い出すなんてさ」
「卒業生のプロフィールにあったけど、同い年なんだよね?」
「そうなんだよ、それも変だよな。もしかしたら管理してる奴が間違えたのかもしれねぇけどよ……」
学校側の管理が杜撰すぎる。
秘密の調査をしていく過程で、天明高校がいかにセキュリティが甘く、物の管理が雑なことまで知ってしまった。正直、個人情報が漏洩していないかが心配だ。
もっとも、俺達学生がこんなに簡単に卒業生のデータを手に入れられた時点で、プライバシーも何もないのだが。
「一吹はこれで記憶取り戻せそう?」
「たぶんな。でも何か足りないっつーか……」
「幼馴染の存在だけは思い出せたんだよね?」
「おう。でも、今どこで何してるかは知らねぇし、アイツと何か約束をしたような気がしてな……」
頬杖をついて、一吹が目を伏せた。必死に思い出そうと頭を捻っているようだが、あと少しのところで思い出せないらしい。
「約束か……どんな感じの約束か、ぼんやりでいいから思い出せたりしない?」
「んー……さっぱり」
「じゃあ、二人の共通点とかは?」
「共通点……スポーツ好きなところくらいだな」
一吹が思い出したかのようにそう言った。
スポーツ好きなところが共通点か。そうなると、スポーツに関する約束の可能性はある。
たとえば、憧れの選手の試合を見に行くとか、オリンピックの代表に共に選ばれるとか。学生らしいことで言えば、部活動関連だろうか。
「一吹ってサッカー部だったよね?」
「おう! 昔からサッカーは得意で」
「二見って人は、サッカー部じゃないの?」
「どうだったかな……よく覚えてない」
「そっか。うーん、どうしようかな……」
北原やあずのように、記憶に関係しそうな物は見つかっているのに、まだ何かが足りない。二見という人のプロフィールも、彼と一吹の思い出が刻まれたアルバムもあるのに、大切な記憶にはあと一歩届かない。
思考してみるが、これ以上一吹の手助けになれそうなことは無く、俺はただ頭を悩ませるだけだった。
「ま、そのうち思い出すだろ! あと少しだし、希望が見えてきたな」
一吹が勢いよくアルバムを閉じて立ち上がる。突然のことに俺は驚き、大袈裟にビクリと肩を揺らしてしまった。
「そろそろ真相に近づいてきた気がするな。この世界を出られるのも、あと少しかもな」
「そうかもね。短期間でだいぶいろいろな事を発見したというか……」
屋上で世界に対する疑問を抱いた日から、まだ一ヵ月も経っていない。それなのに、俺たちは多くの非現実的なものを目にしてきた。
おまけに、実際に記憶を取り戻した人物が既に二人。俺も一吹も、半分くらいは大切な記憶を取り戻していると言える。
何かに誘導されているような気がしてならないが、これはいい傾向だと信じたい。
ガラッと扉の音が開かれたかと思うと、そこにはへにゃりと気が抜けた笑顔を浮かべるあずが居た。
「おはよう、あず」
「おはよう西条くん、雅ちゃん」
「おはよ。あずも早く登校してきたのか?」
「え? そうでもないよ。確かにちょっと早いけど、十分くらいだし……」
その言葉を聞いて俺はサッと腕時計を確認した。
気が付けば、いつも登校している時間が迫っていた。早く学校に来たが、知らぬ間にかなりの時間が経過していたみたいだった。
「鞄はあるのに二人共いないから焦ったよ……」
「ごめんごめん。ちょっといろいろあってさ」
「いろいろ?」
「北原も記憶を取り戻したんだよ」
「ほんと⁉」
「うん。本当、簡単なことだったんだな」
「良かったね、雅ちゃん!」
報告を受けて、あずが心底嬉しそうに笑った。あずがあまりに嬉しそうに笑うものだから、北原もつられて笑顔になっていた。
「あず、あれから何か調査に進展はあったり、気になることはあったりしたか?」
「ううん、特には……。昨日のあれも、今日は見てないし、何か新しい発見もなかったよ」
「そっかー。繋の力になれたらよかったんだけどなぁ」
北原は「むむ……」と独特な唸りをあげながら腕を組んだ。
「アタシは繋が見つけてくれた楽譜のお蔭で記憶を取り戻せたし、何か力になれないものかね……」
「私も、皆が協力してくれたけど、アルバムを見つけてくれたのは西条くんだったからなぁ……」
「そんなに考え込まなくてもいいよ、二人とも」
「いやいや、これじゃアタシが納得しないから。ひとまず、何か繋の記憶に関連しそうなものがあれば、片っ端から報告するわ」
北原はそう言うとビシッと親指を立てた。あずもその様子を見て、控えめにグーサインを出してくる。
頼りになる仲間たちだ。
長いようで短かった一年。友達になったのが彼女たちで本当に良かったと、今心からそう感じている。
「あ、そういえば、西条くん」
「ん?」
「さっき南雲くんと会ったんだけどね、ちょっと元気なくてさ……」
あずがハッと思い出したかのようにそう告げた。
「昨日いろいろあったからね……」
「でも、そのことはもう落ち着いたって言ってたの。また秘密の調査はするし、こころちゃんの事も悪かったって言ってた。でも、何か別のことがあったみたいで……」
「んー、一吹は最近問題児だなぁ」
俺は頭をガシガシと掻きながら溜息を吐く。
