31 / 32
第6章 挑戦と誓いの運動会
第五節 風の中で、胸を張れる選択を
しおりを挟む
9月の終わり、予定のない静かな休日。
空はどこまでも高く、ほんの少し秋の涼しさを含んだ風が吹いていた。
「……ちょっとだけ、ひとりで外に出てみよう」
さちは体操服の上に薄手のパーカーを羽織り、自転車の鍵を手に取った。
スイミングもトレーニングもない日でも、身体を動かすことがもうすっかり日常になっていた。
向かったのは、近くの広い公園。
お気に入りのベンチに腰を下ろすと、頬をなでる風、土の匂い、木の葉のざわめきが心に染み込んでくる。
「……こういう時間も、悪くないな」
空を見上げてそうつぶやいた、そのとき――
遠くからリズミカルな足音と、軽やかな笑い声が聞こえてきた。
「さちーっ!」
振り向くと、汗を光らせながら走ってくるハル、ユキ、リンの姿。
「図書館に行くって言ってたよね?」
「うん。でも途中でリンが“景色見せて”って言うから、公園にも回ってきたの」
「さちがいるとは、ラッキーだね!」
3人がベンチに集まる。
「一人で何してたの?」
「ちょっと風にあたりたくて……。前は、こうして一人でいるのが好きだったけど……今は、4人でいるほうがずっと自然で楽しいなって」
「それ、私たちも同じ!」
「もう“チーム・トレノ”は、生活の一部だからね!」
笑い合ったそのとき――
「きゃあああっ! だれかーっ、たすけてーー!!」
鋭い叫び声が背後から響いた。
「今の、川の方じゃない!?」
4人は顔を見合わせ、すぐに駆け出す。
川のそばで、小さな男の子が水面で必死にもがいていた。そのそばで、もう一人の子どもが泣き叫んでいる。
「ボールが……川に流れて……○○くんが取ろうとして……!」
「さち、交番に行って!」
「わかった!」
さちは駆け出し、公園の端にある交番へと向かった。
「靴、脱ぐよ!」
ハルがスニーカーを脱ぎ捨て、迷いなく川へ飛び込む。
水をかき分け、溺れている子どもに向かって泳ぎ出す。
「これ、さちの自転車にくくってあったロープ!」
ユキが荷物ひもを手すりに結びつけ、リンが残りをほどいて川に向かって投げる。
「ハル! ロープ、掴ませて!」
子どもを抱きかかえたハルがロープをつかみ、ユキが岸から手を伸ばして支える。
「つかまった! 引っ張るよ!」
リンが両腕を踏ん張り、ユキと一緒に必死にロープを引いた。
「もう少し……もうちょっと……!」
やがて、ハルと子どもはゆっくりと岸へ引き上げられた。
「おねえちゃん……ありがとう……!」
男の子が涙を浮かべてハルの腕にしがみついた、そのとき――
さちが警官を連れて戻ってきた。
「この子です! 川に落ちたんです!」
「よくやってくれた。もう大丈夫だよ。君たち、すごいな……」
そこへ駆けつけた母親が子どもを抱きしめ、深々と4人に頭を下げる。
「本当に……ありがとうございました……!」
濡れたままのハルに毛布がかけられ、警官が静かに事情を聞く。
それぞれが自分の行動を話すと、警官は感心したようにうなずいた。
「見事な連携だった。まるで訓練されたチームみたいだ。後日、確認のため連絡するかもしれないけど、今日はゆっくり休んでくれ」
子どもと母親、そして警官が立ち去ると、4人はようやく息をついた。
「……ハル、すごかった」
「みんなが動いてくれたからだよ。ユキもリンも、さちも」
「でもこのままじゃ、風邪引くよ。ハルが一番びしょ濡れだし」
「……うちが一番近い。シャワー、浴びていきなよ」
「えっ、いいの?」
「もちろん。“トレノ”だもん」
4人は顔を見合わせ、笑った。
そしてさちの家へ――
次なる物語は、そこで静かに続いていく。
