絆のトレーニングノート:始まりの春、強さの種

たまに何かを書く人

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第6章 挑戦と誓いの運動会

第五節 風の中で、胸を張れる選択を

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9月の終わり、予定のない静かな休日。
空はどこまでも高く、ほんの少し秋の涼しさを含んだ風が吹いていた。

「……ちょっとだけ、ひとりで外に出てみよう」

さちは体操服の上に薄手のパーカーを羽織り、自転車の鍵を手に取った。
スイミングもトレーニングもない日でも、身体を動かすことがもうすっかり日常になっていた。

向かったのは、近くの広い公園。
お気に入りのベンチに腰を下ろすと、頬をなでる風、土の匂い、木の葉のざわめきが心に染み込んでくる。

「……こういう時間も、悪くないな」

空を見上げてそうつぶやいた、そのとき――
遠くからリズミカルな足音と、軽やかな笑い声が聞こえてきた。

「さちーっ!」

振り向くと、汗を光らせながら走ってくるハル、ユキ、リンの姿。

「図書館に行くって言ってたよね?」

「うん。でも途中でリンが“景色見せて”って言うから、公園にも回ってきたの」

「さちがいるとは、ラッキーだね!」

3人がベンチに集まる。

「一人で何してたの?」

「ちょっと風にあたりたくて……。前は、こうして一人でいるのが好きだったけど……今は、4人でいるほうがずっと自然で楽しいなって」

「それ、私たちも同じ!」

「もう“チーム・トレノ”は、生活の一部だからね!」

笑い合ったそのとき――

「きゃあああっ! だれかーっ、たすけてーー!!」

鋭い叫び声が背後から響いた。

「今の、川の方じゃない!?」

4人は顔を見合わせ、すぐに駆け出す。
川のそばで、小さな男の子が水面で必死にもがいていた。そのそばで、もう一人の子どもが泣き叫んでいる。

「ボールが……川に流れて……○○くんが取ろうとして……!」

「さち、交番に行って!」

「わかった!」

さちは駆け出し、公園の端にある交番へと向かった。

「靴、脱ぐよ!」

ハルがスニーカーを脱ぎ捨て、迷いなく川へ飛び込む。
水をかき分け、溺れている子どもに向かって泳ぎ出す。

「これ、さちの自転車にくくってあったロープ!」

ユキが荷物ひもを手すりに結びつけ、リンが残りをほどいて川に向かって投げる。

「ハル! ロープ、掴ませて!」

子どもを抱きかかえたハルがロープをつかみ、ユキが岸から手を伸ばして支える。

「つかまった! 引っ張るよ!」

リンが両腕を踏ん張り、ユキと一緒に必死にロープを引いた。

「もう少し……もうちょっと……!」

やがて、ハルと子どもはゆっくりと岸へ引き上げられた。

「おねえちゃん……ありがとう……!」

男の子が涙を浮かべてハルの腕にしがみついた、そのとき――
さちが警官を連れて戻ってきた。

「この子です! 川に落ちたんです!」

「よくやってくれた。もう大丈夫だよ。君たち、すごいな……」

そこへ駆けつけた母親が子どもを抱きしめ、深々と4人に頭を下げる。

「本当に……ありがとうございました……!」

濡れたままのハルに毛布がかけられ、警官が静かに事情を聞く。
それぞれが自分の行動を話すと、警官は感心したようにうなずいた。

「見事な連携だった。まるで訓練されたチームみたいだ。後日、確認のため連絡するかもしれないけど、今日はゆっくり休んでくれ」

子どもと母親、そして警官が立ち去ると、4人はようやく息をついた。

「……ハル、すごかった」

「みんなが動いてくれたからだよ。ユキもリンも、さちも」

「でもこのままじゃ、風邪引くよ。ハルが一番びしょ濡れだし」

「……うちが一番近い。シャワー、浴びていきなよ」

「えっ、いいの?」

「もちろん。“トレノ”だもん」

4人は顔を見合わせ、笑った。

そしてさちの家へ――
次なる物語は、そこで静かに続いていく。

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