今、一番不安定なのは彼だろう。俺達がここで生きる理由も世界の秘密も、一番興味を抱いていたのは一吹だ。それ故に、段々と明らかになっていく事実に惑わされているのだろう。彼は想像力が豊かなようだし、昨日の仮説を信じているのならば、余計に精神が参ってしまっても可笑しくはない。
「俺が話してくるよ。これでも、一吹の親友だし」
「ありがとう、西条くん」
「お前らいつも一緒にいるもんな」
「まぁ、気の置けない仲だからね」
揶揄うように言ってきた北原に苦笑し、俺は音楽室を出ていった。
一吹に「どこに居る?」とメッセージを飛ばせば、すぐに「図書室」と返ってきた。なんでまたそんな朝早くに図書室に居るのかと疑問を抱きながら、俺はのんびりと図書室へと向かった。
朝は基本的に図書室は施錠されているはずだが、一吹がまた鍵を盗んだのだろう、図書室の扉に鍵はかかっていなかった。
中へ入ると、そこには机に何かを広げて見つめる一吹がいた。
「……はよ、繋」
一吹が顔を上げて控えめに微笑んだ。
「おはよ。なにしてんの?」
「見ての通りさ」
「それ、アルバム?」
「おう」
アルバムを見ながら、一吹が短く返事をした。「見ていいぜ」と言われたから、そっとアルバムを覗き込んでみる。アルバムには、一吹と思わしき少年と誰かが一緒に映っている写真ばかりがおさめられていた。
「それどこで手に入れたの?」
「朝起きたら部屋に置いてあったんだよ」
「今まで無かったのに?」
「それが謎なんだよなぁ。母さんに聞いてみたけど、母さんが置いたわけじゃなかったし、見たこともないって言ってた」
「あずの写真とかアルバムみたいな感じかな」
「かもな」
一吹は小難しい顔でアルバムを捲る。
二人は幼い頃から一緒にいるようで、ページを捲る度に二人が成長していく。中学生に入ったあたりから、一吹の隣に映っている少年が誰か俺には分かった。
「もしかして、あの二見って人……?」
卒業生のプロフィールが綴られた冊子に載っていた人物の顔にそっくりだった。一吹があのページで止めてきたし、おそらくこの少年は二見光牙という人物で間違いなさそうだ。
「そうそう。オレの幼馴染なんだ」
「あ、やっぱりそうだったの?」
「あぁ。オレと同い年で、小学校からずっと一緒だったなぁ」
一吹が懐かしむように目を細めた。アルバムの中の一吹は、どこを見ても楽しそうだ。隣にいる二見っていうやつも、無愛想な顔をしているけど、不機嫌なようには見えなかった。
「不思議だよなぁ、何で忘れてたんだろ。アルバム見た途端にこんな簡単に思い出すなんてさ」
「卒業生のプロフィールにあったけど、同い年なんだよね?」
「そうなんだよ、それも変だよな。もしかしたら管理してる奴が間違えたのかもしれねぇけどよ……」
学校側の管理が杜撰すぎる。
秘密の調査をしていく過程で、天明高校がいかにセキュリティが甘く、物の管理が雑なことまで知ってしまった。正直、個人情報が漏洩していないかが心配だ。
もっとも、俺達学生がこんなに簡単に卒業生のデータを手に入れられた時点で、プライバシーも何もないのだが。
「一吹はこれで記憶取り戻せそう?」
「たぶんな。でも何か足りないっつーか……」
「幼馴染の存在だけは思い出せたんだよね?」
「おう。でも、今どこで何してるかは知らねぇし、アイツと何か約束をしたような気がしてな……」
頬杖をついて、一吹が目を伏せた。必死に思い出そうと頭を捻っているようだが、あと少しのところで思い出せないらしい。
「約束か……どんな感じの約束か、ぼんやりでいいから思い出せたりしない?」
「んー……さっぱり」
「じゃあ、二人の共通点とかは?」
「共通点……スポーツ好きなところくらいだな」
一吹が思い出したかのようにそう言った。
スポーツ好きなところが共通点か。そうなると、スポーツに関する約束の可能性はある。
たとえば、憧れの選手の試合を見に行くとか、オリンピックの代表に共に選ばれるとか。学生らしいことで言えば、部活動関連だろうか。
「一吹ってサッカー部だったよね?」
「おう! 昔からサッカーは得意で」
「二見って人は、サッカー部じゃないの?」
「どうだったかな……よく覚えてない」
「そっか。うーん、どうしようかな……」
北原やあずのように、記憶に関係しそうな物は見つかっているのに、まだ何かが足りない。二見という人のプロフィールも、彼と一吹の思い出が刻まれたアルバムもあるのに、大切な記憶にはあと一歩届かない。
思考してみるが、これ以上一吹の手助けになれそうなことは無く、俺はただ頭を悩ませるだけだった。
「ま、そのうち思い出すだろ! あと少しだし、希望が見えてきたな」
一吹が勢いよくアルバムを閉じて立ち上がる。突然のことに俺は驚き、大袈裟にビクリと肩を揺らしてしまった。
「そろそろ真相に近づいてきた気がするな。この世界を出られるのも、あと少しかもな」
「そうかもね。短期間でだいぶいろいろな事を発見したというか……」
屋上で世界に対する疑問を抱いた日から、まだ一ヵ月も経っていない。それなのに、俺たちは多くの非現実的なものを目にしてきた。
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