空はどこまでも高く、ほんの少し秋の涼しさを含んだ風が吹いていた。
「……ちょっとだけ、ひとりで外に出てみよう」
さちは体操服の上に薄手のパーカーを羽織り、自転車の鍵を手に取った。
スイミングもトレーニングもない日でも、身体を動かすことがもうすっかり日常になっていた。
向かったのは、近くの広い公園。
お気に入りのベンチに腰を下ろすと、頬をなでる風、土の匂い、木の葉のざわめきが心に染み込んでくる。
「……こういう時間も、悪くないな」
空を見上げてそうつぶやいた、そのとき――
遠くからリズミカルな足音と、軽やかな笑い声が聞こえてきた。
「さちーっ!」
振り向くと、汗を光らせながら走ってくるハル、ユキ、リンの姿。
「図書館に行くって言ってたよね?」
「うん。でも途中でリンが“景色見せて”って言うから、公園にも回ってきたの」
「さちがいるとは、ラッキーだね!」
3人がベンチに集まる。
「一人で何してたの?」
「ちょっと風にあたりたくて……。前は、こうして一人でいるのが好きだったけど……今は、4人でいるほうがずっと自然で楽しいなって」
「それ、私たちも同じ!」
「もう“チーム・トレノ”は、生活の一部だからね!」
笑い合ったそのとき――
「きゃあああっ! だれかーっ、たすけてーー!!」
鋭い叫び声が背後から響いた。
「今の、川の方じゃない!?」
4人は顔を見合わせ、すぐに駆け出す。
川のそばで、小さな男の子が水面で必死にもがいていた。そのそばで、もう一人の子どもが泣き叫んでいる。
「ボールが……川に流れて……○○くんが取ろうとして……!」
「さち、交番に行って!」
「わかった!」
さちは駆け出し、公園の端にある交番へと向かった。
「靴、脱ぐよ!」
ハルがスニーカーを脱ぎ捨て、迷いなく川へ飛び込む。
水をかき分け、溺れている子どもに向かって泳ぎ出す。
「これ、さちの自転車にくくってあったロープ!」
ユキが荷物ひもを手すりに結びつけ、リンが残りをほどいて川に向かって投げる。
「ハル! ロープ、掴ませて!」
子どもを抱きかかえたハルがロープをつかみ、ユキが岸から手を伸ばして支える。
「つかまった! 引っ張るよ!」
リンが両腕を踏ん張り、ユキと一緒に必死にロープを引いた。
「もう少し……もうちょっと……!」
やがて、ハルと子どもはゆっくりと岸へ引き上げられた。
「おねえちゃん……ありがとう……!」
男の子が涙を浮かべてハルの腕にしがみついた、そのとき――
さちが警官を連れて戻ってきた。
「この子です! 川に落ちたんです!」
「よくやってくれた。もう大丈夫だよ。君たち、すごいな……」
そこへ駆けつけた母親が子どもを抱きしめ、深々と4人に頭を下げる。
「本当に……ありがとうございました……!」
濡れたままのハルに毛布がかけられ、警官が静かに事情を聞く。
それぞれが自分の行動を話すと、警官は感心したようにうなずいた。
「見事な連携だった。まるで訓練されたチームみたいだ。後日、確認のため連絡するかもしれないけど、今日はゆっくり休んでくれ」
子どもと母親、そして警官が立ち去ると、4人はようやく息をついた。
「……ハル、すごかった」
「みんなが動いてくれたからだよ。ユキもリンも、さちも」
「でもこのままじゃ、風邪引くよ。ハルが一番びしょ濡れだし」
「……うちが一番近い。シャワー、浴びていきなよ」
「えっ、いいの?」
「もちろん。“トレノ”だもん」
4人は顔を見合わせ、笑った。
そしてさちの家へ――
次なる物語は、そこで静かに続いていく。
0
あなたにおすすめの小説
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
